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第15話 紅の智将と若き補佐
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「どう…とは?」
「恋愛感情以外にあるかしら」
「…」
ベストロニカは少し困った。
「私が司令に恋愛感情ですか…これはいわゆる女子会というものですか?」
少し話題の方向性を変えようとするがやや変化量が足りない様でアルリエが怪訝そうな顔になる。
「女子会、ねぇ。…そうと言えるしそうじゃないとも言えるかしら。で、どう?」
「………そうですね…司令は尊敬する方には違いありませんが、私生活の司令を知らないのでなんとも」
困り顔のベストロニカを見つつ、アルリエは紅茶を一口飲む。
「あんたにこの話を振った理由はね。私のとこにも来てるのよ」
「…何がです?」
「アンカーとの婚約の話よ」
「!」
「あんた達の婚約が1年以上かけて決まらないのはそういうわけ。うちのバラストロング家は海軍の中枢を担うライン家と繋がりが欲しいのよ。出来れば親族にね」
「ですが、まだ決まらない」
「そ。あんたんとこのベストロニカ家と他の貴族の家が複雑に絡んでるせいでうちは押されてるのよ」
知らなかった。両親にはただライン家の次男と婚約を取り付けてやると言われただけで私の言い分をちっとも聞いてくれなかったし、他の情報も教えてもくれなかった。
まさかこんな事態になってるなんて。
「そ、こ、で」
ガチャっとやや荒々しくカップを皿に下ろしたアルリエが席を立ち、顔をググッと寄せてくる。
「あんたの意思次第で私は解放されるのよ。両親からの重圧にね」
「解放…?」
「両親がアンカーの気を引けって煩くてね…。この婚約が決まらない理由のもう一つは私達がアンカーに対してほぼノーアピールということよ」
「つまり、どちらかがアンカー様…司令の気を引くことに成功すればこの婚約はまとまるのですか?」
「そうだけど…ププッ。”様”って。ふふふっ。呼び捨てでいいじゃない。1歳差なんだし」
席に座り直して可笑しそうにケラケラ笑う姿はとても歳上とは思えないくらいあどけない。
ツボにハマったのか、1分ほど笑っていたアルリエに今度はベストロニカから切り込む。
「では、アルリエがアピールすれば良いのでは?両親からの重圧から解放されるのでしょう?」
「…あんた本気で私がアンカーのこと好きだと思ってるの?」
「仲が良さそうですし」
「アンカーは確かに幼馴染みだし良いげぼく…良い弟みたいな感じだけど、私の趣味じゃないわね。…だからアンカーにあんたがアピールしなさい!」
「えぇ!?」
「頼むわよ!じゃなきゃこのまま延々と長引いたら私あのアホ親のせいで精神崩壊するわよ!」
両親というオブラートを引き剥がしてアホ親呼ばわりしながらベストロニカの襟を持ってブンブン前後に振ってくる。
どうやらかなり両親に参ってるらしい。
「わ、分かりました!気を引けばいいんでしょう!でも…私こういう経験が全くなくて…」
「全く?中・高等生や士官学校じゃどうだったのよ」
「男子が近寄ってすらくれませんでした…」
「あー…なるほど。(美人すぎるのも罪ね。自覚なさそうだけど)」
過去の(彼女なりの)黒歴史を思い出してしょんぼりしている様子を見てアルリエは妙案を思いついた。
目がおもちゃを見つけた目になっているがベストロニカは下を向いていて気づかない。
アルリエはトコトコと彼女の横に立って耳元に囁いた。
「私ね。聞いちゃったのよ。あの3馬鹿(アンカー、イグロレ、リーエル)が恋バナしてるのを」
「…?」
「そこでアンカーの好みを盗み聞きしてやったのよ。歳下が好みらしいわ。で1番恋愛対象として見れるのは誰かっていう話になってね…。あんたが1番タイプだって言ってたわよ…!」
「!?!?」
ベストロニカの顔がみるみる赤くなる。
「安心しなさい。あんたが少しいつもと違う様に対応すればあいつもすぐにメロメロになって婚約出来るから」
