眠れるsubは苦労性

あうる

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「先輩、本当にすんませんっしたーー!!」

出社するなりスライディング土下座で出迎えたのは、件の後輩猿橋だった。

「いやもうこのタイミングでインフルとかめっちゃラッキー………じゃなかった、最悪だなと思いまして!!」


「お前今本音ダダ漏れしてたろ」
「げっ。結城先輩、なんでそこに!?」
「俺と先輩は一心同体なんだよ!」
「え、ストーカー……?」
「よし、ちょっと一緒にトイレに行こう」
「ぎゃ~~!!先輩助けて~~!」
「うっせ!先輩は俺のなんだよバーカ!」

「………おまえ達」


なんて知能指数の低い会話だろうか。
頭が痛くなってきた。
そこに、背後からぬっとあらわれた気配。
ポンと肩をたたかれ、仕方なく振り返る。

「おはよ、高倉」
「………社長、おはようございます」

丁寧に頭を下げる俺の姿に、あわてて従う後輩二人。
こいつら本当に周りが見えていないにもほどがある。

「例の件、高倉が上手くまとめてくれたんだって?助かったよ~」

ありがとうな、とねぎらいの言葉をかけ、ちらりと背後を流し見る。

「猿橋、お前高倉に感謝しろよ?訂正部分の確認やなんかはお前に任せるから、しっかりやれよ?それから最終確認は必ず誰か別の人間を通すこと、いいな」
「は、はい!!」

最後まで責任をもって任せるのはいいが、二度同じ失敗をするようでは目も当てられない。
社長の指示はもっともだ。
すっ飛んでいった猿橋に「いい気味」と笑う紬だが、当然の社長の追及はそこで終わらない。

「んで結城、お前は何でここにいんの?」
「ですから俺と先輩は」
「一心同体はわかったから、さっさと昨日の出張の成果を纏めて来い。
受付に昨日買った土産も配達されてたから、午後は関係先に挨拶がてら渡しに行くぞ」
「はい、社長」
「いい子の返事だが、高倉は置いて行け」

俺の手をつないだまま歩き出そうとした紬は、その当然の指摘にしぶしぶ手を離す。

「じゃあ先輩、行きたくないけど行ってきます。本当は一秒でも先輩と離れたくないです」
「……バカみたいなことを言ってないでさっさと行け」

ひらひらと手を振り、未練たっぷりの紬を送り出す。
ようやく騒がしいのがいなくなったと、ふぅと一息を突いたところで、「で、だ」と。
再び肩をたたかれ、もはや嫌な予感しかしない。

「高倉。ーーーーいや、綾史あやふみ
昨日何があったか、ちょっと社長室で詳しく聞かせて貰おうか。
………お前、例の発作で倒れたんだろ?」

肩に手を置かれ、小声で囁かれる。

「なぜそのことをご存じで?」
「担当者から直々に謝罪があった。
あっちの会社のコンプライアンスに引っかかる事案が発生して、お前に迷惑をかけた、ってさ」

確かに、強いパワハラ的な発言を受けたことは否定しないが、わざわざ会社を通じて謝罪をしてくるとは。

「…普通はあの程度の事でそこまではしないはずですが」
「現場を上司に見られてたってんじゃ、そうはいかないだろ」
「四宮専務、でしたか」

まずいところに出くわしてくれたものだ。

「そ。なんだ、わかってんなら話は早い」

ぽんぽん、と背中をたたかれ、「今日の昼めし、俺と一緒な」と突然話が飛んだ。

「あっちの四宮と俺は家同士の繋がりがあって多少顔見知りなんだよ。
お前の事やけに気にしてたようだから、謝罪がてら一度食事でもどうかって話になった」
「できればお断りしたいのですが」
「安心しろよ。警戒してんのは俺も一緒だ。
あいつがただの酔狂でこんな所まで出張ってくるとは思えないからな」
「なら社長だけでなんとか収めてくださいよ…」

昨日からの色々で、こちらは疲労困憊だ。
これ以上余計なものを抱え込みたくはない。

「お前の顔を見ないことには納得しないってうるさいんだよ。
お前のその、麗しのご尊顔にぞっこんなのかもな?」
「それこそセクハラに値する案件かと思いますが」
「俺とお前の仲にセクハラなんて言葉が通用すると思うなよ、綾史」
「そういうときだけ先輩後輩の関係を強調してくるのはどうかと思いますが」
「結城みたいにべったべたくっついてる方がましだと?」
「ーーーーーあれは例外です」

しいて言うなら、あれは躾に失敗した犬みたいなものだ。
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