35 / 63
魔の手
しおりを挟む
四面楚歌となった裏切り者のウォーベックは冷たい汗をかきながら拳銃を腰のホルダーから抜きとった。
そしてオブライエン少将が映るモニターに銃口を向ける。
「ふざけるな…ふざけるなぁ!ふざけるなぁっ!!私は投降せんぞ!逃げ切ってやる!貴様ら薄汚い軍人共に私の金は渡さんからなぁ!!!」
そう言って三発の銃弾をオブライエン少将の顔に撃ち込んだ。
モニターは当然故障し、輸送船クルーにとっての最善策は露と消えた。
一言も発しないクルー達に振り向き、ウォーベック子爵は銃口を向けつつ指示を飛ばした。
「ワープだ!早くワープしろ!」
その声に反射的に機関長がワープの速度に達するようにレバーを引いた。
輸送船キャンベラの艦尾にあるエンジンが赤色から青色、白色へと変化していく。
「ワープまであと三十秒!」
「行ける、行けるぞ!」
オペレーターの声に呼応して興奮するウォーベック子爵。
「敵機接近!」
「何!?輸送船の対空砲では無力だが…撃て!撃てぇ!!」
黙り込む艦長に変わって子爵が怒声をあげる。
輸送船キャンベラに搭載されている六門の対空砲を操作する操縦士達が急速接近するエリザベスを全力で迎撃する。
しかし当たらない。そもそも戦闘機を墜とす為に必要な弾幕を輸送船は張れない。
更に言うとそのエリザベスは赤薔薇、そしてその背後に青薔薇がいた。
パイロットはもちろんアーサー大佐、ウィリアム中佐だった。
赤薔薇は輸送船キャンベラの背後に滑らかに回り込み機銃を的確にエンジンに叩き込む。
火を吹き上げ小爆発を繰り返したエンジンは完全に停止した。
「機関破壊!!機関が、機関が破壊されました!ワープ不可能!航行不能です!」
大声で告げた機関長の言葉が艦橋内を満たし終えると同時に艦長が指揮席よりずり落ちた。
失神したのである。
その姿があまりにも生気を欠いていた為、クルー達が言葉を失っていると今度は青薔薇が艦橋目掛けて突っ込んで来る。右翼からはビームサーベルが展開している。
艦橋の状態を知らない対空砲士達が薄い弾幕を作るもなんらダメージを与えられない。
そしてそのまま輸送船キャンベラの艦橋を斬り裂いた。
接近する自らの死を体現する赤い刃を見つめたウォーベック子爵はでっぷりとした腹をビームサーベルで蒸発されながら真っ二つにされ、絶命した。
艦橋も上下に分断され、その後五分ほど輸送船キャンベラは耐えていたが機関爆発により撃沈した。
移住歴四百二十七年、帝国歴三百十五年十月三日午後十二時二十分の出来事だった。
その日は奇しくもピーター・フォン・ブレーメン中将が戦死した日でもあった。
「輸送船キャンベラを撃沈。ウォーベック子爵の遺体は捜索中。おそらく艦橋に居たため死亡したものとする。ミッション・コンプリート」
「兄上、お疲れ様だぜ」
オブライエン少将に報告した赤薔薇ことアーサー大佐は近づいて来る兄弟機を振り返って見た。
すぐに回線を繋ぎ、顔を見る。
通信パネルに映るウィリアム中佐の顔は苦々しげにキャンベラの残骸を見つめているようだ。
「それにしてもどれだけの機密情報が漏洩したんだ?ウォーベックの奴め!」
「分からん。しかしウォーベックの魔手に染められた者はまだいるだろう。早急に対処しなければな」
「勘弁してくれよ…。エドワードが気づかなかったらもっと大変だったんだろうな」
「そうだな。とにかく帰投するぞ。ここからは軍務大臣と法務大臣、それに監察大臣の仕事だ。…何も起きなければ幸いだが…」
そうアーサー大佐はつぶやきつつ減速した。母艦に着艦する為である。
アーサー大佐の座乗する船は戦艦セント・ヴィンセントⅢである。
ウィリアム中佐はこの船の空戦隊五機の隊長。
アーサー大佐は艦長ではあるが主に実戦指揮は副長のウォーレス・レッド・ロックハート中佐だ。ロックハート中佐はいつもいつも愛機を駆って戦場を飛翔する艦長を頭痛の種にしている。理由は言うまでもない。
