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不本意な投獄
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この円卓戦争の謀略を知らなかったのはウェールズ公爵、チャールズ皇子、クラレンドン公爵夫人、オズワルド公爵だけだった。
エジンバラ公爵夫人は自分をいじめてくるクラレンドン公爵夫人を嫌っていたし何よりこの計画の相談を三人の息子達から相談された身であった。
葬式の時の涙は嘘偽りないが帝位継承会議の涙は演技だった。
普段の怒りを一発に込めて叩いたようだ。
ウェールズ公爵が知らされなかったのはいわば巻き込まれ人だったからだ。
万が一この作戦が失敗した時、処罰される者はアーサーはもちろんエドワード、ウィリアムは処刑される。マンチェスター侯爵もオズワルド公爵が邪魔と判断したらその可能性が高い。
そんな時ウェールズ公爵まで殺されて仕舞えばあの無能者チャールズに帝位を取られてガンダー帝国は滅ぶ。
しかしウェールズ公爵が生き残っていればギリギリ帝位継承権を保有している程度の存在だ。チャールズは格下は眼中に入れない傲慢な性格だった。
殺されはしないだろう。
最悪追放されるかもしれないがその後反撃をすることも出来る。彼自身にその気がなくても何かしらの理由でチャールズが帝位にいなかったら皇帝になれる。
ウェールズ公爵はジェームズ九世のような武人ではないが物静かで政治向きな人だ。
皇帝にふさわしい。
そうアーサーは判断したのだ。
アーサー自身がなってもいいが自分よりも内政向きな皇帝候補がいるならと辞退した。三男エドワードは体調を崩しやすいという理由で辞退。四男ウィリアムはそもそも皇帝になる気がない為即辞退を宣言した。
そう説明し終えたアーサーはもう一度新帝にと要請した。
「本当に、私でいいのか?」
「ええ、貴方しかおりません従兄殿。いえ、ウェールズ五世陛下」
念押ししたウェールズ公爵の背中を押すようにアーサーは言った。
真っ直ぐウェールズ公爵の、黒い瞳を見つめて。
数秒考えるように目を閉じたウェールズ公爵だったがやがて要請を受諾した。
続いてマンチェスター侯爵、エジンバラ公爵夫人、不服そうなオズワルド公爵が次々と拝跪し、ガンダー帝国第十七代皇帝ウェールズ五世が誕生した。
戴冠式は二ヶ月後の十二月十二日と定まった。
戴冠式の日取りを決める会議も終始オズワルド公爵は無言だった。
「図られた!」
その怒声とともに地下牢の壁を蹴りつける。牢屋の主はチャールズ。帝位継承権を剥奪された元第一皇子で苦労を知らない二十一歳の御曹司である。
「アーサー…エドワード…ウィリアム…エジンバラ公爵夫人…マンチェスター侯爵!許さんぞ、決して許さんぞ!」
もう一度蹴りつけたが普段運動などしないチャールズは長身痩せ型の体のバランスを崩し、無駄に大声を上げて盛大にこけた。
カビ臭くて汚い牢屋に不釣り合いな服装が一層汚れる。
そんな情けない姿を他人に見せたくないという羞恥心と早く誰かに助けて欲しいという矛盾する御曹司根性を脳内で激突させていたその時。
「貴様ら何者だ!そこで止まれ!…くそ!撃て!撃て!!」
牢屋の外で衛兵達が何者かに誰何し、続けて銃声による光が何十閃と起きて薄暗い地下牢内を一瞬だが明るくする。
チャールズは壁にピタリと体をつけて流れ弾から身を守る。
突如起こった銃撃戦に驚きつつ僅かな期待は聞き慣れた声によって報われた。
「チャールズ殿下。お救いに参りましたぞ」
「ファラデー…!来てくれたか!」
手持ちのライトを部下に渡してファラデーは鍵の解錠を始めた。
彼はコンスタント・ファラデー。年齢は三十歳。オズワルド公爵が推薦してきた侍従の一人であり腕の立つ宮廷警備武官でもある。
