6 / 53
第6話 穏やかな朝
しおりを挟む
アンデルが朝食を摂ってから少し間を開け、市場へ向けて出発した。
30分ほど歩いて、着いた時には午前7時。
早く着きすぎたのでまだ市場には人が少なかった。
「早すぎましたね、兄上」
「うん。早いな」
どうやら買い物に行きたいと言っていたが買い物自体に興味がある様には見えない。
久々の再会で忘れかけていた弟の趣味を思い出す。
確かアンデルは人と話すのが好きだったよな。
それに運動も体が弱いのを克服する為に好んでしてたはず。
本を読むことも嫌いではないと言っていたけど小さい頃はよく外出してたな。
よしよし。思い出してきたぞ。
おっ、そういえば確か…。
「アンデル、あの丘の上の家が見えるか?」
「え?はい。ロックラー家ですよね?あの丘の土地を持つ貴族の家」
「そう。確かご両親が亡くなってて俺と同い歳の奴が現当主なんだよ」
「そうなんですね。知りませんでした。で、それが一体どうしたんですか兄上?」
「今から時間潰しがてら行こうかなってね」
「え、連絡は!?」
「してない」
「じゃ、じゃあ失礼ですよ!」
「大丈夫大丈夫。心配ないって」
「本当ですか…」
「さ、行こうぜ」
まだ不審がる弟を連れて市場から見える丘の上の家を目指す。
歩くこと10分。
門が見えてきた。
門番らしき人が眠そうに立っているのを見つけ、近寄って話をする。
「すみません。イグロレ・ド・ロックラーは居ますか?」
「あぁ、アンカー様。もちろん居ますよ。多分弓場で鍛錬なさってると思いますよ。ま、中へどうぞ」
「ありがとう」
まさかの顔パスにアンデルは頭の上に「?」を浮かべていたがここまでくるとなんとなく察しがつく。
そのまま弓場へ一直線に進む。
すると規則正しく矢が的に当たる心地よい音が聞こえ、やがて弓を引く青年が見えてくる。
「おーいロックラー大尉~」
「ん?あっ!アンカー…ライン司令!」
「すまんな、急に押しかけて」
「いえいえ、別に構いませんよ司令。それで何用ですか?」
当然の質問にアンカーはアンデルの頭をポンポン叩きながら理由を話した。
「こいつ、俺の弟のアンデル。さっき市場に買い物に出たんだがあまりにも早すぎてな。大尉の家が見えたから来させてもらった。前に弓の勝負の話しただろ?しようぜ、今」
「ハハッ。なるほど、部下を暇つぶしに使うんですね」
「わ、悪い」
「いえ、別に大丈夫です。やりましょう」
そしてイグロレはアンデルの方を見て挨拶してきた。
「俺の名はイグロレ・ド・ロックラー。ロックラー家現当主で海軍大尉。この人の作戦参謀だよ」
「僕はアンデル・ド・ラインです。歳は17。いつも兄を支えて頂きありがとうございます」
アンデルから見たイグロレは短く切った黒髪に角ばった頬と顎で剛気さを感じさせられる。
後で聞いたら歳は25歳。背丈は185センチだそう。
「お、ご丁寧にどうも。アンデル君、君も弓術勝負するかい?」
「いいんですか?したいです!」
「よし。司令、3人で勝負しましょう。矢の数は3本。的の中心に近ければ近いほど得点が高くなるのでそれで競いましょう」
「乗った」
じゃんけんの結果アンカー、イグロレ、アンデルの順になった。
弓術の練習はアンデルもしているのでその成果を発揮する時が来たと思った。
一巡目。
アンカーの矢は真ん中から右に逸れた。得点としては3点。
続いてイグロレはど真ん中に命中させた。得点は5点。
アンデルも矢を放つ。左下に刺さる。4点。
「やるじゃんアンデル」
「兄上がいない間に練習しました」
「いいことだ」
二巡目。
アンカーは見事、真ん中を穿つ。5点。
イグロレは同じく真ん中で5点。
アンデルは下に逸れて3点。
首位10点で同率2位8点のライン兄弟を離し、独走するイグロレだったが三巡目で恐るべきことを成した。
アンカーは3点で合計11点。
「悪いですね司令。勝ちは頂きます」
そう宣言した後、矢は1本目の矢を割りながら刺さった。
「す、すごい…!」
思わずアンデルは賛辞を漏らす。
