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第三部 カツランダルク戦記 『第三章・カツランダルクの姉妹』
80 選ばれてしまった男
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(ほう。そうだったのか。そうかそうか……なるほどな。)
カヅノ=セイジはほくそ笑んでいた。トーリとお付きの女との会話が耳に入って来る。アスカウ公の別宅から離れたナントブルグの色街でも、鮮明に聞こえる。なるほどなあ、なるほどなあ、を頭の中の声で繰り返せる事ばかりだ。
(元夫と長女とは不仲。イーガの魔道士に魔封をやられたのは本当。先祖返りでかつての力が発揮できないままでいる。そういう事か。)
うんこを掴ませやがって、あの雌豚め。トーリが魔族となったというのが収穫だ。神聖魔法がろくにつかえなくなる。あれはニンゲンという種族だからこそ使いこなせる代物なのだ。精霊を粗とする者や魔界の者が使うと殆どの威力を減じてしまう。
セイジは確信した。ナーガハーマの戦いで、トーリが自分達から盗んだ神聖魔法を自分のものに出来たのは、彼女がまだ『半魔族』だったからだろう。完璧ではなかったから為せたのだ。現に屋敷にかけた神聖魔法を探知できないではないか。
「どうした、セイジ? なんだか嬉しそうな顔だぞ?」
サトシが聞いてきた。セイジは売春宿のまわりをうろつく、顔も胴体も太って醜い娼婦らをにらみながら言った。
「あいつらを見て、トーリ様がいては商売あがったりなんじゃないかと思ったまでだよ」
「美醜で差別するのはよくないぞ。さて、どの宿にする? 俺達が神の愛を布教する相手は、どんな迷える子羊なんだろうな?」
2人が来たのはそういう目的だ。美食ばかりしていると精神が鈍ってしまう。粗食で心を保たねば。エチウでは彼等と性交をする信徒は、美醜問わずであった。昨晩トーリにこってり搾り取られたけれど、オーガの身体は頑強であるし、パラッツォ教の習わしは性を活発にさせる。毎日3回は性交をしないと気が済まない。
「あの店にしましょう、兄さん」
「そうしよう。身体に溜まったサキュバス女の毒っ気を洗い流そう。神の愛を伝えながらな」
□ □ □ □ □
ろくでもない娼婦だった。店員の説明で聞いた、とても若い子だったのは確かだったが、若さを帳消しする様な欠点ばかりだった。
太っていて顔は魚のようで、舌足らずを通り越して不明瞭な言葉を使う『知恵遅れ』の上に、ちょっと体位を変えると「いだい! いだい!」と文句を言ってくる『まぐろおんな』だった。当然、フェラチオなんかもしてくれない。まんこもまともに手入れをしておらず、ひどく臭かった。
「……ホーデンエーネン人はあんな娼婦を相手にしているのか?」
居酒屋でセイジは、におい消しの為に火酒をあおる。クンニリングスを長く施したのに無反応でつまらない女だった。不感症。多分そうだ。セイジの兄も同様のに出くわして『布教』が出来なかったそうだ。
「……あの店は通りで一番安かったそうだ」
「だからか。ホーデンエーネン人は、ああいう娘を店で働かせるまで困窮しているのか?」
「ちがう。アスカウ公が提案したんだよ。ああいう女の子達が働ける場所を作ったんだとさ」
容姿や知能に恵まれない女に、働く事ができる売春宿を。知恵おくれやカタワの女は近隣の者に目をかけられ、小銭や食べ物を施されるが、生きていく最低限でだった。彼女達は貧乏人男の『性の処理』も受け持った。その時はタダ同然でだ。
「子供が生まれたらすぐに間引かれるそうだがね。私の相手をしてくれた女は16歳だったらしいが、4人子供を産んだと聞いたよ。お前のは?」
「14歳ぐらいだったな。出産の人数は知らん。下の毛があんまり生えていなかった。肌だけだ、取柄は。それ以外は残念な代物だった……」
しかしこれでよい。屋敷に戻れば必ずやる、トーリとのセックスが美味しく思えるだろう。酒をあおると居酒屋を出た。裏通りを歩いていくと、この辺に住んでいる貧乏娼婦の子として似つかわしくないきれいな服を着た、大層可愛い童女たちが集まって遊んでいるのを目にした。
(おや?)
セイジは彼女達に魔の気配を感じた。呼びかけてどこの子かと尋ねた。
「あたしたち、いっしょのおうちにすんでるの!」
「おかあさんはべつべつだけど、みーんなしまいだよ!」
父親を知らぬ子供達ばかり。たいそう美しい若いお姉さんのおうちに預けられている。よく見るとみんな、顔かたちがなんだか似ている様な気がした。髪の毛や瞳の色も一緒だ。
(……父親が同じ、かもしれないな。ん、まて。)
『たぶれっとぱっど』のレポートに書かれていた事を思い出した。パラッツォ教徒の女を妾にした武者からの。侍女が妊娠と産休で頻繁に交代するという男が、トーリの近辺にいたそうだ。
(あの報告書にはそう書いてあったな。ついた侍女はいつもお腹を膨らませてしまう。大層美人のばかり。中にはおでぶもいたがそいつもちんちんをなすりつけたくなるような色気があった……)
その男なら名前をすぐに思い出せる。ルッソ=シュミットだ。アスカウ公の縁者だったから牧童の分際で外交官見習いになり、小さくも領主となったコネ野郎。
「ねえ、君達。住んでいるおうちがどこか教えてくれないかな。教えるだけでいいよ、それだけだ」
女の子達は指で差し示した。この通りで一番新築の大きな家だ。3階建てのそれにみんなで住んでいるという。そんな金持ちもいるもんだなあ、とサトシはつぶやいた。しかしセイジは違う事を考えた。
(フン。なるほどな。アスカウ公は面倒見がよいらしい。別れた夫と浮気相手の子を集めて手厚く養っている。)
女の子達は兄弟に笑顔を向けていた。バラ色の福々しい頬だ。家主や知り合いにたっぷりと愛情を受けて育っているのだろう。だが、歳にそぐわぬ色気を感じすぎる。
(だがこのガキどもは……魔族だろう。サキュバスだな。)
□ □ □ □ □
セイジの勘は当たっていた。夜、こっそりと屋敷を抜け出してその家を調べると、昼間会った女の子達が複数名の男らとセックスをしていたを確かめた。母親と思しき女達と混ざってだ。
彼女達は精を浴びて喜んでいた。男達は慈しむように彼女らを可愛がり、母親らとを貪った。大人の女は全員がサキュバスだった。トーリの屋敷で見たことがあるのが混じっていた。
子供達にペニスをしゃぶらせ、小さな身体を貫いていたあの男達についても、後で調べて何者らか判明した。城の騎士や出入りしている商人や職人らだ。母親らの誠実な愛人達でもあった。
(こっちでもサキュバスどもは、ああしてガキどもを『育てている』ってわけだな。)
サキュバスが産んだ赤ん坊や幼女が、母親の介助で男達のペニスをしゃぶらせたり尻穴に挿れさせて精を吐き出させているのは、エチウでも見たことがある。精を得ないと淫魔はきちんと育たない。ホーデンエーネンでもそうなのかと思いながら彼は部屋に戻った。トーリとのべろべろちゅっちゅから戻って来てくたびれている兄に告げた。
「急用ができた。明日のヨーシデン行きは兄さん1人で行って来てくれ」
「……どうしてだ? 『おしゃぶり姫』に会わせてくれるのに?」
お前も楽しみにしていたじゃないか。しかしセイジは旅の準備を始めた。
「アスカウ公様には伝えておいてくれ。北ホーデンエーネンに行く急用が出来たとな」
「おい、やめてくれ。俺1人じゃトーリ様とマイヤ様のお相手はできないよ……」
「兄さんならやり遂げられるさ。とにかく伝えておいてくれ。頼む」
それからすぐにセイジは出て行った。兄に何も語らずに出て行ったなら、アスカウ公に詮索される事は無いだろう。向かう先はアヅチハーゲンだった。
何をするのかは頭の中で組み立てていた。姦計の青写真をそろそろ作ろう。あの男に会いに行く。会ってどういう行動をしているのかを調べ、接近する。
(先に副司祭騎士団長殿が手をまわしているかと思うが、その前にカタを着けよう。)
大陸北東にある、北部最大の港町・アヅチハーゲンにやって来た。周囲を防壁代わりの丘に囲まれた良港だ。クボーニコフやウマヤーノからの船がひっきりなしに入っていた。
ここもパラッツォ教団の勢いが強い。市民の半分近くがマハラから改宗したパラッツォ教徒である。とはいえ『甘露(アームリータ』は精力剤程度にしか服用していない。飲み物だけでは口が寂しいのだ。胃も満足しない。
その人物は今、アスカウ公の命により貴族の地位を取り上げられ、港の積み荷を調べる仕事をやらされているそうだ。レポートによれば。たった3年でひどい零落ぶりである。かつては南部で3番目ぐらいに豊かなアジール河口の街の一部を領していたのに。
その男はウマヤーノの船が着く、三番港湾の倉庫にいた。他の係員とともに荷を調べ、密輸品やゴブリンの里で作られたご法度な毒物が無いかを調べていた。意外とからだがたくましく、顎に髭をびっしりと生やしていたが、まだ『中年』になったばかりの若者だ。30手前だろう。
「あの人ですか?」
セイジは案内役に問いかけた。
「そうです。変なかたでしてね。最初はこの港湾の監督官として赴任なされたのですが、机仕事は性に合わない、とおっしゃって荷調べ役見習いとしてああして働いているのですよ……」
ほどよくサボるが要領がいい。しかも休みの日を設けずに働いてくれるので重宝しているが、と案内役は苦笑した。彼はその男の代わりに、この港の監督官となったのだ。パラッツォ教徒でもある。
「面白いお方ですね……」
感心してみせたが内心は馬鹿にしきっていた。
(伝説にある『ギョー』や『シュン』の聖人君子の真似ごとか? あほらしい。)
仕事なんぞ部下に任せ、安楽椅子にふんぞり返って女でも抱いてりゃいいものを
。こういう港のお偉いさんは、大抵がそんなものだ。要らぬ苦労を。そう思いながらセイジはその男に近づいた。
「ちょっと、よろしいですか?」
呼びかけられた男は手を止めて顔をあげた。それなりに背は高い。170いくかいかないかだが、他の者が160にも届かないのだから高い方だろう。
「ルッソ=シュミットさんですよね?」
「ええ。お坊さん、おれに何か用でも?」
髭の男、ルッソ=シュミットはカヅノ=セイジをまじまじと見た。ツノが生えていないオーガみたいな容貌をしているな。えらくスケベで曲者くさい聖職者だが、何者なんだろうか?
「はじめまして。私はパラッツォ教団のカヅノ=セイジ。布教司祭という役に就いているしがない僧侶です。あははは」
セイジは笑うと爽やかに見える。しかしルッソは勘が鋭いほうだった。
(何かくさいな。この人。)
パラッツォ教団の僧侶が、なんでこんなところに?
カヅノ=セイジはほくそ笑んでいた。トーリとお付きの女との会話が耳に入って来る。アスカウ公の別宅から離れたナントブルグの色街でも、鮮明に聞こえる。なるほどなあ、なるほどなあ、を頭の中の声で繰り返せる事ばかりだ。
(元夫と長女とは不仲。イーガの魔道士に魔封をやられたのは本当。先祖返りでかつての力が発揮できないままでいる。そういう事か。)
うんこを掴ませやがって、あの雌豚め。トーリが魔族となったというのが収穫だ。神聖魔法がろくにつかえなくなる。あれはニンゲンという種族だからこそ使いこなせる代物なのだ。精霊を粗とする者や魔界の者が使うと殆どの威力を減じてしまう。
セイジは確信した。ナーガハーマの戦いで、トーリが自分達から盗んだ神聖魔法を自分のものに出来たのは、彼女がまだ『半魔族』だったからだろう。完璧ではなかったから為せたのだ。現に屋敷にかけた神聖魔法を探知できないではないか。
「どうした、セイジ? なんだか嬉しそうな顔だぞ?」
サトシが聞いてきた。セイジは売春宿のまわりをうろつく、顔も胴体も太って醜い娼婦らをにらみながら言った。
「あいつらを見て、トーリ様がいては商売あがったりなんじゃないかと思ったまでだよ」
「美醜で差別するのはよくないぞ。さて、どの宿にする? 俺達が神の愛を布教する相手は、どんな迷える子羊なんだろうな?」
2人が来たのはそういう目的だ。美食ばかりしていると精神が鈍ってしまう。粗食で心を保たねば。エチウでは彼等と性交をする信徒は、美醜問わずであった。昨晩トーリにこってり搾り取られたけれど、オーガの身体は頑強であるし、パラッツォ教の習わしは性を活発にさせる。毎日3回は性交をしないと気が済まない。
「あの店にしましょう、兄さん」
「そうしよう。身体に溜まったサキュバス女の毒っ気を洗い流そう。神の愛を伝えながらな」
□ □ □ □ □
ろくでもない娼婦だった。店員の説明で聞いた、とても若い子だったのは確かだったが、若さを帳消しする様な欠点ばかりだった。
太っていて顔は魚のようで、舌足らずを通り越して不明瞭な言葉を使う『知恵遅れ』の上に、ちょっと体位を変えると「いだい! いだい!」と文句を言ってくる『まぐろおんな』だった。当然、フェラチオなんかもしてくれない。まんこもまともに手入れをしておらず、ひどく臭かった。
「……ホーデンエーネン人はあんな娼婦を相手にしているのか?」
居酒屋でセイジは、におい消しの為に火酒をあおる。クンニリングスを長く施したのに無反応でつまらない女だった。不感症。多分そうだ。セイジの兄も同様のに出くわして『布教』が出来なかったそうだ。
「……あの店は通りで一番安かったそうだ」
「だからか。ホーデンエーネン人は、ああいう娘を店で働かせるまで困窮しているのか?」
「ちがう。アスカウ公が提案したんだよ。ああいう女の子達が働ける場所を作ったんだとさ」
容姿や知能に恵まれない女に、働く事ができる売春宿を。知恵おくれやカタワの女は近隣の者に目をかけられ、小銭や食べ物を施されるが、生きていく最低限でだった。彼女達は貧乏人男の『性の処理』も受け持った。その時はタダ同然でだ。
「子供が生まれたらすぐに間引かれるそうだがね。私の相手をしてくれた女は16歳だったらしいが、4人子供を産んだと聞いたよ。お前のは?」
「14歳ぐらいだったな。出産の人数は知らん。下の毛があんまり生えていなかった。肌だけだ、取柄は。それ以外は残念な代物だった……」
しかしこれでよい。屋敷に戻れば必ずやる、トーリとのセックスが美味しく思えるだろう。酒をあおると居酒屋を出た。裏通りを歩いていくと、この辺に住んでいる貧乏娼婦の子として似つかわしくないきれいな服を着た、大層可愛い童女たちが集まって遊んでいるのを目にした。
(おや?)
セイジは彼女達に魔の気配を感じた。呼びかけてどこの子かと尋ねた。
「あたしたち、いっしょのおうちにすんでるの!」
「おかあさんはべつべつだけど、みーんなしまいだよ!」
父親を知らぬ子供達ばかり。たいそう美しい若いお姉さんのおうちに預けられている。よく見るとみんな、顔かたちがなんだか似ている様な気がした。髪の毛や瞳の色も一緒だ。
(……父親が同じ、かもしれないな。ん、まて。)
『たぶれっとぱっど』のレポートに書かれていた事を思い出した。パラッツォ教徒の女を妾にした武者からの。侍女が妊娠と産休で頻繁に交代するという男が、トーリの近辺にいたそうだ。
(あの報告書にはそう書いてあったな。ついた侍女はいつもお腹を膨らませてしまう。大層美人のばかり。中にはおでぶもいたがそいつもちんちんをなすりつけたくなるような色気があった……)
その男なら名前をすぐに思い出せる。ルッソ=シュミットだ。アスカウ公の縁者だったから牧童の分際で外交官見習いになり、小さくも領主となったコネ野郎。
「ねえ、君達。住んでいるおうちがどこか教えてくれないかな。教えるだけでいいよ、それだけだ」
女の子達は指で差し示した。この通りで一番新築の大きな家だ。3階建てのそれにみんなで住んでいるという。そんな金持ちもいるもんだなあ、とサトシはつぶやいた。しかしセイジは違う事を考えた。
(フン。なるほどな。アスカウ公は面倒見がよいらしい。別れた夫と浮気相手の子を集めて手厚く養っている。)
女の子達は兄弟に笑顔を向けていた。バラ色の福々しい頬だ。家主や知り合いにたっぷりと愛情を受けて育っているのだろう。だが、歳にそぐわぬ色気を感じすぎる。
(だがこのガキどもは……魔族だろう。サキュバスだな。)
□ □ □ □ □
セイジの勘は当たっていた。夜、こっそりと屋敷を抜け出してその家を調べると、昼間会った女の子達が複数名の男らとセックスをしていたを確かめた。母親と思しき女達と混ざってだ。
彼女達は精を浴びて喜んでいた。男達は慈しむように彼女らを可愛がり、母親らとを貪った。大人の女は全員がサキュバスだった。トーリの屋敷で見たことがあるのが混じっていた。
子供達にペニスをしゃぶらせ、小さな身体を貫いていたあの男達についても、後で調べて何者らか判明した。城の騎士や出入りしている商人や職人らだ。母親らの誠実な愛人達でもあった。
