保護猫subは愛されたい

あうる

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「マスターってばこんなところに隠して~。なになに?なんか動画でも見てんの?ちょっと見せ……」

ホスト風の優男がカウンター下にしゃがみ込む晶を見つけ、その手元を覗き込む。
だが、それは勿論マスターの足元でもあるわけで。 

「ぐぇっ!」
「こらこら、私の可愛い子怯えてるじゃないか」

グレアを出すまでもなく、背後から首を猫の子のように摘まれ、ひょいとカウンターの外へ放り出される。

べちょりと床に伸びた男に、くすくすとした笑い声がざわめく店内。

「マスター怖っ。顔は笑ってるのに声がマジ過ぎじゃね?」
「でも折角だから、やっぱり紹介くらいはして欲しいよな~」  

見えないカウンター下を興味津々に見つめる人々。

「坊や達、野暮なことはしちゃだめよ?」
「だってほら、鈴鹿すずかさん達も顔くらい見たいと思いません?どうせここに居るみんな、家族みたいなものじゃないですか!」

怖いもの知らずな言い分に、「そうねぇ」と唇に指を立てる。

「ねぇマスター。顔くらいは見せてくれてもいいんじゃないかしら。なんだったら画面越しでもいいのよ?」
「画面越し?ってそれ……」

どういう意味??と尋ねるまでもなく、あっさり答えは明らかになった。

「あら、知らなかったの?この店には常時複数のカメラ仕掛けられているのよ。
どうせ子猫ちゃんに見せてるんでしょ?」

「エッ」と短く叫んでキョロキョロと辺りを見回す青年ーーれい
ようやくそれらしいものを見つけたのか、「おーい」と声をかけながらブンブンと画面に向かって大きく手を振る。

「マスター。同意があるなら束縛すんのもいいけど、同じsubの仲間として話し相手くらいにはしてくれてもいいんじゃないかなぁ。まずは俺とかさ」

零の足元から立ち上がり、にこにこと笑顔で語りかけるゆい

「ね?」

そういって、流れるように自然な様子でカウンター下を覗き込んできた結は、なかなかに強かな人物のようで。

思いがけず目があってしまい、晶は救いを求めるようにマスターを見上げた。

「俺、滝田 結たきた ゆいっていいます。お友達に立候補してもいいですか?」

困惑するアキラの様子には構わず、慣れた調子で語りかける結。
質問の形を取りながらも、実際に視線を向けているのは晶ではなくマスターである辺り、許可を取るべき相手を心得ている。

そこで困ったのは晶だ。

「マスター?」
「お友達が欲しいかい?」

マスターが質問に質問を返す時は、アレだ。

「いりません」
「本当に?」
「はい」

マスターの目を見てはっきり断言する。

「私の可愛い子は賢いいい子だ」
「はい」
「コマンドは欲しい?」
「頂けますか?」

期待に満ちた目に、優しくほほえみながらその耳に唇を寄せ、『goodboy』と囁く。

「うわ。何この甘さ。この人マスターの偽物じゃない?」
「本気になった雄吾は庇護欲と支配欲の権化って事だね!」
「怖っ。マスター怖っ。
これでまだ出会って数日とか最早洗脳されているとしか思えないんだけど!?」
「馬鹿ねぇ。それが運命よ、運命」

私達みたいに、と再び唇を交わす女王ペア。

顔も出さない晶たが、マスターのパートナーというだけでみな歓迎ムードであるのはよく伝わってくる。

店内に仕掛けられた監視カメラは、専用のアプリをインストールするだけで、スマホから簡単にリアルタイムの映像を視聴できる優れもので、渡された時には晶も驚いたものだ。
確かに、カウンターから覗く位は許してもらいたいと思っていたが、まさかそれがこんな形で叶えられるとは。

「しかしマスター、カウンター下のスペースでは彼も窮屈なんじゃないか?
これからもそこに居させるつもりならリフォームを考えるべきでは?」

いつの間にかカウンターに歩み寄っていた一人の男が、淡々とした口調でマスターに語りかける。
マスターと同年か、少し年上といった感じの、やや鋭く野性的な目をしたその男。

「見積もりを出すか?」
「いつできる?」
「早ければ月末だな」
「わかった」

見積もりはいらない、と答えたマスターと彼との間には、すでに何らかの取引が成立したらしい。

「そういえば、首輪カラーはもう頼んだのか?」
「あ、それ俺!!俺作りたーい!!」

ハイハイ!と手を上げたのは、先程つまみ出されたホストもどき。

「おい。お前の所は確か予約で一年待ちじゃなかったのか?」
「マスターの為なら先約なんてブッチするに決まってんじゃん。
つかおっさんだってセレブ御用達の有名建築家だし、めっちゃ忙しいんじゃないの?」

口をとがらせつつ、晶へのアピールも忘れない。

「子猫ちゃん俺ね、ネットでアクセサリーなんかのデザイナーやってるんだ。カラーとセットで指輪やピアスなんかのオーダもできるからさ!」

ピアス、と聞いて思い浮かんだのは、零と結の二人。

「そうそう、俺らのも滋賀さんの作品なんだよね。カラーをつけて大学に通うには目立ちすぎるから、そっちはまた卒業後に作ってもらう予定で」

零が耳元に指をかざし、よく見えるようにとの配慮なのか、カメラの前にぐっと身を乗り出す。
ありがたいが、正直近すぎて逆によくわからなくなった。
それにしても、二人によく似合っていることだけは間違いない。

「……考えておく」
「んじゃマスター、子猫ちゃんの写真ちょーだい?」
「ーー何故?」
「デザインを描き起こすのに使う」
「まだ考えておくと言っただけなんだが?」
「マスターの子猫ちゃんには、俺以外のデザイナーの作ったカラーなんて認めません」
「………はぁ」

妙に自信満々だが、マスターの様子を見るに腕の方は確かなのだろう。
誰もが、マスターの慶事を祝おうと浮足立っているのは良く分かった。
本当に変わった人達ばかりの集まりだが、晶にとってはとても居心地がいい。
無理に引きずり出されることもなければ詮索されることもなく。
ごく自然に、彼らの仲間に入れたようで。

「……仕方ないな」

マスターの手が、優しく晶に向かって伸ばされた。

そして。

「おいで」
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