副長に第十三艦隊より離脱し、”ジェームズ”に帰還するように指示をしてシャワーを浴びた。自室の椅子にバスローブ姿で報告書や書類を流し見しつつ的確に回答や指紋によるサインをしていると壁に固定されているホットラインが赤く輝いてけたたましい音を鳴らす。
ホットラインが使われる時は大体限られている。
ホットラインはバッキンガム宮殿と直接繋がっている。
そして内容はほぼ凶報や急報だ。
彼自身がホットラインを受けたのは人生で二回。
叔父ランカスター大公が病死した時と弟のエドワード皇子が去年心筋梗塞で緊急手術すると言われた時のみだ。共にセント・ヴィンセントⅢに乗艦し、哨戒任務をしていた時だった。
嫌な予感とともに受話器を取って耳を当てる。
「はい。セント・ヴィンセントⅢ艦長、アーサー大佐です」
「兄上!エドワードです!兄上!」
「どうした、落ち着け!お前らしくない」
そう諭そうとしたアーサーの耳を今にも泣きそうなエドワードの声が貫く。
「父上が!父王陛下が!!暗殺されました!!!」
思わず息が止まり、受話器を落とした。
ガンダー帝国第十六代皇帝ジェームズ九世は移住歴四百二十七年、帝国歴三百十五年十月三日午後三時五分。その命を宇宙ではなくコロニーで散らした。
そしてオブライエン少将が映るモニターに銃口を向ける。
「ふざけるな…ふざけるなぁ!ふざけるなぁっ!!私は投降せんぞ!逃げ切ってやる!貴様ら薄汚い軍人共に私の金は渡さんからなぁ!!!」
そう言って三発の銃弾をオブライエン少将の顔に撃ち込んだ。
モニターは当然故障し、輸送船クルーにとっての最善策は露と消えた。
一言も発しないクルー達に振り向き、ウォーベック子爵は銃口を向けつつ指示を飛ばした。
「ワープだ!早くワープしろ!」
その声に反射的に機関長がワープの速度に達するようにレバーを引いた。
輸送船キャンベラの艦尾にあるエンジンが赤色から青色、白色へと変化していく。
「ワープまであと三十秒!」
「行ける、行けるぞ!」
オペレーターの声に呼応して興奮するウォーベック子爵。
「敵機接近!」
「何!?輸送船の対空砲では無力だが…撃て!撃てぇ!!」
黙り込む艦長に変わって子爵が怒声をあげる。
輸送船キャンベラに搭載されている六門の対空砲を操作する操縦士達が急速接近するエリザベスを全力で迎撃する。
しかし当たらない。そもそも戦闘機を墜とす為に必要な弾幕を輸送船は張れない。
更に言うとそのエリザベスは赤薔薇、そしてその背後に青薔薇がいた。
パイロットはもちろんアーサー大佐、ウィリアム中佐だった。
赤薔薇は輸送船キャンベラの背後に滑らかに回り込み機銃を的確にエンジンに叩き込む。
火を吹き上げ小爆発を繰り返したエンジンは完全に停止した。
「機関破壊!!機関が、機関が破壊されました!ワープ不可能!航行不能です!」
大声で告げた機関長の言葉が艦橋内を満たし終えると同時に艦長が指揮席よりずり落ちた。
失神したのである。
その姿があまりにも生気を欠いていた為、クルー達が言葉を失っていると今度は青薔薇が艦橋目掛けて突っ込んで来る。右翼からはビームサーベルが展開している。
艦橋の状態を知らない対空砲士達が薄い弾幕を作るもなんらダメージを与えられない。
そしてそのまま輸送船キャンベラの艦橋を斬り裂いた。
接近する自らの死を体現する赤い刃を見つめたウォーベック子爵はでっぷりとした腹をビームサーベルで蒸発されながら真っ二つにされ、絶命した。
艦橋も上下に分断され、その後五分ほど輸送船キャンベラは耐えていたが機関爆発により撃沈した。
移住歴四百二十七年、帝国歴三百十五年十月三日午後十二時二十分の出来事だった。
その日は奇しくもピーター・フォン・ブレーメン中将が戦死した日でもあった。
「輸送船キャンベラを撃沈。ウォーベック子爵の遺体は捜索中。おそらく艦橋に居たため死亡したものとする。ミッション・コンプリート」