「ハハッ。長年練習した甲斐あってたまに出来るようになったんだ」
「この時点で俺11点にロックラー大尉が15点…負けたぁ~」
「僕も負けましたけど…頑張ります!」
キリキリと矢を引き絞るアンデル。
それを眺める兄とその部下。
ヒュッという音の後、タン!という音が響き渡る。
「「お見事」」
真ん中に命中。5点だ。
「結果は司令11点に俺15点。アンデル君12点ですね」
「いやー楽しかった。しっかし前から思ってたけど上手いな本当に」
「練習さえすれば誰でも出来ます。いい暇つぶしになりましたか?」
その声と同時に丘の下。
つまり市場の方から銃声が鳴り響いた。
急いで下を見ると集まりだした臣民らが騒いでいるのが見て取れる。
「この事件か何かに時間ピッタリだよ、大尉。有意義だった。俺は下へ行く。アンデル!お前は帰りなさい!」
「え!?行くんですか?」
「こんな近くの現場に軍人が行かないでどうする?」
「武器は?」
「あるよ。ほらっ司令。拳銃だけじゃ心許ないでしょう?ライフルを一応持っていきましょう」
途中から姿が見えなくなっていたイグロレが両手にライフルを2丁ずつ持っている。
「というわけだ。いいかアンデル。俺たちは憲兵が来るまでの時間稼ぎだ。無茶はしない」
「…分かりました。気をつけて下さいね!」
「もちろんさ」
「司令のことは任せろ」
そう言って2人は坂を駆け下りていった。
30分ほど歩いて、着いた時には午前7時。
早く着きすぎたのでまだ市場には人が少なかった。
「早すぎましたね、兄上」
「うん。早いな」
どうやら買い物に行きたいと言っていたが買い物自体に興味がある様には見えない。
久々の再会で忘れかけていた弟の趣味を思い出す。
確かアンデルは人と話すのが好きだったよな。
それに運動も体が弱いのを克服する為に好んでしてたはず。
本を読むことも嫌いではないと言っていたけど小さい頃はよく外出してたな。
よしよし。思い出してきたぞ。
おっ、そういえば確か…。
「アンデル、あの丘の上の家が見えるか?」
「え?はい。ロックラー家ですよね?あの丘の土地を持つ貴族の家」
「そう。確かご両親が亡くなってて俺と同い歳の奴が現当主なんだよ」
「そうなんですね。知りませんでした。で、それが一体どうしたんですか兄上?」
「今から時間潰しがてら行こうかなってね」
「え、連絡は!?」
「してない」
「じゃ、じゃあ失礼ですよ!」
「大丈夫大丈夫。心配ないって」
「本当ですか…」
「さ、行こうぜ」
まだ不審がる弟を連れて市場から見える丘の上の家を目指す。
歩くこと10分。
門が見えてきた。
門番らしき人が眠そうに立っているのを見つけ、近寄って話をする。
「すみません。イグロレ・ド・ロックラーは居ますか?」
「あぁ、アンカー様。もちろん居ますよ。多分弓場で鍛錬なさってると思いますよ。ま、中へどうぞ」
「ありがとう」
まさかの顔パスにアンデルは頭の上に「?」を浮かべていたがここまでくるとなんとなく察しがつく。
そのまま弓場へ一直線に進む。
すると規則正しく矢が的に当たる心地よい音が聞こえ、やがて弓を引く青年が見えてくる。
「おーいロックラー大尉~」
「ん?あっ!アンカー…ライン司令!」
「すまんな、急に押しかけて」
「いえいえ、別に構いませんよ司令。それで何用ですか?」
当然の質問にアンカーはアンデルの頭をポンポン叩きながら理由を話した。
「こいつ、俺の弟のアンデル。さっき市場に買い物に出たんだがあまりにも早すぎてな。大尉の家が見えたから来させてもらった。前に弓の勝負の話しただろ?しようぜ、今」
「ハハッ。なるほど、部下を暇つぶしに使うんですね」
「わ、悪い」
「いえ、別に大丈夫です。やりましょう」
そしてイグロレはアンデルの方を見て挨拶してきた。
「俺の名はイグロレ・ド・ロックラー。ロックラー家現当主で海軍大尉。この人の作戦参謀だよ」
「僕はアンデル・ド・ラインです。歳は17。いつも兄を支えて頂きありがとうございます」
アンデルから見たイグロレは短く切った黒髪に角ばった頬と顎で剛気さを感じさせられる。
