聖騎士イズヴァルトの伝説 外伝 『女王の末裔たち』

CHACOとJAGURA

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第三部 カツランダルク戦記 『第三章・カツランダルクの姉妹』

84 亜人達の介入

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 いつまでも吹き飛ばされている訳にはいかぬ。魔竜は後方に重力波を起こすと、ヤギウセッシウサイも共に反転させた。浮遊魔法をかける。反動を利用して宿屋に向かう。

「まだ近くにおるはずや。見つけ出して捕まえるでぇ!」

 御意。セッシウサイはうなずき、魔竜とともに向かう。しかし真横から衝撃波が彼女らを襲った。

「なにぃッ!」

 またもや魔竜らは吹き飛ばされた。1度ならず2度までも。一体どこの誰だろうか、アカサカチハヤの魔族の元締めと、魔界最強の名を冠する剣豪に真正面から喧嘩を売る者は?

「セッシウサイ! また魔力を感知せんかったわ!」
「魔竜様、魔法ではございません! これは……闘気です!」

 闘気。魔法とはまた別の見えぬ力である。その源は放った者の生体エネルギーである。これを扱えるのは、ニンゲンでも亜人でも、相当に修練を積んでいる者。数はかなり限られている。

 己はともかく、魔竜様を吹き飛ばすそれを扱うとは。主とともに数メートル先までふっとばされたヤギウセッシウサイは、立ち上がりながら思う。

(相当な強者だ。)

 腰の右に差していた『白の叛逆』を抜く。果たして、相手は姿を現した。体長は180センチを超える。肩幅が広い。寒いアカサカチハヤなのに、黒い胸甲と脇の下が見える薄手の衣で、発達した太腿を晒す腰布を巻いている。

 黒い肌で黒髪の女。いかつい体格に似合わず顔は美しい。シマナミスタン大陸の人種によく見る、ぱっちりとした目に太く長い眉だ。縮みがかかって波を打つ、長く伸ばした髪には赤いハイビスカスを飾っていた。いや、あれは造花だろう。艶がありすぎる。

 その女は手甲と鉄板を打ち付けたブーツを履いていた。なびく髪からのぞいた耳を見た。とがっている。亜人だ。そしてこの装束をまとう種族が何者か、彼は存じていた。

(ナハリジャーヤの拳士エルフ! そしてあの花の髪飾りは、まさか!)

「覇ッ!!」

 女が拳を繰り出した。遠くからだが地走りが起こり、突風が起こる。身体に衝撃を受けたオークの剣豪だが、さっきとは違い踏みとどまっていた。彼も又、自分の内なる力を呼び覚ましていたからだ。魔族の戦闘種・オークの闘気は並ではない。

「『鉄拳』のカンチャーナか! カンチャーナ=ハタナラシンハなのか!」
「そうちや」

 ナハリジャーヤの『鉄拳』。ナハリジャーヤ=エルフ最強の拳士と謳われている女だ。ヤギウセッシウサイはこれが初めての出会い。ナハリジャーヤ島に行くと『枯れ果てるまで搾り取られる』と聞いていたからだ。

 カンチャーナは腰を落として構える。

「お頼み申す」

 またやる気だ。ぴりぴりしたものを遠くに離れた彼女の全身から感じながら、セッシウサイも。正眼の構えだ。

「理由を聞きたい。我らが戦う理由とは?」
「征くちや」

 すぐに懐に飛び込んでいた。大きな身体だというのに凄まじい跳躍力だ。セッシウサイは身を引いて最初の拳を反らした。でもフェイント。カンチャーナは身を捻りながらジャンプし、左のかかとを彼の肩に叩き込もうとする。『白の叛逆』で飛んできた脛を切り落とそうと振る。できれば、の話だ。

「斬るなよ、セッシウサイ!」

 魔竜の命令が飛んできた。それは存じている。こっちが本気になったらどっちかが死ぬだろう。ならばと彼は下から突き上げた。ぶつけて、蹴りの勢いを大きく削ぐのだ。ふくらはぎをまとう甲が触れた。しかしカンチャーナはそのまま振り下ろした。セッシウサイは柄から手を離して避ける。

 剣が転がって音を鳴らした。蹴りが空振りに終わった。セッシウサイは素早く拾い上げてカンチャーナに切っ先を向ける。もっとやる気か?

「これからですき」
「……仕方無いな。でも、『白の叛逆』のみだ」

 2人は動いた。拳と剣が交わり合う。どの一撃も闘気が詰まった重いものだ。けれども避けて、いなされる。刃も拳も。

 地面を踏み込むたびに風が起こった。カンチャーナは全力。セッシウサイは片剣でいわゆる『飛車落ち』だ。殺してはならないと厳命されたがゆえに、闘気に細心の注意を為さねばならない。苦しい戦い方だ。2人は思う。

(強いな。)
(勝てる気がしないちや。)

 カンチャーナは全力だ。しかし殺気は感じられなかった。セッシウサイは魔竜に呼びかける。何かたくらんでいる。

「どういうことなん?」

 その答えはすぐにやって来た。2人を見守っていたサイカノマゴイチは、いつの間にか足元が氷で固められていた事に気づいていなかった。そこに3メートル程の氷塊が、勢いづきながらぶつかった。

「うわああああっ!」

 氷塊とともに魔竜は転がり続けた。下敷きになって叫んだ。痛いやんか! 

「ちっ。運がよけりゃ死んでくれるかと思ったのに、やっぱりドラゴンだな」

 氷塊の上からの声だ。そいつが飛び降りる。短槍を持った美少年の金色エルフだ。女みたいな顔のくせに、やけにねっとりとした艶を帯びている。穂先が赤く輝いている。魔竜の魔力に反応してだ。

「……その姿はなんだよ? えらいブサイクに加工しているじゃないか?」
「生意気な坊っちゃんやな」

 魔竜の目が輝いた。身体から熱を発して氷はすべて溶けた。びしょ濡れに鳴った身体を温風で乾かしながら少年に呼びかける。

「ナエバニアんとこの、『でかちん族長』の御曹司さまどすな?」
「ちっ。その言い方するんじゃねえよ、ほかほかトカゲ膣ババア」

 下品で癪に障る言い方だ。不快である。とはいえ、挑発の色がうかがえたから魔竜は容易には乗らなかった。不敵に笑ってみせる。

「えらい威勢いい坊っちゃんやな。おばちゃん、そういう子、嫌いやないでぇ?」
「そのババアの姿じゃごめんだね。本当の姿でなきゃ、オバさんを抱かないよ?」
「あんさん……見えとるんか?」
「まあね。魔族の幻視魔法は多少は見破れるさ……ふうん。改めて見ると激マブだね。使い込んでる年増を気取ってやがるけど、こりゃあ生娘かな?」

 魔竜は赤面した。ちゃう。そんなことあるかいな。しかしこの淫蕩なことをたっぷりと学んできた、擦れた美少年は艷やかな唇を舐めながら、

「やっつけたら楽しめそうだ。処女は久しぶりだねぇ。しかも魔族ってなると、好色家垂涎の的ってやつだな」
「あほかいな! その前にあんさんをのしてうちのケツに敷いてくれますわぁ! 覚悟しいや!」

 魔竜の目が妖しく輝く。黒い目の真ん中にある瞳の紅色が、一段と濃くなった。三本の脚が生えた鳥の文様が浮かび上がる。

 彼女の真上に巨大な火炎球が現れた。20メートルはあるだろう。青く燃えている。その技はこれを相手にぶつけるのではない。炎が尽きるまで、数百、数千もの炎の鞭を繰り出すものだ。

「ちっ。バカにしすぎたか。怒ったババアほど怖いもんはねえや」
「ちょーっとお仕置きをするだけやで! エルフのあんさんなら持ちこたえるはずや!」
「なわけねえだろ。てめえの相手は俺じゃないよ。俺と姉さんの『下僕』がやってくれるさ……おい、糞孕み雄膣野郎。出番だ!」

 少年が北の草むらに向けて叫んだ。そこからひょい、と顔を出すものがいた。えらいでっぷりと太った男の金色エルフである。まるまるとしていて愛嬌たっぷりの顔である。

 男はどでかいミスリルの斧を目前に置き、貫頭衣の尻をめくってしゃがんでいた。でかくてぷにゃっとした白い尻の間から、どぼどぼと糞便を垂らしている最中だった。景気よく垂らされたものは、草むらの中でとぐろを巻いていた。

「また糞の最中だったのかよ、縦割れケツ穴野郎!」
「ヴァシル、申し訳ねえべえ。魔竜さまを前にしてお腹が痛くなったんだべえよ」
「さっきちんぽで、さんざんにほぐしてやったのが悪かったかな……」

