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第二部 少年編

第五回

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「ええい、ままよ!」

 背負われたマイヤは必死になって『姫竜の牙』を右手で握りしめ、左手で覚えたての印を切った。

「ぶぶうう!」

 彼女のお尻から盛大な屁が放たれる。同時に風の刃を放つ魔剣が赤く輝き、刀身から強い風が起こった。

「ぶぼぼぼぼぼ!」

 またも屁が。今度は嫌な感じの音がした。少々ばかり身も出てしまったらしい。マイヤは顔を歪め「うええええん……」と泣きながらお尻がきもちわるいと嘆いた。

「集中するでござる! くそを漏らしても念じ続けるでござるよ!」
「うええええん。そんなこと言っても!」
「拙者はマイヤの秘められた力を信じておるでござる! 貴殿はおしゃぶりやうんちあなへのちんちんほじほじをした後に……」

 流れ込んだ精液で、魔の者が漂わせる力を拙者に感じさせるのだとイズヴァルトは告げる。そりゃそうだけど、とマイヤは否定しなかった。

 彼女は強く念じた。強い風が自分たちを吹き上げ、無事に城のど真ん中へと着地させてくれる事を。しかし尻穴から出た実はぐちゅっとしていて気持ちが悪かった。

「おちり。おちりがかゆいよー!」
「後で拙者がこの口と舌でぺろぺろと清めてあげるでござるよ! 我慢なされよ!」
「ふええええん! そんな洗い方いやだよう。『すかとろ』は好きじゃないよう!」
「拙者はマイヤのうんちを食べて死ぬのも本望でござる! たっくさんぶりぶり出して食わせていただきたい!」
「……あれれ? 私が7歳の頃、3日洗ってなかったおまんこを舐めてお腹を下して苦しんでたの、どこの誰かな?」

 勇ましく返したイズヴァルトは、やや恥ずかしげに「拙者でござる」とうなだれた。冷静さを取り戻し、恐怖と羞恥とが薄れたマイヤは剣に向ける念に集中出来た。

 ヒッジランドの姫騎士が得た風の剣が、その真価を引き出した。姫騎士の遠い子孫が用いられなかった魔剣は、マイヤにも手を貸す。

 風の剣が起こした風は、イズヴァルトとマイヤの身体を包んで結界を築いた。城から幾本もの矢が飛んでくるが風に阻まれて当たらない。

 2人は関所のフジイデール側の壁上に降りた。高いところからの落下による恐怖が蘇ったマイヤはお腹が痛くなった。

 急ぎ姫竜の牙でひもを切ってイズヴァルトから離れると、その場で思い切り尻をめくってしゃがみこんで、びちゅびちゅと嫌な音を盛大にたてる。

「こわかったよう。ひどいびぢぐそが出てるよイズヴァルトー!」
「……こっちは手薄でござるな。おーい!」

 イズヴァルトは呆気に取られる山賊たちに、のんきな声で呼びかけた。

「イズヴァルト=シギサンシュタウフェン、ここに見参でござる!」

 名乗っただけで山賊らが驚きの声をあげはじめた。

「げっ!」
「あのイズヴァルトかよ!」
「す、すみませーん。僕ら、これから退散しまーす! 襲わないでね!」

 イズヴァルトよりも筋骨隆々で荒らくれ者がかっている無精髭の男らは、剣や弓矢を収めて逃げ始めた。まともに戦ってもだまし討ちをしても勝てぬ相手と知っていたからである。

 その後ろでマイヤは盛大に、「ぶりぶりぶりっ!」とまたも下痢便を放ち続けていた。

 やっとのことで尻穴からの放出が終わると、コートのポケットに入れていた尻拭き用の葉っぱで、糞汁で汚れた肛門のまわりをがしがしと拭いた。

「イズヴァルト。おなかすいたよ。何か無い?」
「のんきでござるな……まあそれは拙者も同じでござるが。さてさて」

 早速暴れるでござるよと、イズヴァルトは反対側の城壁を見て言った。あちらは交戦中だから侵入者を殺そうとする気合があった。

「マイヤ、お尻を拭き終えたら向かうでござる。『姫竜の牙』は貴殿に預けるでござるよ?」
「わ、わかったよ……」

 マイヤはまだ残るかゆみをこらえて立ち上がった。あちら側の城壁から矢が飛んでくると彼女は剣を振り、矢の飛ぶ向きを変えて驚かせた。

 イズヴァルトは大剣を握りしめ、マイヤと共に砦の山沿いにある連絡路へ向かう。途中で勇猛果敢な山賊達が襲いかかったが、イズヴァルトの剣さばきにおののき、逃げて行ってしまった。

