戦場立志伝

居眠り

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不敵な笑み

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 十月十二日午後九時三十分。
軍事同盟軍先遣隊を意味する第四戦闘艦隊、第十二、第十三機動艦隊と有志連合軍の空戦隊は互いに五十機から八十機余りが未帰還となった。
軍事同盟軍先遣隊の予定では要塞砲グングニルの周りに取り付き破壊するはずだったが要塞の対空砲火と有志連合軍空戦隊によって阻まれた。
午後十時に後続の本隊と合流した先遣隊の各司令官は総旗艦ライヒスブルクに出頭した。
「申し訳ありません。反乱軍の抵抗が思ったよりも激しく…。要塞砲グングニルなしでも奴らは強敵です」
ゼッフェルン中将が頭を下げたがパウルス高等大将は怒らなかった。
「謝るよりも次だ。次の作戦を考えねばなるまい。何か諸将、意見はあるかね」
落ち着いた声で提督達に問いかけたが誰一人としてリーコン要塞と有志連合軍を撃滅出来る作戦を提示出来なかった。
「仕方あるまい。ここは一つエクムント閣下に現状報告し、指示を仰ごうではないか」
パウルス高等大将の提案は満場一致で決定した。
戦争の専門家である彼らが匙を投げるほどに要塞と有志連合軍は比類なき強さを誇った。
諸将は自らの非力さを証明されて悔しさで心が一杯だった。
特に攻撃に失敗したゼッフェルン中将は愛する乗艦を眺めながら六時間も作戦を思案していたほどだ。
これは何か壁にぶち当たった時は戦艦シャルンホルストをじっと見つめて考えるという彼の癖であった。

パウルス高等大将はすぐに惑星ゾラの軍事同盟軍総司令部に詰めているエクムント新大統領を呼び出した。
「エクムント閣下、パウルス高等大将です」
「おぉ、高等大将。要塞はまだ落ちんのかね?」
作戦結果は知っているエクムント新大統領は皮肉たっぷりに尋ねた。
「は…。率直に申しますと攻めあぐねております。そこで閣下に何か良案があればと思い、ご連絡させて頂きました」
軍人としてのプライドを傷つけられた高等大将は不快そうな顔を一瞬見せたが表情に厚いカーテンを掛けた。
「ふむ。戦況は?」
パウルス高等大将から詳しい戦況を聞いたエクムント新大統領はニヤリと笑い、問題ない。攻撃をすぐさま行え。そう言ってきた。
「今すぐですか!?」
流石に今日もう一度攻め込めと言われるとは思っていなかったパウルス高等大将は目を三度瞬いた。
「そうだ。まさか奴らも今日再び攻められるとは思いもしておらんだろう。空戦隊の総数としては我らの方が多い。それに空戦隊が入り乱れている戦場なら、奴らは同士討ちを避ける為にグングニルを撃てん。…一時間半後だ。午後十一時から全艦隊で要塞を攻撃せよ。空戦隊を逐次投入し、グングニルを破壊。あれさえなければただの球体だ。たちまち陥落するだろう」
両腕を大きく開き、勝ち誇った顔のエクムントにパウルス高等大将は念押しをした。
「閣下、もし…もし、グングニルが破壊出来なければどうします?反乱軍空戦隊は並の空戦隊ではありませんぞ」
「全く、問題ない」
即答ある。
「まぁ、高等大将…。打つ手はある」
意味深なことを最後に呟いたエクムント新大統領はパウルス高等大将の返事を待たずして、通信を切った。
エクムント新大統領が何を考えているかはわからないが確かにそうだ。
空戦隊の総数は圧倒的にこちらが優勢。
そして先遣隊の戦闘でグングニルは発射されなかった。
空戦隊同士と艦隊が密着して戦闘していればグングニルは撃てない。
あとは艦隊の主砲射程圏内に入った時にグングニルを一斉攻撃すれば良い。
先程まで案が出なかったのが嘘のように作戦の詳細案がいくつもパウルス高等大将の脳内で生まれる。
忘れないようにメモを取りながら傍らで控えていた副官に命じてもう一度臨戦態勢をとるように各艦隊へ通達させた。

「エクムント大統領は正気ですか!?」
副司令官カール・マインツ大将が会議が始まった途端そう言い放った。
「先遣隊の補給は一時間半では間に合いません!なんとか急がせて時間短縮は出来ますがそれでも二時間はかかります。その間に本隊が攻撃を仕掛けるのであれば先遣隊の二の舞になる可能性があります!戦力の逐次投入は愚策です!全く…エクムント大統領はなんて無茶を…」
「しかし今日再び攻め込み、反乱軍を混乱させるというのは作戦としては有効です」
興奮するマインツ大将を落ち着かせる為に優しい声でゼッフェルン中将が言う。
「ただ我々先遣隊の補給が終わるのはご指摘の通り最速で二時間ほどですな。本隊の攻勢に遅れての参戦は可能ですが三十分近く前線を維持して頂かねばなりませんぞ」
すると第十航宙艦隊司令官のウィドゥキント・ヨハネス中将が意見を述べた。
「何もバラバラに攻めることはありますまい。エクムント閣下の指示をここは無視する手もあります。ただ奇襲を掛けるという点ではあの方の言う通りだとは思いますが」
「確かに。総司令官殿。ここは総攻撃を午後十一時半でよろしいのでは?」
第二戦闘艦隊司令官ヤーヴィス・ヨアヒム・フォン・ゾマー中将をはじめとする諸将も次々と賛同し、総攻撃は三十分遅れて開始されることとなった。
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