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第三部 カツランダルク戦記 『第三章・カツランダルクの姉妹』
101 罠にはめられた女王
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6月5日の払暁。川沿いの原っぱに設けたトーリ達のキャンプに1人の男がやって来た。アスカウ公の知り合いだ。
公に急用がある、と言い張るので騎士達が戸惑っていたのを、近くのテントで男と真っ最中だったサキュバスのリリカは驚いた。
「カヅノ=セイジさま! どうしてこんなところへ!」
「教主様に頼まれ、アスカウ公様を探していたのです。公にとって一大事が起きたという事なので、詳しいことをことづかっております」
「わ、わかりました。ひめさまのところにご案内いたします。多分おねむの時間最中でしょうけれども……」
カヅノはリリカにトーリのテントまで案内された。トーリは1人の護衛と1人のパラッツォ教徒と同じ絨毯の上で眠っていた。日付けが変わるまでこの者達とセックスをしていた。彼等の足元に精液をぬぐったボロ布があった。
「ひめさま、カヅノ=セイジさまがお目見えです!」
リリカに呼び掛けられてトーリは目を覚ました。素っ裸なので何か着ようとするが、カヅノ=セイジが止めた。
「お気遣いなく。私とアスカウ公様は、お互いの肌と大事なところを見せあう程の仲ではございませんか?」
「それもそうね。うふふふ♡」
「……それよりもご報告が。教主殿からの言伝です」
貴族達の特定のグループがアスカウ公を排斥する同盟をひそかに立てていて国王の退位とトーリの抹殺を目論んでいる。今回の南ホーデンエーネンでの騒乱は彼等が仕組んだことだ。
「……なんですって!」
貴族達はできうる限り懐柔したはずだ。特に大貴族やその御曹司たちとはトーリはおまんこで接待して来た。自分の心理掌握の魔法は優れているはず。力を失っている今でも、効力を発していると思ったのに。
「何かの悪い冗談よ! そんなこと!」
「……ですが、その同盟はすでに組まれている様です。きゃつらが据え置こうとしているのは王弟殿下。心優しいお方だとご存じでしょう?」
王弟とは、セインの12歳年下の弟、ジューンショーンだ。穏やかな気質で、オルフレッドが兄の様に慕っている。しかし自己主張が苦手で家臣らの言いなりになるような事がよくあった。変な献策にも耳を傾けてしまうきらいがあるそうだ。
国王の廷臣にならまだいいが、この国を統べる者としては適性が無い。ただ、寝たことがあるシャロンによれば、ちんこときんたまは兄よりも大きいらしい。長さは20センチ近くあるそうだ。
「ジューンショーン様を。どうしてその様なことをたくらんでいるのかしら?」
「自分達の言いなりにさせる為にでしょう。セイン陛下は気性がお強過ぎます。ホーデンエーネンの大貴族達は思いのままに操れない。となれば、人にあまり強く出られない王弟殿下を担ぎ上げようとしているのでしょうな」
そして担ぎ上げた暁には、パラッツォとの戦争を再開する心づもりらしい。王族を含む、大貴族達の多くはエチウ諸島の貴族達の血が流れ込んでいた。パラッツォ教は彼等と祖を同じくする者達から力と土地を奪った仇敵である。
(その貴族達は教団内で、『名誉司祭騎士』の位を授けられてそれなりの暮らしを保証されているが、国内といくさのことばかりで頭がいっぱいのホーデンエーネン人はご存じあるまい。おっと、心を読まれたかな?)
