ドタイプな完璧陛下の秘書辞めたいんです!

星華

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リリエール

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 フィオリアはリリエールに会うため、馬車に乗っていた。
デュランテ伯爵家は、王都から少し離れた複雑な場所にありその土地に住み慣れた御者でなければ辿り着くのが難しい為、リリエールに会いに行く時は必ずデュランテ伯爵家の馬車で迎えに来てもらっている。
  
 リリエールはフィオリアの二つ年上の姉のような存在で、白銀の髪に青い瞳を持つ美女。
面倒見も良く気の強いハッキリとした性格だがカリスマ性があり、在学中はとても人気があったが卒業してすぐに同級生のケイシー・デュランテ伯爵と結婚して男女の双子を出産した。

 リリエールは当初、学園に通う予定は無かったがマイペースでコミュニケーション能力が低いフィオリアとファルカだけを学園に通わせるのは心配で急遽一年間だけ二人をサポートする目的で通う事になった。
 リリエールの卒業間際、突然結婚すると聞かされ更に懐妊している事を知らされたフィオリアはとても驚いた。
 自分よりもしっかりしているリリエールが決めた事で、ファルカも交際していた事を知っていたようで反対もせず、本人も幸せそうだったので祝福して送り出した。
 
 フィオリアがケイシーに会ったのは、結婚前に紹介され結婚式とたまに伯爵家に遊びに行っている時に挨拶する位で、突出した何かがある訳ではなく、デュランテ伯爵家自体も余り知られていない。
 全く、貧乏ではないが何を生業にしているのか不思議で本人自体も平凡な人物でありどうしてリリエールがケイシーと結婚したのか未だに謎である。
 
ーーリリエールと会うのも久しぶりね、元気かな?

 デュランテ家の馬車は普通の馬車だが、最新の魔法技術を搭載していて揺れる事も少なく長距離の移動も快適に過ごせ防御力も優れている。
 なんでも愛する妻が快適に過ごせるようにと、ケイシー自らが設計して作られた馬車らしい。

――陛下も昨日は余り寝ていないんじゃないかしら?
昨日は凄く激しかったし……。
 
 昨晩の事を思い出してフィオリアは一人で恥ずかしくなり、ポッと頬を赤らめた。

――でも一緒に居られるのも後少しね……。

 約束の三年の期限はすぐそこまで迫ってきていた。
エルネストが即位した時は、立て続けに王と王太子を亡くして国が混乱していた。
 その為、エルネストは国が安定するまでは結婚せず国政に集中すると宣言した。

 王太子であるオーレリアンが亡くなって少し経った頃、エルネストを心配していたが平民であるフィオリアが出来る事は何もなく歯がゆい思いをしていた所、エルネストがフィオリアの寮に突然やってきた。

 そして急に、秘書として三年傍で支えてほしいと言われ、一晩中攻められて秘書になることは了承したが寸止めプレイでぐちゃぐちゃされ思考能力が全く無くなっていたのでその時の事は余り覚えてはいない。

ーー秘書を辞めたら他に何かできる仕事はあるかな?
王宮で働くのは気まずいから……どこかの商会の秘書とか募集してればいいけど。

 約束の三年が間近に迫り、臣下達からも早急にお妃選びをと言う声が高まってきた。
 現在の有力候補は、アデライン・リスベニア公爵令嬢と
イライザ・ブリンガム侯爵令嬢。

 顔を合わせれば、火花を散らしている二人だが容姿、知性、
気品、家柄と全てを持ち合わせているのでどちらかが選ばれるのは間違いなく、どちらかが王妃、側室となる可能性も高い。

ーーお妃が決まれば、私のような者が側にいてはいけない……


 エルネストとフィオリアの関係はトップシークレットで
知っているのは、エルネストの幼馴染であり宰相サイラス・ブリンガム侯爵とリリエールとファルカだけである。

 エルネストは、性別、身分関係無くその人たらし力で有望な人材を集めており、フィオリアの事もその理由で側に置かれていると臣下達に疑われる事は無かった。

 公に出来ない恋人でも無い秘密の関係が終わる日が来るのを考えるだけで苦しくなり、涙が出そうになったがこれからリリエールに会うのに悲しい顔をしていると心配されると必死に涙を堪えた。

