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脱出
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商船B-八十八aの艦橋では非合法な客が集められた。
勿論全員連合軍人だった。
「俺はアルベルト・フォン・バイエルン中佐だ。歳は十七。(第四次)ドーヴァー星域大会戦で…捕虜になった」
捕虜ということを嫌々認めた様な発言は周りの者から笑われた。
「何故笑う!?」
アルベルトは笑った三人の軍人に視線を向けた。
最初に笑った大柄な三十代と思しき男がアルベルトに謝った。
「すまん、すまん。俺たちはもう三年も前に捕虜になったんだがその時は自分達は捕虜じゃないって突っぱねてた時期があってね」
すると隣のやや長めの茶髪を後ろで結んだ青年が懐かしげに語った。
「あん時のグレーデンのひねくれっぷりは初対面の俺にとっては強烈だったよ」
「お前だって捕虜じゃないって言ってただろうギルマン?」
「うるせぇ。そんな前のことは忘れたよ」
グレーデンとは恐らく三十代の男のことで、ギルマンは茶髪の青年のことだろう。
すると細身な男が発言した。
「おいおいあんたら、自己紹介も満足に出来ないのか?…よぉ兄ちゃん、俺はギード。ギード・ゲッツだ。歳は三十。階級は少佐だ。よろしくな」
それを聞いた大柄の男と茶髪の青年が慌てて名乗った。
「俺はウド・グスタフ・グレーデン少佐だ。三十一歳。しばらくの間よろしく」
「俺はライナルト・ギルマン!階級は少佐だ。二十六歳!これからよろしく頼むぜ!」
一人一人と握手をしたが悪い人ではなさそうだ。とアルベルトは思った。
…多少、軍の規律が抜けているようだが。
「挨拶は終わったな。私は本艦B-八十八a艦長アントニー中尉だ。私自身の階級が貴官らに劣っていても貴官らは私の命令に従っていただく。よろしいな?」
死んだ魚の目をした艦長の挨拶と艦内ルールを聞き四人は退出した。
艦内ルールは艦長、又は副長の許可なしに四人の宿泊部屋から出てはならない。
ただそれだけだ。
ハル平和連合まで十日、そこからリーコン星まで二日かかるという。
特に今すぐすることもないのでアルベルト達は親睦を深めることにした。
開幕当初口を開いたのはグレーデン中佐だった。
「俺達三人は三年前にあった第三次ドーヴァー星域大会戦で捕虜になったんだ。お前さんはその時は参戦してなかったと思うがそりゃあ凄い会戦だったぜ。なあゲッツ?」
ゲッツ中佐がやや目を細め、思い出す様に話した。
「ああ…俺は第五戦闘艦隊にいた…。会戦自体が大会戦というのもあって大量の戦闘機が戦場に満ち溢れていた。俺たちパイロットにとっては絶好の腕試しの場だった。俺が最初に戦ったのは第一親衛艦隊のエリザベスだった。コックピットの風防に赤薔薇の紋章があったな。そいつはとてつもなく強かった。撃墜されてからなんとか機外に出たらここの主人の部下に捕まったんだよ」
ギルマン少佐も思い出したように立ち上がって話し出した。
「そうだ!そうだよ!青薔薇!俺は青薔薇に墜とされた!そいつはとんでもなく高機動なエリザベスだった!赤薔薇の奴と何かあるかもしれないぞ!」
グレーデン中佐が興奮するギルマン少佐の肩を掴んで椅子に座らせた。
「まぁ俺もその赤薔薇に墜とされたクチだよ。バイエルン中佐、あんたは何に墜とされたんだ?」
アルベルトは目を閉じ、深く息を吸い込み、吐き出した。
約四十日前に起きたことを脳裏に思い浮かべる。
同年の部下を撃墜され、味方を薙ぎ倒され、自身までもが右手を失う大怪我をした。
その機体の紋章は…赤薔薇。
「俺も赤薔薇に墜とされた。…味方も軽く十機近くは撃墜されたっ!俺が不甲斐ないばかりに…!」
怒りと悲しみの余り机の上を義手で叩いた。
ウィィイン!と機械音を放ち、机に当たって鈍い音をたてる右腕を三人はじっと見た。
そして彼らは顔を見合わせるとグレーデン少佐がアルベルトに声をかけた。
「アルベルト・フォン・バイエルン中佐。無事俺たちが国に帰還出来たら、あんたのいた空戦隊に入れてくれねぇか?」
続いてゲッツ少佐も口を開く。
「今は言わなかったが俺も戦友をそいつらによって失った」
「俺たちに手伝わせてくれ、バイエルン中佐!」
ギルマン少佐が面と向かって叫ぶ。
三者三様の表情と決意でアルベルトは見られた。そして迷いなく答えた。
「空戦隊の件は任せてくれ。第七航宙艦隊司令官は俺の伯父だ。なんとか頼み込んでみる」
「…じゃあ祝杯上げますかぁ!」
どこからかシャンパンを取り出したグレーデン少佐が、紙コップを四つ手にしたギルマンが、そしてシャンパンを満たした紙コップを渡してくるゲッツ少佐が。
アルベルトはそれを受け取り、乾杯した。
すると艦内放送で艦長のアントニー中尉が流れてきた。
「本艦はこれより出航する。繰り返す。本艦はこれより出航する」
十月二日午前七時のことであった。
勿論全員連合軍人だった。
「俺はアルベルト・フォン・バイエルン中佐だ。歳は十七。(第四次)ドーヴァー星域大会戦で…捕虜になった」
捕虜ということを嫌々認めた様な発言は周りの者から笑われた。
「何故笑う!?」
アルベルトは笑った三人の軍人に視線を向けた。
最初に笑った大柄な三十代と思しき男がアルベルトに謝った。
「すまん、すまん。俺たちはもう三年も前に捕虜になったんだがその時は自分達は捕虜じゃないって突っぱねてた時期があってね」
すると隣のやや長めの茶髪を後ろで結んだ青年が懐かしげに語った。
「あん時のグレーデンのひねくれっぷりは初対面の俺にとっては強烈だったよ」
「お前だって捕虜じゃないって言ってただろうギルマン?」
「うるせぇ。そんな前のことは忘れたよ」
グレーデンとは恐らく三十代の男のことで、ギルマンは茶髪の青年のことだろう。
すると細身な男が発言した。
「おいおいあんたら、自己紹介も満足に出来ないのか?…よぉ兄ちゃん、俺はギード。ギード・ゲッツだ。歳は三十。階級は少佐だ。よろしくな」
それを聞いた大柄の男と茶髪の青年が慌てて名乗った。
「俺はウド・グスタフ・グレーデン少佐だ。三十一歳。しばらくの間よろしく」
「俺はライナルト・ギルマン!階級は少佐だ。二十六歳!これからよろしく頼むぜ!」
一人一人と握手をしたが悪い人ではなさそうだ。とアルベルトは思った。
…多少、軍の規律が抜けているようだが。
「挨拶は終わったな。私は本艦B-八十八a艦長アントニー中尉だ。私自身の階級が貴官らに劣っていても貴官らは私の命令に従っていただく。よろしいな?」
死んだ魚の目をした艦長の挨拶と艦内ルールを聞き四人は退出した。
艦内ルールは艦長、又は副長の許可なしに四人の宿泊部屋から出てはならない。
ただそれだけだ。
ハル平和連合まで十日、そこからリーコン星まで二日かかるという。
特に今すぐすることもないのでアルベルト達は親睦を深めることにした。
開幕当初口を開いたのはグレーデン中佐だった。
「俺達三人は三年前にあった第三次ドーヴァー星域大会戦で捕虜になったんだ。お前さんはその時は参戦してなかったと思うがそりゃあ凄い会戦だったぜ。なあゲッツ?」
ゲッツ中佐がやや目を細め、思い出す様に話した。
「ああ…俺は第五戦闘艦隊にいた…。会戦自体が大会戦というのもあって大量の戦闘機が戦場に満ち溢れていた。俺たちパイロットにとっては絶好の腕試しの場だった。俺が最初に戦ったのは第一親衛艦隊のエリザベスだった。コックピットの風防に赤薔薇の紋章があったな。そいつはとてつもなく強かった。撃墜されてからなんとか機外に出たらここの主人の部下に捕まったんだよ」
ギルマン少佐も思い出したように立ち上がって話し出した。
「そうだ!そうだよ!青薔薇!俺は青薔薇に墜とされた!そいつはとんでもなく高機動なエリザベスだった!赤薔薇の奴と何かあるかもしれないぞ!」
グレーデン中佐が興奮するギルマン少佐の肩を掴んで椅子に座らせた。
「まぁ俺もその赤薔薇に墜とされたクチだよ。バイエルン中佐、あんたは何に墜とされたんだ?」
アルベルトは目を閉じ、深く息を吸い込み、吐き出した。
約四十日前に起きたことを脳裏に思い浮かべる。
同年の部下を撃墜され、味方を薙ぎ倒され、自身までもが右手を失う大怪我をした。
その機体の紋章は…赤薔薇。
「俺も赤薔薇に墜とされた。…味方も軽く十機近くは撃墜されたっ!俺が不甲斐ないばかりに…!」
怒りと悲しみの余り机の上を義手で叩いた。
ウィィイン!と機械音を放ち、机に当たって鈍い音をたてる右腕を三人はじっと見た。
そして彼らは顔を見合わせるとグレーデン少佐がアルベルトに声をかけた。
「アルベルト・フォン・バイエルン中佐。無事俺たちが国に帰還出来たら、あんたのいた空戦隊に入れてくれねぇか?」
続いてゲッツ少佐も口を開く。
「今は言わなかったが俺も戦友をそいつらによって失った」
「俺たちに手伝わせてくれ、バイエルン中佐!」
ギルマン少佐が面と向かって叫ぶ。
三者三様の表情と決意でアルベルトは見られた。そして迷いなく答えた。
「空戦隊の件は任せてくれ。第七航宙艦隊司令官は俺の伯父だ。なんとか頼み込んでみる」
「…じゃあ祝杯上げますかぁ!」
どこからかシャンパンを取り出したグレーデン少佐が、紙コップを四つ手にしたギルマンが、そしてシャンパンを満たした紙コップを渡してくるゲッツ少佐が。
アルベルトはそれを受け取り、乾杯した。
すると艦内放送で艦長のアントニー中尉が流れてきた。
「本艦はこれより出航する。繰り返す。本艦はこれより出航する」
十月二日午前七時のことであった。
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