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躊躇
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速い。鋭い機動。容赦のない火力。気を抜くと墜とされる。
勝たなければ。勝って、この不毛な大戦争を終わらす為の布石にしなければ。
パトリオットは背後にピッタリ追従してくるエアハルトM二-Tを振り切ろうと必死だった。
機関砲の弾をほぼ勘と経験で避けてミサイルが来るたびにチャフを撒く。
「こんなものか!えぇ!?」
アムルガルト大佐は余裕ある声色でアンハルトを煽った。
煽るというよりかは発破をかけていたのだが攻撃を回避するのに全神経を使っているアンハルトにとっては煽りのようなものだ。
しかしここで死ぬわけにはいかない。
パトリオットは高速直進すると見せかけていきなり逆噴射した。
「おぉっとぉ!?」
今まで高速機動で格闘していたためすぐには反応しきれなかったエアハルトM二-Tがパトリオットに照準を合わせる間もなく抜き去る。
すぐさま照準器の十字にエアハルトM二-Tを捉えたアンハルトは引き金を引こうとした。
だが、あれほどの技量の持ち主を殺すことに一瞬迷いを覚えた。
自分が宣言したことと矛盾した気持ちを押し殺し、撃とうと思った時には照準器の中にエアハルトM二-Tの姿はなかった。
「どこだ!?」
そう叫んだ時、上から強烈な気配を感じたアンハルトは機体を慌てて加速させた。
一秒後にはもといた場所は蜂の巣にされており、アンハルトは自分を情けないと心で罵った。
「貴様ぁ!戦う気はあるのか!?ないなら去れぇ!今、撃てたろう!何故撃たん!?何故迷う!?それが貴様が強くない証拠だ!!」
そう言われ、頭を打たれたような気持ちになった。
人を殺すことに躊躇いはない。
しかし個人を殺すことはアンハルトには出来なかった。
アルベルトが生きていた頃はいつも撃墜数で負けていた。
空戦は自機と敵機が接近しあうことが多い。
その時、敵のパイロットの姿を見るたびに一瞬、ワンテンポ遅れていた。
そういう時はアルベルトがすぐに墜とすか友軍機が援護してくれた。
アンハルトはどうしても敵の姿を見ると彼の家族は?恋人は?友は?
と考えてしまうのだ。
クーデターの時、怪我を負っている後輩、フロレンツ大尉やビスマルク提督らを守ろうと躊躇わず引き金を引いた。
誰かを守ろうとする時は迷わずに人を殺す。
しかし自分一人の時。何も守るべき存在がいない時は動作が鈍かった。
アンハルトはアルベルトより人に甘い。
生きるか死ぬかの戦闘状態でも甘かった。
家族を殺されたあの事件以降は軍隊に入り、敵軍のパイロットを殺し続けてきたおかげか、幾分かマシにはなったが誰でも丁重な、謙った態度をとっていた。
空戦練習の時もミスをした部下を叱るのはいつもアルベルトが代わりにしていた。
「アンハルトは個人に甘い。甘すぎる。そんなんじゃいつか、死ぬぞ」
そうアルベルトに言われたことさえあった。
だが、無理なのだ。アンハルトには。今まで。
しかしアムルガルト大佐は気づいていたのだ。
アンハルトが抱えている悩みを先程の会話だけで。
「まさか、気づいて…?」
アンハルトが驚きの表情と声で問いかけるとフンと鼻を鳴らしたアムルガルト大佐が
「わしらみたいな老人は話すのが大好きじゃからな。よく相手のことを見抜いてしまう」
と複雑な顔で言った。
「お前さんのような若者が悩みを抱えておると口出ししたくなるんじゃ。無駄なお節介じゃったかの」
せっかくの自分の好意を拒否されて残念がる近所の老人のような顔になったアムルガルト大佐を見てアンハルトは再度決意した。
「もう一度、私に時間を割いて頂けますか」
「…そうじゃ。その目と表情。それでこそ軍人の面よ。よろしい!来いっ!!」
「応っ!!行くぞぉ!!!」
アンハルトが珍しく丁寧語をやめて話すのを聞いた取り巻きの部下達は驚いたがすぐに自分の敵へと意識を戻した。
パトリオットとエアハルトM二-Tがヘッドオンで三十二ミリ機関砲と三十ミリ機関砲が火を吐き出し続けた。
両機はスレスレで回避し、続けて格闘戦に移行する。
先程のヘッドオンでエアハルトM二-Tの左翼七.七ミリ機銃が被弾し爆発したことで若干の煙を吐きながらエアハルトM二-Tは飛んでいる。
パトリオットはコックピットの天頂部分が消し飛ばされ、半壊した。
アンハルトはすんでのところで顔を下げて避けた。
コックピットの天頂部分が破壊されたことで破片が機器類に当たり
速度計、燃料計、さらにはレーダーに映った敵を表示するモニターが使用不能となった。
「レーダーモニターが壊れたか。大丈夫!目で見つければいいだけだ!」
アンハルトは顔を四方八方に向け、エアハルトM二-Tを発見した。
被弾時にバランスを崩したのか少しだけぎこちない加速をみせるエアハルトM二-Tの背後に急いで回り込んでミサイルを一気に六発発射した。
全弾ロックオンする時間がなかった為半分近くが無誘導でエアハルトM二-Tに詰め寄る。
「ぬぅぉお!」
唸りながら操縦桿を引きつつチャフをばら撒きミサイルを迷走させる。
しかし逃げるであろうと先に砲門を向けていたアンハルトは今度こそ迷いなく引き金を引いた。
「墜ちろ!」
慌てて機体を回避運動に入らせるアムルガルト大佐だったがもう遅い。
機首に一発。
両翼に合わせて五発。
尾翼は三発当たり吹き飛んだ。
機体から火が噴き出し、コックピットが爆発に巻き込まれる。
それを眺めていたアンハルトにアムルガルト大佐からの最後の通信が届いた。
それは肉声ではなくDM(ダイレクトメッセージ)だった。
開けてみるとそこにはあの猛火のなかでは書けない量の字が打ち込んであった。
かけない量といってもたった七行。
【アンハルト・フォン・ホーエンツォレルン大佐殿へ】
貴官は見事わしを撃ち墜とし、自分自身に打ち勝った。
そのことを見事というほかない。
貴官のこれからの栄達を願うこと切である。
この戦争が終わらんことをヴァルハラで祈る。
そして最後に一つ。
ホーエンツォレルン家虐殺事件の真相はエクムント国防大臣にあり。
最初の文で泣きかけたアンハルトは最後の文で涙腺を閉めることに成功した。
父母弟妹が殺された未解決事件の手掛かりだ。
すると全部隊通信が入った。
「全空戦隊へ告ぐ。敵空戦隊は撤退した。全機帰投せよ」
ウィリバルトの声を聞いたアンハルトは亡父の同僚であったウィリバルトに個人通信で急いで知らせた。
「バイエルン中将…いや、親父さん!ホーエンツォレルン家虐殺事件の手掛かりを見つけた!」
勝たなければ。勝って、この不毛な大戦争を終わらす為の布石にしなければ。
パトリオットは背後にピッタリ追従してくるエアハルトM二-Tを振り切ろうと必死だった。
機関砲の弾をほぼ勘と経験で避けてミサイルが来るたびにチャフを撒く。
「こんなものか!えぇ!?」
アムルガルト大佐は余裕ある声色でアンハルトを煽った。
煽るというよりかは発破をかけていたのだが攻撃を回避するのに全神経を使っているアンハルトにとっては煽りのようなものだ。
しかしここで死ぬわけにはいかない。
パトリオットは高速直進すると見せかけていきなり逆噴射した。
「おぉっとぉ!?」
今まで高速機動で格闘していたためすぐには反応しきれなかったエアハルトM二-Tがパトリオットに照準を合わせる間もなく抜き去る。
すぐさま照準器の十字にエアハルトM二-Tを捉えたアンハルトは引き金を引こうとした。
だが、あれほどの技量の持ち主を殺すことに一瞬迷いを覚えた。
自分が宣言したことと矛盾した気持ちを押し殺し、撃とうと思った時には照準器の中にエアハルトM二-Tの姿はなかった。
「どこだ!?」
そう叫んだ時、上から強烈な気配を感じたアンハルトは機体を慌てて加速させた。
一秒後にはもといた場所は蜂の巣にされており、アンハルトは自分を情けないと心で罵った。
「貴様ぁ!戦う気はあるのか!?ないなら去れぇ!今、撃てたろう!何故撃たん!?何故迷う!?それが貴様が強くない証拠だ!!」
そう言われ、頭を打たれたような気持ちになった。
人を殺すことに躊躇いはない。
しかし個人を殺すことはアンハルトには出来なかった。
アルベルトが生きていた頃はいつも撃墜数で負けていた。
空戦は自機と敵機が接近しあうことが多い。
その時、敵のパイロットの姿を見るたびに一瞬、ワンテンポ遅れていた。
そういう時はアルベルトがすぐに墜とすか友軍機が援護してくれた。
アンハルトはどうしても敵の姿を見ると彼の家族は?恋人は?友は?
