聖騎士イズヴァルトの伝説 外伝 『女王の末裔たち』

CHACOとJAGURA

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第三部 カツランダルク戦記 『第二章・浸食し始める闇』

55 魔竜の手下

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 ピックプリトポロポロッテンの説明を受けてトーリはやってみる事にした。魔竜の部下がどこにいるのかと聞き、よく知っている場所にいる所だと教えてもらうと急ぎ馬車を用意し、ピックプリトとともに乗り込んだ。転移魔法が使えるサキュバスがいないのだ。
 
 城下の色街の奥まった路地。そこに魔竜の部下達が居を構えていた。アイスクリームの店だ。但し氷菓を作る機械は無い。牛乳を飲んだサキュバスが尻からひねるのだ。どれも砂糖やはちみつを甘味にしたものより味が良い。是非とも見たい客には、魅惑の艶尻を向けてむりゅむりゅと出す。特殊な界隈には大変好評な店だった。
 
 アイスクリームは作るサキュバスによって質感が変わる。下っ端の肛門からはしゃりしゃりした氷が混じったもの。中級の淫魔の窄まりから出されるのはちょっと硬い程度のソフトクリームである。ただ、どれもバニラに似た風味があり、こどもサキュバスのそれは極上であった。
 
 たまに茶色がかったクラッシュチョコみたいなものが混じっているが、サキュバスの尻から出されるそれは悪い菌が無く、本物と同じぐらいの味である。魔界のデパートで売られている高級チョコには大抵、彼女達のウンコが加えられていた。
 
「いないわね……」

 軒先を見てトーリはつぶやいた。肩に乗った饅頭からは繁盛していると聞いていたのに。しかし平日の昼間である。この店は休日か淫欲の抑えがきかない男女がたむろする夜に客が来るのだ。
 
 店の中も客はいなかった。ごめんくださいと呼びかけると「らっしゃせー」と声がかかった。タバコで荒れた喉から出る女の声だ。出て来たのは金髪でスタイルの良い美女。胸元が空いた上着を着ており、胸と尻とが大きい。くびれの強弱がはっきりしていた。
 
「んっ! ……あれ? オルフレッド坊やのお母さんすか?」
「その言い方はやめて頂戴、ハーマイオニー」

 金髪の女はこの店のあるじ、サキュバスのハーマイオニーだ。右手の指に火が付いた紙巻きタバコをはさんでいた。客の前だというのにすぱっ、とやってげほっ、と咳をする。燃えカスが落ちても気にする素振りを見せなかった。

「お久しぶりっすね。げほっ。1年ぶりっすか?」
「だいたいそのぐらいかしら。でもオルフレッドのお母さんとかいう呼び方はやめなさいね。私、まだ24歳なのよ? おじょうさん、と呼んでくれなきゃ嫌」

 中年(おばさん)と呼ばれるようになるまであと1年か2年ぐらいだが、それまではお嬢さんとかお姉さんなどと呼んで欲しい。しかも魔族への先祖返りを果たしつつある。サキュバスは死ぬまで『お姉さん』のままだ。年老いたサキュバスは精液の供給がなくなると、すぐにしわしわになってしまうのだが。
 
「ま、子供が10人いる女をおねえさん呼ばわりするのは、アタシの思想にそぐいませんけど、そうさせてもらいましょうかね?」
「10人も産んでいないわよ! 8人よ!」

 生産性が高い子宮と卵巣っすね。ハーマイオニーはタバコをすぱっとやりながら皮肉った。ぷいー、と毒にまみれた煙をトーリに吹きかける。
 
「げほげほげほっ! なにすんのよ!」
「あ、タバコきらいだったっすか?」
「嫌いじゃないけど……煙たいだけじゃないの!」

 トーリはタバコをそれ程嫌ってはいなかった。子供がお腹にいない時に義父母にすすめられたものなら、少しぐらいはやっていた。とはいえ、それを吸ってほんわかした気分になったり、頭が冴える体質ではなかった。味や香りはわるくないと思うが、これを好んで吸うやつは何だろうと疑問に思ってしまう。

「サキュバスだったら、大麻とかアヘンとかならわかるんだけど、どうしてそんなものをすぱすぱと?」
「そりゃあ、口寂しいからにきまっているじゃないっすか。アタシらサキュバスはいっつもちんぽを口に入れて吸うんで、そいつをやらない時は落ち着かないんすよ」

 それにはトーリも同意した。確かに、ちんちんをちゅーちゅーしないと気分が落ち着かない。ちんちんは淫魔の血が流れる女にとっての精神安定剤みたいなものだ。
 
 魔界の魔法を本格的に勉強し始めたら、転移魔法の応用術式を学びたいと思っていた。遠く離れたところにある物体の一部を空間を捻じ曲げ、傍に呼び出すものである。ちんぽだけを手元に。マイヤが大喜びする魔法だろう。
 
「しかし、貴方がピックプリトポロポロッテンの知り合い? あのくどい顔をした魔竜のおまんこを舐める下っ端だとは存じていたけど?」
「あ。今のは魔竜様に言わないでおきますから……顔じゃなくておまんこを舐めてもらってるってところっすよ。ああ見えて自分がエロいことするのは嫌いなお人なんすよ」

 で、その淫魔の名前はとても懐かしいぞとハーマイオニーが口に出した。すぴーとやりながらぷはーとやって、げほ。トーリは副流煙でむせてしまった。相当に強烈なタバコでもあったからだ。

「私の肩に乗っているまんじゅうみたいなのがピックプリトよ。イーガの腐れ魔道士どものせいでこんな形にされちゃったの」
「そうなのよ。お久しぶりね、ハーマイオニー」

 まんまるい饅頭みたいなものが口を開いたのでハーマイオニーはぎょっとした。近づいてふわふわのそれを触ってにおいをかぐと、確かに、とうなずいた。
 
「あ、お久しぶりっす。ピックプリト大先輩」
「アナタも相変わらずねハーマイオニー。全然尊敬の念が感じられないわ。よく言えば物怖じしない、ということころかしら。そこがアナタのいいところなんだけど」
「じぶん、こう見えても中級のサキュバスで数少ない無骨な武闘派サキュバスなんで、細かい言葉遣いとか苦手なんすよ」
 
 饅頭はうふふと笑った。ピックプリトは魔竜の部下であった。ただ、この世界のではない。魔界での領地の。とある村の役場で長いこと出納長を務めていた。それから市議会議員になったり、任期後は嘱託の相談員として長く働いていたという。
 
「ピックプリト……相当なおばあちゃんだったのね?」
「はい。カミラもシャロンも立場上はワタシの部下でしたから」
「カミラにシャロン……アタシの数世代前のセンパイ方じゃないっすか? けっこうなばあさんばっかりいるんすね、トーリさんところの陣営は」

 おっぱいボインな若い女の姿かたちをしたババア魔族がチンポを漁りながらトーリの天下取りに力を貸す。そう思うとなかなかに奇怪で楽しい光景になるとハーマイオニーは思った。彼女は淫魔の中では若い部類にいる。中級レベルの中の武断派エリートという、理解するのに時間がかかる言い方で表せる立場にあったが。

「で、なんの用っすか? アタシのケツアナからひねるもんでも食べていきます?」
「貴方のひゃっこいうんち……タバコくさそうだからお断りするわ」

 この店には他のサキュバスがケツの穴からひねっていたはず。トーリはそう覚えていた。ハーマイオニーが牛乳をがぶがぶと飲んで、臓器の中で氷結魔法を使って尻からひねるところなど、一度も見たことが無かった。

「あ、ご心配なく。ヤニくっさいのは胃の中で消えますから」
「だとしてもご勘弁させてもらうわ。どうせ奥に誰かいるんでしょ? オーラフさんは?」

 オーラフという店員は『名作アイスクリーム製造機』として名が知られていた。ウエストがでぶっていたら絶対に雪だるまと評されそうなバカでかい乳と尻の中級サキュバス。魔竜が信頼している腹心の1人でもあった。
 
「オーラフは本日不在っす。あと1か月はいねえっすね」
「どうしてよ?」
「休暇っす。ムーツのナンブロシアあたりの温泉宿で過ごしているみたいっすね。オーガのでかでかちんぽやゴブリンらの前戯の技巧に酔いしれているはずっすよ。今頃は子宮にどっぷり精液を詰め込んでんじゃないんすかね?」

 トーリは露骨に嫌な顔をした。ヤニカスのニコチンアイスクリームなんて御免蒙るわ。ハーマイオニーは短くなってしまった1本を床に投げ捨てて火を踏み消すと、腰につけていた小物入れからもう1本を出して火をつけた。

「ちゃーんと『へるぷ』に来てもらってますんで。んっ! おーい、普通の2つで!」

 奥からはーい、と愛らしい響きの女の声がした。しばらくして「ふんぬらばー!」と唸り声があがると、出来立てほやほやの『サキュバスアイスクリーム』を皿に盛った店員が現れた。低身長で愛くるしい丸顔のサキュバスだ。アホみたいに乳がデカかった。
 
「お待ちどうさま。サキュバスアイスクリーム2つです!」
「ハーマイオニー、見ない顔ね。どこから来た子なの?」

 席に座ったトーリとあい向かうかたちでテーブルの上に置かれたピックプリトが尋ねた。結構若いサキュバスだ。

「んっ! 最近この世界にやって来て、魔竜様の部下になったピグレッタっす。アタシと同じく中級の魔族。結構いい味のもんをひねりますよ?」

 ふうん、とうなずいてトーリは1さじを口に入れた。まあ悪くはない出来。中の上ぐらい。この世界で得られる最高の甘味・サキュバスアイスクリームの中での話だ。いつも店にいるオーラフやこどもサキュバスのはもっと甘味が強い。
 
「おいしくはあるけど……ちょっと平凡過ぎるわね? もうちょっと個性を出した方がいいわよ、あなた?」
「ハーマイオニー先輩、『ラーメンひょうろんか』みてえにうぜー評論されたんですけど、なんなんですかこいつ?」
「あ、ピグレッタはこの国に来てまだ1か月だから存じてないみたいっすね。あのコーザ=ストーンマウントをへこませたトーリ=カツランダルクさんすよ」

 ピグレッタは急にあらたまって頭をさげた。隣の饅頭に比べて微妙な魔力しか感じられなかったから侮っていたのだ。まさかあの大物がここに来るとは。
 
「えへへへへ、お噂はかねがね……」
「ハーマイオニーさん、そこの雑魚にはさっさと下がってもらって。貴方にお話があるの」

 ほら、早く。アイスクリームを犬食いする饅頭をせかす。ピックプリトは事情を説明した。イーガの魔道士にこっぴどくやられたのでトーリは力を出せない状態にある。それが数年続くみたいだ。なので、魔竜の力を貸してほしい。
 
「封印魔法ねえ……解呪は無理っすよ? 魔竜様はトーリさんのこと、かなりヤバめな奴だと危険視してるんで」
「解呪が無理なら、魔界の者のよしみで何名か強い人を派遣してほしいのよ。こういう状況は『ひめさま』の鼻っ柱を折るいい薬になるとは思うんだけど、このままだと敵方がよろしくない事を……」
「ひどいわ、ピックプリト。私は常に腰を低くしているつもりよ?」

 ほーん。ハーマイオニーは腕を組んで煙を吸いながらうなずいた。返答は「絶対に無理」。

「ハーマイオニー!」
「むしろ魔竜様的には、魔族の血を引く者がやんちゃしなくて済むと安心しちゃうっすよ。あくまでこの世界の平穏無事が目指すところっすからね」
「そこをお願い。アナタの力でなんとかしてくれないかしら?」

 ハーマイオニーはトーリをじっと眺めた。これも試練のうちというやつだろう。でも、手を貸すわけにはいかない。魔竜からはその様に言いつけられた。あくまで監視するのみだ。

「お断りっす。アタシたち、この世界のニンゲンのいざこざに巻き込まれたくないんで」
「そう……無理言ってごめんね?」
「けど、こいつは魔竜様に報告だけしておくっす。もしかしたら、の話なんすけど」

 トーリに破滅的な危機が迫った場合、情に流されて手を差し伸べるかもしれないだろう。その可能性はあるかもしれない、と魔竜の部下は告げてこれ以上は耳を貸さなかった。
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