保護猫subは愛されたい

あうる

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どんな世界にもプロというものはいるようで、その道を極めた人にしかない特技を持っているもの。 

昨夜のプレイの名残として縄の跡が残されていた手首をさすり、不具合がないか確認する。

「……どうかな晶?」
「はい、この程度ならすぐに痕も消えると思います。すごい…」
「縄自体、なめし済みの緊縛専用の物だし、今日はまだそれほど長い時間拘束するつもりもなかったからね」

実際晶に対して縄が使われたのは、マスターの言う通り大した時間ではない。
だというのに、その僅かな時間に晶に与えられた濃厚な悦楽は、今でもその身体と心に消えることなく焼き付いたまま。
あれがもっと長い時間だったなら、自分は一体、どこまで淫らな姿を曝け出したのか。
考えただけで体の芯が熱く疼くのは、これまで受けたマスターの躾の賜物だろう。

「緊縛用……ですか」
「昨日店にいた派手な女性のdomを覚えているかい?」
「あぁ……たしか」 

鈴鹿さん、そう呼ばれていたはずだ。

「彼女は縛りのプロでね。 
興味本位で何度かレクチャーを受けたことがあるんだ」
「興味本位……」

マスターにとっては、緊縛も嗜み程度の感覚でしかない。
驚きを覚えると同時に、それが世のdomにとっては当然のことなのかと納得する晶。
勿論そんな事はないのだが、晶がそれを知る日は、永遠に来る筈もなく。

「そう。今までは、ね」

今だ縄目の残る晶の手首を艶っぽい目でさすられ、晶の昨夜の快楽を忘れきらない身体に、抜けない熱が篭る。

その空気の消えきらぬまま、更に詳しい話を聞けば、彼女はSMバーの女主人だそうで、練習の為に何度かマスターも店のショーに参加した事があるという。

「その時のショーは、映像に残されていないのですか?」
「見たい?」
「はい」

思わず即答してしまう晶に、悪戯っぽく笑うマスター。

「案外ミーハーだね?」
「それがマスターなら、見てみたいです」

マスターが、自分ではないsubに対してどんなプレイをするのか、一度純粋に見てみたいと思った。

「なら、代わりに後でアキラの恥ずかしい動画を撮影させてもらおうかな?」
「見せていただけるならなんでも」
「ーー言ったね?」

後悔しないかい?と耳元で囁かれても、晶の意志が変わることはない。

「見せて、頂けますか?」
「楽しみだ」

アキラの問に答えぬまま、ぽんと頭を撫で、そのつむじに軽い口づけを落として、「さぁ、そろそろ朝食にしようか」と爽やかに告げるマスター。

普通に考えれば誤魔化されたのかと思うが、マスターの事だ。
いずれ、その機会は必ずやってくるだろう。

「そうそう、晶。昨日確認させてもらった君のスマホだが」
「私のスマホがどうか?」
「壊れていたよ。充電しても動かなくてね」
「ーーそうですか」
「許してくれるかい?」
「勿論」

許すも何もない。
マスターが壊れていたと言うなら、それでいい。

「修理に出すから、少し待っていてくれるかな?」

もし駄目なら新しい端末を用意するよ、と言うマスター。

「いえ。新しい端末は不要です」

元より連絡する相手もいなければ、これから作る予定もなく。
今更契約のために外に出るのも億劫だし、マスターがそれを許すとも思えない。
マスターにとっては、今の晶の答えも予定調和のものだろう。

「そう。なら昨日のタブレットを君にあげるよ。暇つぶしくらいにはなるだろう」
「ありがとうございます」

礼をいう晶。

「お腹が空いただろう?昨日はたくさん無理をさせたからね」
「はい…雄吾さん」

マスターに手を取られ、暗示された言葉の意味に微かに顔を赤らめながら、振り返ることなく寝室を出る。


その時の晶は既に、もう二度と戻ってくることはないだろうスマホにも、未練はなかった。

ーー昨夜感じたであろうマスターの不安がなくなるのなら、それでいい。
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