上 下
1 / 12

プロローグ

しおりを挟む
「「お姉ちゃん!!」」

「マシュー!アンナ!!」

 その日、元シュペリアン伯爵家の幼い兄妹のマシューとアンナは神殿の神官と聖騎士に攫われる様に連れて行かれた。


 癒しと聖なる白魔法の貴重な使い手である、シュペリアン伯爵家は慈悲深く温厚な一族であった。
 通常、魔法は遺伝する物ではあるのだが、長らく白魔法を使える者は現れず白魔法使いであったのは過去の栄光となった。

 それでも、シュペリアン一族は人を疑う事をせず
慎ましく暮らしていたが、その純粋さゆえに何度も騙されてしまいとうとう没落してしまった。

 落ちぶれて平民となったシュペリアン伯爵家の最後の当主であった一族は、王国の外れにある小さな家をなけなしのお金で買った。
 家族5人で貧しいながらも助け合って暮らしていたのだが、働き詰めで無理が祟り更に流行り病にかかりあっという間に夫妻は亡くなってしまった。

 残された長女のセリーナと、年子でまだ幼い兄妹のマシューとアンナ。

 父と母とセリーナが働いてやっとの生活だったが
まだ幼い兄妹は働く事が出来ず、セリーナは令嬢時代に嗜んだ刺繍の腕を活かして仕立て屋で働かせて貰い兄妹は家庭菜園を作ったり家の手伝いをして暮らしていた。
 だが、それだけでは育ち盛りの子供を養うには
不十分でセリーナ達は満足に食事も取れないギリギリの生活をしていた。

 そんなある日、セリーナ達が住む街の市場に魔物が現れた。

 混乱に陥いり、逃げまどう町の人々。
たまたま、買い物に来ていたセリーナ達兄妹も
騒ぎに気付き逃げようとしたが魔物に気付かれた。
 襲いかかろうとしてくる魔物の前にセリーナは 
立ちはだかり、マシューとアンナを逃す為の盾になった。

「マシュー、アンナを連れて逃げなさい!」

「「お姉ちゃん!!」」

 魔物がセリーナを攻撃しようとした刹那。
パアアァッとマシューとアンナの身体が光り輝いた。
それは、シュペリアン一族が持つ聖なる力が覚醒した瞬間だった。

 その光りで魔物が怯んだ隙を見て冒険者が落とした剣をマシューは拾い、魔物に突き刺した。
 魔物はマシューによって倒され、怪我をした町の人々をアンナは癒しの光りで治したのだった。

それから数日後。

 数十年ぶりに現れた、白魔法の使い手の噂を聞きつけた神殿は神官と聖騎士を引き連れてセリーナの家にやって来た。

「と、とんでもない魔力を秘めた兄妹だ……。
魔力量だけなら大神官レベルだぞ!
さぁ、今すぐ神殿へ行きましょう!!」

 魔力の測定器を持って二人を測定した神官は
興奮した様子ですぐにでも神殿で、聖騎士と癒しの巫女になる修行をする様に勧めた。
 今後の事を話し合いたいとセリーナは別の神官に
呼ばれて部屋の外に出る。

「……神殿に行ったらどうなるの?」

「お兄ちゃん、癒しの巫女ってなに?」

 大興奮している神官とは対照的にマシューとアンナは突然の事に困惑していた。


「神殿に行けば、食べるものも着る物も住む所も
全て用意します!将来聖騎士と巫女になれば
上級貴族並みの地位と暮らしができますよ!」

「ごはんいっぱい食べれる?アンナお菓子食べたい!」

「はい!好きな時に好きなだけ!」

「……お勉強もできる?」

「聖騎士になるには教養も必要ですから、お二人には
学園に通って頂く事になります」

「「うわあぁい!!やったー!!お姉ちゃーん!
すぐに神殿に行こう」」

 キャッキャと喜ぶマシューとアンナ。
善は急げとばかりに神官は、馬車に乗り込むように指示をする。

「お姉ちゃんまだかなぁ?」

「まだお話ししてるのかな?僕見てくるよ」

「お姉様は神殿には行けませんよ」

「「え?」」

 先に馬車に乗り込んでいた神官の言葉に凍りつく?
マシューとアンナ。
 神官は、セリーナも魔力量を調べたがかなり少なく
神殿には魔力のある者しか家族であっても連れて行けないと説明された。
 そしてガタガタと動き出す馬車。

「待ってください!せめてお別れを!マシュー!アンナ!」

 馬車が走り出した事に気づいたセリーナは慌てて追いかける、マシューとアンナも窓を開けて叫んだが
馬車は速度を上げて行き、兄妹達は離れ離れになり
セリーナは独りになった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】侯爵令嬢、断罪からオークの家畜へ―白薔薇と呼ばれた美しき姫の末路―

雪月華
恋愛
アルモリカ王国の白薔薇と呼ばれた美しき侯爵令嬢リュシエンヌは、法廷で断罪され、王太子より婚約破棄される。王太子は幼馴染の姫を殺害された復讐のため、リュシエンヌをオークの繁殖用家畜として魔族の国へ出荷させた。 一国の王妃となるべく育てられたリュシエンヌは、オーク族に共有される家畜に堕とされ、飼育される。 オークの飼育員ゼラによって、繁殖用家畜に身も心も墜ちて行くリュシエンヌ。 いつしかオークのゼラと姫の間に生まれた絆、その先にあるものは。 ……悪役令嬢ものってバッドエンド回避がほとんどで、バッドエンドへ行くルートのお話は見たことないなぁと思い、そういう物語を読んでみたくなって自分で書き始めました。 2019.7.6.完結済 番外編「復讐を遂げた王太子のその後」「俺の嫁はすごく可愛い(sideゼラ)」「竜神伝説」掲載 R18表現はサブタイトルに※ ノクターンノベルズでも掲載 タグ注意

【R18】純情聖女と護衛騎士〜聖なるおっぱいで太くて硬いものを挟むお仕事です〜

河津ミネ
恋愛
フウリ(23)は『眠り姫』と呼ばれる、もうすぐ引退の決まっている聖女だ。 身体に現れた聖紋から聖水晶に癒しの力を与え続けて13年、そろそろ聖女としての力も衰えてきたので引退後は悠々自適の生活をする予定だ。 フウリ付きの聖騎士キース(18)とはもう8年の付き合いでお別れするのが少しさみしいな……と思いつつ日課のお昼寝をしていると、なんだか胸のあたりに違和感が。 目を開けるとキースがフウリの白く豊満なおっぱいを見つめながらあやしい動きをしていて――!?

【R18】少年のフリした聖女は触手にアンアン喘がされ、ついでに後ろで想い人もアンアンしています

アマンダ
恋愛
女神さまからのご命令により、男のフリして聖女として召喚されたミコトは、世界を救う旅の途中、ダンジョン内のエロモンスターの餌食となる。 想い人の獣人騎士と共に。 彼の運命の番いに選ばれなかった聖女は必死で快楽を堪えようと耐えるが、その姿を見た獣人騎士が……? 連載中の『世界のピンチが救われるまで本能に従ってはいけません!!〜少年聖女と獣人騎士の攻防戦〜』のR18ver.となっています!本編を見なくてもわかるようになっています。前後編です!! ご好評につき続編『触手に犯される少年聖女を見て興奮した俺はヒトとして獣人として最低です』もUPしましたのでよかったらお読みください!!

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

【R18】聖女のお役目【完結済】

ワシ蔵
恋愛
平凡なOLの加賀美紗香は、ある日入浴中に、突然異世界へ転移してしまう。 その国には、聖女が騎士たちに祝福を与えるという伝説があった。 紗香は、その聖女として召喚されたのだと言う。 祭壇に捧げられた聖女は、今日も騎士達に祝福を与える。 ※性描写有りは★マークです。 ※肉体的に複数と触れ合うため「逆ハーレム」タグをつけていますが、精神的にはほとんど1対1です。

完結 貞操観念と美醜逆転世界で薬師のむちむち爆乳のフィーナは少数気鋭の騎士団員を癒すと称してセックスをしまくる

シェルビビ
恋愛
 前世の名前は忘れてしまったが日本生まれの女性でエロ知識だけは覚えていた。子供を助けて異世界に転生したと思ったら17歳で川に溺れた子供を助けてまた死んでしまう。  異世界の女神ディアナ様が最近作った異世界が人手不足なので来て欲しいとスカウトしてきたので、むちむち爆乳の美少女にして欲しいとお願いして転生することになった。  目が覚めると以前と同じ世界に見えたが、なんとこの世界ではもやしっ子がモテモテで筋肉ムキムキの精悍な美丈夫は化け物扱いの男だけ美醜逆転世界。しかも清楚な人間は生きている価値はないドスケベ超優遇の貞操観念逆転世界だったのだ。  至る所で中出しセックスをして聖女扱いさせるフィーナ。この世界の不細工たちは中出しを許されない下等生物らしい。  騎士団は不人気職で給料はいいが全くモテない。誰も不細工な彼らに近づきたくもない。騎士団の薬師の仕事を募集してもすぐにやめてしまうと言われてたまたま行ったフィーナはすぐに合格してしまう。

【R18】助けてもらった虎獣人にマーキングされちゃう話

象の居る
恋愛
異世界転移したとたん、魔獣に狙われたユキを助けてくれたムキムキ虎獣人のアラン。襲われた恐怖でアランに縋り、家においてもらったあともズルズル関係している。このまま一緒にいたいけどアランはどう思ってる? セフレなのか悩みつつも関係が壊れるのが怖くて聞けない。飽きられたときのために一人暮らしの住宅事情を調べてたらアランの様子がおかしくなって……。 ベッドの上ではちょっと意地悪なのに肝心なとこはヘタレな虎獣人と、普段はハッキリ言うのに怖がりな人間がお互いの気持ちを確かめ合って結ばれる話です。 ムーンライトノベルズさんにも掲載しています。

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

処理中です...