5 / 63
悲劇
しおりを挟むエリザベートが家を出て三十分後、カフェから見えたのは幾筋もの煙だった。友達も気づいたようで慌てて携帯端末から情報を集めて愕然とした。
「エリー!貴女のお家が火事よ!!」
「嘘…」
エリザベートの顔は血の気を失いつつも急いで家に向かって駆け出した。
エリザベートが外出して二十分程経った時ホーエンツォレルン家の呼び鈴の音が鳴った。
「はい。少々お待ちください。」
落ち着いた声で椅子から立ち上がったのはアンハルトの父だった。かれもまた軍人だった。そしてドアを開け、来訪者の顔を見るが見覚えがないため父は不審がって名を聞いた。
「あの、どちら様でしょうか?」
「お前がホーエンツォレルン少将か?」
名を聞いたはずがいきなりぶっきら棒に言い放つ男に若干の怒りを覚えたが我慢して返事をした。
「ええ。いかにも私がホーエンツォレルン少将ですが」
「そうか」
そう言い放つと父の腹に短い棒のような物を押し付けた。そして何事だろうと玄関に来たアンハルトの目の前で二つの出来事が起きた。一つ目は乾いた破裂音。もう一つは父が血を流しながら崩れ落ちて姿だった。父を撃った犯人は意味のわからない奇声を上げてアンハルトにも銃口を向けた。
とっさに玄関の戸棚に入っていた拳銃を取り出して引き金を二度と引いた。見事に頭と胸に命中し、男は死んだ。
慌てて父に近づいて意識を確認しようとしたが、父はもうすでにこの世の人ではなかった。
アンハルトは今更慌てて母に知らせたが母が指示を飛ばす前にさっきの男の仲間達が銃や手榴弾で家の中を荒らしまわった。
まず当時六歳の弟が撃たれて死んだ。次に母とそのお腹の中にいた妹は手榴弾の破片をもろに食らって死んだがアンハルトは母に庇われて無傷だった。
アンハルト以外で生きている者といえば、銃を持ち濁った目を持つ乱入者達だけだった。
「うわーーー!!!」
アンハルトは叫び、銃口を向けた。
そこからアンハルトの記憶は無い。気がついた時には家の外に出て燃え崩れる我が家を全身血だらけで見上げていた。彼が犯人達を皆殺しにしたのはいうまでもない。彼の隣には完全に血色を失ったエリザベートの姿があるのみだった。
後日わかったことだが犯人達は帝国のスパイに洗脳された麻薬常習犯だった。ホーエンツォレルン家の主を殺せば一生遊んで暮らせる等と唆されたのだろう。
アンハルトとエリザベートの父が標的になった理由はスパイが捕まらなかったため分からない。それからというものエリザベートは笑わず、喋ることなど殆ど無くなってしまった。
ちょうど病で両親を失ったアルベルトがウィリバルトに引き取られたと同時にアンハルト達も父の同僚だったウィリバルトのもと養われることになった。
こうしてアルベルトとアンハルトは出会い、エリザベートは人が変わってしまった。
家族を失う辛さを知っているからか、歳は三つ離れているがアンハルトとアルベルトはとても仲が良くなった。
二人は着実に階級を進め、ついに試作段階とはいえエース機を与えられたのだった。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
転生少女は大戦の空を飛ぶ
モラーヌソルニエ
ファンタジー
薄っぺらいニワカ戦闘機オタク(歴史的知識なし)が大戦の狭間に転生すると何が起きるでしょう。これは現代日本から第二次世界大戦前の北欧に転生した少女の空戦史である。カクヨムでも掲載しています。
無職ニートの俺は気が付くと聯合艦隊司令長官になっていた
中七七三
ファンタジー
■■アルファポリス 第1回歴史・時代小説大賞 読者賞受賞■■
無職ニートで軍ヲタの俺が太平洋戦争時の聯合艦隊司令長官となっていた。
これは、別次元から来た女神のせいだった。
その次元では日本が勝利していたのだった。
女神は、神国日本が負けた歴史の世界が許せない。
なぜか、俺を真珠湾攻撃直前の時代に転移させ、聯合艦隊司令長官にした。
軍ヲタ知識で、歴史をどーにかできるのか?
日本勝たせるなんて、無理ゲーじゃねと思いつつ、このままでは自分が死ぬ。
ブーゲンビルで機上戦死か、戦争終わって、戦犯で死刑だ。
この運命を回避するため、必死の戦いが始まった。
参考文献は、各話の最後に掲載しています。完結後に纏めようかと思います。
使用している地図・画像は自作か、ライセンスで再利用可のものを検索し使用しています。
表紙イラストは、ヤングマガジンで賞をとった方が画いたものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部
山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。
これからどうかよろしくお願い致します!
ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。


シーフードミックス
黒はんぺん
SF
ある日あたしはロブスターそっくりの宇宙人と出会いました。出会ったその日にハンバーガーショップで話し込んでしまいました。
以前からあたしに憑依する何者かがいたけれど、それは宇宙人さんとは無関係らしい。でも、その何者かさんはあたしに警告するために、とうとうあたしの内宇宙に乗り込んできたの。
ちょっとびっくりだけど、あたしの内宇宙には天の川銀河やアンドロメダ銀河があります。よかったら見物してってね。
内なる宇宙にもあたしの住むご町内にも、未知の生命体があふれてる。遭遇の日々ですね。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる