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第三部 カツランダルク戦記 『第三章・カツランダルクの姉妹』
102 命そのものを喰らう者
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カヅノ=セイジは思わずうろたえてしまった。計り知れない圧を、その『気配』から感じたからだ。
(な、なんていう魔力だ!)
計り知れないぐらいだ。自分どころか、絶好調のコーザをも上回るだろう。『すかうたー』での魔力値計測でいったら1億5千万以上だろうか。
あの時の記憶がよみがえってしまった。ナーガハーマで屈辱を受けた戦い。トーリに圧倒的な差を見せつけられた時の事をだ。自分達だけが持っていた神聖魔法の数々を、一瞬のうちに真似されてしまった屈辱的な出来事であった。
あの時からだ。トーリ=カツランダルクを絶対に滅ぼさなければならないと決意したのは。あれはいずれ最強の敵になる。世界をパラッツォ教による楽園するコーザの、彼に従い、とある目的で動いている自分達『枢機卿』の、最悪の敵にだ。
「ここで滅ぼし切ってやる! 逝ねぇ!」
心の中で首にかけている『預言者』の像の男根に口づけながらエイメン、と叫ぶ。彼の身体の中にある、信心と言う名の魔力素が活発化し、『奇蹟』と呼ばれたその力が発動するまで高ぶらせる。神聖魔法だ。
「『異端諮問者の縛り縄』は、思念をも捕らえるのだッ!」
目には見えないトーリの魔力の塊の周囲が、いくつもの太いひも状でぐるりと巻かれた。束縛術式である『異端諮問者の縛り縄』の、カヅノ=セイジが使える最大のものだった。それでも彼の全力ではない。この術式は魔力消費がそれほど無いからだ。それでも十分に効果はあった。
(身動きできんな! はははは!)
トーリの思念体を縛りあげたその後は、手に持った剣による『魔族殺しの剣』でとどめを刺す。まだ完璧に習得したわけではないが、自分にならやれるはずだ。
「死ね、化け物!」
セイジは赤く輝くミスリルの剣を両手に持って上段に構えると、大きく踏み込んで跳躍し、剣を振り降ろした。その一太刀は縛り付けられるトーリの『念体』に届くはずだった。
「……!」
突如として彼は天幕の真上に突き上げられていた。あまりに強い衝撃をもろに喰らい、握っていた剣は落としてしまった。落とした剣は絨毯から這い出た無数のうねうねとくねり続ける半透明のそれらに、奪い取られて絨毯の中に持ち去られてしまった。
「触手姫の魔法か!」
触手である。魔法生命体だ。ぷにぷにかわいい水魔のブランカを、ちんぽで可愛がることができたカヅノ=セイジも、その魔法を学んでいた。
しかしトーリの思念体が呼び出したそれは、このテントの地面をいっぱいにはびこっていた。カヅノが呼び出せるのはせいぜい、5本か6本ぐらいだ。それだけあの思念体には、とんでもない魔力が蓄えられているという事だ。触手達がカヅノに向け、一斉に伸びて来た。
「そこまでして力を見せつけようとするのか! 淫魔がぁッ!」
激高して叫ぶと、カヅノ=セイジの頭上に、十字と合わさった光輪が生じた。青くまぶしく輝く。強力な神聖術式の使い手だけが生じうる、
エイメン、とまた心の中で叫ぶ。カヅノの前面に光の壁が生じた。防護術式の『マルタの防塁』。一気に拡大して前に進む。バリヤーで押しつぶすつもりなのだ。
この術式はきわめて強力な代物だ。至近距離からの投石砲をはじいたり、全体を鋼で作ったバリスタ矢の矢じりを曲げてしまう。押しつぶして殺す方法にも使えた。思念体には効かないだろうが、触手は全部潰せるはずだ。
セイジは持てる力の全てをそれに注ぎ込んだ。光の壁に圧されてテントの中の調度品は砕け、椅子や小さなテーブルがひしゃげて潰れた。
光の壁はとうとう床にまで進んだ。触手達は潰され、中の体液がこぼれて土に吸われていった。セイジは高笑いしながらそれを見届け、トーリの思念にこう叫んだ。
「この光の壁は魔力も潰すからな! どれだけ効くかわからんが、苦しむがいい!」
光の壁で押しつぶしたままにしよう。あとは、外で手ごろな剣を見つけてトーリの『魂』を斬るだけだ。彼は炎の魔法でテントの背後を焼き焦がすと、そこから出てすぐ、矢を受けて事切れている兵士が握っていた剣を奪い取り、背後のテントに目を向けた。
「……なにっ?」
思念体が持つ魔力の塊が空に浮かんでいた。『マルタの防塁』を破られたということだ。セイジは急ぎ剣に魔族殺しの力を与え、転移魔法でもって一気に間合いを詰めた。
気合の一声。右からの一文字斬り。手ごたえは確かにあった。剣が触れた時、鋭い悲鳴が一瞬だけ聞こえたからだ。
(やったか!)
いや、魔力の塊はそこにあった。魔の力は2つに分かれることなく1つにまとまっていた。そして彼は明らかな敵意と憎悪とを、それから感じ取った。これまで味わったことがない、凄絶な恐怖が彼の心に起こっていた。
「きさまあぁあっ!」
この一撃で死なないのか? 不完全とはいえ彼が秘めた魔力の多くをのせた一撃だった。これを受けて死なぬ魔族はいないはずだ。
しかしこの怪物には通用しなかった。それはあたりにぴりぴりとした空気を生じさせ、一気に力を開放した。あたりで地割れが起こり、そこからいくつもの火柱があがった。
「『シディムの火』か!」
敵を地割れの中に飲み込み、中から吹き上がる炎で焼き尽くす神聖魔法の術式だ。ナーガハーマでトーリがいきなり使ったのと一緒だ。どうやら本気で殺しにかかるらしいとセイジは思った。
「猿真似をするな、魔族のくせに! 神聖魔法は信心深い者のみが使える物だッ!」
いや、彼はその叫びを撤回すべきだと悟った。トーリの思念体の真上に、自分のと似た光輪が輝いていたからだ。ナーガハーマで見た、周囲をいくつもの棒で囲んでいる、一本の縦線が通った二重の光輪。なんだか生臭くむわっとにおってきそうで卑猥なデザインのだ。
そしてその魔力の塊は、大きくてぼやけている輪郭だったものが凝縮し、細い人型の様な形に変わっていた。まるで女の霊に見えた。
それから発せられる威圧感に、セイジは心の底から震えていた。まさか、自分がこいつに気迫で負けるだと?
「セイジ!」
東の方から兄の声がした。彼は自分よりも小柄なその声の主に抱きかかえられ、いつの間にかどこかの山の頂上の岩の上に、兄と一緒に倒れ込んでいた。
「兄さん……何をした?」
「お前を抱えて転移魔法でありったけ遠くまで飛んだだけだ」
あの魔法体が女の形になった時、とんでもない魔力の暴発の予兆を感じたので急ぎ連れて逃げたのだとサトシは言った。
「まずいぞ、あれは。俺達の手に負える代物ではない! 手に余る化け物だ!」
「俺にはわからなかったが……」
間近にではなく、遠くにいたから伺えたのだ。サトシはあのキャンプ地全体に、うっすらとあのヘイローと同じ形の術式結界が生じたのを目撃していた。それが急に広がり始めて何かまずいことが起こると思い、セイジと逃げたのだ。
「しばらくはあちらに戻るな。何が起こるかわからないからな」
「しかし、あれほどの魔力があるならいつでも肉体をよみがえらせるだろう。そうなったらこの陰謀をトーリのやつはナントブルグに密告するかもしれん」
そうなれば教主コーザの耳にも入る。あの男を敵に回すだろう。絶望しかない。コーザに勝てる魔道の使い手など、この世界には魔竜しかいないはずだからだ。
「だろうな。だが、今戻れば必ず殺される。トーリの思念体は計り知れなかった。魔法が使えなくなった分、サキュバスの行いを続けていた貯蓄がたくさんあったんだろう」
「……だからこそ殺さなければならんよ。俺は行く」
セイジがゆっくり立ち上がって転移魔法の準備を始めると、とつぶやいてサトシも従った。殺せるかどうかはわからないが、できうることをやってみなくては。
□ □ □ □ □
そこにはトーリの思念はいなかった。代わりにあったのはがらりと変わった景色だった。
青々と茂っていた草木は残らず枯れ果てしおれていた。花は散り、鳥のさえずりや鳴き声は聞こえてこない。ましてや、川で魚がはねる音や、獣の鳴き声も。死に瀕してうめき声をあげる兵士や、彼等を毒矢で射殺したゾウズジャヤ=エルフの刺客たちの気配も。
「……みんな死んでいる」
森の方を見て来たサトシが告げた。トーリ襲撃に加わったもの全員が、塵と化して服や武器防具があたりに散らばっていた。生涯に一度も風呂に入らない者が多い『汚なエルフ』の悪名通りに、鼻がひん曲がるほどくさいにおいだけがあった。
「そうか……」
セイジは川に目を向ける。息絶えた魚や水辺の昆虫たちが浮かんでいた。空を飛ぶものは鳥どころか羽虫さえもいなかった。何が起こったのだ?
「サキュバスの本質、エナジードレインだろうな」
「精液から魔力を得るのではなくてか、兄さん?」
「生命はそれ自体に魔力を含んでいる。トーリは怒り狂って本能を暴走させたんじゃないだろうか。推測だがな……」
精液から得る魔力はほんのちょっとである。しかしサキュバスはそれを効率よく吸収して蓄える。しかしサトシが考える今の状態は、命から直接吸って奪い取っている様なものだ。
「セイジ、追うしかない。トーリ=カツランダルクは精液を吸う魔物から命そのものを喰らう魔物に進化したようだ。このままだともっと被害が出る」
「もちろんそうするさ。だがな、トーリは俺が考えた道を進んでくれているようだ」
セイジは北の方角を見渡す。街道沿いの草木が枯れていた。何故かわからぬがトーリはこの先に進むようだ。
その先には彼が陰謀の道具としてケノービに出した、ルッソ=シュミットとアナキン=スカルファッカー達がいた。当初はトーリがナガオカッツェからの派遣部隊と勘違いして殺してもらう予定だったが、今はちょっと事情が変わっているだろう。
(あの2人が逸材だと聞いたが、どれほどのものか……まあ、足止めだけでも上出来ってところだな。)
(な、なんていう魔力だ!)
計り知れないぐらいだ。自分どころか、絶好調のコーザをも上回るだろう。『すかうたー』での魔力値計測でいったら1億5千万以上だろうか。
あの時の記憶がよみがえってしまった。ナーガハーマで屈辱を受けた戦い。トーリに圧倒的な差を見せつけられた時の事をだ。自分達だけが持っていた神聖魔法の数々を、一瞬のうちに真似されてしまった屈辱的な出来事であった。
あの時からだ。トーリ=カツランダルクを絶対に滅ぼさなければならないと決意したのは。あれはいずれ最強の敵になる。世界をパラッツォ教による楽園するコーザの、彼に従い、とある目的で動いている自分達『枢機卿』の、最悪の敵にだ。
「ここで滅ぼし切ってやる! 逝ねぇ!」
心の中で首にかけている『預言者』の像の男根に口づけながらエイメン、と叫ぶ。彼の身体の中にある、信心と言う名の魔力素が活発化し、『奇蹟』と呼ばれたその力が発動するまで高ぶらせる。神聖魔法だ。
「『異端諮問者の縛り縄』は、思念をも捕らえるのだッ!」
目には見えないトーリの魔力の塊の周囲が、いくつもの太いひも状でぐるりと巻かれた。束縛術式である『異端諮問者の縛り縄』の、カヅノ=セイジが使える最大のものだった。それでも彼の全力ではない。この術式は魔力消費がそれほど無いからだ。それでも十分に効果はあった。
(身動きできんな! はははは!)
トーリの思念体を縛りあげたその後は、手に持った剣による『魔族殺しの剣』でとどめを刺す。まだ完璧に習得したわけではないが、自分にならやれるはずだ。
「死ね、化け物!」
セイジは赤く輝くミスリルの剣を両手に持って上段に構えると、大きく踏み込んで跳躍し、剣を振り降ろした。その一太刀は縛り付けられるトーリの『念体』に届くはずだった。
「……!」
突如として彼は天幕の真上に突き上げられていた。あまりに強い衝撃をもろに喰らい、握っていた剣は落としてしまった。落とした剣は絨毯から這い出た無数のうねうねとくねり続ける半透明のそれらに、奪い取られて絨毯の中に持ち去られてしまった。
「触手姫の魔法か!」
触手である。魔法生命体だ。ぷにぷにかわいい水魔のブランカを、ちんぽで可愛がることができたカヅノ=セイジも、その魔法を学んでいた。
しかしトーリの思念体が呼び出したそれは、このテントの地面をいっぱいにはびこっていた。カヅノが呼び出せるのはせいぜい、5本か6本ぐらいだ。それだけあの思念体には、とんでもない魔力が蓄えられているという事だ。触手達がカヅノに向け、一斉に伸びて来た。
「そこまでして力を見せつけようとするのか! 淫魔がぁッ!」
激高して叫ぶと、カヅノ=セイジの頭上に、十字と合わさった光輪が生じた。青くまぶしく輝く。強力な神聖術式の使い手だけが生じうる、
エイメン、とまた心の中で叫ぶ。カヅノの前面に光の壁が生じた。防護術式の『マルタの防塁』。一気に拡大して前に進む。バリヤーで押しつぶすつもりなのだ。
この術式はきわめて強力な代物だ。至近距離からの投石砲をはじいたり、全体を鋼で作ったバリスタ矢の矢じりを曲げてしまう。押しつぶして殺す方法にも使えた。思念体には効かないだろうが、触手は全部潰せるはずだ。
セイジは持てる力の全てをそれに注ぎ込んだ。光の壁に圧されてテントの中の調度品は砕け、椅子や小さなテーブルがひしゃげて潰れた。
光の壁はとうとう床にまで進んだ。触手達は潰され、中の体液がこぼれて土に吸われていった。セイジは高笑いしながらそれを見届け、トーリの思念にこう叫んだ。
「この光の壁は魔力も潰すからな! どれだけ効くかわからんが、苦しむがいい!」
光の壁で押しつぶしたままにしよう。あとは、外で手ごろな剣を見つけてトーリの『魂』を斬るだけだ。彼は炎の魔法でテントの背後を焼き焦がすと、そこから出てすぐ、矢を受けて事切れている兵士が握っていた剣を奪い取り、背後のテントに目を向けた。
「……なにっ?」
思念体が持つ魔力の塊が空に浮かんでいた。『マルタの防塁』を破られたということだ。セイジは急ぎ剣に魔族殺しの力を与え、転移魔法でもって一気に間合いを詰めた。
気合の一声。右からの一文字斬り。手ごたえは確かにあった。剣が触れた時、鋭い悲鳴が一瞬だけ聞こえたからだ。
(やったか!)
いや、魔力の塊はそこにあった。魔の力は2つに分かれることなく1つにまとまっていた。そして彼は明らかな敵意と憎悪とを、それから感じ取った。これまで味わったことがない、凄絶な恐怖が彼の心に起こっていた。
「きさまあぁあっ!」
この一撃で死なないのか? 不完全とはいえ彼が秘めた魔力の多くをのせた一撃だった。これを受けて死なぬ魔族はいないはずだ。
しかしこの怪物には通用しなかった。それはあたりにぴりぴりとした空気を生じさせ、一気に力を開放した。あたりで地割れが起こり、そこからいくつもの火柱があがった。
「『シディムの火』か!」
敵を地割れの中に飲み込み、中から吹き上がる炎で焼き尽くす神聖魔法の術式だ。ナーガハーマでトーリがいきなり使ったのと一緒だ。どうやら本気で殺しにかかるらしいとセイジは思った。
「猿真似をするな、魔族のくせに! 神聖魔法は信心深い者のみが使える物だッ!」
いや、彼はその叫びを撤回すべきだと悟った。トーリの思念体の真上に、自分のと似た光輪が輝いていたからだ。ナーガハーマで見た、周囲をいくつもの棒で囲んでいる、一本の縦線が通った二重の光輪。なんだか生臭くむわっとにおってきそうで卑猥なデザインのだ。
そしてその魔力の塊は、大きくてぼやけている輪郭だったものが凝縮し、細い人型の様な形に変わっていた。まるで女の霊に見えた。
それから発せられる威圧感に、セイジは心の底から震えていた。まさか、自分がこいつに気迫で負けるだと?
