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第三部 カツランダルク戦記 『第三章・カツランダルクの姉妹』
99 魔道士見習い
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イーガの魔道士界隈でルッソは、突如現れた期待の大型新人(おっさん枠)として話題になっていた。2か月前にエチウ発の旅客船に乗ってコーヅケーニッヒに来た彼が、適性試験でとんでもない成績を打ち出したからだ。
魔力を測る『すかうたー』で魔力量20万をはじき出し、入門行程の実技テストを1週間で終わらせた。まさか野良の凄腕魔道士か、と思われたが、念話魔法と相手の魔法を打ち消す術式以外はあまり存じていなかった。しかし、『大物』だ。
それと、正式なルートではなく著名人からの推挙による入学だった。手引きしたのはエレクトラ=ガモーコヴィッツ。推薦の手紙は舅のうち1人であるヴィルヘルム国王あてに出されていた。
「奇貨。ルッソ=シュミットこそがまさにそれ。いざという時の希望となるでしょう。イーガに置くべきです」
結びにこう書かれた手紙を読んでヴィルヘルム王はルッソを学問所に入れた。ルッソ自身もそれを望んだ。入学と各種能力テストの結果から、特別な講師が横についてのマンツーマン制授業が開始された。教師役は、帰国して間もないパルパティアが選ばれた。
「というわけでルッソさん、この気球による偵察術式は念話魔法と映像術式、通信魔法を併せての術式応用になるわけです。あの気球につけたガラスには音声と映像を取り入れる術式が含まれておりますから、術者は『たぶれっとぱっど』にある増幅器を用いて通信術式を用いなければならないのですよ」
「なるほど。魔道具が無かった場合はどうなります? その場合にこの硝子板の映像を映し出す場合、今の僕ではできるんでしょうか?」
「それはやってみないとわかりませんね。ただ、並の魔道士でも3つ4つ術式を同時に動かすのは難しいですから、魔道具ありきと見て構いませんよ」
気球から送られてくる360度の景色を『たぶれっとぱっど』で観ながら、ルッソはうなずいた。相当に難しいことをやっているわけだな、こいつは。
「そうはいってもすごいですよ。あたしはこんなことできないよ」
ルッソの横にいたピルリアが言った。彼女は大きな胸をルッソの左腕にあてていた。彼女は他人との距離をあまり気にしないが、親しみが籠っている。ルッソとは何度か寝た事もあったからだ。
「ピルリアさん。近づき過ぎだよ?」
「おめこではべったべたに触って来るのにつれないんじゃないの? あたしの乳首と股のおまめ、べろっべろに舐めたくってるじゃん?」
「そうだけど、今は仕事だからね」
ルッソが空からの映像を凝視する。見つけた。山賊の砦らしきのが南の方角に。山の麓にある森の中に築いているとパルパティアらに告げた。
「距離は? あの高さからなら1センチごとに100メートルといったところだろう」
「ええと……1キロ先ぐらい。あの気球、見つかったんじゃないんですかね?」
「そりゃそうだね。多分仕掛けて来るぞ、ルッソさん。ピルリアさん、ホーデンエーネンの騎士様とアナキンぼっちゃんを呼んで応戦の準備を。我々魔道士部隊は出鼻をくじく準備に取り掛かります」
わかったと言ってピルリアが戻った。ルッソは気球を操作して地上に降ろす。
「俺も手を貸すよ。弓矢ぐらいは扱えるんだ」
「勇ましい。本当は戦いに出したくないのだが、魔法を使った実戦も経験したほうがいいからね。手を貸してもらうよ」
ルッソは持って来た荷物から短刀と弓矢を取り出す。防備は常に着込んでいる。革鎧だ。但しイーガの魔法工房で作った、防護術式が組み込まれた代物。鉄の剣の斬撃は余裕で耐えられる丈夫なものだ。
20分ほどして、剣と盾を持ってやって来たアナキンと、手甲をはめて鞭をベルトにかけたピルリアが、戦士数名と共に戻って来た。残りは隊列の防備にまわれとアナキンが指図した。
