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敗戦
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連合軍は敗北した。参加兵力四百七十七隻中二百三十五隻を失って。
総司令官と一人の提督が重傷を負って。
しかしウィリバルトはなんとか軍の瓦解を防いだ。
そして一隻の脱落を出すことなく、首都へ帰還した。
帰還にあたってブレーメン少将も尽力した。常に最後尾にあり、艦隊から脱落しそうな船を誘導したり、沈みそうな船には下船の許可を与え救出していった。
この時だけは普通の対応はせずウィリバルトを補佐し続けた為、後世の歴史家に
「彼はこの時の為に今まで能力を温存していた」
と言われた。
疲労し、なんとか戻って来たら首都で待っていたのはウィリバルトとブレーメンに対する賞賛の嵐だった。
敗戦の中、味方を見捨てず半数の味方を救い出した英雄としてである。
特にウィリバルトは混乱の中、沈着に指揮を続けたことから"稀代の戦術家"と呼ばれるようになった。多数の勲章も授与された。
だがウィリバルトはそれを喜ばなかった。
「しばらく自室にこもる。何かあったら呼ぶように」
その発言を危惧したアイスナー大佐と参謀長のシュムーデ准将が旗艦ユランガルのウィリバルトの居室を訪れると、中からすすり泣く声と若いパイロットの名を呼び続ける声がした。
二人は何も出来ずにその場所を後にした。
同じく善戦したブレーメン少将は中将へと昇進した。
二十六歳で中将とは栄達の極みと言うべきであろう。
それを素直に彼は喜んだ。なぜなら彼の父親も軍人で中将だったからだ。
仲が良い訳では無い。
とてつもなく悪かった。顔を合わせば大衆の面前でも死ねの一言を言う。
家庭内であれば母親の仲裁が入るまでここには表記出来ないような下品な言葉を吐き散らす事など日常茶飯事だった。
今となってはその母親もこの世にいない。
そんな父親と同階級になれたことで息子と同じ位置に立たされているというプレッシャーを与えることが出来るからである。
とにかく生還し、活躍した者たちは褒め称えられた。
率先して動いたのは主戦派のエクムント国防大臣とローデリヒ外務大臣だった。
なぜなら自分たちが指導した戦いが大敗北に終わったのである。
自分たちがその責任をとって辞任しなければならないことを回避したかったのだ。
たが有能な大統領とその忠犬はここぞとばかりに彼らを会議で詰問した。
「エクムント国防大臣並びにローデリヒ外務大臣、あなた方はどう責任をとるおつもりかな?」
白髯を撫でながらホラントは重い言葉の爆弾を投下した。
するとエクムントは卓上にあった細い手を机の下にあるボタンを押した。
それを見ていたローデリヒがぎょっとした表情になったのを見ることが出来た人はいなかった。
ドアが乱暴に開けられ、ライフルやマシンガンを持った男たちが乱入してきたからである。
二人以外の議員は総立ちになったがそれ以上の行為は銃の圧力ですることが出来ない。
勝ち誇ったようにエクムントが立ち上がり、
乱入者たちに告げた。
「彼らを拘束し、地下牢へ連れて行け」
その命令に忠実に従った乱入者たちの目は明らかに人の目では無かった。
総司令官と一人の提督が重傷を負って。
しかしウィリバルトはなんとか軍の瓦解を防いだ。
そして一隻の脱落を出すことなく、首都へ帰還した。
帰還にあたってブレーメン少将も尽力した。常に最後尾にあり、艦隊から脱落しそうな船を誘導したり、沈みそうな船には下船の許可を与え救出していった。
この時だけは普通の対応はせずウィリバルトを補佐し続けた為、後世の歴史家に
「彼はこの時の為に今まで能力を温存していた」
と言われた。
疲労し、なんとか戻って来たら首都で待っていたのはウィリバルトとブレーメンに対する賞賛の嵐だった。
敗戦の中、味方を見捨てず半数の味方を救い出した英雄としてである。
特にウィリバルトは混乱の中、沈着に指揮を続けたことから"稀代の戦術家"と呼ばれるようになった。多数の勲章も授与された。
だがウィリバルトはそれを喜ばなかった。
「しばらく自室にこもる。何かあったら呼ぶように」
その発言を危惧したアイスナー大佐と参謀長のシュムーデ准将が旗艦ユランガルのウィリバルトの居室を訪れると、中からすすり泣く声と若いパイロットの名を呼び続ける声がした。
二人は何も出来ずにその場所を後にした。
同じく善戦したブレーメン少将は中将へと昇進した。
二十六歳で中将とは栄達の極みと言うべきであろう。
それを素直に彼は喜んだ。なぜなら彼の父親も軍人で中将だったからだ。
仲が良い訳では無い。
とてつもなく悪かった。顔を合わせば大衆の面前でも死ねの一言を言う。
家庭内であれば母親の仲裁が入るまでここには表記出来ないような下品な言葉を吐き散らす事など日常茶飯事だった。
今となってはその母親もこの世にいない。
そんな父親と同階級になれたことで息子と同じ位置に立たされているというプレッシャーを与えることが出来るからである。
とにかく生還し、活躍した者たちは褒め称えられた。
率先して動いたのは主戦派のエクムント国防大臣とローデリヒ外務大臣だった。
なぜなら自分たちが指導した戦いが大敗北に終わったのである。
自分たちがその責任をとって辞任しなければならないことを回避したかったのだ。
たが有能な大統領とその忠犬はここぞとばかりに彼らを会議で詰問した。
「エクムント国防大臣並びにローデリヒ外務大臣、あなた方はどう責任をとるおつもりかな?」
白髯を撫でながらホラントは重い言葉の爆弾を投下した。
するとエクムントは卓上にあった細い手を机の下にあるボタンを押した。
それを見ていたローデリヒがぎょっとした表情になったのを見ることが出来た人はいなかった。
ドアが乱暴に開けられ、ライフルやマシンガンを持った男たちが乱入してきたからである。
二人以外の議員は総立ちになったがそれ以上の行為は銃の圧力ですることが出来ない。
勝ち誇ったようにエクムントが立ち上がり、
乱入者たちに告げた。
「彼らを拘束し、地下牢へ連れて行け」
その命令に忠実に従った乱入者たちの目は明らかに人の目では無かった。
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