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裁定
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かつてはガンダー帝国第十六代皇帝ジェームズ九世の長男が座るであろうと一部の者と自分自身が信じて疑わなかった玉座に、新帝ウェールズ五世が座っている。
普段のチャールズなら喚き散らすところだがそんなそぶりは一切見せなかった。
改心したのではない。
敗戦や信頼する部下達の死、裏切りにより強いショックを受け、失神から回復した後に病院で各種検査が行われPTSDと診断された。
なのでアーサーやウェールズ五世にエドワード、ウィリアムといった帝室関係者を見ると萎縮し、怯えてしまうのだ。
以前のチャールズと比べると野心や覇気が一切感じられない腑抜けた状態になってしまった。
ここはバッキンガム宮殿の玉座の間。
反逆者チャールズの処罰を決定すべく、簡易裁判所を設けたのだ。
ちなみに母親のクラレンドン公爵夫人は既にヒステリーを起こし精神病院送りになっている。
惑星サウスエンド=オン=シーの守備隊は宇宙艦隊が壊滅的な打撃を受け、総司令官チャールズに副総司令官にあたるオズワルド大将が殺害されたと聞いて降伏した。
裁判長はウェールズ五世。裁判官はアーサーとウィリアム。検察官はエドワードと司法大臣ハルフォード伯爵。
最後に形だけの弁護人、殺害されたファラデー少佐の父、ブルース・ファラデー男爵がついた。
己の息子を殺した者の主君の弁護をするという皮肉のセッティングはもちろんアーサーが手掛けた。
この場に召喚されたブルース男爵には気の毒だが確実にチャールズを処刑するためである。
「ではこれより被告人チャールズの処罰を決定すべく、帝室裁判を開始する」
ウェールズ五世の一言とともに帝室裁判は開始された。
帝室裁判とは帝室関係者で不祥事を起こした者に対する裁判である。
「ウェールズ監察大臣、並びにハルフォード司法大臣。被告人の罪を述べよ」
ガタガタと椅子を鳴らし、立ち上がった二人は次々とチャールズの罪を明かしていった。
大逆罪、執事やメイド、下級役人への暴行、帝室財産横領、収賄…等々。
反乱を起こす前の罪まで暴かれてより一層蒼白になったチャールズは罪の全てを認めた。
最後の最後に反省した態度をとれば罪が軽くなると思ったのである。
病気になろうが死を宣告される間際であろうがいつまでも御曹司根性がたくましい。
弁護人のブルース男爵ももちろん何も言わず、ただ検察の意のままにといった風だった。
そして小一時間後、
「では判決を言い渡す。被告人チャールズは数々の罪により死刑が妥当であるが本人の病気や反省の態度により収容所惑星ボルトンへ四十年の禁固とする」
それを聞いた途端、チャールズの顔が輝き、喜びに満ち溢れた。
彼らしくない謝意の言葉を述べ、病気が嘘のような足どりで玉座の間を衛兵に付き添われ、退出して行った。
扉が閉まり、十数秒後。
ブルース男爵が肩をわなわなと震わせ、静かに皇帝へと上申した。
「陛下…あれほどの大罪人を…我が息子を殺した男を…みすみす逃すとは…どういうおつもりか…!」
声もかすれ、怒りの形相でウェールズ五世を睨みつける。
明らかな無礼行為だがウェールズ五世は優しく語りかけた。
「ブルース男爵、後でチャールズに会いに行くように。そこで卿の望みが果たせるだろう」
少し考えたブルース男爵は何かを察して一礼し、チャールズに約一分遅れて玉座の間を退出した。
「陛下、何か彼にさせるおつもりで?」
司法大臣ハルフォード伯爵が白い顎髯に手をあてて数段上の玉座に座る皇帝を見上げた。
「一時的にブルース男爵の機嫌を損ねるが、彼自身が行いたいことをさせるまでですよ。ハルフォード伯」
代わりに答えたアーサーを伯爵が
「まさかこの策を考えたのはウェールズ大佐かな?」
と驚いた顔で見つめた。
「策というほどのものではございませんよ伯爵。ただの意趣返しです」
そう言ってアーサーは笑った。
玉座の間より二、三分で行ける控えの間にチャールズは着いた。
衛兵が外で待機し、
「しばしお待ちを」
と言った為大人しく座って壁に飾られている絵に目を向けていた。
先帝ジェームズ九世の肖像画を見るその顔は哄笑を必死に堪えている顔だった。
「馬鹿な奴らめ、この私が病気なわけがあるか」
実は病気というのは真っ赤な嘘だった。
診断をした医師は前からチャールズと親しい関係にある男で診察室で衛兵の隙をみてその医師に自身の診断書に偽装するように視線と手で示したのだ。
結果的にチャールズは死刑を免れ、禁固四十年という大逆人にしては軽い罪で済んだのだ。
まだ自分が生きていれば味方する者もいるだろう。
そう思っているチャールズは込み上げる笑いを噛み締めて外にいる衛兵達に聞こえないように我慢していた。
ここで不審な行動をとれば怪しまれる。
それぐらいの知恵はあった。
すると扉をノックする音とともにブルース男爵が入室した。
その手にはワインが握られている。
「殿下、極刑を無事回避出来たお祝いですぞ。ささ、一杯飲みましょう」
「おぉ。これは私が好きなものではないか。いやしかし私は罪人だ。酒は断とう」
そう反省した態度を見て感心したのかブルース男爵はニコニコと笑ってこう言った。
「罪を意識しているのなら我が息子の死を回避できただろう?この人殺しの共犯が」
キョトンとするチャールズに拳銃をゆっくりと向ける。
「ま、待て!ファラデー男爵!卿の息子を殺したのはオズワルド公爵だぞ!」
慌てて弁解するチャールズ。
しかし男爵の怒りが収まるわけもなく
「ふざけるな!貴様も見ていただろう!オズワルド公爵を止めようと思えば止めれたであろう!?この人殺し!!息子の仇だ!!!」
銃声が八発。
胸に四発。首筋に二発。左肩に二発。
豪華な青のカーペットが敷かれた床に血を振りまきながら倒れたチャールズはなおも生きようと足掻いた
「私は…私はっ…」
だが起き上がろうするチャールズの眉間に更にもう一発。
目は焦点を失い、チャールズは死亡した。
帝国暦三百十五年十一月三日午前十一時五分。
享年二十二歳。
いずれ帝位に就くことを信じて疑わなかった皇子は忠実な亡き宮廷警備武官の父親に殺されたのだ。
そして事情を知っている衛兵が扉を開けた時には男爵はこめかみに拳銃を押しつけ、自殺していた。
おそらく愛する息子の後を追ったのだろう。
これでガンダー帝国の内戦、”帝位継承戦争”は終結した。
普段のチャールズなら喚き散らすところだがそんなそぶりは一切見せなかった。
改心したのではない。
敗戦や信頼する部下達の死、裏切りにより強いショックを受け、失神から回復した後に病院で各種検査が行われPTSDと診断された。
なのでアーサーやウェールズ五世にエドワード、ウィリアムといった帝室関係者を見ると萎縮し、怯えてしまうのだ。
以前のチャールズと比べると野心や覇気が一切感じられない腑抜けた状態になってしまった。
ここはバッキンガム宮殿の玉座の間。
反逆者チャールズの処罰を決定すべく、簡易裁判所を設けたのだ。
ちなみに母親のクラレンドン公爵夫人は既にヒステリーを起こし精神病院送りになっている。
惑星サウスエンド=オン=シーの守備隊は宇宙艦隊が壊滅的な打撃を受け、総司令官チャールズに副総司令官にあたるオズワルド大将が殺害されたと聞いて降伏した。
裁判長はウェールズ五世。裁判官はアーサーとウィリアム。検察官はエドワードと司法大臣ハルフォード伯爵。
最後に形だけの弁護人、殺害されたファラデー少佐の父、ブルース・ファラデー男爵がついた。
己の息子を殺した者の主君の弁護をするという皮肉のセッティングはもちろんアーサーが手掛けた。
この場に召喚されたブルース男爵には気の毒だが確実にチャールズを処刑するためである。
「ではこれより被告人チャールズの処罰を決定すべく、帝室裁判を開始する」
ウェールズ五世の一言とともに帝室裁判は開始された。
帝室裁判とは帝室関係者で不祥事を起こした者に対する裁判である。
「ウェールズ監察大臣、並びにハルフォード司法大臣。被告人の罪を述べよ」
ガタガタと椅子を鳴らし、立ち上がった二人は次々とチャールズの罪を明かしていった。
大逆罪、執事やメイド、下級役人への暴行、帝室財産横領、収賄…等々。
反乱を起こす前の罪まで暴かれてより一層蒼白になったチャールズは罪の全てを認めた。
