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夜会

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 夜会を早めに切り上げてフィオリアを寝室に連れ込みたいエルネストは、挨拶もそこそこに夜会会場を後にしようとした所、お妃候補の令嬢達に囲まれた。

「陛下、お久しぶりでございます」

 最初に声をかけたのは、リスベニア公爵家令嬢アデライン。 
 豪奢な赤い巻髪の砂時計のような魅惑的なスタイルを持つ派手な美人で、有力なお妃候補と言われている。
 学生時代からずっとエルネストを思い続けているのは国中に知られている有名な話しである。

「久しいな、アデライン令嬢。今日も大輪の薔薇のように美しい」

「そんな……お褒め頂き光栄ですわ。
今日久しぶりに陛下にお会いするのが楽しみで夜も眠れませんでしたの」

 豊かな胸をぎゅっと寄せて、ポッと頬を赤らめている隙にズイッと割り込んで来たのは代々、国王を支えてきた優秀な人材を輩出してきた家門で兄はこの国の宰相を務めている、ブリンガム侯爵家のイライザ。
 艶やかな黒髪に華奢な知的美女で貴族女性には珍しく、領地経営を行っている。

「お久しぶりでございます、陛下。
アデライン様もお久しぶりでございます、本当に
今日も素敵ですわね!陛下、兄から聞きましたが昨年大変な被害が出たトムズス川の治水工事に着手なされたとか……これで近隣の住民達も安心ですわね、流石は陛下」

「耳が速いな、イライザ嬢。
其方の領地の評判も私の元に届いているぞ」

 美しさと色気を全面に押し出したアデラインと
可憐さと知的さを押し出したイライザとの戦いは、エルネストが即位する事が決まる少し前から繰り広げられている。

 ヒソヒソ……。

「……今日も始まったな!」

「うわぁー、私初めて見るわこれが噂の!」

「今日はイライザ様が優勢か?」

「いやいや、これで引き下がるアデライン様では無いだろう!」

「俺はアデライン様に賭けるぞ!」

「なら私はイライザ様に!」

ヒソヒソ……。

 二人が揃うと必ず戦いが始まるので、夜会に参加している貴族達はいつの間にか見物客の様に集まり、今日はどちらに軍配が上がるのか密かに賭けられている夜会のちょっとしたイベントの様になっている。

 夜会会場の壁際で待機していたフィオリアは
いつもの風景を遠巻きに眺めていた。

ーーアデライン様とイライザ様……どちらも家柄も気品も知的さも兼ね備えた方々……どちらが
王妃となっても反発は少ないし、きっと貴族や平民たちも祝福されるはず、だけど私は……。

 壁の花になるにはもったいない程のエメラルドの様に美しいグリーンのドレスを着たフィオリアは少し俯き溜息を吐いた。

「フィオリア、交代の時間だぞ」

 声をかけて来たのは同じエフィリア族で幼馴染のファルカ。

 ファルカは、男性にしては細身で中世的な美しい顔立ちでフィオリアと同じ真っ白な髪だが瞳はルビーの様に赤い。

 学園を卒業した後、フィオリアはエルネストの秘書に、戦闘力が非常に高く認識阻害の魔法が得意なファルカはブリンガム侯爵家に使えながらエルネストの護衛兼、隠密として働いている。

「あ……もうそんな時間?」

「あぁ、大分疲れてるみたいだな後は俺が居るから安心して休め」

「ありがとうファルカ……後はお願いね」

 一つ年上の冷静沈着で面倒見の良いファルカは
フィオリアにとって兄の様な存在で、エルネストの護衛を安心して任せられる人物なのでフィオリアは名残り惜しそうにしながら夜会会場を後にする事にした。

 会場入口の扉の前でふと、会場を振り向くと会場の真ん中でエルネストとアデラインがダンスを踊っていた。

ーーいいな……私もエルネスト様と踊ってみたい。

 どれだけ着飾っても、秘書という立場を得ても
平民のフィオリアが貴族の令嬢を差し置いて国王であるエルネストと踊る事は出来ない、それが
痛いほどに分かっているからこそ夜会会場に居るのは辛かった。

 フィオリアは自室に帰りお風呂に入るとバタンとベッドに倒れ込んだ。

ーー私の部屋に来るって言ってたけど……きっと今日は無理よね……。

 夜会の時は決まっていつも、アデラインとイライザがエルネストを取り合い、それが終わると臣下や国の重鎮達に捕まり朝まで解放されない事がよくある。

ーー明日は休みでリリエールに会いに行くから
もう寝ちゃおう……せっかく着たコレも無駄だったかな。

 寝て全て忘れてしまおうとバサっと布団を被り寝ようとしたが中々寝付けない。
 寝酒でも飲もうとベッドから起き上がるとノックの音が聞こえた。


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