14 / 67
14
しおりを挟む
「マスターってばこんなところに隠して~。なになに?なんか動画でも見てんの?ちょっと見せ……」
ホスト風の優男がカウンター下にしゃがみ込む晶を見つけ、その手元を覗き込む。
だが、それは勿論マスターの足元でもあるわけで。
「ぐぇっ!」
「こらこら、私の可愛い子怯えてるじゃないか」
グレアを出すまでもなく、背後から首を猫の子のように摘まれ、ひょいとカウンターの外へ放り出される。
べちょりと床に伸びた男に、くすくすとした笑い声がざわめく店内。
「マスター怖っ。顔は笑ってるのに声がマジ過ぎじゃね?」
「でも折角だから、やっぱり紹介くらいはして欲しいよな~」
見えないカウンター下を興味津々に見つめる人々。
「坊や達、野暮なことはしちゃだめよ?」
「だってほら、鈴鹿さん達も顔くらい見たいと思いません?どうせここに居るみんな、家族みたいなものじゃないですか!」
怖いもの知らずな言い分に、「そうねぇ」と唇に指を立てる。
「ねぇマスター。顔くらいは見せてくれてもいいんじゃないかしら。なんだったら画面越しでもいいのよ?」
「画面越し?ってそれ……」
どういう意味??と尋ねるまでもなく、あっさり答えは明らかになった。
「あら、知らなかったの?この店には常時複数のカメラ仕掛けられているのよ。
どうせ子猫ちゃんに見せてるんでしょ?」
「エッ」と短く叫んでキョロキョロと辺りを見回す青年ーー零。
ようやくそれらしいものを見つけたのか、「おーい」と声をかけながらブンブンと画面に向かって大きく手を振る。
「マスター。同意があるなら束縛すんのもいいけど、同じsubの仲間として話し相手くらいにはしてくれてもいいんじゃないかなぁ。まずは俺とかさ」
零の足元から立ち上がり、にこにこと笑顔で語りかける結。
「ね?」
そういって、流れるように自然な様子でカウンター下を覗き込んできた結は、なかなかに強かな人物のようで。
思いがけず目があってしまい、晶は救いを求めるようにマスターを見上げた。
「俺、滝田 結っていいます。お友達に立候補してもいいですか?」
困惑するアキラの様子には構わず、慣れた調子で語りかける結。
質問の形を取りながらも、実際に視線を向けているのは晶ではなくマスターである辺り、許可を取るべき相手を心得ている。
そこで困ったのは晶だ。
「マスター?」
「お友達が欲しいかい?」
マスターが質問に質問を返す時は、アレだ。
「いりません」
「本当に?」
「はい」
マスターの目を見てはっきり断言する。
「私の可愛い子は賢いいい子だ」
「はい」
「コマンドは欲しい?」
「頂けますか?」
期待に満ちた目に、優しくほほえみながらその耳に唇を寄せ、『goodboy』と囁く。
「うわ。何この甘さ。この人マスターの偽物じゃない?」
「本気になった雄吾は庇護欲と支配欲の権化って事だね!」
「怖っ。マスター怖っ。
これでまだ出会って数日とか最早洗脳されているとしか思えないんだけど!?」
「馬鹿ねぇ。それが運命よ、運命」
私達みたいに、と再び唇を交わす女王ペア。
顔も出さない晶たが、マスターのパートナーというだけでみな歓迎ムードであるのはよく伝わってくる。
店内に仕掛けられた監視カメラは、専用のアプリをインストールするだけで、スマホから簡単にリアルタイムの映像を視聴できる優れもので、渡された時には晶も驚いたものだ。
確かに、カウンターから覗く位は許してもらいたいと思っていたが、まさかそれがこんな形で叶えられるとは。
「しかしマスター、カウンター下のスペースでは彼も窮屈なんじゃないか?
これからもそこに居させるつもりならリフォームを考えるべきでは?」
いつの間にかカウンターに歩み寄っていた一人の男が、淡々とした口調でマスターに語りかける。
マスターと同年か、少し年上といった感じの、やや鋭く野性的な目をしたその男。
「見積もりを出すか?」
「いつできる?」
「早ければ月末だな」
「わかった」
見積もりはいらない、と答えたマスターと彼との間には、すでに何らかの取引が成立したらしい。
「そういえば、首輪はもう頼んだのか?」
「あ、それ俺!!俺作りたーい!!」
ハイハイ!と手を上げたのは、先程つまみ出されたホストもどき。
「おい。お前の所は確か予約で一年待ちじゃなかったのか?」
「マスターの為なら先約なんてブッチするに決まってんじゃん。
つかおっさんだってセレブ御用達の有名建築家だし、めっちゃ忙しいんじゃないの?」
口をとがらせつつ、晶へのアピールも忘れない。
「子猫ちゃん俺ね、ネットでアクセサリーなんかのデザイナーやってるんだ。カラーとセットで指輪やピアスなんかのオーダもできるからさ!」
ピアス、と聞いて思い浮かんだのは、零と結の二人。
「そうそう、俺らのも滋賀さんの作品なんだよね。カラーをつけて大学に通うには目立ちすぎるから、そっちはまた卒業後に作ってもらう予定で」
零が耳元に指をかざし、よく見えるようにとの配慮なのか、カメラの前にぐっと身を乗り出す。
ありがたいが、正直近すぎて逆によくわからなくなった。
それにしても、二人によく似合っていることだけは間違いない。
「……考えておく」
「んじゃマスター、子猫ちゃんの写真ちょーだい?」
「ーー何故?」
「デザインを描き起こすのに使う」
「まだ考えておくと言っただけなんだが?」
「マスターの子猫ちゃんには、俺以外のデザイナーの作ったカラーなんて認めません」
「………はぁ」
妙に自信満々だが、マスターの様子を見るに腕の方は確かなのだろう。
誰もが、マスターの慶事を祝おうと浮足立っているのは良く分かった。
本当に変わった人達ばかりの集まりだが、晶にとってはとても居心地がいい。
無理に引きずり出されることもなければ詮索されることもなく。
ごく自然に、彼らの仲間に入れたようで。
「……仕方ないな」
マスターの手が、優しく晶に向かって伸ばされた。
そして。
「おいで」
ホスト風の優男がカウンター下にしゃがみ込む晶を見つけ、その手元を覗き込む。
だが、それは勿論マスターの足元でもあるわけで。
「ぐぇっ!」
「こらこら、私の可愛い子怯えてるじゃないか」
グレアを出すまでもなく、背後から首を猫の子のように摘まれ、ひょいとカウンターの外へ放り出される。
べちょりと床に伸びた男に、くすくすとした笑い声がざわめく店内。
「マスター怖っ。顔は笑ってるのに声がマジ過ぎじゃね?」
「でも折角だから、やっぱり紹介くらいはして欲しいよな~」
見えないカウンター下を興味津々に見つめる人々。
「坊や達、野暮なことはしちゃだめよ?」
「だってほら、鈴鹿さん達も顔くらい見たいと思いません?どうせここに居るみんな、家族みたいなものじゃないですか!」
怖いもの知らずな言い分に、「そうねぇ」と唇に指を立てる。
「ねぇマスター。顔くらいは見せてくれてもいいんじゃないかしら。なんだったら画面越しでもいいのよ?」
「画面越し?ってそれ……」
どういう意味??と尋ねるまでもなく、あっさり答えは明らかになった。
「あら、知らなかったの?この店には常時複数のカメラ仕掛けられているのよ。
どうせ子猫ちゃんに見せてるんでしょ?」
「エッ」と短く叫んでキョロキョロと辺りを見回す青年ーー零。
ようやくそれらしいものを見つけたのか、「おーい」と声をかけながらブンブンと画面に向かって大きく手を振る。
「マスター。同意があるなら束縛すんのもいいけど、同じsubの仲間として話し相手くらいにはしてくれてもいいんじゃないかなぁ。まずは俺とかさ」
零の足元から立ち上がり、にこにこと笑顔で語りかける結。
「ね?」
そういって、流れるように自然な様子でカウンター下を覗き込んできた結は、なかなかに強かな人物のようで。
思いがけず目があってしまい、晶は救いを求めるようにマスターを見上げた。
「俺、滝田 結っていいます。お友達に立候補してもいいですか?」
困惑するアキラの様子には構わず、慣れた調子で語りかける結。
質問の形を取りながらも、実際に視線を向けているのは晶ではなくマスターである辺り、許可を取るべき相手を心得ている。
そこで困ったのは晶だ。
「マスター?」
「お友達が欲しいかい?」
マスターが質問に質問を返す時は、アレだ。
「いりません」
「本当に?」
「はい」
マスターの目を見てはっきり断言する。
「私の可愛い子は賢いいい子だ」
「はい」
「コマンドは欲しい?」
「頂けますか?」
期待に満ちた目に、優しくほほえみながらその耳に唇を寄せ、『goodboy』と囁く。
「うわ。何この甘さ。この人マスターの偽物じゃない?」
「本気になった雄吾は庇護欲と支配欲の権化って事だね!」
「怖っ。マスター怖っ。
これでまだ出会って数日とか最早洗脳されているとしか思えないんだけど!?」
「馬鹿ねぇ。それが運命よ、運命」
私達みたいに、と再び唇を交わす女王ペア。
顔も出さない晶たが、マスターのパートナーというだけでみな歓迎ムードであるのはよく伝わってくる。
店内に仕掛けられた監視カメラは、専用のアプリをインストールするだけで、スマホから簡単にリアルタイムの映像を視聴できる優れもので、渡された時には晶も驚いたものだ。
確かに、カウンターから覗く位は許してもらいたいと思っていたが、まさかそれがこんな形で叶えられるとは。
「しかしマスター、カウンター下のスペースでは彼も窮屈なんじゃないか?
これからもそこに居させるつもりならリフォームを考えるべきでは?」
いつの間にかカウンターに歩み寄っていた一人の男が、淡々とした口調でマスターに語りかける。
マスターと同年か、少し年上といった感じの、やや鋭く野性的な目をしたその男。
「見積もりを出すか?」
「いつできる?」
「早ければ月末だな」
「わかった」
見積もりはいらない、と答えたマスターと彼との間には、すでに何らかの取引が成立したらしい。
「そういえば、首輪はもう頼んだのか?」
「あ、それ俺!!俺作りたーい!!」
ハイハイ!と手を上げたのは、先程つまみ出されたホストもどき。
「おい。お前の所は確か予約で一年待ちじゃなかったのか?」
「マスターの為なら先約なんてブッチするに決まってんじゃん。
つかおっさんだってセレブ御用達の有名建築家だし、めっちゃ忙しいんじゃないの?」
口をとがらせつつ、晶へのアピールも忘れない。
「子猫ちゃん俺ね、ネットでアクセサリーなんかのデザイナーやってるんだ。カラーとセットで指輪やピアスなんかのオーダもできるからさ!」
ピアス、と聞いて思い浮かんだのは、零と結の二人。
「そうそう、俺らのも滋賀さんの作品なんだよね。カラーをつけて大学に通うには目立ちすぎるから、そっちはまた卒業後に作ってもらう予定で」
零が耳元に指をかざし、よく見えるようにとの配慮なのか、カメラの前にぐっと身を乗り出す。
ありがたいが、正直近すぎて逆によくわからなくなった。
それにしても、二人によく似合っていることだけは間違いない。
「……考えておく」
「んじゃマスター、子猫ちゃんの写真ちょーだい?」
「ーー何故?」
「デザインを描き起こすのに使う」
「まだ考えておくと言っただけなんだが?」
「マスターの子猫ちゃんには、俺以外のデザイナーの作ったカラーなんて認めません」
「………はぁ」
妙に自信満々だが、マスターの様子を見るに腕の方は確かなのだろう。
誰もが、マスターの慶事を祝おうと浮足立っているのは良く分かった。
本当に変わった人達ばかりの集まりだが、晶にとってはとても居心地がいい。
無理に引きずり出されることもなければ詮索されることもなく。
ごく自然に、彼らの仲間に入れたようで。
「……仕方ないな」
マスターの手が、優しく晶に向かって伸ばされた。
そして。
「おいで」
22
お気に入りに追加
596
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜
・不定期
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
兄さん、僕貴方にだけSubになるDomなんです!
かぎのえみずる
BL
双子の兄を持つ章吾は、大人顔負けのDomとして生まれてきたはずなのに、兄にだけはSubになってしまう性質で。
幼少期に分かって以来兄を避けていたが、二十歳を超える頃、再会し二人の歯車がまた巡る
Dom/Subユニバースボーイズラブです。
初めてDom/Subユニバース書いてみたので違和感あっても気にしないでください。
Dom/Subユニバースの用語説明なしです。
傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる