聖騎士イズヴァルトの伝説 外伝 『女王の末裔たち』

CHACOとJAGURA

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第三部 カツランダルク戦記 『第三章・カツランダルクの姉妹』

105 決意

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 数多くの戦いを繰り広げて12年。やっとのことで天下分け目の大決戦にこぎつけられた。そのタカイチゲンシュタットの会戦では多くの武将や腹心を討たれながらも勝ちにこぎつけられた。
 
 自分の用いた心理掌握の魔法で内部をかく乱し、ホーデンエーネン軍の最左翼を弱体化して切り崩して勝った。次はナントブルグか敵本拠地のアスカウか、という会議の中で、ナガオカッツェ王が退くべきだと言い始めた。
 
「なにゆえでしょう? こちらの被害は確かに大きい。けれども向こうはもっと大きいはず。猛将のデーニッツの首も挙げられたのですよ?

 デーニッツの首桶が目の前にあった。彼が五大星と呼んだ猛者達の首を入れたものも4つ。しかし最強と名高いシギサンシュタウフェンの首は取れなかった。あまりにも強かったからだ。オーガ族最強と名高い『剣王』アルムの血を一番濃く引く、最も恐るべきホーデンエーネンの武者だという。
 
「あまりにも損害がひどいからです。この為に同盟軍は3万の兵を捻出して決戦に赴きました。向こうは1万5千と聞き及んでおります。確かに合戦には勝ちました。しかし、我らの死傷者は1万。向こうは4千をいくらか超えるぐらい……」

 戦えなくなった者の数からいえば、こちらは負けたと同じだ。けれどもこの敗戦にホーデンエーネン側はうろたえているはず。
 
「ここで完膚なきまで打ちのめさねば、ホーデンエーネンは再び勢いを盛り返すことでしょう。ナガオカッツェ王、なにとぞ、お力添えを……」
「ですが……」

 渋るナガオカッツェ王を『説き伏せる』為にリリーナに目を向ける。あなたからもお願い。16になったばかりのリリーナ女王が目を潤ませながら頭を下げた。ナガオカッツェ王はうなだれていた。
 
 この場にいる王たちはいわば、リリーナの遠い親戚である。それから、リリーナは彼等をつなぎとめる為にかわるがわる同衾していた。大人びている美しい顔立ちと先祖に劣らぬ見事な肢体、寝床での熱心な求愛ぶりに心を奪われぬ者はいなかった。
 
 そしてこの若い女王は子を孕んでいた。父親はこの場に並ぶ王たちのどれか1人だ。リリーナの子の父親かもしれぬナガオカッツェ王は従うしかなかった。たとえ勝てぬ戦とわかっていてもだ。
 
 その怖れを解きほぐす為にその夜は彼を招いて酒を酌み交わし、肌を重ね合わせた。リリーナへの情だけでは心もとなかったからだ。
 
 次の日の朝早くに出発した。ナントブルグへだ、まずは奪還すること決めた、しかしその途中で奇襲に遭い、恐ろしい手練れの剣士が間近に来ることを許してしまった、
 
「なぜ邪魔をするの?」
「理由などあるか。おれには受けた命令があるのだ」

 目で追えない素早さだった。気づいた時には胸に刃が深々と入っていた。思念体も深く傷つける魔法の剣だった。
 
 その一撃は刺客の全身全霊を込めていたようだ。助からないと観念した。薄れゆく意識の中、その男がいとも簡単に駆け付けた武者によって切り刻まれるのを見届けた。
 
(こんなところで終わるのか、私は……)
 
 そこから先の意識は無かった。そして彼女は何も考えられなくなった。
 
 
□ □ □ □ □


(その後、わたしは産声をあげた。リーファおかあさんの股から出て、初めて見たお産婆さんのうれしそうな顔を覚えているわ。)

 四方を取り囲む壁画を見て、それがつぶやく。ヒトでも生き物でもない。魔力と思念の塊だ。しかし光が凝縮したかのように現れているその輪郭は、豊かな肢体を持つ女のそれである。
 
 壁画は男女の様々な交合図であった。詳細かつ写実的に描かれていた。これを見つけた者は性欲にはしった画家の落書きと思うだろうが、それは違う。
 
(この城のあるじだった女とその一族の記録。『過去のわたし』とその子供達の愛と生殖の物語。わたしがあの絵師たちに描かせたもの。)

 この部屋は『過去の自分』とその娘達がひとつの大きな王国を築く為、様々な男達と交わり、絆を深めた場面を描いている。天井には全ての祖の美しく愛らしい、赤子を抱きながらしゃがんでおしりを向ける絵があった。その赤子こそが過去の自分、である。
 
(ようやく戻って来た。すべての記憶が。ここはリリーナのお部屋だった。ここでリリーナはわたしが諭した通りに、王たちを引き入れて友として遇した。)

 ここでリリーナの最初の赤子が作られた。その子は女の子だったと聞いている。生き残ったリリーナとともに僻地に飛ばされ、カミラ達の援助を受けながらも寂しい生涯を送ったと聞いた。
 
 カツランダルクの女らしく、早い歳での出産で、父がわからぬ赤ん坊をたくさん産んだ。全てはカツランダルクの血を絶やさぬ為にだ。
 
 産まれた子供は女の子ばかりだった。リリーナとその娘はどちらも30になる前にみまかった。出産は性交以上の悦をもたらして痛みと苦しみは無かった。けれど、出産は確かに生命力を削ったのだ。末期の彼女らは骸骨の様にやせ衰えていたそうだ。
 
 しかしその献身はとうとう成った。それが『自分』である。
 
 初代女王の腹心であったカミラとシャロンから期待された英傑。彼女達に学び、成長して来た。紆余曲折あったがアスカウの大公となり王国の跡継ぎを産み、ホーデンエーネンの女丞相とあいなった。武力ではなく内側から勝ち取ったのだ。
 
(もう敵はいない。それなのに歯向かう者がまだいる。私を裏切った男児達の末裔だ。)

 ソーローとスカルファッカー。残るあの2家を滅ぼす。オルフレッドとコリアンナには申し訳ないが、その血を強く残すスカルファッカーの姫達とチュバッカ=ソーローも、もろとも討ち果たさなければならない。根絶やしにする為にだ。
 
 いつの間にか、自分はこの城のこの部屋に来ていた。無意識の転移魔法だろう。どうしてそうなったのかがようやくわかった。復讐を完遂させる為にだ。自分の甘さと迷いをかなぐり捨てて、立ち上がれと呼びかけたのだ。過去の自分が。
 
「今度こそ……」

 それが天井を見上げる。美しくも可愛らしい『大御所様』。過去のわたしのおかあさん。今の妹の様に可愛らしく、うんちをした後のお尻のお世話を喜んでするほどに大好きだった。
 
(トリミミノさま、見ていてください。わたしを。あなたが魔界へ戻ってしまった子供達の未来を、輝かしいものにしてみせます。このキンキ大陸を、誰もが豊かに、幸せに暮らせる楽園に、作り変えてみせましょう。)
 
 その身体の輝きが一層強くなった。その周囲にピンク色をした、複雑な起伏や襞がある生暖かい物体が現れると、一瞬にしてその部屋を覆った。
 
 むわっとする様な湿っていて暖かい空気は香料よりも甘く香しく、死と虚無だけしか無かったこの遺跡に、いびつながらも生命の息吹を吹き込む。
 
 思念体が産み出したそれは部屋を出ると、一気に遺跡全体に広がり、ぼろぼろになっていたその外郭をも包み込んだ。
 
 
□ □ □ □ □


「くそっ! なんなんだよこれは!」

 アナキンが叫ぶ。四方八方より迫り来る、襞ばかりの軟体の生き物たちを剣で追い払っていた。
 
「ぼっちゃん。きりがないですよ!」

 その物体を拳で殴りつけ、潰すようにしてやぶいていたピルリアも泣きそうだ。退かせるのは楽だ。取り込まれなければやられない。けれども次から次へと押し寄せて来る。たまったもんじゃない。
 
 彼らがいたのは地上1階だ。夏なのに冷え切っていた城の空気はこれまでになく蒸し暑くなっていた。人の体温ぐらいに高いだろう。この上なく不快だ。この回廊を潜り抜けた20メートル先には出口から差し込む光が見えているのに。
 
(しかしなんなんだ? こいつらが発するにおいをかぐと、なんだかムラムラが収まらないぞ?)

 剣を振るうアナキンはひどく勃起していた。あの小部屋でピルリアと3回もしたのに、血が集まってなかなか引かないのだ。まったくしょんぼりする気配が無い。この不気味な生き物のにおいを嗅ぎ、その姿を見てからだ。
 
 斬った感触はとても柔らかい。しかも表面はぬめっている。こいつらにちんちんをこすりつけるとさぞかし気持ちが良くなるだろう。精液をぶっかけたら消えるかな、こいつら?
 
「こいつら、おまんこみたい!」

 迫り来るそれらを見てそう言ったのは、ピルリアだった。櫓にいた魔道士がやって来て避難の準備をしろと言われて地下1階にまであがったところ、いきなりこいつらが現れた。魔道士は飛び掛かって来た軟体生物にたちまち取り込まれ、口と鼻だけを除いて壁に貼りつけられてしまった。生き物は彼の服の中に入ると、乳首とペニスを包み込んで舐めまわしたのだ。
 
「ぬおおお♥ きもちいいいい♥」

 そういう類の魔法生物かと思って助けなかったが、自分達にも迫って来たので追い払う事にした。どうせ命の危険は無いだろうと思って魔道士は置いて逃げた。本当に気持ちよさげに悶えていたから、悪いとは思わなかった。
 
 しかし自分は嫌だ。新しい扉が開くかもしれないが、この軟体の何かには本能的に嫌悪感を覚えていた。言い方はおかしいが生理的にうけつけない。アナキンはこらえながら斬り続けた。
 
「ぼ、ぼっちゃん!」

 また新手がとピルリアが悲鳴をあげた。今度は天井から触手を伸ばして襲い掛かって来たのだ。気づかないうちに壁もてっぺんも覆われていた。万事休すか。
 
 アナキンは跳躍して斬り飛ばす。そこへ今度は壁から幾本も迫って来た。
 
 アナキンはたちまち腕を絡め取られて引き寄せられる。剣を握りしめているがうまく使えないだろう。
 
「くそおっ!」

 叫んだその時だった。アナキンをとらえていた触手が、飛んで来た風の刃によって切り落とされた。自由になったアナキンは、魔法を飛ばした人物の声を聞いた。入口からである。
 
「アナキンさん、ピルリアさん、大丈夫か!」

 ルッソ=シュミットだった。それともう1人いた。パルパティアだ。しかし彼女の右腕は、肘から先が無くなっていた。
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