(こっちでもサキュバスどもは、ああしてガキどもを『育てている』ってわけだな。)
サキュバスが産んだ赤ん坊や幼女が、母親の介助で男達のペニスをしゃぶらせたり尻穴に挿れさせて精を吐き出させているのは、エチウでも見たことがある。精を得ないと淫魔はきちんと育たない。ホーデンエーネンでもそうなのかと思いながら彼は部屋に戻った。トーリとのべろべろちゅっちゅから戻って来てくたびれている兄に告げた。
「急用ができた。明日のヨーシデン行きは兄さん1人で行って来てくれ」
「……どうしてだ? 『おしゃぶり姫』に会わせてくれるのに?」
お前も楽しみにしていたじゃないか。しかしセイジは旅の準備を始めた。
「アスカウ公様には伝えておいてくれ。北ホーデンエーネンに行く急用が出来たとな」
「おい、やめてくれ。俺1人じゃトーリ様とマイヤ様のお相手はできないよ……」
「兄さんならやり遂げられるさ。とにかく伝えておいてくれ。頼む」
それからすぐにセイジは出て行った。兄に何も語らずに出て行ったなら、アスカウ公に詮索される事は無いだろう。向かう先はアヅチハーゲンだった。
何をするのかは頭の中で組み立てていた。姦計の青写真をそろそろ作ろう。あの男に会いに行く。会ってどういう行動をしているのかを調べ、接近する。
(先に副司祭騎士団長殿が手をまわしているかと思うが、その前にカタを着けよう。)
大陸北東にある、北部最大の港町・アヅチハーゲンにやって来た。周囲を防壁代わりの丘に囲まれた良港だ。クボーニコフやウマヤーノからの船がひっきりなしに入っていた。
ここもパラッツォ教団の勢いが強い。市民の半分近くがマハラから改宗したパラッツォ教徒である。とはいえ『甘露(アームリータ』は精力剤程度にしか服用していない。飲み物だけでは口が寂しいのだ。胃も満足しない。
その人物は今、アスカウ公の命により貴族の地位を取り上げられ、港の積み荷を調べる仕事をやらされているそうだ。レポートによれば。たった3年でひどい零落ぶりである。かつては南部で3番目ぐらいに豊かなアジール河口の街の一部を領していたのに。
その男はウマヤーノの船が着く、三番港湾の倉庫にいた。他の係員とともに荷を調べ、密輸品やゴブリンの里で作られたご法度な毒物が無いかを調べていた。意外とからだがたくましく、顎に髭をびっしりと生やしていたが、まだ『中年』になったばかりの若者だ。30手前だろう。
「あの人ですか?」
セイジは案内役に問いかけた。
「そうです。変なかたでしてね。最初はこの港湾の監督官として赴任なされたのですが、机仕事は性に合わない、とおっしゃって荷調べ役見習いとしてああして働いているのですよ……」
ほどよくサボるが要領がいい。しかも休みの日を設けずに働いてくれるので重宝しているが、と案内役は苦笑した。彼はその男の代わりに、この港の監督官となったのだ。パラッツォ教徒でもある。
「面白いお方ですね……」
感心してみせたが内心は馬鹿にしきっていた。
(伝説にある『ギョー』や『シュン』の聖人君子の真似ごとか? あほらしい。)
仕事なんぞ部下に任せ、安楽椅子にふんぞり返って女でも抱いてりゃいいものを
。こういう港のお偉いさんは、大抵がそんなものだ。要らぬ苦労を。そう思いながらセイジはその男に近づいた。
「ちょっと、よろしいですか?」
呼びかけられた男は手を止めて顔をあげた。それなりに背は高い。170いくかいかないかだが、他の者が160にも届かないのだから高い方だろう。
「ルッソ=シュミットさんですよね?」
「ええ。お坊さん、おれに何か用でも?」
髭の男、ルッソ=シュミットはカヅノ=セイジをまじまじと見た。ツノが生えていないオーガみたいな容貌をしているな。えらくスケベで曲者くさい聖職者だが、何者なんだろうか?
「はじめまして。私はパラッツォ教団のカヅノ=セイジ。布教司祭という役に就いているしがない僧侶です。あははは」
セイジは笑うと爽やかに見える。しかしルッソは勘が鋭いほうだった。
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