聖騎士イズヴァルトの伝説 外伝 『女王の末裔たち』

CHACOとJAGURA

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第三部 カツランダルク戦記 『第三章・カツランダルクの姉妹』

77 夢を果たしたその次には

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 トリシア大学。マイヤが築いているヨーシデンの学術都市の中心地にある大学だ。医学部と魔道学部と戦争学部しかまだ無いが、去年の暮れに開学してから有能な学生たちが各地から集まっていた。
 
 イーズモーの建築技師・ジェイムズ=ヒューレットが1から設計した大学は堅牢で、装飾こそ落ち着いていたけれど威厳に満ちていた。マイヤが禁書図書館から引っ張り出した、『ばうはうす』の建築技法書を彼に貸し、「これを参考に建ててね」と頼んだ結果がそうなったのだ。
 
 シンプルで直線的。複雑な形をした装飾は中庭の草や植木でいい。チョー未来的でかっこいいっしょ? この大学は数百年後の未来まで各国の建築士らに、これに痺れる憧れるぅー、と褒められる傑作だった。
 
 しかし今は全体の3分の1が出来たぐらいだ。医学部と魔道学部と戦争学部は1つの建物の中にひしめき合っていた。空き教室もあったけど。
 
 その中にある医学部の研究所に、トーリは部下のサキュバス達を従えて来ていた。セインの子を産んだ十数名の妾から採取した毛髪や皮膚片、尿や糞便を入れた瓶を抱えてだ。検査の為にである。
 
「これが頼まれた全員の分です」
「ありがとう。では、さっそく調べましょう」

 頼まれた医学部の教授はゴブリン族である。ハトゥンという名のムーツ大陸の女ゴブリンだ。ナンブロシア中部に拠点を持つ、ボルジギン族の族長に連なるという。
 
 彼女は薬学の探究の為、イーガで遊学していたとトーリは聞いていた。有名なイーガのシュタイナー医療魔道伯からの紹介だ。
 
 ハトゥンは学生とともに提出品を器具に入れ、ふるいにかけた。おおよそ1時間で結果が出た。
 
「結果が出ました」
「どうでした?」
「遺伝子的には問題なし。『ごく普通の生活』をしていれば悪い病気にかかる事は殆ど無かったでしょう。しかし……」

 なんで水銀やヒ素や鉛が多く含まれているんだ? ホーデンエーネンの医者は何を彼女達に服用させたのかハトゥンは問い詰めたかった。これじゃあ数百年前の医療技術と一緒じゃないか。
 
「そりゃあ私達ゴブリンは、下剤や気付け薬にそういう毒物を用いておりますが、ニンゲンがこれをやったら絶対だめです。赤ちゃんもすぐ死んじゃいます」
「うわああ……そうだったんですね?」
「怪しげな民間療法はすぐに禁令を出しておいてください。ホーデンエーネンは間違った民間療法が多いみたいですから。そういうのを未だ信じる連中から縛り首にしてくださいね。以上です」

 こんな単純な理由だったとは。トーリは建設途上のヨーシデンの街を散歩していた、国王の侍従らに報告した。今すぐ昔通りの医療を続ける医者や魔道士にお触れを出しなさい。
 
「あのう、朝議にはからなくてもよいのですか?」
「国王の妃で王族の筆頭でもある私が申しているのです。おかあさんとあかちゃんがかわいそう。助けてあげて?」
「は、はあ……」
「しかし、トーリ様が命じたという証拠が無いと、すぐには……」
「それならこれがあるわ」

 トーリは懐から紙を出した。結果を聞いてすぐに文を書いていたのだ。その右下の端っこには、窄まった何かを黒墨で写したものがあった。トーリの肛門拓である。彼女はこうした文に、自分の女性器や肛門の拓をつけていたのだ。
 
「む、やらしい窄まりが押されておりますな?」
「正真正銘、私のお尻の穴よ」

 トーリはスカートをめくって尻を出すと前かがみになった。きゅっとしてちょっと縦割れているアヌスだ。ハトゥンは使い込まれている生の肛門を拓を見比べた。
 
「全く同じです……たいへん、いやらしい形をしておりますね?」
「こんなはしたないことをやらかすのは、ホーデンエーネンでは私かチュバッカさんだけだから。ちゃんとした証拠になるわね?」
「ええ、もちろん……ソーローの奥方様は、もうちょっと周りが膨らんでおりますからね」

 トーリの尻穴は膣と同じく搾精仕様。チュバッカのアヌスもまた、試した者の『極上名器』と評されていた。チュバッカを抱いた好事家は、夫たるケノービがまだ一度も試していないと聞くや、「なんてもったいない……」と必ず口にした。本心からである。