トーリの読心術は今だ不調。リリカもまた、神聖魔法の防護によりカヅノの心のつぶやきを読めなかった。カヅノは話を進める。
「そしてこの盟約の中心人物となったのは、うすうすお察しの通りナガオカッツェ公とソーロー公だそうで」
トーリの顔色が変わった。眉間に皺が寄り、目つきが鋭くなった。リリカが疑問を口に出した。
「ヨーシハルトス様は長らく御病床だと聞き及んでおりますが、陰謀に加担できるのでしょうか?」
「できましょう。ナガオカッツェにも通信魔道士はいるようですし、手紙を運ぶ早馬が頻繁に行き来していたそうです」
「通信魔法はわかりますけど、手紙については、トーリ様の領地を通る事になりますが?」
「ナガオカッツェならできましょうな。山脈の裏手の、この裏街道を用いれば気づかれずに行き来できるでしょう」
リリカはそこでまた疑問を呈した。この裏街道こそ自分達サキュバスの息がかかっているはず。自分は担当していないからわからないけど、カミラやピックプリト大先輩なら知っている。彼女達がこの裏街道に知悉している、タンバレーネの『山の民』と外交を続けていたのだから。
「しかし、この裏手側は私達が……」
「森や山のけもの道を通っているかと思われます。特にナガオカッツェは亜人を擁しているそうで。悪路を難なく走れるエルフやゴブリンを用いているやもしれません」
「多分そうみたいね。信じるわ」
トーリはリリカに目で示した。カヅノの話は信用できる。そしてそのカヅノは、トーリの表情を更に険しくさせる嘘を告げた。
「そしてソーロー家は、スカルファッカー家と手を組んだようでございます」
「……両家とも、もっと早いうちに潰すべきだったわ」
「既に動いております。ナガオカッツェ公が軍隊を差し向けたようです。ここから半日ほど距離にある、戦国時代の砦に軍勢を集結させようとしているそうです」
その数はざっと5000。人口がそれほどいないナガオカッツェでは、短期間じゃなかなかに集まらない数だ。出発と同時に通信魔道士を用いてナガオカッツェ公に通ることは確かに伝えた。裏道で援助をしてくれるようだ。
この話が出来過ぎているとリリカには思えた。もっと前に準備をしていたはずだ。それがいつ頃なのかはっきりしないが、多分、サキュバスの子供達が殺される前だろう。
「……ひめさま。『おこちゃまたち』のおうちが襲撃されたのって、もしかして」
「きっとそうよ……! おびき出そうとしたのよ、ケノービ=スカルファッカーは! 『みんな』とルッソとのかわいいかわいい子供達を殺して、わたしを怒らせ、急がせる為に!」
憔悴しきって理性が動かない状態で南天騎士団の領地でパラッツォ教徒殺しの事件を起こしたのだ。そういうことなのだ。トーリは罠にはめられたと悔しがった。ケノービめ、最悪の謀略を仕掛けてくれたな。実家ともども討ち滅ぼしてくれる。国王に訴えて討伐軍を起こそうと考えた。
「リリカ、今すぐ他の子たちを呼んで来て頂戴! わたしは代表者以外は戻る様に伝える! それからナントブルグへ向かうわ! パラッツォ教の使節にはこの謀略を伝えてケノービ=スカルファッカーの誅殺に立ち会っていただく! いいかしら!」
リリカはうなずき急ぎ仲間を連れて来る為に、転移魔法を使おうとした。が、念じて術式陣を足元に描いても転移はできなかった。
「転移魔法が使えない……どういうこと?」
カヅノ=セイジがほくそ笑む。
「ははは。それはどうしてでしょうな?」
「……まさか?」
トーリは察した。その謀略にカヅノ=セイジが加わっていたのか。問いただす前にカヅノは答えた。
「実はその謀、私めも一枚かんでおりましてな……ケノービ様に頼まれたのですよ。ちんぽに群がって吸いつくそうとする害虫の駆除に手を貸していただけないかと……その巣ごとをな!」
「カヅノ=セイジ! お前はッ!」
トーリが激高の声をあげる。その声を聞いて外にいた護衛の騎士達が天幕に入って来た。
「アスカウ公様、どうなされました?」
「この男、カヅノ=セイジは私を害そうとしている! パラッツォ教の要職だけど構いません、討ち果たしなさい!」
騎士達は剣を抜いた。トーリとリリカが念じて、怨敵となった者の心に入り込もうと念じ始めた。しかしカヅノは余裕の笑みだ。
「くくく……トーリ=カツランダルク。神聖魔法を知っているはずなのに気づいていないようだな。ここではもう、魔族の魔法は使えんよ」
「なにを言う!」
「神聖魔法術式による結界を張ったのだよ。魔族相手なら効果は絶大だ。いや、この世界のエルフやドワーフのものでも防げるぞ。ある程度はな」
しまった。トーリは騎士達に命じる。斬れ。けれどもそれはかなわなかった。外で沢山の悲鳴が聞こえたからだ。
東側の森の中に潜んでいたカヅノの手勢、ゾウズジャヤ=エルフの暗殺者らが毒矢を射かけたからだ。それだけでなかった。彼の兄、カヅノ=サトシが西側から、神聖魔法による光の矢で撃ち始めたのだ。そっちは一度に50や100も飛ばせた。
「おい、凡下ども。外に出て仲間達を救ってやれ。どうせお前らじゃ俺には勝てない」
「馬鹿なことを!」
騎士達は襲い掛かった。しかし1歩踏み込んだ直後、彼等の身体は外に弾き飛ばされた。カヅノの魔法によるものだ。トーリは歯ぎしりしながらカヅノをにらみつけた。
