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normalよりもSubの方が下位である。
そんな誤解を鵜吞みにし、野崎晶という極めて優秀な男を切り捨てたこの会社に、篠原はもはや何の未練もなかった。
domを恐れ、Subを蔑すむ。
それは、自らをnormalと自称する愚か者たちの勝手な線引きであり、実際に何の根拠もないただの差別。
支配的性質を持つdomがその持ちうるグレアゆえに恐れられるのはまだ理解できない話でもないが、他者に危害を加えることなく、従うことに幸福を覚えるSubが、それだけで虐げられるのは一体何故なのか。
Subなら誰にでも従うもの。
そんな言葉は大嘘だ。
実際のプレイにおいて、コントロール権を持つのはSubであり、domはそれを預けられ、行使しているに過ぎない。
だからこそ、Subの側からセーフワードを使用されれば、速やかにその行いを停止させなければならず、それ以上を無理に強いる行為は、たとえプレイの最中であっても、犯罪として厳しく処罰される対象となる。
勿論それは、normalに対しても有効で、日本でこの手の法整備が整ったのはごく最近の事だが、Subに対する暴行は準強姦罪として扱われ、厳罰に処される。
それだけSubは保護されるべき存在であり、軽んじることなどもってのほか。
ではなぜ、そんな過剰ともいえるほどのSub優位な法律が存在するのか?
その答えは簡単だ。
その法律を作ったのは高い社会的地位を持つdom達であり、彼らは、自分たちにはSubが必要であることをよく理解していたから。
domがいなければSubは生きていけない。
ならばその逆も真。
Subがいなければ、domもまた、生きてはいけない。
強い独占欲、執着心、激しい衝動、こみ上げる凶暴性。
そんなものを生まれながら抱え込んだdom達が、常に社会的上位者でいられるのはなぜか。
勿論、才能という面もあるだろう。
だが、全てのdomが才気あふれる天才かと言われれば、決してそんなことはない。
よく、子育てなどの本で見かける「自己肯定感」という言葉。
それをそのままdomに当てはめるなら、Subとは自身の内ではなく外に存在する、最強の自己肯定感の塊で。
そんな存在を抱え込む元来優秀なdom達が、優れた結果を世に残すのもまた、当然の話だった。
篠原天馬がその男を見つけたのは、ほんの偶然。
同業他社が集まり、互いの意見を交換し合う研究論文の発表会でのこと。
一目見てわかった。
あれが己のSubだと。
自身と同等の能力を持ち、自らのもう片方の手のように、やろうと思ったことを先回りしてすべて用意する先読みの能力。
誰かをサポートするために生まれてきたとしか思えないほど、優秀な男。
だが、これまでこの彼――野崎は、自らがサポートするにふさわしい相手に巡り合ていなかったのだろう。
彼の真の能力の高さは評価されず、野にくすぶったまま。
研究論文を読み上げる彼の姿を見上げながら、背筋がゾクゾクとしたのを今でも覚えている。
生まれながらに「ギフテッド」と認められ、その才能を開花させた篠原には、それ故の傲慢もあった。
優れた才能を持つ子供「ギフテッド」。
その才能故、普通の子供とは特異なる行動をとり、時に偏執的な一面を見せることもある彼ら。
元々名家の生まれであった篠原は、早くにその才能を開花させ、幼少期の殆どをギフテッドの養成にたけた米国で過ごした。
日本に帰ってきたのは大学を卒業してからだが、そこで強く感じた、島国特有の閉塞感。
早くから自らがdomであることを自覚し、その上で優秀な成績を残していた篠原は、日本に来るまでプレイパートナーに事欠くという経験をしたことはなかった。