 気持ちを切り替えようと窓の外を見ると、森の中を走っている様だった、流れる景色を見ていると昨日の疲れもあってか
眠気が襲ってきた。

ーーなんだか眠い……この馬車に乗ると乗り心地がいいから
いつも寝てしまうのよね。

 結局、いつの間にか眠ってしまったフィオリアはいつもの様に御者に起こされて馬車から降りるとリリエールが入口まで
迎えに来ていた。

「フィリー!久しぶりね、疲れたでしょう?」

「リリエール!忙しいのにごめんなさい、大丈夫だった?」

「可愛いフィリーが会いたいって言ってるのに断る訳ないでしょ?さぁ入って入って!」

「ヒューバートとリーファは?」

「ケイシーと出かけてる、夕方には帰ってくるはずよ」

 二人は久しぶりの再会に喜びながら屋敷の中に入る。
デュランテ伯爵家は広大な土地に建てられたまるで要塞の様な大きな屋敷でリリエールと一緒で無ければ迷ってしまう程である。

 デュランテ家の庭園が一望できるお茶をする為だけに作られた部屋に通されたフィオリアは、パティシエが腕によりをかけて作った宝石の様なスイーツに舌鼓をうちながら近況を報告し合う。

「それで、急に会いたいだなんて何かあったの?
もしかしてあいつと何かあったんじゃないでしょうね……」

「ひぇっ!あ、あの……」

 全ての事情を知るリリエールはにっこりと笑みを浮かべながらも、何かしてたら容赦しないという雰囲気で室内の温度が凍りつく様な錯覚を覚えた。

 学生時代、エルネストがフィオリアの処女を奪った事を知ったリリエールはすぐにエルネストに殴り込みに行き、激しい戦いが繰り広げられた後、何かしらの折衷案が出されて落ちついたと後々ファルカから聞かされた為、フィオリアはこれはまずいとなんとかリリエールを落ち着かせようと焦る。


「リ、リリエール、陛下の事をあいつだなんて……陛下は優しくしてくれるわ……だけど約束の三年はもうすぐでしょう?
私もそろそろ身の振り方を考えなくちゃいけないと思って……」

「……え?ちょっと待って!は?」

 フィオリアの言葉に信じられないと言う顔をして頭を抱えるリリエール、それに気づかず話し続けるフィオリア。

「それでね、この間メイドの子の話しを聞いてね……」

 貴族と付き合っていて別れて、幼馴染と付き合いだした
メイドの話しをしたフィオリアは身分違いの恋を諦めて
身の丈に合った生き方をしたいとリリエールに話した。

「ごめん、フィリー……話は分かったわ。
ちょっと混乱してるけど、とりあえずあいつは三年後の話は何にもしてない訳?」

「うん……あ、あの時は色々とバタバタしてたでしょう?
だから、秘書は三年だけって約束で……それから何も言われないから後は好きにしていいって事だと思うんだよね」

 頭を抱えるリリエールに、何かおかしな事を言っただろうかと不思議がるフィオリア。

「何やってんのよ、あんのクソ男……はあぁ……こんな事言いたくは無いけど、とりあえず帰ったらあいつとちゃんと話し合いなさい。話し合ってフィリーが納得いかなければデュランテ家に来なさい」

「そうね……秘書を辞めるにもちゃんと引き継ぎが必要だしね
ちゃんと……話し合ってみる」

「えぇ、それでその……心配だから聞くけど、貴方達ちゃんと
避妊はしてるの?避妊薬も飲み過ぎると身体に良くないから
それにこんな状況で懐妊したら色々と大変だし」

 リリエールの言葉に一気に表情が曇るフィオリア。
 
「……だ、大丈夫よちゃんと……ちゃんとしてるから」

「そう、変な事聞いてごめんなさい……私達は特殊な種族でしょう?両親も親戚も居ないし私の時も大変だったから」

「えぇ……そうよね……あの、リリエール」

 フィオリアが何か言いかけようとした時、突然雷が鳴った。
そして激しい雨が降り出した。
 雨はなかなか降り止まず、この状況で帰るのは危険である為、デュランテ家に泊まる事にした。

「雨が止んで良かったわ、フィリーこれを持って行って」

 リリエールは赤い宝石が付いたブローチをフィオリアに渡した。

「これはもしかして通信機器?」

「ケイシーが作った通信機器よ、この石に魔力を通して青に変われば私と話が出来るわ」

「凄いわ、こんなに貴重な物借りてもいいの?」

「知ってると思うけどもうすぐ量産されるから王宮でも
良く使われるようになるはずよ」

「色々とありがとうリリエール」

「私はいつでもフィリーの味方よ、それだけは忘れないで」

 仕事がある為、まだ暗い時間にデュランテ家を出て離宮へ戻るとフィオリアはエルネストの衝撃的な姿を目にする。
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