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内通者
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アルベルトは一番コロニー"ジェームズ"の中にある第三区ブリスデン病院に入院している。ここはウォーベック子爵の私有地であり名目上は慈善事業の一環としての病院なのだが、実態は帝国と敵対する思想を持つ者達の隠れ家であった。
ウォーベック子爵は別に帝国に対してクーデターを起こしたいわけではなかった。匿われている側こそ、その意思があった。
子爵は危険分子たちに隠れ家を提供する代わりに金品を受け取り、懐に収めているのであった。
何故今まで事が露見しないかというと徹底した情報管理と自分の身が危うくなったときにテロリストを匿名密告し、自身の安全を確保していたからである。
このような行いも"裏切り者のウォーベック"と呼ばれる所以のひとつだった。
九月二十七日、そんな人間の屑とも言うべき者がアルベルトの病室を訪れた。
「ご機嫌は如何かね、バイエルン中佐?」
「お前が来たせいで悪くなった」
肉付きの良すぎる顎を揉みながら子爵はニヤニヤしていた。
「今日は君にとって大事な話をしに来たというのにその言い方は無いだろう?」
「貴様のような屑に払う敬意など無い」
アルベルトはきっぱりと言い放った。
笑みを絶やさずウォーベックは書類をアルベルトのシーツの上に放り出した。
「おい…これ…」
不審に思いつつもそれに目を通すアルベルトの顔が硬直した。
「そう。君の義手だ。こいつは私の部下たちが開発した中で最高傑作だよ!その分、金はかかるが安心したまえ、代金はハル連合の幹部が支払ってくれる」
「そっちじゃない!この戦闘機は何だ!?パトリオットのスペックを遥かに凌駕しているじゃないか!」
アルベルトはやっとウォーベック子爵が上機嫌だった理由に気付いた。スピードは大して変わらないが機動性が抜群に良好になっている戦闘機の資料が書類に書いてあったのだ。武装も三十ミリ機関砲から三十五ミリに。ミサイル搭載数は二十発から三十発。
「どうかね?このTiger Iティーガー・ワンは!?君に使いこなせれるかは分からんが…」
ウォーベック子爵は不審そうにアルベルトを見た。
「せっかくのパトリオットを墜としてしまい挙句に右手を失ってしまう奴に渡すものではないんだがね。あのパイロットスーツは通常の四倍の強度を誇るのだぞ?なのに本人が先に壊れるとは」
「機体の爆発に巻き込まれて無傷なわけねぇだろ」
そうアルベルトは言い放ち、新たな疑問に関心を示した。
「待て、ハル連合?何故彼らが…?」
「今、ゾラ連合は大規模な内乱が起こっている」
事の顛末を知ったアルベルトはいつ祖国に帰れるかと聞くと十月中旬までにはという解答を得た。
「ハル連合が介入しているのは有志連合が負けることを危惧しているからだろう。それの一環として君を回収しようとしているのだろうな」
「伯父上は?アンハルトは俺が無事なことを知っているのか?」
それを聞いたウォーベック子爵は苦い顔をして答えた。
「一時間前の情報によると軍事同盟軍と有志連合軍が交戦を開始したそうだ」
アルベルトは決意の表情と共に言った。
「今日手術をしろ。終わったら直ぐ俺は行く」
ウォーベック子爵は別に帝国に対してクーデターを起こしたいわけではなかった。匿われている側こそ、その意思があった。
子爵は危険分子たちに隠れ家を提供する代わりに金品を受け取り、懐に収めているのであった。
何故今まで事が露見しないかというと徹底した情報管理と自分の身が危うくなったときにテロリストを匿名密告し、自身の安全を確保していたからである。
このような行いも"裏切り者のウォーベック"と呼ばれる所以のひとつだった。
九月二十七日、そんな人間の屑とも言うべき者がアルベルトの病室を訪れた。
「ご機嫌は如何かね、バイエルン中佐?」
「お前が来たせいで悪くなった」
肉付きの良すぎる顎を揉みながら子爵はニヤニヤしていた。
「今日は君にとって大事な話をしに来たというのにその言い方は無いだろう?」
「貴様のような屑に払う敬意など無い」
アルベルトはきっぱりと言い放った。
笑みを絶やさずウォーベックは書類をアルベルトのシーツの上に放り出した。
「おい…これ…」
不審に思いつつもそれに目を通すアルベルトの顔が硬直した。
「そう。君の義手だ。こいつは私の部下たちが開発した中で最高傑作だよ!その分、金はかかるが安心したまえ、代金はハル連合の幹部が支払ってくれる」
「そっちじゃない!この戦闘機は何だ!?パトリオットのスペックを遥かに凌駕しているじゃないか!」
アルベルトはやっとウォーベック子爵が上機嫌だった理由に気付いた。スピードは大して変わらないが機動性が抜群に良好になっている戦闘機の資料が書類に書いてあったのだ。武装も三十ミリ機関砲から三十五ミリに。ミサイル搭載数は二十発から三十発。
「どうかね?このTiger Iティーガー・ワンは!?君に使いこなせれるかは分からんが…」
ウォーベック子爵は不審そうにアルベルトを見た。
「せっかくのパトリオットを墜としてしまい挙句に右手を失ってしまう奴に渡すものではないんだがね。あのパイロットスーツは通常の四倍の強度を誇るのだぞ?なのに本人が先に壊れるとは」
「機体の爆発に巻き込まれて無傷なわけねぇだろ」
そうアルベルトは言い放ち、新たな疑問に関心を示した。
「待て、ハル連合?何故彼らが…?」
「今、ゾラ連合は大規模な内乱が起こっている」
事の顛末を知ったアルベルトはいつ祖国に帰れるかと聞くと十月中旬までにはという解答を得た。
「ハル連合が介入しているのは有志連合が負けることを危惧しているからだろう。それの一環として君を回収しようとしているのだろうな」
「伯父上は?アンハルトは俺が無事なことを知っているのか?」
それを聞いたウォーベック子爵は苦い顔をして答えた。
「一時間前の情報によると軍事同盟軍と有志連合軍が交戦を開始したそうだ」
アルベルトは決意の表情と共に言った。
「今日手術をしろ。終わったら直ぐ俺は行く」
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