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思いもがけない事実が発覚しながらも、和やかな空気の中で終わった謝罪という名の会食。
ホテルを辞した二人は、その場から一駅ほど離れたところまでタクシーで離れたところで、ようやく息がつけたとばかりにはぁと二人揃ってため息を吐いた。
「『君に会うための口実が欲しかったから』だぁってさ。これって浮気?浮気だよな」
「だからやめてくださいって社長!!取引先の上役が昔別れた幼馴染みだったとか、そんなベタな展開で今更妙なフラグ立てないで下さいよ!」
本当に辞めてほしい。
あれは不可抗力。
偶然の産物であって、俺の意図したことではない。
従って「やけぼっくいに火が付いたりして?」という社長の言葉は全くのお門違い!
そもそも幼馴染を元彼のような扱いで語るのは一体どうなんだと心から抗議したい。
「紬に教えるのだけは絶対にやめてくださいよ?」
「本気でやるわけないだろ。やったが最後、お前明日から出勤してこなくなりそうだし」
「……それはどういう」
「監禁とか監禁とか監禁とか」
「………そういう相手だと思ってるのなら普段からおかしなちょっかいをかけるのはやめていただきたいのですが」
否定のし辛いブラックジョークは本当に困る。
「安心しろよ。監禁されたら速攻で助けに行ってやる。俺ならお前んちの合鍵も結城んちの合鍵も両方持ってるしな」
「……渡した覚えがないのですが?」
「安心しろ、結城からも渡された覚えはない」
「あ!あんたの方がよっぽどヤバいことしてんじゃないかっつ!!」
「この程度単なるリスク管理だろ?ヤバいことには使わねぇから安心しろよ」
「安心って……」
安心安心というが、その言葉の何処に安心できる要素があるというのか。
「そもそもお前らの今の住処紹介したの俺だし、まぁその程度のことくらい当然だろ」
「……紹介したのは不動産屋ですが?」
「その不動産屋がうちの傘下だったってことに気づかなかったのはお前らの単純ミスだろ」
「……はぁ…」
今からでも引っ越したくなってきたが……どのみち社長から逃げるのは難しいだろう。
何しろ社長の実家は複数の不動産、マンション、大型デパートなどをもつ旧財閥のお家柄。
それこそ、一昔前は家の土地から一歩も外に出ず県をまたいで移動できた、というくらいのお金持ちだ。
社長の下で働いている以上、その魔の手から逃れることは非常に困難だろう。
「今からでも仕事辞めたくなってきました」
実際にはできるはずもない言葉を軽口のように口した俺だが、その言葉に空気を換えたのは社長だった。
「で、あいつの下で働こうってか?」
「―――社長」
冷たい声に、一瞬で身が引き締まる。
「幼馴染だもんなぁ。俺には内緒で結局連絡先だって何かしら交換してたんだろ?」
「それは…」
確かに、帰り際こっそりポケットの中にプライベートの番号を書いた名刺を渡してきた。
だが、それは幼馴染というだけではなく、仕事上でもあちらとはいい関係を保っておきたいという打算が働いた結果で……。
「いいか綾史。ガキの頃はいい兄貴替わりだったんだろうが、今はいい大人だ。
おまえにゃ、既に結城っていう面倒くせぇdomが張り付いてるんだから、他のdomに隙を見せるような真似するんじゃないぞ?」
「他の、dom……」
正直に言ってしまえば、幼馴染だと発覚した後に一人のdomとしてみろと言われても、それもまた難しい。
domらしい威圧感がなかったこともその原因だろう。
紬と同じ、比較的自己顕示欲の薄いタイプなのだろうか。
確かに昔の彼はそんな感じだったような気もするが……。
「そもそもお前、意図せずあっちの弱み握っちまった事理解してんのか?」
「弱み?」
「お前言ってただろ?あいつはシングルマザーの家の子供だったって」
「ええ、その上仕事でしょっちゅう家を留守にするので、彼をうちで預かることも多くて……」
「俺は四宮家の息子が後妻の子だって話は聞いたことがない」
「……え?」
そんなはずはない。
彼本人が認めていたはずだ。
昔は、今とは苗字が違ったと。
てっきり、親の再婚か何かで四宮家に入ったのだと思っていたのだが、まさか?