後で聞いたら歳は25歳。背丈は185センチだそう。
「お、ご丁寧にどうも。アンデル君、君も弓術勝負するかい?」
「いいんですか?したいです!」
「よし。司令、3人で勝負しましょう。矢の数は3本。的の中心に近ければ近いほど得点が高くなるのでそれで競いましょう」
「乗った」
じゃんけんの結果アンカー、イグロレ、アンデルの順になった。
弓術の練習はアンデルもしているのでその成果を発揮する時が来たと思った。
一巡目。
アンカーの矢は真ん中から右に逸れた。得点としては3点。
続いてイグロレはど真ん中に命中させた。得点は5点。
アンデルも矢を放つ。左下に刺さる。4点。
「やるじゃんアンデル」
「兄上がいない間に練習しました」
「いいことだ」
二巡目。
アンカーは見事、真ん中を穿つ。5点。
イグロレは同じく真ん中で5点。
アンデルは下に逸れて3点。
首位10点で同率2位8点のライン兄弟を離し、独走するイグロレだったが三巡目で恐るべきことを成した。
アンカーは3点で合計11点。
「悪いですね司令。勝ちは頂きます」
そう宣言した後、矢は1本目の矢を割りながら刺さった。
「す、すごい…!」
思わずアンデルは賛辞を漏らす。
「ハハッ。長年練習した甲斐あってたまに出来るようになったんだ」
「この時点で俺11点にロックラー大尉が15点…負けたぁ~」
「僕も負けましたけど…頑張ります!」
キリキリと矢を引き絞るアンデル。
それを眺める兄とその部下。
ヒュッという音の後、タン!という音が響き渡る。
「「お見事」」
真ん中に命中。5点だ。
「結果は司令11点に俺15点。アンデル君12点ですね」
「いやー楽しかった。しっかし前から思ってたけど上手いな本当に」
「練習さえすれば誰でも出来ます。いい暇つぶしになりましたか?」
その声と同時に丘の下。
つまり市場の方から銃声が鳴り響いた。
急いで下を見ると集まりだした臣民らが騒いでいるのが見て取れる。
「この事件か何かに時間ピッタリだよ、大尉。有意義だった。俺は下へ行く。アンデル!お前は帰りなさい!」
「え!?行くんですか?」
「こんな近くの現場に軍人が行かないでどうする?」
「武器は?」
「あるよ。ほらっ司令。拳銃だけじゃ心許ないでしょう?ライフルを一応持っていきましょう」
途中から姿が見えなくなっていたイグロレが両手にライフルを2丁ずつ持っている。
「というわけだ。いいかアンデル。俺たちは憲兵が来るまでの時間稼ぎだ。無茶はしない」
「…分かりました。気をつけて下さいね!」
「もちろんさ」
「司令のことは任せろ」
そう言って2人は坂を駆け下りていった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
【なろう430万pv!】船が沈没して大海原に取り残されたオッサンと女子高生の漂流サバイバル&スローライフ
海凪ととかる
SF
離島に向かうフェリーでたまたま一緒になった一人旅のオッサン、岳人《がくと》と帰省途中の女子高生、美岬《みさき》。 二人は船を降りればそれっきりになるはずだった。しかし、運命はそれを許さなかった。
衝突事故により沈没するフェリー。乗員乗客が救命ボートで船から逃げ出す中、衝突の衝撃で海に転落した美岬と、そんな美岬を助けようと海に飛び込んでいた岳人は救命ボートに気づいてもらえず、サメの徘徊する大海原に取り残されてしまう。
絶体絶命のピンチ! しかし岳人はアウトドア業界ではサバイバルマスターの通り名で有名なサバイバルの専門家だった。
ありあわせの材料で筏を作り、漂流物で筏を補強し、雨水を集め、太陽熱で真水を蒸留し、プランクトンでビタミンを補給し、捕まえた魚を保存食に加工し……なんとか生き延びようと創意工夫する岳人と美岬。
大海原の筏というある意味密室空間で共に過ごし、語り合い、力を合わせて極限状態に立ち向かううちに二人の間に特別な感情が芽生え始め……。
はたして二人は絶体絶命のピンチを生き延びて社会復帰することができるのか?
