戦場立志伝

居眠り

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攻略作戦

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 十月十一日午後八時。アルベルト達はハル平和連合の国土を踏んだ。
アントニー中尉は事務的に事務的な手続きを済ませさっさと帝国へ帰って行った。
アルベルトの機体はハル平和連合防衛軍の艦艇に収容され、アルベルト達は平和連合執政府より出された車に分乗しアルベルト達を買い取った幹部の六十歳ほどの代理と会った。
「閣下はお忙しいので…」
そう言う代理の者は本当に申し訳なさそうにしていた。
アルベルトとしては幹部の正体を聞きたかったがそれは聞けなかった。
既に内戦が勃発してピーター中将は戦死し、ハルコルト中将も負傷したともなれば急がねばならなかった。
幹部代理の話によるとツックマイヤー少将の第十七駆逐艦隊と軍事同盟軍の本隊が合流し、リーコン要塞攻撃戦を仕掛けようとしているらしい。
戦死したピーター中将の第八航宙艦隊の残存兵も加わるのでかなりの熾烈な攻防戦が行われるだろうと彼は言う。
「しかし貴方達…特にバイエルン中佐が加われば有志連合軍に勝機が無いわけではないと閣下は仰っておられました」
「何故です?」
「貴方がゾラ連合軍の中で最強のエースパイロットだからです。それに第一次リーコン沖会戦において空戦隊が重要なことが再確認されました。空戦隊はこの先さらに有用になるでしょう。そこで貴方が必要なんです」
やや戸惑いつつも嬉しそうなアルベルトは一つの疑問を覚えた。
「待ってください。アンハルト…ホーエンツォレルン大佐はどうなのです?彼も…いや彼こそエースパイロットだと思うのですが…?」
「確かにホーエンツォレルン大佐はエースパイロットです。それは間違いありません。しかしそれはバイエルン中佐と同じ機体を使っていたらの話です。ティーガー・ワンはパトリオットよりも遥かに高性能です。故に貴方が一番と申し上げました」
しかし尚も食い下がろうとしたら彼は立ち上がった。
そのまま数歩歩き応接室の大窓の前に立つ。
「急いだ方がいいでしょう。事は起こってしまった。エクムント防衛大臣を止めなければなりません。ゾラ連合が滅べば………我々もおろか宇宙全体が滅ぶかもしれない…」
最後の辺りは小さい声だったので聞こえなかったが背中から出てくるオーラというか覇気が
アルベルトをその気にさせた。その部屋の空気が一瞬止まるような覇気だった。
アルベルトが後ろを振り返るとグレーデン、ゲッツ、ギルマン達もその気の様だ。
「分かりました。すぐに出発します」
「お願いします」
丁寧にお辞儀をして彼は応接室を足早に出ていった。
「中佐!おめでとう!」
ギルマン少佐が真っ先に褒める。ゲッツ、グレーデン両少佐も同様に褒めてくれた。
にこやかな笑顔を見せたアルベルトだが応接室を出る時の顔は真空の空の戦士だった。

総司令官兼第一戦闘艦隊司令官ハラー・パウルス高等大将は総旗艦である超弩級戦艦ライヒスブルクにて作戦会議を行なっていた。
パウルス高等大将は七十一歳の老提督だ。ゾラ連合軍宿将中の宿将で彼は激務であるゾラ連合軍宇宙艦隊司令長官、統合作戦部部長を兼任したこともある。
今回のリーコン要塞攻撃戦では総司令官を務めることなった。
彼の指揮下に入る副司令官は第六航宙艦隊司令官カール・マインツ大将であった。
年齢は六十一歳。
“平民出の戦略家”と呼ばれその卓越した戦略眼は連合一とも言われるほどだ。
しかし実戦、つまり戦術能力はややウィリバルトの方が上だ。だが総合的に見たら経験といい能力といいマインツ大将の方が圧倒的だった。
マインツ大将の二つ名である” 平民出”は彼自身が元貴族ということを示す”フォン”の字が名前にないことを過去にある平民嫌いの元貴族が皮肉ってつけられたと言われている。
その時の”戦略家”という意味は慎重派なマインツ大将を優柔不断と罵った意味があった。
その元貴族は彼の指示を聞かず、第一次ドーヴァー星域大会戦で戦死した。
今ではこの二つ名は神聖なものとして語り継がれている。
さて、最前線艦隊を率いるのは
第二戦闘艦隊司令官ヤーヴィス・ヨアヒム・フォン・ゾマー中将、
第三戦闘艦隊司令官キーランド・シュニッツラー中将、
第十二機動艦隊司令官マクシミリアン・フロイデンタール少将、
第十四機動艦隊司令官ワルディフリード・ランゲンバッハ少将の四名だった。
これに第一戦闘艦隊、第六航宙艦隊を加え総数は七百七十隻にのぼる。
対して有志連合軍は先の第一次リーコン沖会戦の事後処理に追われ、リーコン沖の制宙権を確保出来なかった為頼りはリーコン要塞の要塞砲”グングニル”しかなかった。
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