 デブのエルフの、しっかり縦に割れている肛門の周りには、この少年の精液がどろりと付着していた。とはいえこの男は男色家ではない。少年の姉のれっきとした夫である。糞をしたてでほぐれた尻穴を、しょっちゅう掘られていたのだが。

「ケツを拭いたらこのババアを散々に犯してやれ!」
「で、できないべえ……」
「あんさんら、もうちょっと緊張感を持って戦ってくれへんか?」

 あちらでは、未だに一進一退の激闘を繰り広げていた。ヤギウセッシウサイとカンチャーナは今のところは互角だ。オークがもう1本の『黒の忠節』を抜いたら形勢は一気に傾くだろうが、そこまでいくと相手がただでは済まない。

「さっさとしろ。ケツ穴は締めたか? 拭いたか?」
「も、もうちょっと出ちゃうべえ……」

 デブのエルフの男は斧を持って一歩前に。尻穴が、またぐにょりとうごめいた。大きく開いて腔肉が見える。その奥からにゅるにゅるにゅる。ほっかほかの糞がまた出てしまう。

「早くしろ!」
「も、もう少し待ってほしいべえよ?」
「仕方あらへんわ。生理には逆らえませんし。あんさん、うんこをしてからかかって来なはれよ?」

 魔竜はまだ尻からひねるエルフの男に声をかけると、ヴァシルという少年に狙いを定める。火球の表面が動き出した。炎の鞭できついお仕置きをするのだ。

「……おわっ!」

 またも魔竜は吹き飛ばされた。今度は背後からだ。火球はきれいさっぱり消えていた。起き上がり、痛む背中をさすりながら振り向くと、さっきのと同じぐらいに大きな、丸い氷塊があった。

「次から次へと! どこのどいつや!」

 すみません。消え入りそうな優しい声がした。氷塊の向こうからひょこりと顔を出したのは、金色エルフの女だった。雰囲気も容姿も、大層おっとりとしてる。

 この少年の姉のニナだ。そして今しがた肛門を締めてケツを拭き、起き上がったエルフはその夫、ダニェル=イヴァノフである。金色エルフの大勢力・ヌマタラシュク派に属する。『七本槍』と呼ばれる最強の7人の筆頭だ。

「……こりゃ、囲まれたかいな?」
「そうではないですべえ。ちょっと、足止めをしていただきますべえよ、魔竜さま?」

 ダニェルはへこへこと頭を下げて斧を構えた。とんでもない闘気だ。カンチャーナと同等、それ以上か。

「というわけだよトカゲババア。大人しくして、俺とあの糞孕みメスイキ雄膣奴隷のちんぽをじゅぽじゅぽとやりながら待ってくれないかい?」
「下品やなあ……で、誰を?」

 魔竜は足元から炎の輪を起こしながら問う。ニナが答えた。もう来ます。

「上を見てください」
「……はて?」

 魔竜は空を見上げた。鳥のようなものが大空を羽ばたいている。いや、あれはよく知っている姿だ。飛龍。ドラゴンだ。紫色の身体をしていた。

「あれは……ミーナタカトミやおまへんやろか?」

 カントニアの監視を任せている部下だ。テンモーク山地とミナッカミニアを行き来している。なぜキンキ大陸に?

 龍は急降下して近づいて来た。首には会ったことがある人物がしがみついていた。金色の髪、華奢で小柄な小娘の様なエルフ。しかしそれが漂わせている魔力は、並大抵のものではない。

 地面すれすれにまで降り立つと、エルフの娘は飛び降りた。ミーナタカトミはニンゲンに姿を変えた。紫色の髪を長く伸ばした妖艶で豊満な美女となった。

「お久しぶりでございますべえ、魔竜さま」
「ミーナタカトミ。あんさん、なーんも連絡を入れんでどうしたん?」
「申し訳ごぜえません。そこにいる、キファニアさんのたっての要望なんですべえよ……」

 魔竜はローブに身を包んでいる金色エルフの少女を見た。いや、少女ではない。歳は7000歳以上。エルフとしては老年の域だ。キファニアが口を開く。幼い娘みたいな、荒れや老けを感じさせぬ声だった。

「急な訪問をご容赦あれ、魔竜殿。このたびはお願いがあって来た……亜人の部族の、ほとんどすべての願いと思ってほしい」
「ふうん。さっさと言いなはれ」
 
 キファニアはうなずいた。そして言う。

「『ナントブルグの女王』の末裔を、我ら精霊人らの盟主として世に置きたい。その旨、認めてはいただけぬだろうか?」
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