「フン……お前にはここで死んでもらうぞ。ケノービ殿に首を挙げて戻って来ると約束してしまったからな」
「勝てると思っているのか?」
「余裕だろう。今の貴様は魔族となっているだろうがしかし、『成りたて』だ。生まれて間もない魔族と一緒だ。秘めている力の千分の一だって引き出せやしないはずだ」
「やってみなければわからないわ……!」
徒労だった。トーリがいくら念じても結界を突き破れなかった。この男みたく神聖術式を使おうとしても駄目だ。
「……どうして?」
「神聖魔法は魔族が扱うとなれば俺の100倍以上の魔力を消費するだろう。ナーガハーマで俺様を悔しがらせたのは、お前がまだ半魔だったからだ。ニンゲンでもあったから俺達以上に扱えたのさ……」
そういう事か。トーリは覚悟した。しかしリリカはあきらめなかった。カヅノの懐に飛び込んでしがみついた。この隙にトーリに逃げてもらおうとしたのだが。
「フン。三下が」
カヅノが念じるとリリカの身体から煙が立ち始めた。それが炎となって彼女の身体を包んだ。リリカの肉体は驚くほどの早さで崩れ、突っ伏してしまった。
「リリカを! カヅノ=セイジ!」
「お前らサキュバスには思念体というものがあるのだろう、トーリ=カツランダルク? 俺がその姿にしてやるよ。感謝しろ」
トーリが怒号を放った。同時に彼女と側にいた男達の身体が破裂し、破片が天幕のあちらこちらに飛び散った。
「まずは殺害成功、っと。だがお前は魔族だ。思念体がまだ残っている」
カヅノは念じて右手の掌を天にかざした。1本のミスリルソードが彼の手に握られた。
「あとは魔族殺しの剣でとどめを刺すのみだ……フン、逃げないのか。なかなかに勇ましいことだ」
トーリの思念がどこにいるかわかっている。さっきまで彼女の肉体が立っていたところにだ。それに目がけて彼は剣を振り下ろそうとした。その直後だ。
(……なに?)
カヅノはその思念体に計り知れないほどの大きな魔力を感じていた。斬ったところでどうにもならぬくらいに、とても巨大な力をだ。
公に急用がある、と言い張るので騎士達が戸惑っていたのを、近くのテントで男と真っ最中だったサキュバスのリリカは驚いた。
「カヅノ=セイジさま! どうしてこんなところへ!」
「教主様に頼まれ、アスカウ公様を探していたのです。公にとって一大事が起きたという事なので、詳しいことをことづかっております」
「わ、わかりました。ひめさまのところにご案内いたします。多分おねむの時間最中でしょうけれども……」
カヅノはリリカにトーリのテントまで案内された。トーリは1人の護衛と1人のパラッツォ教徒と同じ絨毯の上で眠っていた。日付けが変わるまでこの者達とセックスをしていた。彼等の足元に精液をぬぐったボロ布があった。
「ひめさま、カヅノ=セイジさまがお目見えです!」
リリカに呼び掛けられてトーリは目を覚ました。素っ裸なので何か着ようとするが、カヅノ=セイジが止めた。
「お気遣いなく。私とアスカウ公様は、お互いの肌と大事なところを見せあう程の仲ではございませんか?」
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「……それよりもご報告が。教主殿からの言伝です」
貴族達の特定のグループがアスカウ公を排斥する同盟をひそかに立てていて国王の退位とトーリの抹殺を目論んでいる。今回の南ホーデンエーネンでの騒乱は彼等が仕組んだことだ。
「……なんですって!」
貴族達はできうる限り懐柔したはずだ。特に大貴族やその御曹司たちとはトーリはおまんこで接待して来た。自分の心理掌握の魔法は優れているはず。力を失っている今でも、効力を発していると思ったのに。
「何かの悪い冗談よ! そんなこと!」
「……ですが、その同盟はすでに組まれている様です。きゃつらが据え置こうとしているのは王弟殿下。心優しいお方だとご存じでしょう?」
王弟とは、セインの12歳年下の弟、ジューンショーンだ。穏やかな気質で、オルフレッドが兄の様に慕っている。しかし自己主張が苦手で家臣らの言いなりになるような事がよくあった。変な献策にも耳を傾けてしまうきらいがあるそうだ。
国王の廷臣にならまだいいが、この国を統べる者としては適性が無い。ただ、寝たことがあるシャロンによれば、ちんこときんたまは兄よりも大きいらしい。長さは20センチ近くあるそうだ。
「ジューンショーン様を。どうしてその様なことをたくらんでいるのかしら?」
「自分達の言いなりにさせる為にでしょう。セイン陛下は気性がお強過ぎます。ホーデンエーネンの大貴族達は思いのままに操れない。となれば、人にあまり強く出られない王弟殿下を担ぎ上げようとしているのでしょうな」
そして担ぎ上げた暁には、パラッツォとの戦争を再開する心づもりらしい。王族を含む、大貴族達の多くはエチウ諸島の貴族達の血が流れ込んでいた。パラッツォ教は彼等と祖を同じくする者達から力と土地を奪った仇敵である。
(その貴族達は教団内で、『名誉司祭騎士』の位を授けられてそれなりの暮らしを保証されているが、国内といくさのことばかりで頭がいっぱいのホーデンエーネン人はご存じあるまい。おっと、心を読まれたかな?)
トーリの読心術は今だ不調。リリカもまた、神聖魔法の防護によりカヅノの心のつぶやきを読めなかった。カヅノは話を進める。
「そしてこの盟約の中心人物となったのは、うすうすお察しの通りナガオカッツェ公とソーロー公だそうで」
トーリの顔色が変わった。眉間に皺が寄り、目つきが鋭くなった。リリカが疑問を口に出した。
「ヨーシハルトス様は長らく御病床だと聞き及んでおりますが、陰謀に加担できるのでしょうか?」
「できましょう。ナガオカッツェにも通信魔道士はいるようですし、手紙を運ぶ早馬が頻繁に行き来していたそうです」
「通信魔法はわかりますけど、手紙については、トーリ様の領地を通る事になりますが?」
「ナガオカッツェならできましょうな。山脈の裏手の、この裏街道を用いれば気づかれずに行き来できるでしょう」
リリカはそこでまた疑問を呈した。この裏街道こそ自分達サキュバスの息がかかっているはず。自分は担当していないからわからないけど、カミラやピックプリト大先輩なら知っている。彼女達がこの裏街道に知悉している、タンバレーネの『山の民』と外交を続けていたのだから。
「しかし、この裏手側は私達が……」
「森や山のけもの道を通っているかと思われます。特にナガオカッツェは亜人を擁しているそうで。悪路を難なく走れるエルフやゴブリンを用いているやもしれません」
「多分そうみたいね。信じるわ」
トーリはリリカに目で示した。カヅノの話は信用できる。そしてそのカヅノは、トーリの表情を更に険しくさせる嘘を告げた。
「そしてソーロー家は、スカルファッカー家と手を組んだようでございます」
「……両家とも、もっと早いうちに潰すべきだったわ」
「既に動いております。ナガオカッツェ公が軍隊を差し向けたようです。ここから半日ほど距離にある、戦国時代の砦に軍勢を集結させようとしているそうです」
その数はざっと5000。人口がそれほどいないナガオカッツェでは、短期間じゃなかなかに集まらない数だ。出発と同時に通信魔道士を用いてナガオカッツェ公に通ることは確かに伝えた。裏道で援助をしてくれるようだ。
この話が出来過ぎているとリリカには思えた。もっと前に準備をしていたはずだ。それがいつ頃なのかはっきりしないが、多分、サキュバスの子供達が殺される前だろう。
「……ひめさま。『おこちゃまたち』のおうちが襲撃されたのって、もしかして」
「きっとそうよ……! おびき出そうとしたのよ、ケノービ=スカルファッカーは! 『みんな』とルッソとのかわいいかわいい子供達を殺して、わたしを怒らせ、急がせる為に!」
憔悴しきって理性が動かない状態で南天騎士団の領地でパラッツォ教徒殺しの事件を起こしたのだ。そういうことなのだ。トーリは罠にはめられたと悔しがった。ケノービめ、最悪の謀略を仕掛けてくれたな。実家ともども討ち滅ぼしてくれる。国王に訴えて討伐軍を起こそうと考えた。
「リリカ、今すぐ他の子たちを呼んで来て頂戴! わたしは代表者以外は戻る様に伝える! それからナントブルグへ向かうわ! パラッツォ教の使節にはこの謀略を伝えてケノービ=スカルファッカーの誅殺に立ち会っていただく! いいかしら!」
リリカはうなずき急ぎ仲間を連れて来る為に、転移魔法を使おうとした。が、念じて術式陣を足元に描いても転移はできなかった。
「転移魔法が使えない……どういうこと?」
カヅノ=セイジがほくそ笑む。
「ははは。それはどうしてでしょうな?」
「……まさか?」
トーリは察した。その謀略にカヅノ=セイジが加わっていたのか。問いただす前にカヅノは答えた。