「パルパティアせんせい、とりあえず僕たちだけ、ここに来ました」
「それでよろしいでしょう、アナキン坊ちゃま。さて……」
パルパティアが南に目を向ける。他の魔法戦士達と共に先ほど張った警戒術式が探知したからだ。アナキンに報告。敵の数は30名ほど。距離はざっと300メートル。馬を使わず徒歩で来るらしい。打って出るとは勇敢だが、多分斥候だろう。
「アナキンぼっちゃん。お下知をください」
「迎撃だ。森の中に伏兵が潜んでいるだろうから注意して。ルッソさんは僕の後ろにいて掩護を」
「うん。弓矢なら任せてくれ」
アナキンは剣を取り、ピルリアとパルパティアと共に南に向かった。100メートルほど進んだあたりで他の魔道士から呼びかけ。この辺りに潜んでいるようだ。おびき出そう、とパルパティアが提案した。
「方法は?」
「ルッソさん、『爆炎弓箭』の準備を」
「……え? 使えるんですか?」
「あれの物真似だけだよ。花火が炸裂するぐらいさ、アナキンさん」
ルッソは指で印を切ると筒から取った矢の先に触れた。矢じりが紅い光に包まれた。矢に魔法がかかった証拠だが、こういう変化を見せないで込めるのが熟練の魔道士というものだ。ルッソはまだ経験不足だから洗練されていなかった。
「パルパティアさん、どこに向ける?」
「南南東がいい。そこに10名ほど固まっているみたいだ……けど、その1本じゃ南の姉妹みてえに殺すことなんてできねえから、遠慮無く撃っちまってええべえよ?」
カントニアなまりに戻ったパルパティアを見てルッソはうなずく。魔法が籠った矢が放たれた。放物線を描いて100メートル先まで飛び、地面に刺さる直前で矢じりが弾けて拡散した。いくつも軽い爆発が起こった。
それに驚いたのか周囲の森に潜んでいた山賊達が飛び出して来た。どいつもこいつもやせっぽちで若い男はいなかった。けれども持っていた武器は刃が鋭そうだ。アナキンが剣を掲げて皆に呼び掛ける。
「僕とピルリアに続け!」
先陣を切ったアナキンとピルリアの夫婦は、最初にぶつかった連中をたかだか2合で叩き伏せてしまった。イーガの魔法戦士やホーデンエーネンの勇者らも負けていなかった。パルパティアと他数名は跳躍魔法で崖を飛び越え、森の中で奇襲をしかけようとしていた残りを始末して行った。
道に飛び出して来た山賊らはたちまち討たれ、伏兵らも残らず息の根を止められた。返り血を浴びた彼等が戻って来ると、ルッソは思わず息をのんだ。
「すげえや……みんな、イズヴァルトさんみたいにとんでもなく強いんだな」
どうだ、と思いながらアナキンが腕を組んで自慢気に笑ってみせるが、パルパティアがそれに水を差す様なことを言った。
「イズヴァルトさんはもっととんでもねえべえよ。山賊どもが金色エルフやドワーフの衆になっても、1人でやっつけちまうさあ」
眉にしわを寄せるアナキンに気づかず、パルパティアは見て来たことを語った。ヒッジランドの戦場では、教団に属するオーガやドワーフ達を蹴散らした。サートの銀山町での決戦では、ドワーフ最強と言われるトールキンと互角以上の戦いを繰り広げた。あんな勇者はニンゲン族の中にはいない。
「それほどすげえ人だということだべえよ。みんなの人気者になるのもわかるなあ。おれも含めて、女どものべっちょがうずいちまったのも無理ねえべえ」
「……マイヤと別れなけりゃホーデンエーネンの大将軍様になってたのに。戻って来て欲しいよ」
ルッソは今だ『義弟』と思っているイズヴァルトが恋しかった。何よりも一番甘えたいのはマイヤだろう。実の子であるオルフレッドとも仲良くしてほしい。けれども、権力を握って有頂天になっているトーリを落ち着かせないとそれも無理に違いない。
「……イズヴァルトか」
アナキンが不機嫌そうな声で小さく漏らした。ピルリアは耳聡く聞きつけた。でも、たしなめる言葉はかけなかった。
(ぼっちゃんは好敵手が欲しいんだ。それをイズヴァルトさんに決めたんだろう。そう考えることにしておこう。あたしが口を挟むことじゃない。)
□ □ □ □ □
山賊の砦が炎に包まれた。この辺りの山賊は稼げぬ家業から抜けた、農村や小さな町の男達だと聞いたが、襲って来た以上は許さなかった。
もしかしたら自分も彼等みたいになっていたかもしれない。そう思いながらルッソは旅を続けて遺跡にたどり着いた。大陸戦国時代にホーデンエーネンと敵対した国の城や砦である。
かくして調査が始まった。ルッソはパルパティアの補佐として、かびくさい山城の中をくまなく回った。朽ちた武器防具や家具ばかりで宝箱はどこにも見当たらなかった。人骨ならよく見かけたが。
「この城はどこの国のものだったんでしょうね、パルパティアさん」
「多分だが、ナガオカッツェ王国かタンバレーネ王国が築いたのでしょう」
ナガオカッツェ王国はナントブルグ王国の次に滅ぼされたが、王族はホーデンエーネン王家の臣下に組み込まれた。その血は確かに、つい最近領主の座を譲り渡された、まだ若いヨーシテルシウスによって受け継がれていた。
対してタンバレーネは自治領となっている。王家はホーデンエーネンのタンバレーネ攻めの頃に臣下らの謀反に遭い、とっくの昔に根絶やしにされているそうだ。ホーデンエーネンとの戦争が長引き、税金が重くのしかかって反感を喰らったからだ。
「ナガオカッツェなら財宝とかは引き上げているでしょうから、となれば、タンバレーネでしょうか?」
「だと思いますね。しかし最後の詰め城ではなく前線基地だったのでしょう。城と砦の距離が近すぎです。どこかが攻められたら連携して追い返す、という作戦を考えたに違いありませんよ」
前線の城なら財宝は置かないだろう。数日回った結果、収穫はゼロだった。後は隠し部屋があることを期待するしか他は無かった。タンバレーネは魔道士がいたそうだから、もしかしたらあるかもしれない。今度は学者を連れての調査となる。
そうしてルッソ達は予定通り、おおよそ1か月をここで過ごす準備を整えるが、その計画はその途中で突然終わることとなる。
宝探しのプロジェクトを絶つことになる存在が、南から北へ向かっていた。トーリが率いる、ナントブルグにいる国王への陳情団だ。
魔力を測る『すかうたー』で魔力量20万をはじき出し、入門行程の実技テストを1週間で終わらせた。まさか野良の凄腕魔道士か、と思われたが、念話魔法と相手の魔法を打ち消す術式以外はあまり存じていなかった。しかし、『大物』だ。
それと、正式なルートではなく著名人からの推挙による入学だった。手引きしたのはエレクトラ=ガモーコヴィッツ。推薦の手紙は舅のうち1人であるヴィルヘルム国王あてに出されていた。
「奇貨。ルッソ=シュミットこそがまさにそれ。いざという時の希望となるでしょう。イーガに置くべきです」
結びにこう書かれた手紙を読んでヴィルヘルム王はルッソを学問所に入れた。ルッソ自身もそれを望んだ。入学と各種能力テストの結果から、特別な講師が横についてのマンツーマン制授業が開始された。教師役は、帰国して間もないパルパティアが選ばれた。
「というわけでルッソさん、この気球による偵察術式は念話魔法と映像術式、通信魔法を併せての術式応用になるわけです。あの気球につけたガラスには音声と映像を取り入れる術式が含まれておりますから、術者は『たぶれっとぱっど』にある増幅器を用いて通信術式を用いなければならないのですよ」
「なるほど。魔道具が無かった場合はどうなります? その場合にこの硝子板の映像を映し出す場合、今の僕ではできるんでしょうか?」
「それはやってみないとわかりませんね。ただ、並の魔道士でも3つ4つ術式を同時に動かすのは難しいですから、魔道具ありきと見て構いませんよ」
気球から送られてくる360度の景色を『たぶれっとぱっど』で観ながら、ルッソはうなずいた。相当に難しいことをやっているわけだな、こいつは。
「そうはいってもすごいですよ。あたしはこんなことできないよ」
