戦場立志伝

居眠り

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孤軍奮闘

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 艦隊の半分を撃沈され、副司令官も討たれ、おまけに司令官は白ワインを片手に爆睡している。中佐以下司令部の面々は蒼白であった。中佐は力のない声で、だが毅然とした態度で残った友軍艦隊にある命令を通達した。
「全艦隊へ、通達する。我々の艦隊は半数を撃沈され、副司令官は戦死された……………。
この戦いに勝利は無い…!………撤退せよ!これ以上被害を出すわけにはいかない!旗艦ハットンが殿を務める!全艦隊撤退せよ!!」
それを聞いた僚艦達は待ってましたとばかりに後退を始める。その最後尾にはハットンの姿がある。それらの行動を見ていたウィリバルトは呟いた。
「どうやら勝ったな」
「そうですな。案外脆いものです。噂とだいぶ違う第八艦隊でしたな。」
ウィリバルトの呟きに反応したのは彼の首席副官であるトーマ・フォン・アイスナー大佐であった。歳は三十六であったが彼の頭には一本も毛がない。
白髪の上官と違って過労ではない。自らスキンヘッドにしているのである。その理由は…
"軍人たる者、髪に気をつかうより戦場に気をつかえ!"…だそうだ。その心の表れとして自らスキンヘッドにしたのである。そういう心情から白髪を気にしないウィリバルトには、敬意を払って接している。丸刈りにしたおかげか彼の補佐力と戦術論は連合の中でも卓越している。
彼の補佐あってウィリバルトは安心して艦隊を指揮出来る。このトラファルガー会戦も危なげなく勝利することが出来そうだ。
「こちらアルベルト、これより帰投する」
「アンハルト、同じく」
その声を聞いてウィリバルトは安心した顔で応答した。
「ご苦労、流石だな二人共」
「有難う御座います!伯父う…じゃない、バイエルン閣下!!」
慌てて呼び方を変える若いバイエルンを見て
微笑みながらアイスナーは上官に具申した。
「閣下、追撃戦を開始してよろしいでしょうか?」
「構わない。これより追撃戦を開始する!」
半減した帝国艦隊に容赦ない砲火が浴びせられる。
「全艦、追撃戦準備!カタパルト回転せよ!」
連合軍第七艦隊旗艦ユランガルは重々しく船の前方部を占める滑走路を回転させ始めた。そもそも航宙戦艦というのは空母と戦艦を足して割った物である。それを連合軍は改良し、滑走路部分を百八十度回転することができるようにしたのである。滑走路の裏には新兵器(連合軍にとって)のビーム砲が六基階段状に設置されている。それらから発射されたビームに帝国軍の巡洋艦が貫かれる。一瞬巡洋艦の動きが止まり、一気に火球に変わる。
同様の場面があちこちで起こり帝国艦隊はさらに被害が拡大する。
「戦艦を前に出せ!装甲の薄い巡洋艦と駆逐艦は後ろに退がれ!!友軍を守るぞ!!」
マクファーデンが必死に指示を飛ばしている最中後ろから呻き声が聞こえた。
「いたた…二日酔いだ…マクファーデン、水を出せ」
当たり前のように命令してくる上官に対してマクファーデンは怒りのあまり声を荒げた。
「閣下!そのようなことを仰るために艦橋にいらしているなら今すぐ一人で医務室にお行きなさい!!!」
それを聞いた提督がよろよろと立ち上がり艦橋にあるスクリーンに目を通してポカンと口を開けた。そして金切り声で喚く。
「何故、何故撤退している!この無能者めが!偉大なる皇帝陛下の艦隊を損ねおって!!貴様、あとで軍法会議送りだからな!?覚悟しておけ!!!」
一気にまくし立てる上官を見て中佐は怒りよりも呆れが勝った。
「通信士官!全艦隊に回線を開け!この私が指揮を執る、皇帝陛下の御名において退却は許さん!!徹底抗戦だ!!」
「貴方は馬鹿か!?この状況を見て勝ちなどありえない。撤退するべきです!!」
「なんだと…!」
酔いの覚めない濁った目で睨まれたマクファーデンの胸に拳銃が突きつけられた。
その時オペレーターが叫ぶ。
「高エネルギー接近!た、大量のビームだ!」
十五秒後、戦艦ハットンは愚かな上官と哀れな部下達の棺となった。
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