戦場立志伝

居眠り

文字の大きさ
上 下
27 / 63

経験値

しおりを挟む
 重巡洋艦ビューロー艦橋内。
「閣下!ハルコルト提督!」
そう呼びかける声を聞いてハルコルト中将は目を開けた。
「提督、お顔が…」
そう言って副官が差し出したタオルで顔を拭くと純白だった色が赤黒い色に変わった。
「提督、ただいま軍医を呼んでおりますので…」
「そんなことより、被害を報告せよ」
頭の痛みに顔をしかめながら報告を受け取った。
「第一主砲大破!火災発生中!」
「左舷甲板にミサイル貫通!同じく火災が発生!」
「艦橋右舷に被弾!」
「ミサイル、後部甲板を貫通!機関室と連絡が途絶えました!やられた様です」
次々と来る旗艦の被害状況を聞いていると軍医がやってきて応急処置として止血し、包帯を巻かれていく。
「艦隊の被害状況はどうだ?」
「正確な情報はまだ分かりませんが、かなりの…我が艦隊の約半分が被弾した様です」
「…とりあえず火災を鎮火せよ」
重々しい声と表情でハルコルト中将は指示した。
「艦長!機関室が動力を停止した模様!艦内エネルギーダウン!」
「非常電源に切り替えろ!」
明るかった艦橋内が赤く、薄暗い空間へと変わった。
すると艦長のバスラー中佐がハルコルト中将に向き直り具申した。
「閣下、本艦は被害甚大により航行不能です。どうか他艦へ移乗願います。」
「いや、俺は動かん。…近くに戦艦はいるか?」
「戦艦ランゲンバッハ、リーフマンが近くを航行しております」
艦長の視線を受けたオペレーターが代わりに応答する。
「ではその二隻を本艦に接舷させよ。両艦のシールドエネルギーは百パーセントにし本艦をカバー。それから我が艦隊は一時後退する」
無念の表情でその命令を受領した艦長は直ちに行動に移った。

混成艦隊の第十六空戦隊隊長エルヴィン・フォン・ポーツァル大尉は旗艦ビューローが被弾、大破したのを遥か前線で知った。
「艦隊が俺達の討ち漏らした敵機に攻撃されたそうだ!」
「なんてこった!」
「流石は第八航宙艦隊の空戦隊だぜ」
混成艦隊空戦隊の通信回線に走り回る衝撃をポーツァル大尉は一喝した。
「貴様ら!驚き続けても何も変わらん!隊列を整えろ。第十六空戦隊、俺に続け!」
「「おう!」」
第十六空戦隊十八機が第八航宙艦隊旗艦航宙戦艦ユーゴスラビアに接近し始めた。
そこまで至る宙域には第八航宙艦隊の巡洋艦や駆逐艦が多数おり猛烈な対空砲火に晒されつつもユーゴスラビア前方まで近づいた。
「敵空戦隊接近!約二十機!」
「何だと!?」
「敵機ミサイル発射!」
突然の空戦隊来襲に驚きつつもユーゴスラビアの艦長は躊躇いなく指示を出す。
「取舵一杯、俯角三十度!」
「とーりかーじ一杯!」
「対空を厳とせよ!」
僚艦数隻と共に圧倒的弾幕を展開する。ポーツァル大尉のエアハルトは被弾を免れたが僚機は一機、また一機と火を吹き落ちていく。そんな中三発のミサイルがユーゴスラビアのカタパルト上に配置されている主砲と主砲の間に着弾した。
それを見た大尉は自分も続こうと思ったその時。
衝撃。
座席シートに体を打ちつけられる。息が詰まるのを堪え状況を確認する。
どうやら両主翼と尾翼に被弾した様だ。
「このままじゃ旋回出来ない…やるしかないのか…」
現状の機体が耐えられるスピードまで加速する。
「おい…あのエアハルト、突っ込んで来るぞ!!」
「何!?」
艦長とピーター中将が艦橋窓越しにポーツァル大尉機を視認した。
「うおおおおおおお!!!」
その怒号と共にミサイルを発射、だがその時、対空機銃がコックピットの風防を貫通。
ポーツァル大尉の眉間に刺さって噴き出た血が計器類の近くに貼ってあった家族写真に飛び散った。

大爆発。
主砲下にある艦載機格納庫にも爆風は及び深淵の世界を明るく彩った。
音の無い世界でなかったら、いかほどの人達の鼓膜を打ったか。
第八航宙艦隊旗艦航宙戦艦ユーゴスラビアは船体前方からの大爆発に一瞬で抱擁された。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生少女は大戦の空を飛ぶ

モラーヌソルニエ
ファンタジー
薄っぺらいニワカ戦闘機オタク(歴史的知識なし)が大戦の狭間に転生すると何が起きるでしょう。これは現代日本から第二次世界大戦前の北欧に転生した少女の空戦史である。カクヨムでも掲載しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

無職ニートの俺は気が付くと聯合艦隊司令長官になっていた

中七七三
ファンタジー
■■アルファポリス 第1回歴史・時代小説大賞 読者賞受賞■■ 無職ニートで軍ヲタの俺が太平洋戦争時の聯合艦隊司令長官となっていた。 これは、別次元から来た女神のせいだった。 その次元では日本が勝利していたのだった。 女神は、神国日本が負けた歴史の世界が許せない。 なぜか、俺を真珠湾攻撃直前の時代に転移させ、聯合艦隊司令長官にした。 軍ヲタ知識で、歴史をどーにかできるのか? 日本勝たせるなんて、無理ゲーじゃねと思いつつ、このままでは自分が死ぬ。 ブーゲンビルで機上戦死か、戦争終わって、戦犯で死刑だ。 この運命を回避するため、必死の戦いが始まった。 参考文献は、各話の最後に掲載しています。完結後に纏めようかと思います。 使用している地図・画像は自作か、ライセンスで再利用可のものを検索し使用しています。 表紙イラストは、ヤングマガジンで賞をとった方が画いたものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

シーフードミックス

黒はんぺん
SF
ある日あたしはロブスターそっくりの宇宙人と出会いました。出会ったその日にハンバーガーショップで話し込んでしまいました。 以前からあたしに憑依する何者かがいたけれど、それは宇宙人さんとは無関係らしい。でも、その何者かさんはあたしに警告するために、とうとうあたしの内宇宙に乗り込んできたの。 ちょっとびっくりだけど、あたしの内宇宙には天の川銀河やアンドロメダ銀河があります。よかったら見物してってね。 内なる宇宙にもあたしの住むご町内にも、未知の生命体があふれてる。遭遇の日々ですね。

【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部

山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。 これからどうかよろしくお願い致します! ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

処理中です...