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「私達domはsubである君たちを支配したい、命令して支配下に置きたいという欲を持っている」
「はい」
事後のどこか気だるい空気漂う中。
フカフカのベッドにくるまり、ぽんぽんとまるで幼児にでもするようにお腹をたたかれれば、だんだんと瞼も下に降りてくる。
「寝ながらでいい、大した話ではないからね」
「いえ……」
雄吾のいう事であれば、できる限り聞き逃したくない。
そんな晶の様子に軽く微笑み、「無理はしなくていい」と額にキスをおくる。
それはごく普通の恋人同士と、特に何の変わりもない。
「では、俗にいうドミナント達がそれぞれ自分のパートナーを調教したがるのは、一体何のためだと思う?」
「何のため……ですか?」
正直言って考えたこともなかった。
『そうしたいからそうする』
それが彼ら、ドミナント独裁的な思考なのだと勝手に思い込んでいたせいもあるだろう。
「勿論、そうしたいからそうする、というのは当然だ。
誰だって仕事でもない好きではないことを長々続けようとは思わないからね。
サディストは加虐性欲を持ち、他者を害することによって快楽を得るわけだ」
「はい」
「では、その相手は常に新鮮な方がいいとは思わないか?」
「え?」
「新鮮……というのは少しおかしな言い方かもしれないが、別に特定の相手を作る必要はない」
「あ…」
そういわれてみると確かに。
人が痛みを感じることを快楽に感じるのであれば、相手はむしろそれを喜ぶマゾヒストでは物足りないはずだ。
何しろ、苦痛に耐える姿に興奮するのであって、喜ばれてはならないのだから。
「お金さえ出せば何をしても構わない、という連中も一定数存在するし、パートナーを言う形で誰かを囲う必要はどこにもない。
……けれど、現実的にはサディストはパートナーの存在を無意識にでも求めてしまうものだし、マゾヒストにしてもそれは同じことだ。それは一体何のためだと思う?」
「……精神的な支え……でしょうか?」
ストレスの発散だけならそれこそパートナーを作る必要はない。
都合のいい誰かを呼び出せばいいだけ。
「ドミナントの中には配偶者を別に作ったうえでプレイパートナーとして特定の相手を調教している相手も少なくはない。……勿論、その場合は伴侶が似たような嗜好の持ち主であるか、それを許容できるほどの懐の深い人物であるか。もしくは伴侶には永遠に秘密にできるだけの度量を本人が持ち合わせているかの、いずれかだろうが」
「精神的な支えなら伴侶がいれば十分……」
「最も、そういった相手は特定のパートナーを持つのではなく専門の店に行って欲を解消することの方が多いようだから、今回の話には則さないかもしれないな。
ただ、SMにおけるパートナーと精神的な支えとなる伴侶とは、別である場合は十分考えられる」
「そう……ですね」
性的な行為を行いながら、他に伴侶を持つというのは不実なように思えるが、中には性的行為を一切含まないSM行為もあるのだと聞いた覚えがある。
例えば、緊縛などもそうだ。
女性に縛られたいという願望を持つ男性も少なくはないという。
だがその男性にしたって、実際に結婚するとなれば相手は真っ当な女性を選ぶはず。
心の隙間を埋めるのは、たまのご褒美で十分と理解しているからだ。
「では調教というのはなにか。……晶、私が君にしているのは「躾」だがその違いは分かるかい?」
「いえ…」
「厳密な違いはないのだろうが、私はそれを本人の意思があるかどうかだと考えている。
晶、君は私に躾をされることを望み、その一つ一つに対して納得してるとはっきり言える?」
「はい、勿論です」
「それは誰かに強制されたものではない?」
「はい、私の意思です」
それだけは胸を張って言える。
選んだのは、間違いなく自分だと。
「それに対して調教というのは、そうだな……。いわゆる条件付けか。
パブロフの犬という言葉を聞いたことがあるだろう?まさにあれだな。
体にでも心にでも、何度も反復させることで刻み付けるんだ。
そうすることによって、本来は望んでいないようなことも、自ら喜んで望むように変えていく」
勿論それは多少の才能――というか適性があっての事ではあるが、ドミナント達は自然、その適正を見ぬく目にたけていくものらしい。
野性の獣が、素早く手ごろな獲物を見つける一緒だ。
「つまりは、自分好みに仕込んでいくわけだね」
子供を躾けるという言葉はよく聞くが、子供を調教する、という言葉は決して誰も口にしない。
それがなぜなのか。
「前者は本人の成長を促すためのものであり、後者は調教者の意思を忠実に実行させるためのものである?」
「ほとんど正解と言っていいと思う。晶は本当に利口だな」
何度もキスを送られるうちに、だんだんと深くなっていく口づけ。
このままでは、再び火がついてしまいそうだと思いながら、晶はなんとか零れ落ちそうになる思考を纏める。
「私は雄吾さんの猫なので、調教されても構いません……よ?」
「言ってくれるね。ふふ、それは私が嫌だな」
人形が欲しいわけじゃない、それは以前にも聞いたことのある言葉だ。
だからこそ晶は思ったことをその場で口にするし、自分の持てる知識で言われたことを自分なりに思考する。
それだって、決して見捨てられることはないと、それが分かっているからできることだ。
むしろただの恋人同士で会ったなら、嫌われることを、疎まれることを恐れて口を紡ぐこともあるだろう。
子供が親に対しては辛らつな言葉を平気で吐き捨てるのと同じ、そこには確かな信頼がある。
「話を元に戻すが、つまりはね?躾や、時に調教してまでパートナーを手に入れたがるその理由だ」
「はい」
事後のどこか気だるい空気漂う中。
フカフカのベッドにくるまり、ぽんぽんとまるで幼児にでもするようにお腹をたたかれれば、だんだんと瞼も下に降りてくる。
「寝ながらでいい、大した話ではないからね」
「いえ……」
雄吾のいう事であれば、できる限り聞き逃したくない。
そんな晶の様子に軽く微笑み、「無理はしなくていい」と額にキスをおくる。
それはごく普通の恋人同士と、特に何の変わりもない。
「では、俗にいうドミナント達がそれぞれ自分のパートナーを調教したがるのは、一体何のためだと思う?」
「何のため……ですか?」
正直言って考えたこともなかった。
『そうしたいからそうする』
それが彼ら、ドミナント独裁的な思考なのだと勝手に思い込んでいたせいもあるだろう。
「勿論、そうしたいからそうする、というのは当然だ。
誰だって仕事でもない好きではないことを長々続けようとは思わないからね。
サディストは加虐性欲を持ち、他者を害することによって快楽を得るわけだ」
「はい」
「では、その相手は常に新鮮な方がいいとは思わないか?」
「え?」
「新鮮……というのは少しおかしな言い方かもしれないが、別に特定の相手を作る必要はない」
「あ…」
そういわれてみると確かに。
人が痛みを感じることを快楽に感じるのであれば、相手はむしろそれを喜ぶマゾヒストでは物足りないはずだ。
何しろ、苦痛に耐える姿に興奮するのであって、喜ばれてはならないのだから。
「お金さえ出せば何をしても構わない、という連中も一定数存在するし、パートナーを言う形で誰かを囲う必要はどこにもない。
……けれど、現実的にはサディストはパートナーの存在を無意識にでも求めてしまうものだし、マゾヒストにしてもそれは同じことだ。それは一体何のためだと思う?」
「……精神的な支え……でしょうか?」
ストレスの発散だけならそれこそパートナーを作る必要はない。
都合のいい誰かを呼び出せばいいだけ。
「ドミナントの中には配偶者を別に作ったうえでプレイパートナーとして特定の相手を調教している相手も少なくはない。……勿論、その場合は伴侶が似たような嗜好の持ち主であるか、それを許容できるほどの懐の深い人物であるか。もしくは伴侶には永遠に秘密にできるだけの度量を本人が持ち合わせているかの、いずれかだろうが」
「精神的な支えなら伴侶がいれば十分……」
「最も、そういった相手は特定のパートナーを持つのではなく専門の店に行って欲を解消することの方が多いようだから、今回の話には則さないかもしれないな。
ただ、SMにおけるパートナーと精神的な支えとなる伴侶とは、別である場合は十分考えられる」
「そう……ですね」
性的な行為を行いながら、他に伴侶を持つというのは不実なように思えるが、中には性的行為を一切含まないSM行為もあるのだと聞いた覚えがある。
例えば、緊縛などもそうだ。
女性に縛られたいという願望を持つ男性も少なくはないという。
だがその男性にしたって、実際に結婚するとなれば相手は真っ当な女性を選ぶはず。
心の隙間を埋めるのは、たまのご褒美で十分と理解しているからだ。
「では調教というのはなにか。……晶、私が君にしているのは「躾」だがその違いは分かるかい?」
「いえ…」
「厳密な違いはないのだろうが、私はそれを本人の意思があるかどうかだと考えている。
晶、君は私に躾をされることを望み、その一つ一つに対して納得してるとはっきり言える?」
「はい、勿論です」
「それは誰かに強制されたものではない?」
「はい、私の意思です」
それだけは胸を張って言える。
選んだのは、間違いなく自分だと。
「それに対して調教というのは、そうだな……。いわゆる条件付けか。
パブロフの犬という言葉を聞いたことがあるだろう?まさにあれだな。
体にでも心にでも、何度も反復させることで刻み付けるんだ。
そうすることによって、本来は望んでいないようなことも、自ら喜んで望むように変えていく」
勿論それは多少の才能――というか適性があっての事ではあるが、ドミナント達は自然、その適正を見ぬく目にたけていくものらしい。
野性の獣が、素早く手ごろな獲物を見つける一緒だ。
「つまりは、自分好みに仕込んでいくわけだね」
子供を躾けるという言葉はよく聞くが、子供を調教する、という言葉は決して誰も口にしない。
それがなぜなのか。
「前者は本人の成長を促すためのものであり、後者は調教者の意思を忠実に実行させるためのものである?」
「ほとんど正解と言っていいと思う。晶は本当に利口だな」
何度もキスを送られるうちに、だんだんと深くなっていく口づけ。
このままでは、再び火がついてしまいそうだと思いながら、晶はなんとか零れ落ちそうになる思考を纏める。
「私は雄吾さんの猫なので、調教されても構いません……よ?」
「言ってくれるね。ふふ、それは私が嫌だな」
人形が欲しいわけじゃない、それは以前にも聞いたことのある言葉だ。
だからこそ晶は思ったことをその場で口にするし、自分の持てる知識で言われたことを自分なりに思考する。
それだって、決して見捨てられることはないと、それが分かっているからできることだ。
むしろただの恋人同士で会ったなら、嫌われることを、疎まれることを恐れて口を紡ぐこともあるだろう。
子供が親に対しては辛らつな言葉を平気で吐き捨てるのと同じ、そこには確かな信頼がある。
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