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「やけにしつこく食いついてくるとは思いましたが、そういうことですか」
「姉からの心のこもったお祝いよ。
最高のものを仕立ててあげて頂戴とお願いしたの」
でも、と。
言葉を区切り、どす黒く染まったリボンを見つめ、「その出来では、及第点にも及ばなかったわね」と嘲笑する。
「謝罪するわ」
「謝るのはそこではないと思いますが?」
もっと他に言うべきことがあるだろうと告げたところで、堪えた様子は微塵もない。
「私は弟子の不始末を謝罪しただけよ」
「………弟子?」
まさかの関係性に微かに目を見開き、驚く晶。
「ねぇ雄吾。あなた、この子に私のことをなんて説明したの?」
「何も。そもそも貴女という人を言葉で語れるのなら苦労はしませんから。
それよりも実際に目で見たほうが遥かに早い」
「女の美しさを表現するための言葉を惜しむなんて、姉として恥ずかしいわ。
薔薇を見て、「茎に棘のある赤い花」と称するようなもの。なんの情緒もないわね」
「それならば貴女のことも、「多彩な才能を持て余した中年女性」と紹介して差し上げましょうか」
皮肉にしても、実の姉を捕まえて「中年女性」とは。
辛辣すぎる物言いだが、確かにそれは忌憚ない事実でもあるのだろう。
「つまらない子。
ねぇ子猫ちゃん。あなたから見た私はどう見えるかしら?」
突然飛び火した話に困惑しつつ、答えを探す晶。
「見たまま、自由に答えればいいよ」
「愚かで冷酷なハートの女王様?それとも愛しい人の首を銀盤に載せたサロメかしら」
見たままを自由に。
そう言われて忖度なしに発言するようなら社会人としては半人前も良いところだろう。
かといって美辞麗句を並べたところで納得するわけもなく。
心なしかマスターすら興味深げな顔をしているのだから、答えないわけにはいかない。
ハートの女王しろサロメにしろ、彼女達に共通するのはとんでもなく意志が強く、目的の為なら手段を選ばない利己的な女性であること。
巴は、自らが他者からそう見られているに違いないと感じているのだろうか。
最初に彼女の姿を見た時、晶が抱いたイメージ。
それと今彼女があげた人物達とは、あまりにかけ離れている。
あの瞬間を例えるなら、そう。
「オフィーリア、でしょうか」
愛するものに裏切られ、失意と狂気に蝕まれ、水の中に沈んだ悲劇の姫君。
「ハムレットね。私には気の狂った女がお似合いということかしら」
「いえ、そうではなくて。
私がイメージしたのは、絵画に描かれたオフィーリアです」
誰しもが一度は目にしたことがあるだろう名画、それが「オフィーリア」た。
「此岸と彼岸の境を見ているような、幽玄的な美しさとでも言えばいいでしょうか」
水面に漂う長い髪。
散らばった色とりどりの花。
薄っすらと開いた口が諳んずるその歌は、誰が為のものか。
「ミレーのオフィーリアか。
確かにあの絵の女性は美しく蠱惑的だ。
晶には、姉がそう見えた?」
「………どう、でしょうか」
女王然とした彼女には些か不似合いなイメージであることは、晶にも勿論わかっている。
「自信がない?」
「いえ。似ているかいないかではなく…」
なんと言えばいいのだろうか。
言葉にするにはあまりにも難問だ。
ただ。
「人の身には過ぎた美しさと」
「姉からの心のこもったお祝いよ。
最高のものを仕立ててあげて頂戴とお願いしたの」
でも、と。
言葉を区切り、どす黒く染まったリボンを見つめ、「その出来では、及第点にも及ばなかったわね」と嘲笑する。
「謝罪するわ」
「謝るのはそこではないと思いますが?」
もっと他に言うべきことがあるだろうと告げたところで、堪えた様子は微塵もない。
「私は弟子の不始末を謝罪しただけよ」
「………弟子?」
まさかの関係性に微かに目を見開き、驚く晶。
「ねぇ雄吾。あなた、この子に私のことをなんて説明したの?」
「何も。そもそも貴女という人を言葉で語れるのなら苦労はしませんから。
それよりも実際に目で見たほうが遥かに早い」
「女の美しさを表現するための言葉を惜しむなんて、姉として恥ずかしいわ。
薔薇を見て、「茎に棘のある赤い花」と称するようなもの。なんの情緒もないわね」
「それならば貴女のことも、「多彩な才能を持て余した中年女性」と紹介して差し上げましょうか」
皮肉にしても、実の姉を捕まえて「中年女性」とは。
辛辣すぎる物言いだが、確かにそれは忌憚ない事実でもあるのだろう。
「つまらない子。
ねぇ子猫ちゃん。あなたから見た私はどう見えるかしら?」
突然飛び火した話に困惑しつつ、答えを探す晶。
「見たまま、自由に答えればいいよ」
「愚かで冷酷なハートの女王様?それとも愛しい人の首を銀盤に載せたサロメかしら」
見たままを自由に。
そう言われて忖度なしに発言するようなら社会人としては半人前も良いところだろう。
かといって美辞麗句を並べたところで納得するわけもなく。
心なしかマスターすら興味深げな顔をしているのだから、答えないわけにはいかない。
ハートの女王しろサロメにしろ、彼女達に共通するのはとんでもなく意志が強く、目的の為なら手段を選ばない利己的な女性であること。
巴は、自らが他者からそう見られているに違いないと感じているのだろうか。
最初に彼女の姿を見た時、晶が抱いたイメージ。
それと今彼女があげた人物達とは、あまりにかけ離れている。
あの瞬間を例えるなら、そう。
「オフィーリア、でしょうか」
愛するものに裏切られ、失意と狂気に蝕まれ、水の中に沈んだ悲劇の姫君。
「ハムレットね。私には気の狂った女がお似合いということかしら」
「いえ、そうではなくて。
私がイメージしたのは、絵画に描かれたオフィーリアです」
誰しもが一度は目にしたことがあるだろう名画、それが「オフィーリア」た。
「此岸と彼岸の境を見ているような、幽玄的な美しさとでも言えばいいでしょうか」
水面に漂う長い髪。
散らばった色とりどりの花。
薄っすらと開いた口が諳んずるその歌は、誰が為のものか。
「ミレーのオフィーリアか。
確かにあの絵の女性は美しく蠱惑的だ。
晶には、姉がそう見えた?」
「………どう、でしょうか」
女王然とした彼女には些か不似合いなイメージであることは、晶にも勿論わかっている。
「自信がない?」
「いえ。似ているかいないかではなく…」
なんと言えばいいのだろうか。
言葉にするにはあまりにも難問だ。
ただ。
「人の身には過ぎた美しさと」
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