ドタイプな完璧陛下の秘書辞めたいんです!

星華

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妖精との出会い

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 デュランテ家で療養して数日が過ぎ、体調も回復したのでフィオリアは庭園を散歩する事にした。

「フィリー、一人で大丈夫?」

「えぇ、庭園の中を少し散歩するだけだから」

「じゃ約束して、散歩するのは庭園の中だけよ。
森の方に近づいてはダメ!ここはフェアリンガム国との境界線が近くにあるの。妖精達は悪戯好きな子もいるからもし、出会ってしまっても無関心を装ってその場を離れて」

「えぇ、わかったわ」

 デュランテ家に来てからずっとリリエールと一緒に過ごしていたが、余りに過保護すぎるので
少し一人になって散歩がしたくなったフィオリアはリリエールの許しを得て散歩に出かける事にした。

「いい天気ね、それにしてもデュランテ家って本当に不思議ね……地図を見てもよくわからない場所にあるしまさか、妖精国フェアリンガムに近い所にあるなんて」

 様々な種族が住むアシェロットは、古の時代
それぞれが種族の頂点に立とうと大きな争いが起こった。
 長く続いた戦争は、多くの犠牲を払い国は焼け
自然は破壊された。

 生き残った者達は、自分達の行いの愚かさを知り国を復興する為に協力しあい、同じ過ちを繰り返さない様に不可侵条約を結んだ。

「アルビレオの建国神話の絵本好きだったな……」

 戦争の後、新しく人間の国を築き上げた時に
側に居た不思議な種族が居た。
 その種族は国の復興に大きく貢献し、人間族の
王と結ばれたと伝えられているが、それがどんな
種族だったのかは記録が失われていて分かっていない。

 フィオリアは幼い頃に保護された後は孤児院に
入っていた。
 孤児院で何度も読んだのが、建国神話で主人公の人間族の王の挿絵が好きで毎日眺めていた。
 
 金髪に金色の瞳は王族だけが持つ色で、初めてエルネストに会った時は絵本から抜け出して来たのかと思う程だったが、余りにグイグイくるので
人見知りなフィオリアは最初は怖くて逃げ回っていた。

ーー学生の時は王太子ではなかったからただ一緒に居られるのが楽しくて幸せだったけど今は……これからどうしよう……全部忘れて他の国に行くのもいいかもしれない。

 思い悩みながら歩いていると、気づけば森の方まで来てしまっていた。

ーーいけない、お屋敷の方にもどらなくちゃ!

 庭園の方に戻ろうとすると、突然悲鳴が聞こえた。

「どこから声がするのかしら……どうしました、大丈夫ですか?」

 辺りを見回すが姿は見えない、空耳だったのだろうかと帰ろうとするとまた悲鳴が聞こえた。

「どこにいるのかしら?」

 声が聞こえた方に歩いて行くと、木に張られた大きな蜘蛛の巣を見つけそこには手のひら程の大きさの蝶々が捕まっていた。

「魔蜘蛛の巣?」

 人里の近くには魔物は殆ど現れないが、弱い昆虫などの魔物は生息している。

「ちょっと、あんた!こっちよ、こっち!」

「まさか、妖精?」

「そうよ!あ、あんたもしかして人間?やば……今は仕方ないか、ちょっと見てないで助けなさいよ!は、や、く!」

 初めて見る妖精に驚きと残念さを感じながらフィオリアは蜘蛛の巣を払って妖精を助けた。

「はぁー、全くこんな所に巣があるなんて信じられない!さっさと助けないからベタベタじゃない、人間てノロマなのね」

 助けた上に随分な言われようだなと思ったが、
リリエールに妖精と関わってはいけないと言われた意味が分かった気がした。

「無事で良かったわ……それじゃ」

 これ以上関わっては面倒な気がしたのでフィオリアはその場を離れようとしたが、妖精は目の前に立ちはだかった。

「話は終わってないでしょう、人間て失礼なのね。
私を誰だと思ってるのかしら?私の名前はティニーよ、ティニー様と呼ばせてやってもいいわ。
ふん、まぁいいわ私くらいになれば魔蜘蛛なんて簡単にやつけられるけど今日はちょっと油断しただけよ。
だから、あんたも今見た事は誰にも言ってはダメよ!約束して」

 口は悪いが、透き通った羽にピンク色の髪に大きな瞳の見た目は可愛らしい妖精は腕を組んで偉そうに話し始めた。

「わかったわ、約束する」

 そのまま立ち去ろうとしたら、またしても妖精は顔のまわりを飛び回る。

「私は寛大だからあんたが約束するかわりに
何か一つ頼み事を聞いてあげるわ、感謝しなさい!それにしてもあんた本当に人間?どっかで見た事あるような……ひっ!」

「それは本当?本当に私に似た人を見た事があるの?」

 突然、フィオリアが食い付いてきたのでティニーは驚いて後ずさる。

「な、何よ急にびっくりするじゃない!」

 エフィリア族は絶滅に近い状態で、運良く保護された者はフィオリア達の様に奴隷商に連れ去られた者が殆どであった。

 奴隷商は若く美しい者達ばかりを連れ去っていたので、年配のエフィリア族が少なく幼いうちに親兄弟と離れてしまっている為、エフィリア族の歴史や生態を知る者がいない事が謎とされている理由だった。

 保護されたエフィリア族は自分達の家族や生態を知る為に同族を探しているが長い間迫害されて来た為、何処かに隠れ住んでいるのではないかと言われているが見つけられていない。

「ごめんなさい、私はエフィリア族のフィオリアと言うの。同族を探していて……どこで見たか教えてほしいの、お願い」

「エフィリア族……エフィリア族……うーん
聞いた事あるような無いような。
いけない、そろそろ帰らなきゃ!
見つけたら教えるわ、とにかく今日の事は誰にも言ってはダメだからね!」

「え?あ、待って……」

 散々好き勝手言って帰って行ったティニー。
ただ散歩しただけでドッと疲れたフィオリアは
屋敷に向かって歩き出した。

ーー手がかりが掴めたと思ったのにな……。

 トボトボと歩きながらフィオリアはふとお腹を
抑えて溜息を吐いた。
屋敷に着くとリリエールが心配した様子で迎えてくれた。

 夕食を済ませて、部屋で休んでいると扉をノックする音が聞こえ返事をするとリリエールが入って来た。

「フィリー、ホットミルクでも飲まない?」

「……ありがとう。
ヒューバートとリーファはもう寝た?」

「えぇ、あの子達寝付きがいいから本当助かるわ。
……フィリー、何かあった?」


 血は繋がっていないが、姉の様な存在のリリエールは散歩に出てからフィオリアの様子がおかしいと心配して来てくれていた。

「何も……どうして?」

「うちに来てからずっと元気が無いから……フィリーから話してくれるのを待ってたけど……私には話せない事?」

「……本当に、な、何もな……」

 平気、何もないそう言おうとしたが涙が溢れた。

「フィリー、私はいつだって貴女の味方よだから一人で抱え込まないで……」

「リリエール……あのね……わたし……」

 ポロポロと泣きながら、フィオリアはずっと隠していた事をリリエールに話し始めた。


 
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