そんな忠実な部下が鍵を開け、汚れた上着を新しい上着に着替えさせて新たな一言を放つ。
「惑星サウスエンド=オン=シーに向かいましょう」
エジンバラ公爵夫人は自分をいじめてくるクラレンドン公爵夫人を嫌っていたし何よりこの計画の相談を三人の息子達から相談された身であった。
葬式の時の涙は嘘偽りないが帝位継承会議の涙は演技だった。
普段の怒りを一発に込めて叩いたようだ。
ウェールズ公爵が知らされなかったのはいわば巻き込まれ人だったからだ。
万が一この作戦が失敗した時、処罰される者はアーサーはもちろんエドワード、ウィリアムは処刑される。マンチェスター侯爵もオズワルド公爵が邪魔と判断したらその可能性が高い。
そんな時ウェールズ公爵まで殺されて仕舞えばあの無能者チャールズに帝位を取られてガンダー帝国は滅ぶ。
しかしウェールズ公爵が生き残っていればギリギリ帝位継承権を保有している程度の存在だ。チャールズは格下は眼中に入れない傲慢な性格だった。
殺されはしないだろう。
最悪追放されるかもしれないがその後反撃をすることも出来る。彼自身にその気がなくても何かしらの理由でチャールズが帝位にいなかったら皇帝になれる。
ウェールズ公爵はジェームズ九世のような武人ではないが物静かで政治向きな人だ。
皇帝にふさわしい。
そうアーサーは判断したのだ。
アーサー自身がなってもいいが自分よりも内政向きな皇帝候補がいるならと辞退した。三男エドワードは体調を崩しやすいという理由で辞退。四男ウィリアムはそもそも皇帝になる気がない為即辞退を宣言した。
そう説明し終えたアーサーはもう一度新帝にと要請した。
「本当に、私でいいのか?」
「ええ、貴方しかおりません従兄殿。いえ、ウェールズ五世陛下」
念押ししたウェールズ公爵の背中を押すようにアーサーは言った。
真っ直ぐウェールズ公爵の、黒い瞳を見つめて。
数秒考えるように目を閉じたウェールズ公爵だったがやがて要請を受諾した。
続いてマンチェスター侯爵、エジンバラ公爵夫人、不服そうなオズワルド公爵が次々と拝跪し、ガンダー帝国第十七代皇帝ウェールズ五世が誕生した。
戴冠式は二ヶ月後の十二月十二日と定まった。
戴冠式の日取りを決める会議も終始オズワルド公爵は無言だった。
「図られた!」
その怒声とともに地下牢の壁を蹴りつける。牢屋の主はチャールズ。帝位継承権を剥奪された元第一皇子で苦労を知らない二十一歳の御曹司である。
「アーサー…エドワード…ウィリアム…エジンバラ公爵夫人…マンチェスター侯爵!許さんぞ、決して許さんぞ!」
もう一度蹴りつけたが普段運動などしないチャールズは長身痩せ型の体のバランスを崩し、無駄に大声を上げて盛大にこけた。
カビ臭くて汚い牢屋に不釣り合いな服装が一層汚れる。
そんな情けない姿を他人に見せたくないという羞恥心と早く誰かに助けて欲しいという矛盾する御曹司根性を脳内で激突させていたその時。
「貴様ら何者だ!そこで止まれ!…くそ!撃て!撃て!!」
牢屋の外で衛兵達が何者かに誰何し、続けて銃声による光が何十閃と起きて薄暗い地下牢内を一瞬だが明るくする。
チャールズは壁にピタリと体をつけて流れ弾から身を守る。
突如起こった銃撃戦に驚きつつ僅かな期待は聞き慣れた声によって報われた。
「チャールズ殿下。お救いに参りましたぞ」
「ファラデー…!来てくれたか!」
手持ちのライトを部下に渡してファラデーは鍵の解錠を始めた。
彼はコンスタント・ファラデー。年齢は三十歳。オズワルド公爵が推薦してきた侍従の一人であり腕の立つ宮廷警備武官でもある。
そんな忠実な部下が鍵を開け、汚れた上着を新しい上着に着替えさせて新たな一言を放つ。
「惑星サウスエンド=オン=シーに向かいましょう」
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