「あいつとの別れの時の記憶とやらはあるのか?」
「いえ、それが全然…。小学校に入る前には姿を消していたと思うんですが、ちょっと曖昧で…」
記憶に残っていてもおかしくはないと思うのだが、ちょっと不思議なくらい思い出せない。
その言葉に、嫌なことを聞いたとばかり顔をしかめる社長。
「社長?」
「いや…。これは憶測だが、恐らくお前の幼馴染は、所謂妾の子って奴だったんだろう。
その年齢まで母親と共にいたという事は、生まれたことを四宮家が認識していなかったのか、母親が息子を手放すことを拒否して逃亡していたか……」
「まさかそんなーーー」
一気にきな臭い話になってきた。
昼ドラの見過ぎ、と言いたくなるような話だが、確かにそうでないと色々おかしいのも確かだ。
「四宮家にはあいつ以外の直系男子がいないはずだからな。実の母親との縁を切らせて養子にでも取ったんだろう。
……こりゃ、見合いの相手があいつじゃなく俺を選んだのは、そのあたりの事情を知ってたからってのがあったのかもな」
実子ならともかく、愛人の息子として生まれた相手ではなにかと外聞が悪い。
そう判断して敬遠した可能性がある。
「そんな……」
「まぁなんにせよ、相手にとってつつかれたくない過去であるのは間違いない。
――――お前も、調子に乗って連絡を取ったりするなよ?」
「……はい」
神妙な面持ちでうなずく。
今の話を聞いてしまえば、あちらからの連絡は当たり障りのない程度で済ませておいた方がいいだろうと思うのが普通だ。
「弱みを握られたと勝手に思ってお前の事を攻撃してくる可能性だってあるからな。
ーーーーお前、しばらくのあいだ結城から離れるなよ」
ホテルを辞した二人は、その場から一駅ほど離れたところまでタクシーで離れたところで、ようやく息がつけたとばかりにはぁと二人揃ってため息を吐いた。
「『君に会うための口実が欲しかったから』だぁってさ。これって浮気?浮気だよな」
「だからやめてくださいって社長!!取引先の上役が昔別れた幼馴染みだったとか、そんなベタな展開で今更妙なフラグ立てないで下さいよ!」
本当に辞めてほしい。
あれは不可抗力。
偶然の産物であって、俺の意図したことではない。
従って「やけぼっくいに火が付いたりして?」という社長の言葉は全くのお門違い!
そもそも幼馴染を元彼のような扱いで語るのは一体どうなんだと心から抗議したい。
「紬に教えるのだけは絶対にやめてくださいよ?」
「本気でやるわけないだろ。やったが最後、お前明日から出勤してこなくなりそうだし」
「……それはどういう」
「監禁とか監禁とか監禁とか」
「………そういう相手だと思ってるのなら普段からおかしなちょっかいをかけるのはやめていただきたいのですが」
否定のし辛いブラックジョークは本当に困る。
「安心しろよ。監禁されたら速攻で助けに行ってやる。俺ならお前んちの合鍵も結城んちの合鍵も両方持ってるしな」
「……渡した覚えがないのですが?」
「安心しろ、結城からも渡された覚えはない」
「あ!あんたの方がよっぽどヤバいことしてんじゃないかっつ!!」
「この程度単なるリスク管理だろ?ヤバいことには使わねぇから安心しろよ」
「安心って……」
安心安心というが、その言葉の何処に安心できる要素があるというのか。
「そもそもお前らの今の住処紹介したの俺だし、まぁその程度のことくらい当然だろ」
「……紹介したのは不動産屋ですが?」
「その不動産屋がうちの傘下だったってことに気づかなかったのはお前らの単純ミスだろ」
「……はぁ…」
今からでも引っ越したくなってきたが……どのみち社長から逃げるのは難しいだろう。
何しろ社長の実家は複数の不動産、マンション、大型デパートなどをもつ旧財閥のお家柄。