あちらならば、我こそはという華やかなSub達が皆こぞって優秀なdomである篠原のもとに集まったし、日替わりでプレイを楽しむ、なんていうのも極当たり前の感覚。
セフレというほどのものではないが、性行為もそれなりに楽しんだし、プレイにも満足していた。
それが、日本に戻って来たらどうだ。
Sub達は社会的な偏見を恐れ、表立ってその性を公表することはなく、至って地味。
更に驚かされたのが、自らをSubだと自覚していない人間が、想像以上に多いこと。
彼らは自らがnormalであることにこだわり、本来生まれ持った本能を、頑なに否定し、封じ込めようとしていた。
なんと窮屈な国だろう。
親の頼みで日本の企業に就職をしてみたはいいが、日本という国には全く何の魅力も感じない。
それなりの結果を残して、さっさと海外へ戻ろう。
そう思っていた時だ。
あの男、野崎晶と出会ったのは。
豊富な知識量と、考察力。
何度無駄になろうとも諦めない強い忍耐力に、向上心。
素晴らしい。
米国でも出会ったことのないほどに、優れたSubの気質を持つ男。
だが残念なことに、彼はいまだSubとしての自らの覚醒をしておらず、normalだと信じたまま。
けれど、コップの水があふれるまではもう僅か、といったところであると思う。
ならば彼を見守り、その傍で己のSubとして導いてやればいい。
幸いにして、自らの認めた上位者以外には、本来のSubの従属的体質が殆ど見せることのない野崎。
誰も、野崎がSubであることに気づくはずなどなかった。
「野崎、お前からはいつも甘い苺の匂いがするな」
ギフテッドとしての特徴の一つ。
匂いに過敏な反応を示す篠原の持つ、不思議な能力。
dom/Subの放つフェロモンを匂いとしてとらえるその能力が、もう間もなくだと彼に告げる。
ぐずぐずに熟れた苺の、甘い甘い匂い。
それが、ほんのわずか。
目を離した隙に奪われた。
誰ともわからぬ相手に。
篠原には確証があった。
Subとして覚醒をした野崎を、同じdom達が指を咥えてみているだけのはずがない。
ならば、連絡を取れない理由はひとつ。
「許せるはずがないだろう、野崎……」
いずれ自分のものになる筈と思い、大切に育てた蕾。
大輪の花を咲かせるその前に、誰かに摘み取られた。
奪い返さずに、いられるだろうか。
そんな誤解を鵜吞みにし、野崎晶という極めて優秀な男を切り捨てたこの会社に、篠原はもはや何の未練もなかった。
domを恐れ、Subを蔑すむ。
それは、自らをnormalと自称する愚か者たちの勝手な線引きであり、実際に何の根拠もないただの差別。
支配的性質を持つdomがその持ちうるグレアゆえに恐れられるのはまだ理解できない話でもないが、他者に危害を加えることなく、従うことに幸福を覚えるSubが、それだけで虐げられるのは一体何故なのか。
Subなら誰にでも従うもの。
そんな言葉は大嘘だ。
実際のプレイにおいて、コントロール権を持つのはSubであり、domはそれを預けられ、行使しているに過ぎない。
だからこそ、Subの側からセーフワードを使用されれば、速やかにその行いを停止させなければならず、それ以上を無理に強いる行為は、たとえプレイの最中であっても、犯罪として厳しく処罰される対象となる。
勿論それは、normalに対しても有効で、日本でこの手の法整備が整ったのはごく最近の事だが、Subに対する暴行は準強姦罪として扱われ、厳罰に処される。
それだけSubは保護されるべき存在であり、軽んじることなどもってのほか。
ではなぜ、そんな過剰ともいえるほどのSub優位な法律が存在するのか?
その答えは簡単だ。
その法律を作ったのは高い社会的地位を持つdom達であり、彼らは、自分たちにはSubが必要であることをよく理解していたから。
domがいなければSubは生きていけない。
ならばその逆も真。
Subがいなければ、domもまた、生きてはいけない。
強い独占欲、執着心、激しい衝動、こみ上げる凶暴性。
そんなものを生まれながら抱え込んだdom達が、常に社会的上位者でいられるのはなぜか。
勿論、才能という面もあるだろう。
だが、全てのdomが才気あふれる天才かと言われれば、決してそんなことはない。
よく、子育てなどの本で見かける「自己肯定感」という言葉。
それをそのままdomに当てはめるなら、Subとは自身の内ではなく外に存在する、最強の自己肯定感の塊で。
そんな存在を抱え込む元来優秀なdom達が、優れた結果を世に残すのもまた、当然の話だった。
篠原天馬がその男を見つけたのは、ほんの偶然。
同業他社が集まり、互いの意見を交換し合う研究論文の発表会でのこと。
一目見てわかった。
あれが己のSubだと。
自身と同等の能力を持ち、自らのもう片方の手のように、やろうと思ったことを先回りしてすべて用意する先読みの能力。
誰かをサポートするために生まれてきたとしか思えないほど、優秀な男。
だが、これまでこの彼――野崎は、自らがサポートするにふさわしい相手に巡り合ていなかったのだろう。
彼の真の能力の高さは評価されず、野にくすぶったまま。
研究論文を読み上げる彼の姿を見上げながら、背筋がゾクゾクとしたのを今でも覚えている。
生まれながらに「ギフテッド」と認められ、その才能を開花させた篠原には、それ故の傲慢もあった。
優れた才能を持つ子供「ギフテッド」。
その才能故、普通の子供とは特異なる行動をとり、時に偏執的な一面を見せることもある彼ら。
元々名家の生まれであった篠原は、早くにその才能を開花させ、幼少期の殆どをギフテッドの養成にたけた米国で過ごした。
日本に帰ってきたのは大学を卒業してからだが、そこで強く感じた、島国特有の閉塞感。
早くから自らがdomであることを自覚し、その上で優秀な成績を残していた篠原は、日本に来るまでプレイパートナーに事欠くという経験をしたことはなかった。
あちらならば、我こそはという華やかなSub達が皆こぞって優秀なdomである篠原のもとに集まったし、日替わりでプレイを楽しむ、なんていうのも極当たり前の感覚。
セフレというほどのものではないが、性行為もそれなりに楽しんだし、プレイにも満足していた。
それが、日本に戻って来たらどうだ。
Sub達は社会的な偏見を恐れ、表立ってその性を公表することはなく、至って地味。
更に驚かされたのが、自らをSubだと自覚していない人間が、想像以上に多いこと。
彼らは自らがnormalであることにこだわり、本来生まれ持った本能を、頑なに否定し、封じ込めようとしていた。
なんと窮屈な国だろう。
親の頼みで日本の企業に就職をしてみたはいいが、日本という国には全く何の魅力も感じない。
それなりの結果を残して、さっさと海外へ戻ろう。
そう思っていた時だ。
あの男、野崎晶と出会ったのは。
豊富な知識量と、考察力。
何度無駄になろうとも諦めない強い忍耐力に、向上心。
素晴らしい。
米国でも出会ったことのないほどに、優れたSubの気質を持つ男。
だが残念なことに、彼はいまだSubとしての自らの覚醒をしておらず、normalだと信じたまま。
けれど、コップの水があふれるまではもう僅か、といったところであると思う。
ならば彼を見守り、その傍で己のSubとして導いてやればいい。
幸いにして、自らの認めた上位者以外には、本来のSubの従属的体質が殆ど見せることのない野崎。
誰も、野崎がSubであることに気づくはずなどなかった。
「野崎、お前からはいつも甘い苺の匂いがするな」
ギフテッドとしての特徴の一つ。
匂いに過敏な反応を示す篠原の持つ、不思議な能力。
dom/Subの放つフェロモンを匂いとしてとらえるその能力が、もう間もなくだと彼に告げる。
ぐずぐずに熟れた苺の、甘い甘い匂い。
それが、ほんのわずか。
目を離した隙に奪われた。
誰ともわからぬ相手に。
篠原には確証があった。
Subとして覚醒をした野崎を、同じdom達が指を咥えてみているだけのはずがない。
ならば、連絡を取れない理由はひとつ。
「許せるはずがないだろう、野崎……」
いずれ自分のものになる筈と思い、大切に育てた蕾。
大輪の花を咲かせるその前に、誰かに摘み取られた。
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