 侍従らはサキュバスと共にナントブルグへ飛んで行った。転移魔法で1日もせずに着くだろう。これで『原因』は解決だろう。一安心だ。
 
「さて、ヨーシデンに来たのだし、妹に会いに行くわよ、みんな」
 
 トーリが呼びかけるとサキュバス達はうなずいた。マイヤはこの2年、ずっとヨーシデンで都の建設につきっきりだった。
 
 
□ □ □ □ □


 21歳になったマイヤは、女ざかりの頃を迎えていた。
 
 30になればぶくぶく肥り、でっぷりとしたおばさん体型になるホーデンエーネン女にとって、21という歳は大抵の女の絶頂期だ。個体差はあるが。
 
 ただ、マイヤはどうもベクトルが違う。大輪の艶で花と形容される美女になると思いきや、たぬきみたいな愛嬌さは相変わらずで、むしろ歳を取っていない様に見えてならない。15になるかならぬかに見える、可愛いに全てを振った小娘である。両手両足を失い、おっぱいが並外れてでかいのを除けばである。
 
 ヨーシデン伯であり名目上の経済長官であるマイヤは、このところは仕事以外にあることに夢中になっていた。邸の図書室での出来事である。
 
「核燃料をこの世界で作るとなると、相当なお金がかかるだろうし魔法の研究も必要だと思うよ?」
「そうですか。私の前世ではもう廃れて無くなった技術ですが、こちらの世界でも……」
「第一、『タイムマシン』なんて私の前世の時代にも無かったよ。なにその1.21ジゴワットの電力とかって?」

 テーブルを隔ててあい向かうのは、パラッツォ教団の枢機卿のタカミ=ジュン。話していたのは時間遡行の装置についてだ。タカミは前世、数百年前にはその装置が出来ていたというのを思い出してその時代で人生を送っていたマイヤに質問していたのだ。
 
「ただ、私が読んだ聖マサタクトゥスによる古文書ですと、『でろりあん』と呼ばれる時間遡行装置が」
「司祭長さん。それたぶん、映画の話だよ!」
「え、えいが?」

 マイヤはかいつまんで説明した。前世で私が死んだ年にアメリカで大ヒットしたSF映画。テレビで知った。日本で売れたかどうかは知らん。4年後に第二作目と第三作目が上映されたのは、死後のことだから彼女は知らなかった。

「それと、私もタカミさんも前世は、『かくへいき』がどれだけひどいものか身に染みて感じている日本の生まれなんだし……」
「聖マサタクトゥスの書にございましたね、それも。汚いこときわまりないキノコ型の花火で、『あめりか』と『そびえと』がどれだけ豪華に打ち上げられるか競っていたそうですね。出来た当初は広島と長崎で沢山の人々に見てもらおうと、アメリカは……」
「なにそれ! ひっどいブラックジョークね! マサタクトゥスってどういう頭をしているの! ホラやいんちきばかり書いている嘘つきじゃん!」

 タカミが口にする聖マサタクトゥスは、いろんな嘘を本当にあった事の様に書き残したという。

 いわく、日本国史上最大最強と言われた戦艦は宇宙も航る事が出来た。
 いわく、2015の年に巨神兵と呼ばれるゴーレムが、箱根の温泉を我が物にせんとする巨大な魔物達と戦った。
 いわく、500年に1度行われる降霊術士の王を決める戦いで、優勝した人物が神を名乗り、歴史上の様々な人物の守護霊を降ろして語らせた、など。
 
「ヒットラーの南極基地だとか古代文明のオーパーツとか、いったい何なのかな! いんちき珍説を本当だと思い込んでる頭がおかしい人だったのかしら?」
「さ、さあ……なにせ私の前世は、旧文明はほぼほぼ朽ちていたので、詳しいことは……」
「そいつのホラ話は忘れちゃっていいよ! ……はあ」

 マイヤは目の前に置かれていた本を見て、右手の義手でページをめくる。その本はイーガの禁書図書館にあったものだった。『先祖返り』について詳しく書かれていた。
 
「この本は本当のことを書いているのかな」

 そのページには先祖返りがもたらす効能について、詳しく記されていた。魔力と魔法を扱う才能さえあれば、身体の失った箇所を取り戻すことができる。
 
「手足だって卵巣だって……私、大学の夢を遂げたんだからもう一つの夢を果たしたくてたまらないの」

 イズヴァルトと仲直りをして、彼と世界中を旅しながら赤ちゃんを産みたい。

「できるでしょうね。ところで何人のお子を?」
「私は欲深いよ? 最低でも10人はね」
「……それほど愛していらっしゃるのですね?」
「そうよ。失ったものを絶対に取り戻してやるんだから」

 マイヤは目論んでいた。アカサカチハヤに行けば、きっと果たせるだろう。
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