と考えてしまうのだ。
クーデターの時、怪我を負っている後輩、フロレンツ大尉やビスマルク提督らを守ろうと躊躇わず引き金を引いた。
誰かを守ろうとする時は迷わずに人を殺す。
しかし自分一人の時。何も守るべき存在がいない時は動作が鈍かった。
アンハルトはアルベルトより人に甘い。
生きるか死ぬかの戦闘状態でも甘かった。
家族を殺されたあの事件以降は軍隊に入り、敵軍のパイロットを殺し続けてきたおかげか、幾分かマシにはなったが誰でも丁重な、謙った態度をとっていた。
空戦練習の時もミスをした部下を叱るのはいつもアルベルトが代わりにしていた。
「アンハルトは個人に甘い。甘すぎる。そんなんじゃいつか、死ぬぞ」
そうアルベルトに言われたことさえあった。
だが、無理なのだ。アンハルトには。今まで。
しかしアムルガルト大佐は気づいていたのだ。
アンハルトが抱えている悩みを先程の会話だけで。
「まさか、気づいて…?」
アンハルトが驚きの表情と声で問いかけるとフンと鼻を鳴らしたアムルガルト大佐が
「わしらみたいな老人は話すのが大好きじゃからな。よく相手のことを見抜いてしまう」
と複雑な顔で言った。
「お前さんのような若者が悩みを抱えておると口出ししたくなるんじゃ。無駄なお節介じゃったかの」
せっかくの自分の好意を拒否されて残念がる近所の老人のような顔になったアムルガルト大佐を見てアンハルトは再度決意した。
「もう一度、私に時間を割いて頂けますか」
「…そうじゃ。その目と表情。それでこそ軍人の面よ。よろしい!来いっ!!」
「応っ!!行くぞぉ!!!」
アンハルトが珍しく丁寧語をやめて話すのを聞いた取り巻きの部下達は驚いたがすぐに自分の敵へと意識を戻した。
パトリオットとエアハルトM二-Tがヘッドオンで三十二ミリ機関砲と三十ミリ機関砲が火を吐き出し続けた。
両機はスレスレで回避し、続けて格闘戦に移行する。
先程のヘッドオンでエアハルトM二-Tの左翼七.七ミリ機銃が被弾し爆発したことで若干の煙を吐きながらエアハルトM二-Tは飛んでいる。
パトリオットはコックピットの天頂部分が消し飛ばされ、半壊した。
アンハルトはすんでのところで顔を下げて避けた。
コックピットの天頂部分が破壊されたことで破片が機器類に当たり
速度計、燃料計、さらにはレーダーに映った敵を表示するモニターが使用不能となった。
「レーダーモニターが壊れたか。大丈夫!目で見つければいいだけだ!」
アンハルトは顔を四方八方に向け、エアハルトM二-Tを発見した。
被弾時にバランスを崩したのか少しだけぎこちない加速をみせるエアハルトM二-Tの背後に急いで回り込んでミサイルを一気に六発発射した。
全弾ロックオンする時間がなかった為半分近くが無誘導でエアハルトM二-Tに詰め寄る。
「ぬぅぉお!」
唸りながら操縦桿を引きつつチャフをばら撒きミサイルを迷走させる。
しかし逃げるであろうと先に砲門を向けていたアンハルトは今度こそ迷いなく引き金を引いた。
「墜ちろ!」
慌てて機体を回避運動に入らせるアムルガルト大佐だったがもう遅い。
機首に一発。
両翼に合わせて五発。
尾翼は三発当たり吹き飛んだ。
機体から火が噴き出し、コックピットが爆発に巻き込まれる。
それを眺めていたアンハルトにアムルガルト大佐からの最後の通信が届いた。
それは肉声ではなくDM(ダイレクトメッセージ)だった。
開けてみるとそこにはあの猛火のなかでは書けない量の字が打ち込んであった。
かけない量といってもたった七行。
【アンハルト・フォン・ホーエンツォレルン大佐殿へ】
貴官は見事わしを撃ち墜とし、自分自身に打ち勝った。
そのことを見事というほかない。
貴官のこれからの栄達を願うこと切である。
この戦争が終わらんことをヴァルハラで祈る。
そして最後に一つ。
ホーエンツォレルン家虐殺事件の真相はエクムント国防大臣にあり。
最初の文で泣きかけたアンハルトは最後の文で涙腺を閉めることに成功した。
父母弟妹が殺された未解決事件の手掛かりだ。
すると全部隊通信が入った。
「全空戦隊へ告ぐ。敵空戦隊は撤退した。全機帰投せよ」
ウィリバルトの声を聞いたアンハルトは亡父の同僚であったウィリバルトに個人通信で急いで知らせた。
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