「本当ですか?…分かりました。アルリエが困っているなら私、やってみます」
「助かるわ」
初めての彼氏が出来るかもしれないという期待に目を輝かせているベストロニカを尻目に、アルリエは立ち上がり、沈みかけの夕陽を見てふっと笑う。
(恋バナの件、全部嘘なんだけどね…まぁアンカーもこの子も全く脈無しでは無いし…大丈夫でしょ。…………多分)
完全に自身の重い荷を早く降ろしたいだけの様である。
4月6日早朝。
ルンテシュタット王立海軍第4艦隊出撃。
4月10日。
第3艦隊、カーリス半島に到着。第6艦隊と合流。
4月11日。同半島に第4艦隊到着。
4月12日。スカリー帝国がカーリス保護を表明。ルンテ王国に戦争中止を求めるも、ルンテ王国はこれを無視。
4月13日。哨戒、及び出撃してくるであろうカーリス海軍の捕捉の為、第3艦隊出撃。同艦隊、アルワラ諸島最北部の軍関係の島々に砲撃。
4月14日。同任務の為、第4艦隊出撃。
〈アルワラ本島から北へ100キロ地点〉
4月16日午前4時。
第3艦隊は敵艦隊を捕捉する為についにカーリス皇国現本土、アルワラ島まで接近していた。
スパイなどの事前情報によると艦隊は軍港にはおらず少数の護衛艦のみが停泊しているようでこれを聞いたナラは軍港及びドック、軍施設への艦砲射撃を行うと言い出した。
「司令!我が艦隊の目的は出撃してくる敵艦隊の捕捉と撃滅です!わざわざ敵の懐に飛び込むような現在の状況でさえ小官は反対しているというのに…これ以上航空支援なくして侵攻するのは危険です。ライン司令の作戦案にはここまで進めと記載されておりません。即刻後退を!」
「………いいかザンボルト参謀長。僕だって無策で来たわけじゃない。スパイの情報によれば軍港やドックには艦隊がいないそうじゃないか」
「…存じ上げております」
「でだ!彼らがどこに行ったかは我が艦隊の索敵能力では探し当てるのは困難と言わざるを得ない」
(それは司令がこんな奥深くまで来たからでしょう!この方は武功を立てようとどこかおかしい…)
「そこで我が艦隊が敵の本土を砲撃すると彼らは急いで帰ってくる。そこを叩くんだよ」
得意げにメガネを上げる動作に
(最近の若者は…)
と思わざるを得ないザンボルト参謀長だったがここで引き下がるわけにはいかない。
このままでは敵中に死にに行くようなものだ。
(あぁ、ライン司令ならもう少し耳を傾けてくれるのに…)
実はザンボルト参謀長は元第2艦隊の参謀長でアルリエの前任者なのだ。
艦隊の親父さんの様な存在だったが上からの命令で異動となってしまった。
アンカー達とともに航空機の脅威を学んだこの身としては明らかに航空機を軽んじている彼をもう一度、いや。何度でもお諌めしなければ。
「司令、そのように貴方のご都合通りに敵艦隊が現れる保証はありません。それに砲撃中、敵砲台からの強力な反撃もあるでしょう。さらに言わせて頂けば敵航空基地よりの攻撃もあり得ます。航空攻撃に艦隊や艦艇、特に空母を有しない我が第3艦隊は極めて脆弱です。このまま敵地へ乗り込めば艦隊壊滅すらあり得ます」
後半は鬼の形相となってナラを直視したが彼は少し驚いた顔をするだけで、ポケットからタバコを取り出して一服しながらこう言った。
「参謀長。何をそんなに恐れる?今まで敵の島々を砲撃してきたが航空機の攻撃などすぐに追い返したじゃないか」
「確かに。今まで計10機が来襲しましたが3機撃墜の上、こちらの被害はゼロです」
「航空機なぞ恐るるに足らずですぞ参謀長」
作戦参謀らがナラにこぞって味方するのを見てザンボルトは絶望した。
(ここが我が死地になるかもしれぬな…)
黙って俯く年老いた参謀長を見てナラは両手を打ち合わせる。
「よし!決まりだ!明日午前9時より艦砲射撃を開始する!その後敵艦隊が現れるまでアルワラ本島周辺で待機。出てきたところを一気に叩くぞ!」
「「「はッ!」」」
「は…」
周りの若い参謀らに比べて明らかに気落ちした様子のザンボルトだったが、誰一人として彼を心配する者などいなかった。