「セイジ!」
東の方から兄の声がした。彼は自分よりも小柄なその声の主に抱きかかえられ、いつの間にかどこかの山の頂上の岩の上に、兄と一緒に倒れ込んでいた。
「兄さん……何をした?」
「お前を抱えて転移魔法でありったけ遠くまで飛んだだけだ」
あの魔法体が女の形になった時、とんでもない魔力の暴発の予兆を感じたので急ぎ連れて逃げたのだとサトシは言った。
「まずいぞ、あれは。俺達の手に負える代物ではない! 手に余る化け物だ!」
「俺にはわからなかったが……」
間近にではなく、遠くにいたから伺えたのだ。サトシはあのキャンプ地全体に、うっすらとあのヘイローと同じ形の術式結界が生じたのを目撃していた。それが急に広がり始めて何かまずいことが起こると思い、セイジと逃げたのだ。
「しばらくはあちらに戻るな。何が起こるかわからないからな」
「しかし、あれほどの魔力があるならいつでも肉体をよみがえらせるだろう。そうなったらこの陰謀をトーリのやつはナントブルグに密告するかもしれん」
そうなれば教主コーザの耳にも入る。あの男を敵に回すだろう。絶望しかない。コーザに勝てる魔道の使い手など、この世界には魔竜しかいないはずだからだ。
「だろうな。だが、今戻れば必ず殺される。トーリの思念体は計り知れなかった。魔法が使えなくなった分、サキュバスの行いを続けていた貯蓄がたくさんあったんだろう」
「……だからこそ殺さなければならんよ。俺は行く」
セイジがゆっくり立ち上がって転移魔法の準備を始めると、とつぶやいてサトシも従った。殺せるかどうかはわからないが、できうることをやってみなくては。
□ □ □ □ □
そこにはトーリの思念はいなかった。代わりにあったのはがらりと変わった景色だった。
青々と茂っていた草木は残らず枯れ果てしおれていた。花は散り、鳥のさえずりや鳴き声は聞こえてこない。ましてや、川で魚がはねる音や、獣の鳴き声も。死に瀕してうめき声をあげる兵士や、彼等を毒矢で射殺したゾウズジャヤ=エルフの刺客たちの気配も。
「……みんな死んでいる」
森の方を見て来たサトシが告げた。トーリ襲撃に加わったもの全員が、塵と化して服や武器防具があたりに散らばっていた。生涯に一度も風呂に入らない者が多い『汚なエルフ』の悪名通りに、鼻がひん曲がるほどくさいにおいだけがあった。
「そうか……」
セイジは川に目を向ける。息絶えた魚や水辺の昆虫たちが浮かんでいた。空を飛ぶものは鳥どころか羽虫さえもいなかった。何が起こったのだ?
「サキュバスの本質、エナジードレインだろうな」
「精液から魔力を得るのではなくてか、兄さん?」
「生命はそれ自体に魔力を含んでいる。トーリは怒り狂って本能を暴走させたんじゃないだろうか。推測だがな……」
精液から得る魔力はほんのちょっとである。しかしサキュバスはそれを効率よく吸収して蓄える。しかしサトシが考える今の状態は、命から直接吸って奪い取っている様なものだ。
「セイジ、追うしかない。トーリ=カツランダルクは精液を吸う魔物から命そのものを喰らう魔物に進化したようだ。このままだともっと被害が出る」
「もちろんそうするさ。だがな、トーリは俺が考えた道を進んでくれているようだ」
セイジは北の方角を見渡す。街道沿いの草木が枯れていた。何故かわからぬがトーリはこの先に進むようだ。
その先には彼が陰謀の道具としてケノービに出した、ルッソ=シュミットとアナキン=スカルファッカー達がいた。当初はトーリがナガオカッツェからの派遣部隊と勘違いして殺してもらう予定だったが、今はちょっと事情が変わっているだろう。
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