「兄上、お疲れ様だぜ」
オブライエン少将に報告した赤薔薇ことアーサー大佐は近づいて来る兄弟機を振り返って見た。
すぐに回線を繋ぎ、顔を見る。
通信パネルに映るウィリアム中佐の顔は苦々しげにキャンベラの残骸を見つめているようだ。
「それにしてもどれだけの機密情報が漏洩したんだ?ウォーベックの奴め!」
「分からん。しかしウォーベックの魔手に染められた者はまだいるだろう。早急に対処しなければな」
「勘弁してくれよ…。エドワードが気づかなかったらもっと大変だったんだろうな」
「そうだな。とにかく帰投するぞ。ここからは軍務大臣と法務大臣、それに監察大臣の仕事だ。…何も起きなければ幸いだが…」
そうアーサー大佐はつぶやきつつ減速した。母艦に着艦する為である。
アーサー大佐の座乗する船は戦艦セント・ヴィンセントⅢである。
ウィリアム中佐はこの船の空戦隊五機の隊長。
アーサー大佐は艦長ではあるが主に実戦指揮は副長のウォーレス・レッド・ロックハート中佐だ。ロックハート中佐はいつもいつも愛機を駆って戦場を飛翔する艦長を頭痛の種にしている。理由は言うまでもない。
副長に第十三艦隊より離脱し、”ジェームズ”に帰還するように指示をしてシャワーを浴びた。自室の椅子にバスローブ姿で報告書や書類を流し見しつつ的確に回答や指紋によるサインをしていると壁に固定されているホットラインが赤く輝いてけたたましい音を鳴らす。
ホットラインが使われる時は大体限られている。
ホットラインはバッキンガム宮殿と直接繋がっている。
そして内容はほぼ凶報や急報だ。
彼自身がホットラインを受けたのは人生で二回。
叔父ランカスター大公が病死した時と弟のエドワード皇子が去年心筋梗塞で緊急手術すると言われた時のみだ。共にセント・ヴィンセントⅢに乗艦し、哨戒任務をしていた時だった。
嫌な予感とともに受話器を取って耳を当てる。
「はい。セント・ヴィンセントⅢ艦長、アーサー大佐です」
「兄上!エドワードです!兄上!」
「どうした、落ち着け!お前らしくない」
そう諭そうとしたアーサーの耳を今にも泣きそうなエドワードの声が貫く。
「父上が!父王陛下が!!暗殺されました!!!」
思わず息が止まり、受話器を落とした。
ガンダー帝国第十六代皇帝ジェームズ九世は移住歴四百二十七年、帝国歴三百十五年十月三日午後三時五分。その命を宇宙ではなくコロニーで散らした。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
ロイレシア戦記:赤の章
方正
ファンタジー
遥か昔、世界は灰色の空の下、大地は枯れて荒野が世界の果てまで続いていました。
人々は魔物に怯え、暗闇の世界を細々と暮らしていました。
ある日、空から星が落ちました。
その星を受け止めた人は、世界を照らす光の魔法を手に入れました。
星を受け取った人は旅人して、世界を照らす旅を始めました。
旅を続ける中、旅人を王として慕う四人の騎士が現れました。
最後の旅に魔人と戦うことになり、魔人の王を倒すと旅人は命を落としてしまいます。
旅人は四人の騎士達と誓いを立てることになります。
世界を照らし続ける事を旅人は約束しました。
騎士達は4つの方角を向いて、大地を守る事を約束しました。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
16世紀のオデュッセイア
尾方佐羽
歴史・時代
【第12章を週1回程度更新します】世界の海が人と船で結ばれていく16世紀の遥かな旅の物語です。
12章では16世紀後半のヨーロッパが舞台になります。
※このお話は史実を参考にしたフィクションです。
旧式戦艦はつせ
古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる