聖騎士イズヴァルトの伝説 外伝 『女王の末裔たち』

CHACOとJAGURA

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第三部 カツランダルク戦記 『第二章・浸食し始める闇』

51 思惑と傷

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(あのおじいさんと何を話しているのかしら?)
 
 ナーブローネバーレッタは首を傾げた。しかしタルッホとトールバルは既に彼女と娘に気が付いていた。話している最中にナーブローネから魔の力が近づいて来るのを感じたからだ。
 
「この感じはサキュバスだな。どうする?」
「やるしかないでしょう」
 
 うなずきもせずにトールバルは動いていた。印を切った。ナーブローネ母子の足元に結界陣を敷いた。魔法が使えなくする為にだ。導師とも呼ばれたこの男は、エルフ仕込みの魔法を身に着けていた。
 
 タルッホが動く。太った女とは思えない素早さで。彼女は懐から小剣を取り出して鞘から抜く。蛇行した刀身のミスリルの剣だ。印を切ると魔の力に感応して紅く輝いていた刃に指をあてた。
 
(タルッホさん、なぜ剣を!)

 危険だとメレディが呼びかける。しかしナーブローネにとってタルッホはトーリに仕える仲間だ。刃を抜いた理由は他にあると思ってしまった。
 
 間近に来て殺気を感じた時には遅かった。逃げようにも身動きが取れなかった。トールバルが新たに、足封じの魔法を仕掛けたからだ。上半身をくねらせて子供を守ろうとした彼女の背中に、タルッホの剣が突き刺さった。
 
「タルッホさん……どうして……?」

 答えもせずにタルッホは力を込めてひねる。抜いた血まみれの刀身を赤子にも突き刺した。仕留めたか。いや、まだだ。
 
(思念体が終わっていない!)

 崩れて塵となり始めた2人のサキュバスの身体を、タルッホは何度も剣で斬りつけた。特殊な魔法を自分にかけていたイーガの間諜には見えていた。斬りつけたのは身体から抜け出ようとする思念体であった。もうこの母子は血にまみれ、裂かれた衣服を残して消えたのだ。
 
「やれたか?」
「ええ。衣服や荷物は焼いて埋めておきましょう」

 後始末をし、灰を近くの小川にまいた。念のために町から離れるべきだとタルッホは助言した。
 
「赤子には可哀そうなことをしたな。生かしてやりたかったが……」
「任務が優先です。ただ、あの赤ちゃんはルッソ様のお子でございました」
「休暇をとっているサキュバスだったか。不運なことだ」

 それにしてもと魔道士は言う。武芸は衰えてはいない。現役の魔道騎士団でもやっていけるぐらいの技量だ。
 
「流石はドワーフの血が濃いというべきか。太って見えるが実際は筋肉の塊なのだな」
「船娼婦で身を立てていた頃、物好きな船員にみっちりと仕込まれましたよ」

 船員たちの中には元傭兵というのが結構いた。タルッホにドワーフの血が流れているのを聞いて教えてくれたそうだ。剣で食っていけばいいのに、と残念がられたりもした。

「太って見えるのは、ゆったりとした衣服だからそう見られるだけのことでございます」
 
 本当に得意な武器は小剣みたいな軽いものではなく、槌や斧みたいに重いものだと彼女は答えた。それにすれば一撃で母子を葬れたはずだ。
 
「魔族殺しの剣も衰えていない。流石はアドルフ様が見込んだだけある」

 よして欲しいと言ってタルッホは照れた。イーガ王国が産み出した魔族を殺す剣は、タルッホやこの老人もいくらか扱えた。せいぜいが下級の魔族を討てる程度だが。
 
「手ごわいのにはまるで通用しませんよ。アドルフ殿下ぐらいのものです。ところで、イーガには殿下が目にかけていたという青年がいるそうですが?」
「アナキン=スカルファッカーだね。彼の研鑽は順調のようだ。奥方のピルリア殿も学んでいるらしい」

 ピルリアに関しては魔族の思念体を殴る技である。なかなかに筋がいいと評判だ。アナキンはそれ以上に期待されている。アドルフが扱えた中級の魔族も斬れる剣を身に着けていたからだ。
 
「スカルファッカー家のアナキン。もしかしたら役に立ってくれるかもしれませんね」
「それに関しては彼の兄上がいろいろと画策しているらしい。いずれ、彼の力を借りる事となるだろう」

 方策はいろいろと立てている。サキュバスの中でも厄介なカミラとシャロンを葬ってトーリの周辺を弱体化させるか、本人に狙いを定めるか。
 
 今のところはまだ計画段階だった。イーガ王国はトーリの暗殺も視野に入れていたのだ。
 
 
□ □ □ □ □


 ナーブローネバーレッタと娘の姿が見えなくなった。数日経って何か異変が起きたのかとサキュバス達の間でざわめきが起こった。魔力を探っても彼女と娘のものが消えていたからだ。
 
 ナーブローネの失踪はナントブルグに帰って来たばかりのトーリの元にも届いた。治癒魔法がはかどらず、折れた腕が痛むのもなかなか鎮まらない彼女は苛立ちを覚えていたところに、この知らせだ。
 
「ど、どうしましょう。ナーブローネが、メレディちゃんが……」

 あの赤ん坊に関しては特別な思い入れが彼女にはあった。何せルッソのちんちんから産まれた子だ。ルッソの子は例え他の女の膣口からひねり出たとしても我が子の様に思っていた。傍で男の上半身をスカートの中に入れて「はう…♡」と悶えていたシャロンに呼び掛けた。
 
「シャロン。絶対に探し出しなさい!」
「はっ。必ず、そういたします……ふうん♡」
「どうしよう! メレディちゃんの身に何かあったらルッソに申し訳が立たないわ! あう、い、いたい……」

 ギブスが取れない右腕がまた痛んだ。自分の魔法もかなり弱くなっているように思えてならない。試しにちんぽのかたちをしたぷるぷると動く物体を魔法で作ってみたところ、いつもの10倍の精神力を必要として出来上がる前に疲れ切ってしまった。

「私もちんちんが欲しいわ……はめてないとどこか気が苦しいし」

 トーリは衛兵を2人呼び寄せて彼等と交わった。とにかくちんちんを挿れて欲しい。子宮の中を子胤液で満たし、それから得られるエナジーで身体に活気を取り戻させたい。
 
 1人目の衛兵が服を脱いでやって来た。ギンギンになったそれにトーリの顔は喜色満面となる。彼女は執務机に上半身を預け、尻を上げた。スカートがめくられ濡れ切った女性器がたくましい陰茎で貫かれた。
 
「あふっ♡ あふっ♡ あふっ♡ あふっ♡ あふっ♡ あふっ♡ あふっ……ふうっ♡」

 2分も経たぬ激しいセックスだった。もう1人がやって来てトーリの中にお邪魔する。
 
「♡♡♡♡♡♡♡♡」

 こっちは1分。それでも濃厚なザーメンを子宮が頂いて満足だ。さっきやった男が回復するまで待つことにした。休憩だ。丸出しにした尻からザーメンを垂らしつつ、ソファで男と交合を続けていたシャロンに視線を向ける。
 
「交易船に乗り込んでいる子たちをこっちに戻して、2人の捜索を手伝わせなさい」
「む。無理です。今すぐには……」
「命じているの。そうしなさい!」

 やれやれ。シャロンは大きな乳に顔をうずめながら、がしがしと腰を動かしている男に夢中になりながら長距離念話魔法を使った。交易船が入港するアジールやサカーイにいるサキュバス達へだ。彼女達は船娼婦となって交易船に乗る仲間達と、常に連絡を取り合っていた。海賊が出たら知らせる為にである。

 4日して、10人ほどの出張組がナントブルグに戻って来た。どの女達も港や船のあらくれた男達の濃厚な精液を常日頃いただいているようで、王都にいる時よりも肌をつやつやとさせていた。それに苛立ちを覚えた。
 
(まあなんてのびのびと……おまんこできれいになっちゃって!)
 
 毎日10人の男から新鮮な精液をいただいて魔力を蓄えても、いまだ魔法を元通りに使えなかった。シャロンはイーガとエルフらの封印魔法が、相当に強固なものだとトーリに語った。彼女自身も普段の半分しか魔法が使えない状態だ。

 お肌はしっとりつるつるであったが、表皮の奥は苦悶で煮詰まっていた。トーリはすぐにオルガスムナ領へ向かい、ナーブローネバーレッタとメレディブリアッカを探すよう命じた。領内だけでない、周辺も徹底的に洗い出せ。
 
 サキュバス達が出て行くとトーリはシャロンを連れてセイン王がいる国王の執務室へ向かった。息子のジョーケインに会う為にだ。子供は既に乳母と守り役の手に預けられていた。その2人というのは。

「トーリちゃん……ではなかった、アスカウ公様。今日もお日柄よく喜ばしいことですな」

 イズヴァルトの父と母。シギサンシュタウフェン公とその奥方のセシリアだ。2人はナーガハーマの防御施設の増築に関する仕事を終えた後、トーリの願いでジョーケインの守り役となった。
 
 セイン王は机の上に広げた王国南部の地図を眺めていた。セシリアの腕に抱かれて眠るジョーケインを受け取ると、トーリに呼びかけた。
 
「腕は……治ってねえようだな?」
「ええ。治癒魔法の効きが悪くて、あと数カ月は固めたままだと医者にも言われました」
「ベランダから身を乗り出し過ぎて落ちたんなら、仕方ねえよな……」

 その腕では我が子は抱けねえだろう。ジョーケインにとっては可哀そうなことだとセインは嘆いた。彼はトーリの負傷の本当の理由を知らなかった。
 
「ま、この未来の国王様はこの国一番の勇者の親御さんに面倒見てもらえよ。きっとつええ王様になるはずだぜ?」

 セインは笑って赤ん坊の顔を覗き込む。母親似だ。男と言うよりも女の子っぽい顔立ちといいにおいがする。女泣かせで天下一にはなりそうだな、と思った。寂しそうな顔をする。
 
「ふう。こいつだけでも順調に育ってくれりゃいいがな……」
「ご心中、お察し申し上げます」

 トーリはうつむいた。セインが浮かない顔をしているのは子供のことだ。妾達に産ませた子が、次々と亡くなっていたのだ。毒を盛ったりなどはしなかった。トーリ以外の女が産んだ子らは皆、生まれつき身体が弱かったのだ。
 
「死んだのはジョーケインほど太ってくれなかった。残りの子らも育ちっぷりがあんまりよろしくねえ」
「のびのびとしたところで育てて、お外で元気よく遊ばせたほうがよろしいのではないでしょうか」
「それができりゃあな。でも妾どもとがきんちょどものお付き達がそうさせてくれねえ……」

 セインの妾達は、せっかく王様の子として産まれたのだからと子供達をなかなか外に出そうとしなかった。トーリが後継者候補として最も有力な男児を産んでからは、ますますその気配が強くなった。

 それだけでない。セイン王にも原因があったのだ。誰も知らなかったが彼の精子は問題が多かった。短命で終わった国王の母の遺伝が強かったのだ。ただ1人、ジョーケインだけはその悪影響を受けずに済んでいた。

「トーリ、こいつはお前が言う通り、5歳までは帝王学を学ばせずにシギサンシュタウフェンで育てさせるぞ」
「お心のままに、陛下。ところでその地図は?」
「イーガとの『えくすぷれす』の件だ。伸長をどこまでにすんのか考えていたんだ」

 サカーイまでの西ルートとナントブルグまでの北ルートについて、あれこれと考えていたと答えた。朝の評定では各大臣や武将達から、ナントブルグへ伸びる案に対する激しい批判の声があがったと語った。

 トーリはそれに参加していなかった。初めて聞く話だ。大臣らには心を操作する魔法をかけたのに。当然、『えくすぷれす』のナントブルグまでのルートは賛同するように事前に仕掛けておいたのだが。
 
(これは……。)
(おじょうさま、イーガのエルフどもが仕掛けた魔封じの影響でしょう。しばらくは思い通りにならない、ということを心がけなさいませ。)

 シャロンの声。やはりそうなってしまったか。不安を押し殺し、すやと眠るジョーケインの顔をのぞき込んだ。

「サカーイまでの路線は通りそうだけどな……シギサンシュタウフェン夫妻。ジョーケインとトーリと、散歩に行って来てくれないか?」

 但し、シャロンはここに残ってくれ。セインは彼女と話をしたかった。
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