眠れるsubは苦労性

あうる

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ガチャガチャガチャ

強引に扉をこじ開けようとするかのような音にはっとする。
まずい。
流されている場合ではなかった。

「おい結城!おまえスペアキーまで持ち出しやがってよくもやってくれたな!」

聞きなれた社長の声に、舌打ちする紬。

「まさかもうバレるなんて」
「……お前ね」

いくら身内の感覚とは言え、社長を締め出すなんて普通ではありえないことだ。

「ほら、はやく鍵を出せ。まだ仕事中だぞ」
「は~い。んじゃあ、今日は一緒に帰ってお家でイチャイチャしましょうね?」
「わかった、わかったから」

どのみちしばらくは紬と一緒に行動するように言われている、と呟けば、「なんですかそれ」といぶかし気な紬。
普段は邪魔ばかりしている社長が紬の味方のような言動をすることが不思議でしかたないのだろう。

「お家騒動がどうのこうのって話だ」
「そこのところ詳しく聞きたいんで、ちょっと扉開けてきますね」

言うや否や、籠城戦を決め込んでいた扉を開け、「お待ちしてました社長」と、先ほどのまでの言動がなかったかのような爽やかな笑顔で社長を招き入れる。

「お待ちしてましただぁ?気色悪い」
「そんなことありませんって、とりあえず幼馴染の件は先輩から話を聞いたんで、そこから更に深堀した裏事情ってやつを聞かせてほしいんですけど」
「目をぎらつかせて上司を脅すとはいい根性じゃねぇか」
「上司の躾が行き届いているもので」
「くそが」

目の前で繰り返される馴染みの応酬を聞き流しつつ、俺は今日あった事を慎重に考える。

「そういえば、俺がsubだから動向、という話も、なぜ突然眠ってしまったのかと聞かれることもありませんでしたね」
「あ?……まぁ、その辺はセンシティブな部分もあるから突っ込まなかったんじゃないか」
「ですが、現場ではまるで事実確認するようにsubですよね?と聞かれましたが」
「末端のやることまで上は関知してねぇだろ。倒れたのはストレスの性だと思われてる可能性が高いしな」
「まぁ、それは確かに」

だからこそあそこまでの対応になったと言われれば納得はできる。

「大丈夫ですって先輩。先輩って、ぱっと見subっぽくないですもん。
例の担当だって、先輩の事subだって気づいてなかったんですよね?」
「多分な。その割にはさんざん厄介なグレアを浴びせてくれたが…」
「それにぎりぎりまで耐えられた先輩が凄いんですよ。
猿橋に聞きましたけど、その担当は、電話連絡の時もいつも高圧的な態度だったらしいです。
subが相手だと色々と問題にされるから、逆にノーマルに対して風当たりが強かったみたいですよ。
まぁ、裏ではsub相手にも色々やらかしてたんだと思いますけど、きっとそいつも先輩のことはノーマルだと思っていたはずです」

俺たちがいない間に猿橋を散々問い詰めたようで、紬は色々と事情に詳しい。

「最悪だな。そんなやつを雇ってるとか俺だったら耐えられん」
「俺も同感です」
「……まぁ、お前にも思うところはあるが、お前の場合綾史オンリータイプだしな」
「営業成績一位ですから」
「ボールを拾ってきた大型犬みたいな顔して自慢してんじゃねぇよ」

ぺしん、と紬の頭をはたく社長。
なんだかんだいいつつ、この二人は似た者同士な部分がある。
まぁ、本人たちは絶対に認めようとはしないだろうが。

「たまたま通りがかったところでお前が倒れてるのを見つけた、って話だったな、確か」
「はい」
「そん時も今みたいにどっかの会議室にいたんだろ?たまたま通りがかるものか?」
「…………」
「考えられる可能性としては、何らかの手段でお前が自分の幼馴染だとしったあいつが、一目お前の顔を見ようと傍までやってきて、問題行動に気づいた……か?」
「俺だったらその場でその馬鹿男ぶちのめしますね」
「懲戒解雇に近い扱いを受けたらしいから社会的には抹殺されたも同然だろ」

なるほど、と妙なところで納得をする紬。

「しかしそれだとまるで先輩のストーカーみたいですね」

嫌味な言い方は悪意があるとしか思えないが、どちらかと言えば、張り合っているという方が正しいのだろう。
こんな所でもdom同士の対抗意識が出るのかと感心したが。社長の意見はまた違うようだ。

「あちらさんも、現役バリバリで綾史のストーキングしてるお前にだけは言われたくないだろうな」
「同担拒否でお願いします」
「意味わかんねぇこと言ってんじゃねぇよ、バーカ」
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