最後の最後に反省した態度をとれば罪が軽くなると思ったのである。
病気になろうが死を宣告される間際であろうがいつまでも御曹司根性がたくましい。
弁護人のブルース男爵ももちろん何も言わず、ただ検察の意のままにといった風だった。
そして小一時間後、
「では判決を言い渡す。被告人チャールズは数々の罪により死刑が妥当であるが本人の病気や反省の態度により収容所惑星ボルトンへ四十年の禁固とする」
それを聞いた途端、チャールズの顔が輝き、喜びに満ち溢れた。
彼らしくない謝意の言葉を述べ、病気が嘘のような足どりで玉座の間を衛兵に付き添われ、退出して行った。
扉が閉まり、十数秒後。
ブルース男爵が肩をわなわなと震わせ、静かに皇帝へと上申した。
「陛下…あれほどの大罪人を…我が息子を殺した男を…みすみす逃すとは…どういうおつもりか…!」
声もかすれ、怒りの形相でウェールズ五世を睨みつける。
明らかな無礼行為だがウェールズ五世は優しく語りかけた。
「ブルース男爵、後でチャールズに会いに行くように。そこで卿の望みが果たせるだろう」
少し考えたブルース男爵は何かを察して一礼し、チャールズに約一分遅れて玉座の間を退出した。
「陛下、何か彼にさせるおつもりで?」
司法大臣ハルフォード伯爵が白い顎髯に手をあてて数段上の玉座に座る皇帝を見上げた。
「一時的にブルース男爵の機嫌を損ねるが、彼自身が行いたいことをさせるまでですよ。ハルフォード伯」
代わりに答えたアーサーを伯爵が
「まさかこの策を考えたのはウェールズ大佐かな?」
と驚いた顔で見つめた。
「策というほどのものではございませんよ伯爵。ただの意趣返しです」
そう言ってアーサーは笑った。
玉座の間より二、三分で行ける控えの間にチャールズは着いた。
衛兵が外で待機し、
「しばしお待ちを」
と言った為大人しく座って壁に飾られている絵に目を向けていた。
先帝ジェームズ九世の肖像画を見るその顔は哄笑を必死に堪えている顔だった。
「馬鹿な奴らめ、この私が病気なわけがあるか」
実は病気というのは真っ赤な嘘だった。
診断をした医師は前からチャールズと親しい関係にある男で診察室で衛兵の隙をみてその医師に自身の診断書に偽装するように視線と手で示したのだ。
結果的にチャールズは死刑を免れ、禁固四十年という大逆人にしては軽い罪で済んだのだ。
まだ自分が生きていれば味方する者もいるだろう。
そう思っているチャールズは込み上げる笑いを噛み締めて外にいる衛兵達に聞こえないように我慢していた。
ここで不審な行動をとれば怪しまれる。
それぐらいの知恵はあった。
すると扉をノックする音とともにブルース男爵が入室した。
その手にはワインが握られている。
「殿下、極刑を無事回避出来たお祝いですぞ。ささ、一杯飲みましょう」
「おぉ。これは私が好きなものではないか。いやしかし私は罪人だ。酒は断とう」
そう反省した態度を見て感心したのかブルース男爵はニコニコと笑ってこう言った。
「罪を意識しているのなら我が息子の死を回避できただろう?この人殺しの共犯が」
キョトンとするチャールズに拳銃をゆっくりと向ける。
「ま、待て!ファラデー男爵!卿の息子を殺したのはオズワルド公爵だぞ!」
慌てて弁解するチャールズ。
しかし男爵の怒りが収まるわけもなく
「ふざけるな!貴様も見ていただろう!オズワルド公爵を止めようと思えば止めれたであろう!?この人殺し!!息子の仇だ!!!」
銃声が八発。
胸に四発。首筋に二発。左肩に二発。
豪華な青のカーペットが敷かれた床に血を振りまきながら倒れたチャールズはなおも生きようと足掻いた
「私は…私はっ…」
だが起き上がろうするチャールズの眉間に更にもう一発。
目は焦点を失い、チャールズは死亡した。
帝国暦三百十五年十一月三日午前十一時五分。
享年二十二歳。
いずれ帝位に就くことを信じて疑わなかった皇子は忠実な亡き宮廷警備武官の父親に殺されたのだ。
そして事情を知っている衛兵が扉を開けた時には男爵はこめかみに拳銃を押しつけ、自殺していた。
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