それこそ、一昔前は家の土地から一歩も外に出ず県をまたいで移動できた、というくらいのお金持ちだ。
社長の下で働いている以上、その魔の手から逃れることは非常に困難だろう。
「今からでも仕事辞めたくなってきました」
実際にはできるはずもない言葉を軽口のように口した俺だが、その言葉に空気を換えたのは社長だった。
「で、あいつの下で働こうってか?」
「―――社長」
冷たい声に、一瞬で身が引き締まる。
「幼馴染だもんなぁ。俺には内緒で結局連絡先だって何かしら交換してたんだろ?」
「それは…」
確かに、帰り際こっそりポケットの中にプライベートの番号を書いた名刺を渡してきた。
だが、それは幼馴染というだけではなく、仕事上でもあちらとはいい関係を保っておきたいという打算が働いた結果で……。
「いいか綾史。ガキの頃はいい兄貴替わりだったんだろうが、今はいい大人だ。
おまえにゃ、既に結城っていう面倒くせぇdomが張り付いてるんだから、他のdomに隙を見せるような真似するんじゃないぞ?」
「他の、dom……」
正直に言ってしまえば、幼馴染だと発覚した後に一人のdomとしてみろと言われても、それもまた難しい。
domらしい威圧感がなかったこともその原因だろう。
紬と同じ、比較的自己顕示欲の薄いタイプなのだろうか。
確かに昔の彼はそんな感じだったような気もするが……。
「そもそもお前、意図せずあっちの弱み握っちまった事理解してんのか?」
「弱み?」
「お前言ってただろ?あいつはシングルマザーの家の子供だったって」
「ええ、その上仕事でしょっちゅう家を留守にするので、彼をうちで預かることも多くて……」
「俺は四宮家の息子が後妻の子だって話は聞いたことがない」
「……え?」
そんなはずはない。
彼本人が認めていたはずだ。
昔は、今とは苗字が違ったと。
てっきり、親の再婚か何かで四宮家に入ったのだと思っていたのだが、まさか?
「あいつとの別れの時の記憶とやらはあるのか?」
「いえ、それが全然…。小学校に入る前には姿を消していたと思うんですが、ちょっと曖昧で…」
記憶に残っていてもおかしくはないと思うのだが、ちょっと不思議なくらい思い出せない。
その言葉に、嫌なことを聞いたとばかり顔をしかめる社長。
「社長?」
「いや…。これは憶測だが、恐らくお前の幼馴染は、所謂妾の子って奴だったんだろう。
その年齢まで母親と共にいたという事は、生まれたことを四宮家が認識していなかったのか、母親が息子を手放すことを拒否して逃亡していたか……」
「まさかそんなーーー」
一気にきな臭い話になってきた。
昼ドラの見過ぎ、と言いたくなるような話だが、確かにそうでないと色々おかしいのも確かだ。
「四宮家にはあいつ以外の直系男子がいないはずだからな。実の母親との縁を切らせて養子にでも取ったんだろう。
……こりゃ、見合いの相手があいつじゃなく俺を選んだのは、そのあたりの事情を知ってたからってのがあったのかもな」
実子ならともかく、愛人の息子として生まれた相手ではなにかと外聞が悪い。
そう判断して敬遠した可能性がある。
「そんな……」
「まぁなんにせよ、相手にとってつつかれたくない過去であるのは間違いない。
――――お前も、調子に乗って連絡を取ったりするなよ?」
「……はい」
神妙な面持ちでうなずく。
今の話を聞いてしまえば、あちらからの連絡は当たり障りのない程度で済ませておいた方がいいだろうと思うのが普通だ。
「弱みを握られたと勝手に思ってお前の事を攻撃してくる可能性だってあるからな。
ーーーーお前、しばらくのあいだ結城から離れるなよ」
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