 弩台が並ぶ東側の城壁に入ると、味方側から飛んでくる矢をマイヤの風の魔法で避けながら、イズヴァルトは射手達に襲いかかった。

 大剣で護衛を殴り飛ばし、弩台を斬り砕いて回る。城壁からの矢が収まったのを見たカルカドは、配下に命じて皆に閧の声をあげさせた。

「総攻撃だ! 一気に押し寄せろ!」

 彼の号令の元で城壁に張り付いた武者らが鉤爪付きの縄を飛ばしてよじ登り始める。いよいよ関所の奪取は間近かと思えた。


□ □ □ □ □


 イズヴァルトが降り立った同じ頃である。突然の空からの襲撃を見て驚いた山賊数名が、関所の城壁に囲まれた守備兵の詰め所に飛び込んだ。

 その詰め所の仮眠室では若い女の甘ったるい喘ぎ声と、その相手のせわしない息遣いが響き渡っていた。

 山賊らはその部屋の中に入り、冬なのに男女の体臭が籠もった生暖かい空気にたまらねえなと笑った。淫欲をそそられたからだ。

 のみがぴょんぴょん飛び跳ねている汚い寝台の上に、睦み合う男女がいた。女は男に組み敷かれ、背をのけぞらせてうめいている。

 波がかった長い金髪を留め飾りで束ねていた。身長は155ぐらいで持ち上げた顔は大層美しかったが、鼻が高く伸びていた。

 大股開きで受け入れている女の股を突き続け、伸びたふぐりを揺らしていたのは、異様な髪型にした金髪のエルフの男。

 背が高く体つきはごつい。妙なのは前髪から頭頂部をわざと剃り、禍々しく見せている事だった。

 オーガの衆の中で『さかやき』と呼ばれる髪型である。はげ始めた男がええいままよと変える髪型であるが、このエルフの男にハゲは無かった。

「なんだべえ?」
「たいへんです! たいへんなんです!」
「うっさいべえなあ。おれはこのおんなと取り込み中だべえよ?」

 山賊達は苦々しげに繋がりあったままの2人を見た。この2人こそが彼等の山塞にふらりとやって来て、砂金や銀貨の袋を渡して関所の奪取を持ちかけたのだ。

 女は大層小ぶりの乳房で少女の様にも思えたが、聞けば30近い歳だという。山賊のうち頭目やその側近らは彼女と一晩を過ごした事があると聞いた。中の具合も技巧も、とんでもない絶品らしい。

 女が男の首筋に手を回した。女は右手首から先が無かった。それを左の手でしっかりと掴み、男にぶら下がった。

 エルフ男は彼女の尻を持ち上げて、膣奥への打擲を盛んにし始める。女が気持ちよくよがるのを見て山賊たちはいよいよ性汁を先からこぼしながら、助けてほしいと頭を下げた。

「おねがいですから! お2人の力が今すぐ必要なんです!」
「つべこべとうっさいべえ。このタマテガルデン要害がそう簡単に抜けるはずがねえべえよ」
「そ、そうですよ。とっても気持ちいいところで……ふううっ。無粋なもんですねえ」
 
 2人は気にせず番い狂う。しかし男のほうはすでに何度か果てていた。ペニスとヴァギナの連結部は洪水だった。

 その真っ黄色くて臭い精液がたんまりとこぼれ、のみだらけで汚いシーツを濡らして汚す。城壁からの悲鳴に仲間からの聞いたことがある名前を叫ぶ声が聞こえた時である。

「……イズヴァルト?」

 女のほうが悦楽の時から正気に戻された。さっきまでの夢うつつの眼差しとうって代わり、得物狩りに向かう蛇のような鋭い目で、相手のエルフ男にもう出せますかい、と問いかける。

「もちろんさ。うおらっ!」

 エルフ男のペニスがびゅんと液を放った。女は身体を離して枕元に置いた手ぬぐいで己の局部を拭い始める。ぱっくりと開かれた女性器からどくどくと精液が流れ出ていた。

 エルフ男のほうは性器を拭わぬまま、ズボンとシャツを身に着けて胸甲や鎧をまとい始める。どれも古傷や返り血がそのままの汚らしいものだった。

「エイオンさん。やっと戦う気になったんですね?」
「……うわっ! また仲間の悲鳴だよ。どんなのが来たんですかね?」

 エイオンと呼ばれたエルフ男は、尚も大股を開いた美女の股から流れてくる己の精液を嬉しそうに眺めながら笑った。

「誰が来ようとヌマタラシュク七本槍と数えられた俺様に、勝てるニンゲンはいないべえよ?」

 長い舌で唇をなめ、天井を見上げて険のある眼差しを向ける。その頃イズヴァルトは東側の城壁の上を攻めて、カルカドが率いる軍に閧の声をあげさせたところであった。

「……やっかましいべえ。しっかし俺様が出たらこうも得意そうに掛け声をあげ続けられるかなあ?」

 エイオンは部屋の済にかけていた槍に目を向けた。穂の左右にまた穂がある2メートル半ほどの特異な槍。十文字槍というものだ。かのエルフが持つ得物であった。

 この男、エイオン=アントネスクはカントニア大陸北西部にあるミナッカミニア山地に住む金髪エルフの部族の最大派閥・ヌマタラシュク派に属するシラサワショフ部族の猛者。

 この時代のカントニア大陸の傭兵界隈では『恐怖の首刈り十文字槍』と渾名される凄腕だった。

 かの男が窓から飛び出していくのを山賊らは見届けながら、ベッドの上で尚も素っ裸のまま、陰裂からこぼれ出る精液をぬぐう女に目を向ける。

「あのう、姐さん……」
「あんたも行かないんですか?」

 女はやや大きな鼻の穴を膨らませながら、指でちょいちょい、と彼等を力寄らせた。それから精液がこぼれ出るほぐれきった女性器を指差し、それを指で大きく広げてみせた。

「エイオンさんに任せてみなさんは、ちんこをすっきりさせときゃいいんじゃないんですかねえ。あっしのここで……」

 山賊たちはごくりとつばを飲み込んだ。それからズボンの紐を外し、恥垢にまみれたぶっといペニスを顕わにした。

 女はそれに目を輝かせて後ろに倒れる。最初の男がエイオンの出したものでぬめりきったヴァギナに沈み込むと、気持ちよさそうに声を上げはじめた。

 局部が精液まみれになるまで亜人の男と交わったのに、まだし足り無いというとんでもなく淫蕩なこの女だが、なにゆえ山賊達に関所を奪わせたのかは謎であった。


□ □ □ □ □


 イズヴァルトが東の城壁の山賊たちを蹴散らし、壁に取り付いた兵士達がよじ登って次々と上がり始めた頃である。

 城壁にあがろうとする者に手を貸して手伝っているところで、左から悲鳴を聞いて振り向いた。あがった兵のうち数名が、腕や脚を刎ね飛ばされて地面に倒れ、もがき苦しんでいたのだ。

「うわあ! うわあああ!」

 若い農兵が切り離された自分の右脚を抱えながらもがく。イズヴァルトとさして歳が違わない若者だ。泣き叫ぶ口蓋を鋭い槍の穂先を貫いた。

「うっさいやつだべえ」

 煩わしそうに吐き捨てたのは、異様な頭をした金髪の男エルフであった。エイオン=アントネスク。死体を足蹴りするその姿にイズヴァルトは激怒した。

「何をなさるでござる! もはや戦えぬ者に非道な事をなされるとは!」
「うっさいやつだべえ。おれは慈しみの心でもって止めをさしたべえよ。治癒魔法も使えねえで血を流してだらだらと死を待たせるほうこそ、人でなしというもんだべえよ」

 血に染まった十文字槍をでもってエイオンは示す。彼に腕や脚を斬り飛ばされた者達が、大量の血を流し次々と顔を青ざめさせているのを。

 それでも死体蹴りは言語道断。イズヴァルトは剣を上段に構えながら斬りかかった。

「威勢だけはいい小僧っ子だべえ」

 エイオンは己の武に絶対の自信を持っていた。特にニンゲン風情に遅れを取る事などまったく無い、と自負していた。身体能力が数段上の亜人であれば多くの者が思うことだ。

 しかし上段から兜割りを避けようと思って横にそれたのに、気づかぬ内に首筋を狙っての横からの一撃になったのを見てあれ、と思った。

 相手は機敏な動きがしにくい大剣を用いているはず。首を引っ込めてやり過ごすと肩筋に刃がふれそうになるのを感じて恐怖した。

 即座に本気を出す。イズヴァルトが唸るぐらいの身のこなしで彼の剣をかいくぐると、数歩退いて十文字槍を構えた。

「よくやるべえな!」

 エイオンはその場で跳躍。5メートル程の高さまで飛び上がると穂先をイズヴァルトに向けて飛び込んできた。身体能力の差を見せつけて脅す一手だ。

 しかしイズヴァルトは動じない。足元に落ちていた山賊の投げナイフを手に取ると向かってくるエイオンに向けて投げつけた。

 もちろん眉間に向けてだ。深々と刺さるはずだったが切っ先は彼の眉間の皮膚をほんの少し突いただけでからんと落ちてしまった。

「……石頭でござる」
「うおらっ!」

 エイオンがイズヴァルトの面前に着地してすくい上げるように槍をしごく。『覇王の剣』でイズヴァルトは防ぎ払い除けた。

 死神の鎌のごとくエイオンはめっぽう速い動きでイズヴァルトに斬りかかる。自在かつ狡猾。並の武者では必ず一撃は食らうはずであった。

 しかしイズヴァルトはそれらをことごとく避けた。エイオンは焦った。ここまで身のこなしの良いニンゲンは滅多にお目にかかれなかった。

 横殴りの一撃を十文字槍の柄でいなしたが、その膂力にもっと驚かされた。オーガ族の若武者か、エルフでも最強と言われるナハリジャーヤの女衆に匹敵すると見た。

「……まずいべえ」

 思わず口に出してしまった。何がまずいのかと問いかけながら、イズヴァルトは隙の生じた相手の首元に素早く一突きを入れた。

「あがっ……!」

 エイオンは無意識の内に後ろに飛んだが、大剣の鋭い切っ先は深々と彼の喉元をえぐった。血が飛び散り、前かがみになってエイオンはうめく。

(やったでござるか?)

 立ち上がれない深手を負わせたはずだった。しかしエイオンの喉から流れ出た血はすぐに止まった。立ち上がった彼は喉についた血を手でぬぐい、傷がふさがったことをイズヴァルトに知らしめた。

「どういう事でござるか?」
「あれぐれえの傷ならエルフ族はすぐにふさがっちまうんだべえよ。治癒魔法のおかげだあ」
「と、なればなます切りにすればよいだけの事でござる」
「ぬかせえ!」

 エイオンが勇躍して再び突きかかった。イズヴァルトは驚きつつも相手の弱い所や隙を見極めながら避け、打ち払い、カウンターを放った。

 攻防は一進一退。技量はイズヴァルトのほうが上。エイオンは顔や鎧を刃でかする。イズヴァルトは相手に一撃を許さなかった。

 しかし体力はどうか。イズヴァルトは若くて有り余る元気があったけれど、超回復でつけられた傷を癒やし、尚も息を弾ませて襲いかかるエイオンに勝てるとは思えなかった。

 いずれ体力が先に尽きて傷を受けるだろう。受け身や避けでいくらか和らげられるが、果たして亜人の武者相手にどれだけ通用するか。

 それをマイヤは上がってきた兵士達とともに見守り続ける。下手なことをすると狙われかねない。そもそもイズヴァルトが助太刀を許してくれるわけがないのだ。

「ど、どうしよう……」

 他の兵士達も割って入る気になれなかった。もともとが農民であり非常時に徴収された者達である。この城壁越えは無理やり命令された事だ。勇敢さや名声欲しさではなかった。

 マイヤは皆にこっそりと、今のうちに門を開けておくようにと呼びかけた。数名が階段を降りて怯える山賊を圧倒し、関所の門を開けた。

 入ってきた先手は村の騎士や武勇自慢のその従者達だ。たちまちのうちに山賊たちをやっつけては捕らえた。

 関所をたちまちのうちに占拠した。残るは関所の兵士の宿舎であったが、そこに入った武者たちは次々と悲鳴をあげて二度と戻って来なかった。

 何が起きたかと他の者が入ると、その者達の断末魔の声ばかりが。一体何が起きているのだろうとマイヤはじっと眺める。

 すると、エイオンが「ちくしょう!」と叫ぶ声が轟いた。イズヴァルトにやられたのではない。彼にめがけて炎の球がいくつも飛んで驚かせたからだ。

「魔法戦士がいたんだべえかッ!」

 彼らの周りで炎があがっていた。戸惑うエイオンにイズヴァルトは隙をついて体当たりをかけようとするが、それを避けられて返しの一撃を受けた。

「……ぐっ!」

 飛び込んで来た十文字槍の左の穂で鎖帷子の左肩を削られていた。骨まで達してはいないが肉はえぐれてしまっている。

 イズヴァルトが退くとエイオンはげひ、と笑ってみせたがこれ以上は打ちかかろうとしなかった。

「多勢に無勢。勝負はお預けだべえ。おめえさま、なんて言う名だあ?」
「イズヴァルト=シギサンシュタウフェンにござる……」
「おめえさまがエルフか『あいのこ』だったら、多分おれは負けてただろうなあ。ははっ。怖い顔すんなよ?」

 エイオンはその場で大きく跳躍し、城壁の内側の建物の屋根に飛び移った。またも大きく飛んで西側の城壁へと。友軍が矢を放ったが彼には当たらなかった。

 イズヴァルトは追いかけようとしたが、肩の痛みが激しくなり、走れなかった。その場でへたり込むと自分の下半身を見て驚いた。

 鎖帷子ごと切り裂かれて血が滲んでいたのだ。いつの間にか受けていたらしい。よく見れば脇腹や胸も引き裂かれていた。

 戦いの興奮が鎮まると途端に身体のあちこちに痛みを感じた。マイヤが駆けつけてイズヴァルトの怪我を見て驚く。

「いつの間に。こんな大怪我をしたの?」
「肩以外の傷はそれほど深くはないでござる。あやつ、とんでもなく強かった……」

 そうつぶやいてイズヴァルトはうめいた。穿たれた左肩が更に痛みを増したのだ。マイヤが集まって来た兵士達に呼びかけるとイズヴァルトは彼等の手を借りて、城壁の階段を降りて行った。


□ □ □ □ □


「山賊風情が亜人の用心棒をか。不思議なものだな」

 イズヴァルトが負傷した報告を受けたカルカドは、その時関所の宿舎の中にいた。

 宿舎の中には山賊や自軍の武者の死体がいくつも転がっていた。皆が喉笛をかき斬られたり、左の胸を穿たれて事切れていた。

 イズヴァルトの監視につけていた一番若い側近が、この建物の中に1人だけ生き残っていたという人物を連れて来た。金髪の女だった。

 かの青年が大層困った顔をしていたのは、その女が全裸で太ももを精液まみれというあられもない姿だったからだ。

 女は両手で顔を隠してめそめそと泣いてばかりだった。小柄で乳房が大きくないが、体つきは引き締まっていて美しく思えた。

 男どもの汗と精液の匂いをこびりつかせた身体をあられもなくさらけ出すのに、カルカドは軽い情欲を覚えていた。

「女、顔を見せろ」

 側近が促すと彼女はゆっくりと腕を降ろして顔をあげた。鼻が大きい一重まぶたの若い女。おおよそ20ぐらいかと見た。

 顔の輪郭とつくりは申し分ない。やや目立ちすぎる鼻が欠点にも思えたがそれ以外は合格点以上だ。女色に欲深いカルカドの心が動いた。

「名はなんという?」
「わ、わたしはマリアンナと申します」
「歳はいくつだ?」
「30を……少し過ぎたぐらい……」

 二十歳ぐらいの女に見えたが歳がいっていた。南部にあるイーモリハウゼン公のとある村に夫と子供と共に暮らしていたが、3年前に流行り病で死に別れ、ナントブルグへ出稼ぎに来たという。

 カルカドは女の下腹のあたりを穿つように見た。確かに妊娠の跡があった。彼は生娘や初産を迎えていない女よりも、子を産んだことがある女を抱きたがった。

「ですが、あの山賊たちに連れ去られて……」

 拉致されてからのこの2年、彼等の山塞で慰み女として来る日も来る日も犯され続けたという。子供も1人もうけたが産まれてすぐに死んだ。

 どこまで本当かはわからぬが、この女が同情に値すべきとまではカルカドもわかった。それよりも裸身が気にかかって仕方がなかった。

 肌質は良さそうだしたるんだところが無い。踊り子のそれみたいに引き締まった腰は激しく振るのが得意そうだ。カルカドは側近に指図した。

「この女を保護しろ。妾達に湯浴みの用意をさせろ」
「は、はあ……」
「今夜は西の城壁に天幕を張って寝る。荷馬隊の連中に用意させろ。この2日間は奇襲に備えて不寝番を倍にして警護にあたらせろ」

 それからイズヴァルトを含めて負傷者達は西の宿場町まで連れて行き、フジイデールの軍医の治療に当たらせろ、と告げて後始末の指揮に向かってしまった。

 イズヴァルトはマイヤと共に西の門から宿場町へ運ばれた。その宿場町は湯治場もあり、キッヒャーが来るまで逗留することとなった。

 その夜は傷ついた身体のせいでイズヴァルトは性欲を抱える事は出来なかった。寝台に寄り添って眠るマイヤも、戦いのせいで疲れ切って精飲にいそしむ気にもなれない。

 しかしカルカドは違った。西の城壁に張った天幕の中で、戦いに勝利した高揚感を敷いた絨毯の上で四つん這いになる2人の妾に向けてぶちまけていた。

 情を欲してくねらせる腰をつかみ、乱暴に突き上げて苦悶の声をあげさせる。1人の妾に気をやればもう1人の女の割れ目を突き込み、果てれば相手を変えて繰り返した。

 外は小雪がちらつく冬だというのに、天幕の中は蒸し暑くなっていたカルカドと妾2人の汗と体液のにおいが籠もっていた。

 妾2人が音を上げてへばり、豊かな肢体をごろんとさせると、まだ股間の硬直が盛んに脈打っていたカルカドは、外にいた護衛に呼びかけた。

「あの女……マリアンナを連れて来い。味見をしたい」

 マリアンナは連れて来られた。着るものが無かったのでサンダルに毛布で身体を包むというみじめな格好だった。

 しおらしくして現れた彼女にカルカドは、毛布を外せと申し付けた。山賊たちに舐め回されて来たという小柄な白い裸身を、たちまちのうちに絨毯の上に転がす。

 怯えた顔でじっと待つ女の両脚を掴んで腰を持ち上げさせると、カルカドは覆いかぶさって割り込んだ。思っても見なかった中の具合に唸った。

「うむ……」

 とても良く締まっている。本当に経産婦のそれなのかと疑問に思う程だった。腰を動かすとマリアンナはこわばった表情を崩し、次第に快楽に正直な女の顔に変わっていった。

 盗賊らに無理やりに淫婦を演じさせられている地味な女と思いきや、好色で貪欲なところがある。

「貴様。死んだ夫はさぞかし楽しでいただろうな?」

 マリアンナは無言だった。いじらしいな、とつぶやいてカルカドは腰の動きを早くした。相手の息遣いも荒くなる。

 男根と結合するヴァギナの吸い付きぶりも強くなった。それから交合にあえぐ女の色香も強くなる。カルカドは夢中になり始めた。

 無理やりに唇を奪って吸い込み、無茶苦茶に貪った。何度も何度も中で果てたが欲情が収まらず、尚も小さな体を抱きしめて中を探り続けた。

「しかしだな……」

 よがるマリアンナの顔をじっと見つめながらカルカドがささやく。どこかで見たことがある顔だ。

「そっくりな女を俺は見たことがあるぞ」
「そ、それはいつ頃にでしょうか?」
「10年近く前だな。見たのは外国でだ。俺は外交使節のうち1人として行った」

 とある国の王太子に嫡男が産まれたということで、その祝いの為に向かったのだとカルカドはささやいた。

「王太子は……まだ少年の頃だったな。そこそこ整った顔立ちをしていたが、背が低くて風采のあがらないと評してもいいぐらいだ」

 己の精液が詰まった膣を、ぐい、と押し込みながら続けた。

「しかし大層な艶福家だ。その頃から沢山の妻妾を侍らせていた。子供も嫡子以外にたくさんいた」

 その嫡子を産んだ女によく似ているとカルカドは指摘した。もう少し鼻が低くて目は二重だった。その当時は16か17だと聞いたことがある。王太子の3歳年上だとも。

 元は魔法騎士団の団員であり将来を嘱望された女武者だと聞いた。とある名門貴族の姫君だったとも。マリアンナと同じく巻毛がかった金髪だった。
 
「カルカド様。それは……なんというお名前の国だったのでしょう?」
「隣国のイーガだ。世界屈指の魔法騎士団を擁するのはあの国しか無い。貴様はかの王太子の妾によく似ている。最近見かけないが……」

 そう言えばとカルカドは思い出した。その女にはとても大きな特徴があった。右手が義手だったのだ。訓練で大怪我をして切断したらしいと聞いた。

「しかし、貴様には右手があるな。少々動きがぎこちない様に見えるが」
「まあ……もしかしてこの右手が」

 本物だったり思うんですかい。マリアンナは右手の掌底を彼の首にあてていた。カルカドは突然に左の首筋に鋭く激しい痛みを覚えた。

「き、貴様は」

 もう声が出なくなっていた。マリアンナはカルカドの首から右手を離した。血に濡れた氷の刃がそこに生えていた。

 カルカドとて魔法戦士としての鍛錬を積んでいる。しかし気づかぬ内にマリアンヌは術を仕掛けていた。

 相当な実力者だからできる芸当。まんまと騙されたと思いながらマリアンヌにどかされた彼は、これまでずっと静かだった妾2人の異変にやっと気がついた。

 うつぶせになってへばって眠っていたはずの2人の首が、真紅に染まった氷のつららによって絶たれていた。彼女達の血は凍てつき氷となっていた。

「お……おのれ……」

 助けを呼ぶ前にカルカドは息絶えた。マリアンナは彼が死んだのを確かめた後、まとっていた毛布かぶり天幕の外に出た。

 目の前には逃げたはずのエイオンと、革鎧に身を包んだ2人の金色エルフの女が待っていた。

 天幕の周囲には護衛達の物言わぬ屍が転がっている。彼等が仕留めた。エイオンは抱えていたかばんと十文字槍と違う短槍とをマリアンナに投げ渡した。

「エレクトラ。目的は果たしたべえか?」
「そうでさあ。カルカドさんに人生最後となるおまんこをたっぷりしていただいてから始末しましたよ」
「へへっ。あのニンゲンもおめさまのべっちょを楽しめて良かったなあ。ぎひひ!」

 エイオンは下品に笑い、他の2人の女エルフも含み笑う。かくしてマリアンヌもといエレクトラと呼ばれた女は、彼等と共に関所から逃げて行った。

 イズヴァルト達は関所で起きた急変を知ること無く昏々と眠りにつくが、さてカルカドが討たれたこの事件は、聖騎士の旅にいかなる変化をもたらすのであろうか?

 その続きについてはまた、次回にて。
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幼馴染同士パーティーを組んで冒険者として生計を立てている2人、シルフィとアステリアは王都でのクエストに一区切りをつけたところだった。 故郷の村へ馬車が出るまで王都に滞在する彼女らは、今流行りのオイルマッサージ店の無料チケットを偶然手に入れる。 好奇心旺盛なシルフィは物珍しさから、故郷に恋人が待っているアステリアは彼のためにも綺麗になりたいという乙女心からそのマッサージ店へ向かうことに。 しかしそこで待っていたのは、真面目な冒険者2人を快楽を貪る雌へと変貌させる、甘くてドロドロとした淫猥な施術だった。 シルフィとアステリアは故郷に戻ることも忘れてーー ★登場人物紹介★ ・シルフィ ファイターとして前衛を支える元気っ子。 元気活発で天真爛漫なその性格で相棒のアステリアを引っ張っていく。 特定の相手がいたことはないが、人知れず恋に恋い焦がれている。 ・アステリア(アスティ) ヒーラーとして前衛で戦うシルフィを支える少女。 真面目で誠実。優しい性格で、誰に対しても物腰が柔らかい。 シルフィと他にもう1人いる幼馴染が恋人で、故郷の村で待っている。 ・イケメン施術師 大人気オイルマッサージ店の受付兼施術師。 腕の良さとその甘いマスクから女性客のリピート必至である。 アステリアの最初の施術を担当。 ・肥満施術師 大人気オイルマッサージ店の知らざれる裏の施術師。 見た目が醜悪で女性には生理的に受け付けられないような容姿のためか表に出てくることはないが、彼の施術を受けたことがある女性客のリピート指名率は90%を超えるという。 シルフィの最初の施術を担当。 ・アルバード シルフィ、アステリアの幼馴染。 アステリアの恋人で、故郷の村で彼女らを待っている。

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