ルッソの横にいたピルリアが言った。彼女は大きな胸をルッソの左腕にあてていた。彼女は他人との距離をあまり気にしないが、親しみが籠っている。ルッソとは何度か寝た事もあったからだ。
「ピルリアさん。近づき過ぎだよ?」
「おめこではべったべたに触って来るのにつれないんじゃないの? あたしの乳首と股のおまめ、べろっべろに舐めたくってるじゃん?」
「そうだけど、今は仕事だからね」
ルッソが空からの映像を凝視する。見つけた。山賊の砦らしきのが南の方角に。山の麓にある森の中に築いているとパルパティアらに告げた。
「距離は? あの高さからなら1センチごとに100メートルといったところだろう」
「ええと……1キロ先ぐらい。あの気球、見つかったんじゃないんですかね?」
「そりゃそうだね。多分仕掛けて来るぞ、ルッソさん。ピルリアさん、ホーデンエーネンの騎士様とアナキンぼっちゃんを呼んで応戦の準備を。我々魔道士部隊は出鼻をくじく準備に取り掛かります」
わかったと言ってピルリアが戻った。ルッソは気球を操作して地上に降ろす。
「俺も手を貸すよ。弓矢ぐらいは扱えるんだ」
「勇ましい。本当は戦いに出したくないのだが、魔法を使った実戦も経験したほうがいいからね。手を貸してもらうよ」
ルッソは持って来た荷物から短刀と弓矢を取り出す。防備は常に着込んでいる。革鎧だ。但しイーガの魔法工房で作った、防護術式が組み込まれた代物。鉄の剣の斬撃は余裕で耐えられる丈夫なものだ。
20分ほどして、剣と盾を持ってやって来たアナキンと、手甲をはめて鞭をベルトにかけたピルリアが、戦士数名と共に戻って来た。残りは隊列の防備にまわれとアナキンが指図した。
「パルパティアせんせい、とりあえず僕たちだけ、ここに来ました」
「それでよろしいでしょう、アナキン坊ちゃま。さて……」
パルパティアが南に目を向ける。他の魔法戦士達と共に先ほど張った警戒術式が探知したからだ。アナキンに報告。敵の数は30名ほど。距離はざっと300メートル。馬を使わず徒歩で来るらしい。打って出るとは勇敢だが、多分斥候だろう。
「アナキンぼっちゃん。お下知をください」
「迎撃だ。森の中に伏兵が潜んでいるだろうから注意して。ルッソさんは僕の後ろにいて掩護を」
「うん。弓矢なら任せてくれ」
アナキンは剣を取り、ピルリアとパルパティアと共に南に向かった。100メートルほど進んだあたりで他の魔道士から呼びかけ。この辺りに潜んでいるようだ。おびき出そう、とパルパティアが提案した。
「方法は?」
「ルッソさん、『爆炎弓箭』の準備を」
「……え? 使えるんですか?」
「あれの物真似だけだよ。花火が炸裂するぐらいさ、アナキンさん」
ルッソは指で印を切ると筒から取った矢の先に触れた。矢じりが紅い光に包まれた。矢に魔法がかかった証拠だが、こういう変化を見せないで込めるのが熟練の魔道士というものだ。ルッソはまだ経験不足だから洗練されていなかった。
「パルパティアさん、どこに向ける?」
「南南東がいい。そこに10名ほど固まっているみたいだ……けど、その1本じゃ南の姉妹みてえに殺すことなんてできねえから、遠慮無く撃っちまってええべえよ?」
カントニアなまりに戻ったパルパティアを見てルッソはうなずく。魔法が籠った矢が放たれた。放物線を描いて100メートル先まで飛び、地面に刺さる直前で矢じりが弾けて拡散した。いくつも軽い爆発が起こった。
それに驚いたのか周囲の森に潜んでいた山賊達が飛び出して来た。どいつもこいつもやせっぽちで若い男はいなかった。けれども持っていた武器は刃が鋭そうだ。アナキンが剣を掲げて皆に呼び掛ける。
「僕とピルリアに続け!」
先陣を切ったアナキンとピルリアの夫婦は、最初にぶつかった連中をたかだか2合で叩き伏せてしまった。イーガの魔法戦士やホーデンエーネンの勇者らも負けていなかった。パルパティアと他数名は跳躍魔法で崖を飛び越え、森の中で奇襲をしかけようとしていた残りを始末して行った。
