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「やるなら徹底的に、だ」
「……?」
「例の、籍を入れる件があったろう?」
「あぁ!」
色々あってすっかり忘れていたが、そういえばあの件は一体どうなったのか。
それ以降連絡を受けている様子はないが。
「一応連絡は入っているんだ。
籍の方は問題なく手続きがとれたが、だがどうせならまとめていろいろと手続きをしてしまおうという話になってね」
まとめて、というのはつまり、財産分与や生前贈与、名義変更なども色々含めて、という話だ。
「あの、雄吾さん、財産分与というのは…」
「以前にも話し合っただろう?晶だってそれは同じ気持ちだと言ってくれたはずだ。
姉からは私程度の財産になど興味はないと言われていることだし、受け取るのは君しかいない」
「ですが……」
弟の財産になど興味もないという巴の言い分はよくわかったが、それにしても籍を入れる入れないからそこまで既に発展しているとは。
すでに保険の名義云々の話とはレベルが違ってしまっている。
「どちらにせよ、こちら側に有利になるような手続きはできるだけきちんとしておいたほうがいい。
私達のような年代になれば、いつ何時、何が起こるかわからないからね」
「それは同意ですが…」
「心配しないでいい。これは死の為の準備ではなく、私たちがこれから一生を共に生きるために必要なことだ」
現役の内に色々と用意しておいた方が、後で有利に働く場合は多い。
資金面に不安がない以上、保険がありすぎても困るという事はないだろう。
ごく普通の夫婦であったとしても、どちらかが病に倒れた時や、そうでなくとも様々な問題を抱えた時、頼れるものが一つでも多くあった方がいいと考えるのはごく普通の事だ。
雄吾はいずれ店をたたみ、二人で老後を過ごすことになった時の手配も勿論忘れていない。
葬儀の手配や一切の仕切りすら、電話一本で専門の業者が請け負う手はずになっている。
自分が一人になるならともかく、もし晶が一人になったら。
口では強がっていたとしても、晶がショックを受けるのは目に見えている。
勿論健康面では気を付けるつもりではいるが、年齢的にいえば自分が先立つ可能性は十分に高い。
籍は入っているとはいえ、雄吾にそれなりの財産がある以上、いざとなれば外野がうるさくなる可能性もある。
その時に巴がいれば力になってくれるだろうが、何しろ年齢的にはあちらの方が上だ。
そういう意味でも、雄吾はできるだけ晶には苦労を掛けたくないと思っていた。
愛する者の為には、自分のできる最大限の保障を残してやりたい。
「後で東野から色々連絡が来るだろう。それまでもう少し待っていてくれ。
籍を入れた祝いもそのあとで一緒にしよう」
「はい、雄吾さん」
籍を入れる、と言われても、自分の名前すらろくに口にすることのなくなった現状ではあまり実感がないが、少なくともその手続きだけならばもうとっくに終わっていてもいいはず。
つまり晶はすでに、雄吾の養子に入っているという事だ。
「なんだか実感がありません」
「確かにね。何なら結婚式でもするかい?」
ふふ、と笑った雄吾の提案に、あわてて首を横に振る晶。
「結婚式だなんて、そんな!」
「お披露目、というのも今更だが、まぁ祝いの席位用意をしてもいいかもしれないな」
祝いというのは名目で、実際には常連達を集めて店でどんちゃん騒ぎするだけだ。
祝い事に飢えた連中なら、たとえ平日でも喜んで集まってくれるだろう、と雄吾は笑う。
「いずれ二人で海外にでも旅行に行こう。
そこで記念の写真を撮ってくるのも悪くないな」
同性同士であったとしてもチャペルを貸切ることが可能で、貸衣装や写真撮影のサービスまでついた、所謂「同性婚」プランも海外では珍しくないという。
もちろん泊まるホテルは豪華なコテージで、部屋にはキングサイズのベッド、という新婚さん仕様。
そこまで説明されて、恥ずかしいやら嬉しいやら、何とも反応に困った晶だが、雄吾が自分の為に用意してくれていると考えれば、素直に喜ぶべきだろうと考え直す。
「ありがとうございます、雄吾さん」
「こちらこそ。何しろ私は君の人生全てを丸ごと受け取ったんだからね。これはほんの、私からのお返しだよ」