小説家になろうSF(パニック)部門にて400万pv達成、日間/週間/月間1位、四半期2位、年間/累計3位の実績あり。
カクヨムのSF部門においても高評価いただき80万pv達成、最高週間2位、月間3位の実績あり。
終末の乙女
ハコニワ
SF
※この作品はフィクションです。登場人物が死にます。苦手なかたはご遠慮を……。
「この世をどう変えたい?」
ある日突然矢部恵玲奈の前に人ならざるもの使いが空から落ちてきた。それは、宇宙を支配できる力がある寄生虫。
四人の乙女たちは選ばれた。寄生虫とリンクをすると能力が与えられる。世界の乙女となるため、四人の乙女たちの新たな道が開く。
ただただ鬱で、あるのは孤独。希望も救いもない幸薄の少女たちの話。
日本が日露戦争後大陸利権を売却していたら? ~ノートが繋ぐ歴史改変~
うみ
SF
ロシアと戦争がはじまる。
突如、現代日本の少年のノートにこのような落書きが成された。少年はいたずらと思いつつ、ノートに冗談で返信を書き込むと、また相手から書き込みが成される。
なんとノートに書き込んだ人物は日露戦争中だということだったのだ!
ずっと冗談と思っている少年は、日露戦争の経緯を書き込んだ結果、相手から今後の日本について助言を求められる。こうして少年による思わぬ歴史改変がはじまったのだった。
※地名、話し方など全て現代基準で記載しています。違和感があることと思いますが、なるべく分かりやすくをテーマとしているため、ご了承ください。
※この小説はなろうとカクヨムへも投稿しております。
琥珀と二人の怪獣王 建国の怪獣聖書
なべのすけ
SF
琥珀と二人の怪獣王の続編登場!
前作から数か月後、蘭と秀人、ゴリアスは自分たちがしてしまった事に対する、それぞれの償いをしていた。その中で、古代日本を研究している一人の女子大生と三人は出会うが、北方領土の火山内から、巨大怪獣が現れて北海道に上陸する!戦いの中で、三人は日本国の隠された真実を知ることになる!
我らの輝かしきとき ~拝啓、坂の上から~
城闕崇華研究所(呼称は「えねこ」でヨロ
歴史・時代
講和内容の骨子は、以下の通りである。
一、日本の朝鮮半島に於ける優越権を認める。
二、日露両国の軍隊は、鉄道警備隊を除いて満州から撤退する。
三、ロシアは樺太を永久に日本へ譲渡する。
四、ロシアは東清鉄道の内、旅順-長春間の南満洲支線と、付属地の炭鉱の租借権を日本へ譲渡する。
五、ロシアは関東州(旅順・大連を含む遼東半島南端部)の租借権を日本へ譲渡する。
六、ロシアは沿海州沿岸の漁業権を日本人に与える。
そして、1907年7月30日のことである。
蒼穹(そら)に紅~天翔る無敵皇女の冒険~ 一の巻
初音幾生
歴史・時代
日本がイギリスの位置にある、そんな架空戦記的な小説です。
一九四〇年、海軍飛行訓練生の丹羽洋一は新型戦闘機十式艦上戦闘機(十式艦戦)と、凄腕で美貌の女性飛行士、紅宮綺羅(あけのみや きら)と出逢う。
主役機は零戦+スピットファイア!
1巻全12回
「小説家になろう」と同時公開。
この世界を、統べる者
空川億里
SF
サイハテ村は日照りのために飢饉になる。雨乞いをお願いするため、村の住人のヤマスソが、村長の指示で大神殿に向かうのだが……。
【登場人物】
セセラギ……サイハテ村の農家の息子。アオイとは許嫁だった。大神殿に連行されたアオイを救おうとする。村一番の力持ちで、美しい顔をしている。
ヤマスソ……サイハテ村の村人。飢饉から村を救うため、大神殿へ行き、雨乞いを願いに行く。
イシクレ……『ヤマト』を統べる導師。セイタカ山の大神殿にいる。
フブキ……サイハテ村の村長。
アオイ……ヤマスソの愛娘。
ミズウミ……大工。『ヤマト』を司る導師イシクレの支配に対して疑問を持つ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる