保護猫subは愛されたい

あうる

文字の大きさ
上 下
40 / 67

40

しおりを挟む
「やけにしつこく食いついてくるとは思いましたが、そういうことですか」
「姉からの心のこもったお祝いよ。
最高のものを仕立ててあげて頂戴とお願いしたの」 

でも、と。
言葉を区切り、どす黒く染まったリボンを見つめ、「その出来では、及第点にも及ばなかったわね」と嘲笑する。

「謝罪するわ」
「謝るのはそこではないと思いますが?」

もっと他に言うべきことがあるだろうと告げたところで、堪えた様子は微塵もない。

「私は弟子の不始末を謝罪しただけよ」

「………弟子?」

まさかの関係性に微かに目を見開き、驚く晶。


「ねぇ雄吾。あなた、この子に私のことをなんて説明したの?」
「何も。そもそも貴女という人を言葉で語れるのなら苦労はしませんから。
それよりも実際に目で見たほうが遥かに早い」
「女の美しさを表現するための言葉を惜しむなんて、姉として恥ずかしいわ。
薔薇を見て、「茎に棘のある赤い花」と称するようなもの。なんの情緒もないわね」
「それならば貴女のことも、「多彩な才能を持て余した中年女性」と紹介して差し上げましょうか」

皮肉にしても、実の姉を捕まえて「中年女性」とは。 
辛辣すぎる物言いだが、確かにそれは忌憚ない事実でもあるのだろう。

「つまらない子。
ねぇ子猫ちゃん。あなたから見た私はどう見えるかしら?」

突然飛び火した話に困惑しつつ、答えを探す晶。

「見たまま、自由に答えればいいよ」
「愚かで冷酷なハートの女王様?それとも愛しい人の首を銀盤に載せたサロメかしら」

見たままを自由に。
そう言われて忖度なしに発言するようなら社会人としては半人前も良いところだろう。
かといって美辞麗句を並べたところで納得するわけもなく。
心なしかマスターすら興味深げな顔をしているのだから、答えないわけにはいかない。

ハートの女王しろサロメにしろ、彼女達に共通するのはとんでもなく意志が強く、目的の為なら手段を選ばない利己的な女性であること。
巴は、自らが他者からそう見られているに違いないと感じているのだろうか。

最初に彼女の姿を見た時、晶が抱いたイメージ。
それと今彼女があげた人物達とは、あまりにかけ離れている。

あの瞬間を例えるなら、そう。

「オフィーリア、でしょうか」

愛するものに裏切られ、失意と狂気に蝕まれ、水の中に沈んだ悲劇の姫君。 

「ハムレットね。私には気の狂った女がお似合いということかしら」
「いえ、そうではなくて。
私がイメージしたのは、絵画に描かれたオフィーリアです」

誰しもが一度は目にしたことがあるだろう名画、それが「オフィーリア」た。

「此岸と彼岸の境を見ているような、幽玄的な美しさとでも言えばいいでしょうか」

水面に漂う長い髪。
散らばった色とりどりの花。
薄っすらと開いた口が諳んずるその歌は、誰が為のものか。

「ミレーのオフィーリアか。
確かにあの絵の女性は美しく蠱惑的だ。
晶には、姉がそう見えた?」
「………どう、でしょうか」

女王然とした彼女には些か不似合いなイメージであることは、晶にも勿論わかっている。

「自信がない?」
「いえ。似ているかいないかではなく…」

なんと言えばいいのだろうか。
言葉にするにはあまりにも難問だ。
ただ。

「人の身には過ぎた美しさと」
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜 ・不定期

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

兄さん、僕貴方にだけSubになるDomなんです!

かぎのえみずる
BL
双子の兄を持つ章吾は、大人顔負けのDomとして生まれてきたはずなのに、兄にだけはSubになってしまう性質で。 幼少期に分かって以来兄を避けていたが、二十歳を超える頃、再会し二人の歯車がまた巡る Dom/Subユニバースボーイズラブです。 初めてDom/Subユニバース書いてみたので違和感あっても気にしないでください。 Dom/Subユニバースの用語説明なしです。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】 人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。 その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。 完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。 ところがある日。 篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。 「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」 一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。 いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。 合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

処理中です...