戦場立志伝

居眠り

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クーデター

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 エクムントとローデリヒは二人には広すぎる会議室で悠然とコーヒーを飲んでいた。
ただし本気で悠然と飲んでいたのはエクムントだけだった。
ローデリヒは表面上落ち着いているが内心は困惑していた。
噴き出す汗を拭くのに必死のようだ。
「国防大臣閣下、本当にクーデターが成功するでしょうか」
「なんだ、怖気づいたか?」
「とんでもない!私はそんな弱気な男ではありません」
本当はそうであるのに見栄を張った外務大臣をエクムントは一瞥した。
「心配するな。手は打ってある」
汗を拭くローデリヒは安心したようにその手を止めた。

フロレンツ大尉はビスマルク中将に比べると軽傷だった。左腕の骨折で済んだのだ。
彼は士官学校でアンハルトの後輩でありアルベルトの先輩だった。
そんな後輩をアンハルトは士官病院で見舞った。
「先輩、情けない姿で申し訳ないです」
今年十九歳になる大尉はそうアンハルトに言った。
笑って答える後輩を見てアンハルトはふと思った。
連合の士官の年齢が下がってきたな、と。
二十代や三十代が増えた訳では無い。その逆である。
十代の士官が明らかに増えたのだ。
働き盛りな中堅が長過ぎる戦争の為戦死しているのだ。それに比べ、老人らは後方にあって戦争を賛美する。
この世の中はどうかしてる。
そう思って止まない大佐だった。
ふと目を窓から見える風景に向けると異変が起きているのに気づいた。
武装した多数の兵士達が病院内に入って来たのである。
それを咎める衛兵が駆け寄ったその時、彼らは衛兵を押し倒し大声で叫びながら突入してきたのだ。
「士官は捕らえろ!抵抗する者は殺せ!」
先頭を走る士官の歳は六十程度であった。よく見るとそれに続く兵士達も五十代を下回らない。
アンハルトが拳銃を抜き放ちフロレンツを急かす。
「フロレンツ、まずい事態になってきたようだ。ここから逃げるぞ」
「はい。しかしビスマルク提督を置いては行けません。助けに行きましょう」
フロレンツは迷いなく言った。
しばしの沈黙の後アンハルトはそれを了承した。
「提督の病室は三階です。ここは二階。すぐに行動しなければ奴らが来ますね」
そう言った瞬間、下の階から銃声が響き渡ってきた。衛兵たちは善戦しているようだがなにせ兵数が違いすぎる。
段々と押され始めているのが手に取るように分かる。
「フロレンツ、一旦下の奴らを片付けるぞ」
「了解です、先輩!」
若々しい足取りが廊下に響いた。
その足音を聞きつけた三十代と思しき衛兵長が二人を止めた。
「お二人共ここは危険です。我々にお任せを」
「見なくてもわかります。防戦で必死じゃないですか」
片腕を吊るしたフロレンツが衛兵長を吊るしていない方の腕で押し退ける。
そしてその腕で階段を登ろうとする闖入者の肩を撃ち抜いた。
いきなり現れた少年士官に撃たれた闖入者は階段を転げ落ちた。
なんとか立ち上がったその目は怒りに満ちていた。
「殺せ!殺せ!殺せぇ!」
「やってみやがれ数を頼みにする野良犬共」
「フロレンツ、口が悪いぞ」
アンハルトは後輩をたしなめつつ拳銃を構え直した。
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