戦場立志伝

居眠り

文字の大きさ
上 下
19 / 63

クーデター

しおりを挟む
 エクムントとローデリヒは二人には広すぎる会議室で悠然とコーヒーを飲んでいた。
ただし本気で悠然と飲んでいたのはエクムントだけだった。
ローデリヒは表面上落ち着いているが内心は困惑していた。
噴き出す汗を拭くのに必死のようだ。
「国防大臣閣下、本当にクーデターが成功するでしょうか」
「なんだ、怖気づいたか?」
「とんでもない!私はそんな弱気な男ではありません」
本当はそうであるのに見栄を張った外務大臣をエクムントは一瞥した。
「心配するな。手は打ってある」
汗を拭くローデリヒは安心したようにその手を止めた。

フロレンツ大尉はビスマルク中将に比べると軽傷だった。左腕の骨折で済んだのだ。
彼は士官学校でアンハルトの後輩でありアルベルトの先輩だった。
そんな後輩をアンハルトは士官病院で見舞った。
「先輩、情けない姿で申し訳ないです」
今年十九歳になる大尉はそうアンハルトに言った。
笑って答える後輩を見てアンハルトはふと思った。
連合の士官の年齢が下がってきたな、と。
二十代や三十代が増えた訳では無い。その逆である。
十代の士官が明らかに増えたのだ。
働き盛りな中堅が長過ぎる戦争の為戦死しているのだ。それに比べ、老人らは後方にあって戦争を賛美する。
この世の中はどうかしてる。
そう思って止まない大佐だった。
ふと目を窓から見える風景に向けると異変が起きているのに気づいた。
武装した多数の兵士達が病院内に入って来たのである。
それを咎める衛兵が駆け寄ったその時、彼らは衛兵を押し倒し大声で叫びながら突入してきたのだ。
「士官は捕らえろ!抵抗する者は殺せ!」
先頭を走る士官の歳は六十程度であった。よく見るとそれに続く兵士達も五十代を下回らない。
アンハルトが拳銃を抜き放ちフロレンツを急かす。
「フロレンツ、まずい事態になってきたようだ。ここから逃げるぞ」
「はい。しかしビスマルク提督を置いては行けません。助けに行きましょう」
フロレンツは迷いなく言った。
しばしの沈黙の後アンハルトはそれを了承した。
「提督の病室は三階です。ここは二階。すぐに行動しなければ奴らが来ますね」
そう言った瞬間、下の階から銃声が響き渡ってきた。衛兵たちは善戦しているようだがなにせ兵数が違いすぎる。
段々と押され始めているのが手に取るように分かる。
「フロレンツ、一旦下の奴らを片付けるぞ」
「了解です、先輩!」
若々しい足取りが廊下に響いた。
その足音を聞きつけた三十代と思しき衛兵長が二人を止めた。
「お二人共ここは危険です。我々にお任せを」
「見なくてもわかります。防戦で必死じゃないですか」
片腕を吊るしたフロレンツが衛兵長を吊るしていない方の腕で押し退ける。
そしてその腕で階段を登ろうとする闖入者の肩を撃ち抜いた。
いきなり現れた少年士官に撃たれた闖入者は階段を転げ落ちた。
なんとか立ち上がったその目は怒りに満ちていた。
「殺せ!殺せ!殺せぇ!」
「やってみやがれ数を頼みにする野良犬共」
「フロレンツ、口が悪いぞ」
アンハルトは後輩をたしなめつつ拳銃を構え直した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

第一機動部隊

桑名 裕輝
歴史・時代
突如アメリカ軍陸上攻撃機によって帝都が壊滅的損害を受けた後に宣戦布告を受けた大日本帝国。 祖国のため、そして愛する者のため大日本帝国の精鋭である第一機動部隊が米国太平洋艦隊重要拠点グアムを叩く。

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

体内内蔵スマホ

廣瀬純一
SF
体に内蔵されたスマホのチップのバグで男女の体が入れ替わる話

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

高校生とUFO

廣瀬純一
SF
UFOと遭遇した高校生の男女の体が入れ替わる話

ソラノカケラ    ⦅Shattered Skies⦆

みにみ
歴史・時代
2026年 中華人民共和国が台湾へ軍事侵攻を開始 台湾側は地の利を生かし善戦するも 人海戦術で推してくる中国側に敗走を重ね たった3ヶ月ほどで第2作戦区以外を掌握される 背に腹を変えられなくなった台湾政府は 傭兵を雇うことを決定 世界各地から金を求めて傭兵たちが集まった これは、その中の1人 台湾空軍特務中尉Mr.MAITOKIこと 舞時景都と 台湾空軍特務中士Mr.SASENOこと 佐世野榛名のコンビによる 台湾開放戦を描いた物語である ※エースコンバットみたいな世界観で描いてます()

鋼月の軌跡

チョコレ
SF
月が目覚め、地球が揺れる─廃機で挑む熱狂のロボットバトル! 未知の鉱物ルナリウムがもたらした月面開発とムーンギアバトル。廃棄された機体を修復した少年が、謎の少女ルナと出会い、世界を揺るがす戦いへと挑む近未来SFロボットアクション!

入れ替われるイメクラ

廣瀬純一
SF
男女の体が入れ替わるイメクラの話

処理中です...