(老兵はやはり邪魔者か…)
ザンボルトは静かに艦橋を去った。
「恋愛感情以外にあるかしら」
「…」
ベストロニカは少し困った。
「私が司令に恋愛感情ですか…これはいわゆる女子会というものですか?」
少し話題の方向性を変えようとするがやや変化量が足りない様でアルリエが怪訝そうな顔になる。
「女子会、ねぇ。…そうと言えるしそうじゃないとも言えるかしら。で、どう?」
「………そうですね…司令は尊敬する方には違いありませんが、私生活の司令を知らないのでなんとも」
困り顔のベストロニカを見つつ、アルリエは紅茶を一口飲む。
「あんたにこの話を振った理由はね。私のとこにも来てるのよ」
「…何がです?」
「アンカーとの婚約の話よ」
「!」
「あんた達の婚約が1年以上かけて決まらないのはそういうわけ。うちのバラストロング家は海軍の中枢を担うライン家と繋がりが欲しいのよ。出来れば親族にね」
「ですが、まだ決まらない」
「そ。あんたんとこのベストロニカ家と他の貴族の家が複雑に絡んでるせいでうちは押されてるのよ」
知らなかった。両親にはただライン家の次男と婚約を取り付けてやると言われただけで私の言い分をちっとも聞いてくれなかったし、他の情報も教えてもくれなかった。
まさかこんな事態になってるなんて。
「そ、こ、で」
ガチャっとやや荒々しくカップを皿に下ろしたアルリエが席を立ち、顔をググッと寄せてくる。
「あんたの意思次第で私は解放されるのよ。両親からの重圧にね」
「解放…?」
「両親がアンカーの気を引けって煩くてね…。この婚約が決まらない理由のもう一つは私達がアンカーに対してほぼノーアピールということよ」
「つまり、どちらかがアンカー様…司令の気を引くことに成功すればこの婚約はまとまるのですか?」
「そうだけど…ププッ。”様”って。ふふふっ。呼び捨てでいいじゃない。1歳差なんだし」
席に座り直して可笑しそうにケラケラ笑う姿はとても歳上とは思えないくらいあどけない。
ツボにハマったのか、1分ほど笑っていたアルリエに今度はベストロニカから切り込む。
「では、アルリエがアピールすれば良いのでは?両親からの重圧から解放されるのでしょう?」
「…あんた本気で私がアンカーのこと好きだと思ってるの?」
「仲が良さそうですし」
「アンカーは確かに幼馴染みだし良いげぼく…良い弟みたいな感じだけど、私の趣味じゃないわね。…だからアンカーにあんたがアピールしなさい!」
「えぇ!?」
「頼むわよ!じゃなきゃこのまま延々と長引いたら私あのアホ親のせいで精神崩壊するわよ!」
両親というオブラートを引き剥がしてアホ親呼ばわりしながらベストロニカの襟を持ってブンブン前後に振ってくる。
どうやらかなり両親に参ってるらしい。
「わ、分かりました!気を引けばいいんでしょう!でも…私こういう経験が全くなくて…」
「全く?中・高等生や士官学校じゃどうだったのよ」
「男子が近寄ってすらくれませんでした…」
「あー…なるほど。(美人すぎるのも罪ね。自覚なさそうだけど)」
過去の(彼女なりの)黒歴史を思い出してしょんぼりしている様子を見てアルリエは妙案を思いついた。
目がおもちゃを見つけた目になっているがベストロニカは下を向いていて気づかない。
アルリエはトコトコと彼女の横に立って耳元に囁いた。
「私ね。聞いちゃったのよ。あの3馬鹿(アンカー、イグロレ、リーエル)が恋バナしてるのを」
「…?」
「そこでアンカーの好みを盗み聞きしてやったのよ。歳下が好みらしいわ。で1番恋愛対象として見れるのは誰かっていう話になってね…。あんたが1番タイプだって言ってたわよ…!」
「!?!?」
ベストロニカの顔がみるみる赤くなる。
「安心しなさい。あんたが少しいつもと違う様に対応すればあいつもすぐにメロメロになって婚約出来るから」
「本当ですか?…分かりました。アルリエが困っているなら私、やってみます」
「助かるわ」
初めての彼氏が出来るかもしれないという期待に目を輝かせているベストロニカを尻目に、アルリエは立ち上がり、沈みかけの夕陽を見てふっと笑う。
(恋バナの件、全部嘘なんだけどね…まぁアンカーもこの子も全く脈無しでは無いし…大丈夫でしょ。…………多分)
完全に自身の重い荷を早く降ろしたいだけの様である。
4月6日早朝。
ルンテシュタット王立海軍第4艦隊出撃。
4月10日。
第3艦隊、カーリス半島に到着。第6艦隊と合流。
4月11日。同半島に第4艦隊到着。
4月12日。スカリー帝国がカーリス保護を表明。ルンテ王国に戦争中止を求めるも、ルンテ王国はこれを無視。
4月13日。哨戒、及び出撃してくるであろうカーリス海軍の捕捉の為、第3艦隊出撃。同艦隊、アルワラ諸島最北部の軍関係の島々に砲撃。
4月14日。同任務の為、第4艦隊出撃。
〈アルワラ本島から北へ100キロ地点〉
4月16日午前4時。
第3艦隊は敵艦隊を捕捉する為についにカーリス皇国現本土、アルワラ島まで接近していた。
スパイなどの事前情報によると艦隊は軍港にはおらず少数の護衛艦のみが停泊しているようでこれを聞いたナラは軍港及びドック、軍施設への艦砲射撃を行うと言い出した。
「司令!我が艦隊の目的は出撃してくる敵艦隊の捕捉と撃滅です!わざわざ敵の懐に飛び込むような現在の状況でさえ小官は反対しているというのに…これ以上航空支援なくして侵攻するのは危険です。ライン司令の作戦案にはここまで進めと記載されておりません。即刻後退を!」
「………いいかザンボルト参謀長。僕だって無策で来たわけじゃない。スパイの情報によれば軍港やドックには艦隊がいないそうじゃないか」
「…存じ上げております」
「でだ!彼らがどこに行ったかは我が艦隊の索敵能力では探し当てるのは困難と言わざるを得ない」
(それは司令がこんな奥深くまで来たからでしょう!この方は武功を立てようとどこかおかしい…)
「そこで我が艦隊が敵の本土を砲撃すると彼らは急いで帰ってくる。そこを叩くんだよ」
得意げにメガネを上げる動作に
(最近の若者は…)
と思わざるを得ないザンボルト参謀長だったがここで引き下がるわけにはいかない。
このままでは敵中に死にに行くようなものだ。
(あぁ、ライン司令ならもう少し耳を傾けてくれるのに…)
実はザンボルト参謀長は元第2艦隊の参謀長でアルリエの前任者なのだ。
艦隊の親父さんの様な存在だったが上からの命令で異動となってしまった。
アンカー達とともに航空機の脅威を学んだこの身としては明らかに航空機を軽んじている彼をもう一度、いや。何度でもお諌めしなければ。
「司令、そのように貴方のご都合通りに敵艦隊が現れる保証はありません。それに砲撃中、敵砲台からの強力な反撃もあるでしょう。さらに言わせて頂けば敵航空基地よりの攻撃もあり得ます。航空攻撃に艦隊や艦艇、特に空母を有しない我が第3艦隊は極めて脆弱です。このまま敵地へ乗り込めば艦隊壊滅すらあり得ます」
後半は鬼の形相となってナラを直視したが彼は少し驚いた顔をするだけで、ポケットからタバコを取り出して一服しながらこう言った。
「参謀長。何をそんなに恐れる?今まで敵の島々を砲撃してきたが航空機の攻撃などすぐに追い返したじゃないか」
「確かに。今まで計10機が来襲しましたが3機撃墜の上、こちらの被害はゼロです」
「航空機なぞ恐るるに足らずですぞ参謀長」
作戦参謀らがナラにこぞって味方するのを見てザンボルトは絶望した。
(ここが我が死地になるかもしれぬな…)
黙って俯く年老いた参謀長を見てナラは両手を打ち合わせる。
「よし!決まりだ!明日午前9時より艦砲射撃を開始する!その後敵艦隊が現れるまでアルワラ本島周辺で待機。出てきたところを一気に叩くぞ!」
「「「はッ!」」」
「は…」
周りの若い参謀らに比べて明らかに気落ちした様子のザンボルトだったが、誰一人として彼を心配する者などいなかった。
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