「……?」
「例の、籍を入れる件があったろう?」
「あぁ!」
色々あってすっかり忘れていたが、そういえばあの件は一体どうなったのか。
それ以降連絡を受けている様子はないが。
「一応連絡は入っているんだ。
籍の方は問題なく手続きがとれたが、だがどうせならまとめていろいろと手続きをしてしまおうという話になってね」
まとめて、というのはつまり、財産分与や生前贈与、名義変更なども色々含めて、という話だ。
「あの、雄吾さん、財産分与というのは…」
「以前にも話し合っただろう?晶だってそれは同じ気持ちだと言ってくれたはずだ。
姉からは私程度の財産になど興味はないと言われていることだし、受け取るのは君しかいない」
「ですが……」
弟の財産になど興味もないという巴の言い分はよくわかったが、それにしても籍を入れる入れないからそこまで既に発展しているとは。
すでに保険の名義云々の話とはレベルが違ってしまっている。
「どちらにせよ、こちら側に有利になるような手続きはできるだけきちんとしておいたほうがいい。
私達のような年代になれば、いつ何時、何が起こるかわからないからね」
「それは同意ですが…」
「心配しないでいい。これは死の為の準備ではなく、私たちがこれから一生を共に生きるために必要なことだ」
現役の内に色々と用意しておいた方が、後で有利に働く場合は多い。
資金面に不安がない以上、保険がありすぎても困るという事はないだろう。
ごく普通の夫婦であったとしても、どちらかが病に倒れた時や、そうでなくとも様々な問題を抱えた時、頼れるものが一つでも多くあった方がいいと考えるのはごく普通の事だ。
雄吾はいずれ店をたたみ、二人で老後を過ごすことになった時の手配も勿論忘れていない。
葬儀の手配や一切の仕切りすら、電話一本で専門の業者が請け負う手はずになっている。
自分が一人になるならともかく、もし晶が一人になったら。
口では強がっていたとしても、晶がショックを受けるのは目に見えている。
勿論健康面では気を付けるつもりではいるが、年齢的にいえば自分が先立つ可能性は十分に高い。
籍は入っているとはいえ、雄吾にそれなりの財産がある以上、いざとなれば外野がうるさくなる可能性もある。
その時に巴がいれば力になってくれるだろうが、何しろ年齢的にはあちらの方が上だ。
そういう意味でも、雄吾はできるだけ晶には苦労を掛けたくないと思っていた。
愛する者の為には、自分のできる最大限の保障を残してやりたい。
「後で東野から色々連絡が来るだろう。それまでもう少し待っていてくれ。
籍を入れた祝いもそのあとで一緒にしよう」
「はい、雄吾さん」
籍を入れる、と言われても、自分の名前すらろくに口にすることのなくなった現状ではあまり実感がないが、少なくともその手続きだけならばもうとっくに終わっていてもいいはず。
つまり晶はすでに、雄吾の養子に入っているという事だ。
「なんだか実感がありません」
「確かにね。何なら結婚式でもするかい?」
ふふ、と笑った雄吾の提案に、あわてて首を横に振る晶。
「結婚式だなんて、そんな!」
「お披露目、というのも今更だが、まぁ祝いの席位用意をしてもいいかもしれないな」
祝いというのは名目で、実際には常連達を集めて店でどんちゃん騒ぎするだけだ。
祝い事に飢えた連中なら、たとえ平日でも喜んで集まってくれるだろう、と雄吾は笑う。
「いずれ二人で海外にでも旅行に行こう。
そこで記念の写真を撮ってくるのも悪くないな」
同性同士であったとしてもチャペルを貸切ることが可能で、貸衣装や写真撮影のサービスまでついた、所謂「同性婚」プランも海外では珍しくないという。
もちろん泊まるホテルは豪華なコテージで、部屋にはキングサイズのベッド、という新婚さん仕様。
そこまで説明されて、恥ずかしいやら嬉しいやら、何とも反応に困った晶だが、雄吾が自分の為に用意してくれていると考えれば、素直に喜ぶべきだろうと考え直す。
「ありがとうございます、雄吾さん」
「こちらこそ。何しろ私は君の人生全てを丸ごと受け取ったんだからね。これはほんの、私からのお返しだよ」
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