道に飛び出して来た山賊らはたちまち討たれ、伏兵らも残らず息の根を止められた。返り血を浴びた彼等が戻って来ると、ルッソは思わず息をのんだ。
「すげえや……みんな、イズヴァルトさんみたいにとんでもなく強いんだな」
どうだ、と思いながらアナキンが腕を組んで自慢気に笑ってみせるが、パルパティアがそれに水を差す様なことを言った。
「イズヴァルトさんはもっととんでもねえべえよ。山賊どもが金色エルフやドワーフの衆になっても、1人でやっつけちまうさあ」
眉にしわを寄せるアナキンに気づかず、パルパティアは見て来たことを語った。ヒッジランドの戦場では、教団に属するオーガやドワーフ達を蹴散らした。サートの銀山町での決戦では、ドワーフ最強と言われるトールキンと互角以上の戦いを繰り広げた。あんな勇者はニンゲン族の中にはいない。
「それほどすげえ人だということだべえよ。みんなの人気者になるのもわかるなあ。おれも含めて、女どものべっちょがうずいちまったのも無理ねえべえ」
「……マイヤと別れなけりゃホーデンエーネンの大将軍様になってたのに。戻って来て欲しいよ」
ルッソは今だ『義弟』と思っているイズヴァルトが恋しかった。何よりも一番甘えたいのはマイヤだろう。実の子であるオルフレッドとも仲良くしてほしい。けれども、権力を握って有頂天になっているトーリを落ち着かせないとそれも無理に違いない。
「……イズヴァルトか」
アナキンが不機嫌そうな声で小さく漏らした。ピルリアは耳聡く聞きつけた。でも、たしなめる言葉はかけなかった。
(ぼっちゃんは好敵手が欲しいんだ。それをイズヴァルトさんに決めたんだろう。そう考えることにしておこう。あたしが口を挟むことじゃない。)
□ □ □ □ □
山賊の砦が炎に包まれた。この辺りの山賊は稼げぬ家業から抜けた、農村や小さな町の男達だと聞いたが、襲って来た以上は許さなかった。
もしかしたら自分も彼等みたいになっていたかもしれない。そう思いながらルッソは旅を続けて遺跡にたどり着いた。大陸戦国時代にホーデンエーネンと敵対した国の城や砦である。
かくして調査が始まった。ルッソはパルパティアの補佐として、かびくさい山城の中をくまなく回った。朽ちた武器防具や家具ばかりで宝箱はどこにも見当たらなかった。人骨ならよく見かけたが。
「この城はどこの国のものだったんでしょうね、パルパティアさん」
「多分だが、ナガオカッツェ王国かタンバレーネ王国が築いたのでしょう」
ナガオカッツェ王国はナントブルグ王国の次に滅ぼされたが、王族はホーデンエーネン王家の臣下に組み込まれた。その血は確かに、つい最近領主の座を譲り渡された、まだ若いヨーシテルシウスによって受け継がれていた。
対してタンバレーネは自治領となっている。王家はホーデンエーネンのタンバレーネ攻めの頃に臣下らの謀反に遭い、とっくの昔に根絶やしにされているそうだ。ホーデンエーネンとの戦争が長引き、税金が重くのしかかって反感を喰らったからだ。
「ナガオカッツェなら財宝とかは引き上げているでしょうから、となれば、タンバレーネでしょうか?」
「だと思いますね。しかし最後の詰め城ではなく前線基地だったのでしょう。城と砦の距離が近すぎです。どこかが攻められたら連携して追い返す、という作戦を考えたに違いありませんよ」
前線の城なら財宝は置かないだろう。数日回った結果、収穫はゼロだった。後は隠し部屋があることを期待するしか他は無かった。タンバレーネは魔道士がいたそうだから、もしかしたらあるかもしれない。今度は学者を連れての調査となる。
そうしてルッソ達は予定通り、おおよそ1か月をここで過ごす準備を整えるが、その計画はその途中で突然終わることとなる。
宝探しのプロジェクトを絶つことになる存在が、南から北へ向かっていた。トーリが率いる、ナントブルグにいる国王への陳情団だ。
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