オストメニア大戦

居眠り

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第52話 計画変更

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 ──攻撃開始から2時間。
 ルンテシュタット海軍は航空隊や駆逐艦による波状攻撃を日が沈むと共にやっと終えて撤収した。
 スカリー・カーリス両艦隊は目立った被害こそないものの、上陸開始日の前日である今日に襲撃を受け兵士達に動揺が広がっていた。

「沈んだ艦は油槽船1、高速魚雷艇3隻のみです。閣下」

 旗艦リーゼホルストに戻ってきたゲールッツにアメルハウザーはすぐに損害を報告した。

「少なくとも兵士への揺さぶりは効果があった様だな、ルンテシュタットの指揮官」

「……は?」

 月明かりを除いて深淵に包まれた海上の様子を眺めながらゲールッツはまだ会ったことのないアンカーに対し独り言を呟くと、まるで無視された様な感じになってしまったアメルハウザーは1人で勝手に落ち込んだ。
 結局アメルハウザーの一件は誰にも気づかれずに終わり、ルンテシュタット海軍も可哀想なアメルハウザーのいる艦隊に攻撃するのは憚られたのか、この夜に攻撃を仕掛けることはなかった。
 しかし、翌日の早朝から本格的な開戦の火蓋は切られた。


 1936年10月19日午前4時。
 カーリス皇国艦隊所属の駆逐艦晴凪のソナーを担当していた下士官は凪いだ海の中を高速で進む物体の音を拾った。

「これは……魚雷だ!艦長、魚雷が接近中です!!」

 席を蹴って伝声管越しに艦橋に報告した10数秒後、晴凪は右舷艦腹に2本の魚雷を受けた。
 巨大な水柱が立ち上り、その轟音は上陸に備え最終準備を進める兵士達の耳を打った。

「なんだなんだ!?」

「艦隊外縁部の駆逐艦がやられたぞ!」

「潜水艦か?」

「落ち着け貴様ら!!」

 パニックになりかける兵士を各艦の士官が怒鳴りつける。
 しかし表面上の動揺は収まったものの、兵士達の顔には恐怖心がチラついていた。
 このことは直ちにゲールッツのもとに報告された。

「外縁部の駆逐艦晴凪はどうなった?」

「轟沈です閣下……」

「救助部隊と対潜装備を持つ艦艇及び航空機を出すんだ。逃してはならんぞ」

「ハッ!」

 落ち着いた一連のやり取りを見た部下達は変わらぬ上官に安心感を覚えたが、覚えられた側は焦っていた。

(敵の本体は未だ姿を見せず、我が艦隊にちょっかいを掛けてきているにとどまっているがいつ何時総攻撃があるか分かったものではない。上陸部隊の護衛という重荷を背負っていては……)

 そこまで思考を走らせたゲールッツはハッとした。彼らしくもない妙案が浮かんできたからだ。

「駆逐艦10隻と戦艦、空母を1隻ずつここに残し、残りの全艦隊は旗艦リーゼホルストに続く様に伝えろ」

「え?旗艦を動かすのですか?」

 キュリスタが鸚鵡返しに聞き直すとゲールッツはそうだと首肯する。

「閣下、それでは上陸部隊の輸送船の護衛は如何なさるのですか?ここ数日の艦砲射撃は敵要塞砲にかなり被害を与えてはいますが、未だに健在な砲台も確認されています。後方には航空基地もあります。兵士達の被害はなるべく抑えるのではなかったのですか!?」

「このまま艦隊が陸に目を向けている間に制海権を取られてしまっては上陸しても輸送が出来ずに平和大橋の二の舞になる。だからシュトライト中佐、総統府に電文を送る。もちろんシッキラー総統閣下宛だ」

「……文面は如何致しますか?」

「我敵艦隊の襲撃を受け身動き取れず。これを邀撃する為一時船団護衛の任を離れる。認可されたし。と送ってくれ」

「了解しました」

 船団護衛の任務を破棄することを願った電文はすぐに総統府のシッキラーのもとへ届けられた。


〈帝国総統府〉

 シッキラーは早朝に叩き起こされたにもかかわらずえらく上機嫌だった。と言ってもここ最近は連戦連勝の報のおかげで常にニコニコしているが。

「あのゲールッツが船団護衛任務の放棄をしたいと言ってきおったぞクルト」

「あの大真面目なゲールッツ上級大将がする事とは思えませんが、何かあったのですか?」

 見ろとシッキラーから手渡された電文には確かにゲールッツからの要請が記されている。
 常に堅実な作戦を立てる普段の彼と180度異なる文面にクルトは目をパチパチと瞬かせた。

「ゲールッツめ、余程困ったとみえる。まぁ、ここは彼の手腕に期待しようではないか」

 シッキラーはニヤリとそのずる賢そうな顔に笑みを浮かべた。
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