眠れるsubは苦労性

あうる

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「悪いのはすべて社長です」
「あ?」

びしっと自らの上司を指さし、全ての責任を転嫁する紬。

「俺の、何が悪いって?あ?綾史のおまけでついてきた駄犬の分際で」
「言っておきますけど今のわが社で営業成績1位は俺ですから」
「は、さすが犬だな。愛想だけはいいってか。
だが、誰にでも愛想を振りまくようなつまんねぇ犬じゃ綾史に見捨てられんのも時間の問題なんじゃねぇの?」
「!冗談でも行っていいことと悪いことがありますよ、社長!」
「お前俺の事本当に上司だと思ってるか?社長ってあだ名じゃねぇんだぞコラ」

看板の隅から出てきた紬と社長、まるで即興の身にコントでも始めたかのように息がぴったりだが、ここが公共の場であることを少しは考慮してほしい。
今の所人気がないのが幸いだが、いつまでもこうしているわけにはいかない。


「社長、紬、とにかく社に」
「いーや。戻るのは俺とお前だけで十分だ。この駄犬はまだ仕事中だろ?どうせ外回りを途中でほっぽり出してお前のストーカー行為してたんだろうし」
「俺は先輩の護衛です」
「しれっとした顔で言うじゃねぇか。あ?」
「だから二人とも……」

全くきりがない。
取り合えず近くをタクシーが通ったのをいいことに、二人を再びタクシーに押し込み社に戻る。
歩きで社まで戻るつもりだったが、この調子ではいつになるかわからない判断しての英断だった。
外面がいい二人は、タクシーに乗り込んでしまえばそれまでの険悪な雰囲気を一瞬にして消し去り、一時休戦を決め込んだようだ。
助手席に座った社長はまだどこか憮然としているが、綾史の隣を陣取った紬は逆にご機嫌である。

「お前、外回りはいいのか?」
「問題ありません。綾史さんたちの追っかけて、ついでに近くにあった得意先にちょっと顔を出してきただけなんで」
「……お前な」

優先順位を間違えるにもほどがある。

「間違えてませんよ。俺の一番は先輩――――じゃなくて、綾史さんなんで!!」

一応場所を考慮して小声ではあるが、社長への敵意が剝きだした。
何も社長と張り合わずとも、呼びずらいなら先輩のままで構わないと何度も言っているのに。

「そういや、猿橋のほうはどうなった?面倒見てやったのか?」
「は?知りませんよあんな猿」
「……お前な……」
「ーーー嘘です。ちゃんと色々アドバイスしましたよ!これ以上綾史さんに尻ぬぐいさせたら日光の山奥に捨ててくるって、しっかり指導してやりましたから!」
「それは指導じゃなく、脅しだ」

はぁ、と深々ため息が出る。
やはり、帰ったらすぐに確認する必要がありそうだ。

「先輩たちの方はどうだったんですか?例のスパダリdomとの会食は」
「スパダリ……」

今どきの若者らしい言葉遣いに唖然とするが、そこで口をはさんできたのが社長だ。
全ての会話を聞いていたのか、くるりと後ろを振り向くと、不敵な笑みを浮かべ、「そうだ綾史」と、紬を無視して俺に話を振ってくる。

「お前、幼馴染に「あやちゃん」なんて可愛い名前で呼ばれてたんだな?俺も明日からそう呼ぶわ」
「―――勘弁してくださいッ!」
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