「実はその謀、私めも一枚かんでおりましてな……ケノービ様に頼まれたのですよ。ちんぽに群がって吸いつくそうとする害虫の駆除に手を貸していただけないかと……その巣ごとをな!」
「カヅノ=セイジ! お前はッ!」
トーリが激高の声をあげる。その声を聞いて外にいた護衛の騎士達が天幕に入って来た。
「アスカウ公様、どうなされました?」
「この男、カヅノ=セイジは私を害そうとしている! パラッツォ教の要職だけど構いません、討ち果たしなさい!」
騎士達は剣を抜いた。トーリとリリカが念じて、怨敵となった者の心に入り込もうと念じ始めた。しかしカヅノは余裕の笑みだ。
「くくく……トーリ=カツランダルク。神聖魔法を知っているはずなのに気づいていないようだな。ここではもう、魔族の魔法は使えんよ」
「なにを言う!」
「神聖魔法術式による結界を張ったのだよ。魔族相手なら効果は絶大だ。いや、この世界のエルフやドワーフのものでも防げるぞ。ある程度はな」
しまった。トーリは騎士達に命じる。斬れ。けれどもそれはかなわなかった。外で沢山の悲鳴が聞こえたからだ。
東側の森の中に潜んでいたカヅノの手勢、ゾウズジャヤ=エルフの暗殺者らが毒矢を射かけたからだ。それだけでなかった。彼の兄、カヅノ=サトシが西側から、神聖魔法による光の矢で撃ち始めたのだ。そっちは一度に50や100も飛ばせた。
「おい、凡下ども。外に出て仲間達を救ってやれ。どうせお前らじゃ俺には勝てない」
「馬鹿なことを!」
騎士達は襲い掛かった。しかし1歩踏み込んだ直後、彼等の身体は外に弾き飛ばされた。カヅノの魔法によるものだ。トーリは歯ぎしりしながらカヅノをにらみつけた。
「フン……お前にはここで死んでもらうぞ。ケノービ殿に首を挙げて戻って来ると約束してしまったからな」
「勝てると思っているのか?」
「余裕だろう。今の貴様は魔族となっているだろうがしかし、『成りたて』だ。生まれて間もない魔族と一緒だ。秘めている力の千分の一だって引き出せやしないはずだ」
「やってみなければわからないわ……!」
徒労だった。トーリがいくら念じても結界を突き破れなかった。この男みたく神聖術式を使おうとしても駄目だ。
「……どうして?」
「神聖魔法は魔族が扱うとなれば俺の100倍以上の魔力を消費するだろう。ナーガハーマで俺様を悔しがらせたのは、お前がまだ半魔だったからだ。ニンゲンでもあったから俺達以上に扱えたのさ……」
そういう事か。トーリは覚悟した。しかしリリカはあきらめなかった。カヅノの懐に飛び込んでしがみついた。この隙にトーリに逃げてもらおうとしたのだが。
「フン。三下が」
カヅノが念じるとリリカの身体から煙が立ち始めた。それが炎となって彼女の身体を包んだ。リリカの肉体は驚くほどの早さで崩れ、突っ伏してしまった。
「リリカを! カヅノ=セイジ!」
「お前らサキュバスには思念体というものがあるのだろう、トーリ=カツランダルク? 俺がその姿にしてやるよ。感謝しろ」
トーリが怒号を放った。同時に彼女と側にいた男達の身体が破裂し、破片が天幕のあちらこちらに飛び散った。
「まずは殺害成功、っと。だがお前は魔族だ。思念体がまだ残っている」
カヅノは念じて右手の掌を天にかざした。1本のミスリルソードが彼の手に握られた。
「あとは魔族殺しの剣でとどめを刺すのみだ……フン、逃げないのか。なかなかに勇ましいことだ」
トーリの思念がどこにいるかわかっている。さっきまで彼女の肉体が立っていたところにだ。それに目がけて彼は剣を振り下ろそうとした。その直後だ。
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