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第三部 カツランダルク戦記 『第二章・浸食し始める闇』
44 姫の軍勢
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マイヤに関するイーガとホーデンエーネンの約束。それを聞いてパルパティアははてな、と首を傾げた。
「おねえちゃまはあちらに戻られてから、半年ごとにイーガとホーデンエーネンのそれぞれで暮す、という取り決めをしていたのです! それを身体が優れぬとか道中危険だからとか、街づくりの工事が忙しいからと突っぱねるなんて!」
マイヤが拉致されホーデンエーネンに戻ったという事がイーガに知れ渡ってから、両国の間でそうした取り決めが交わされた。しかし、その実効性は著しく薄かった。マイヤだけでなく、その姉のトーリが嫌だと言えばイーガ行きは取りやめにしますからね。
取り決められたのは2年前だ。これまでマイヤがイーガに戻った事は一度も無かった。返書はどれもトーリの直筆で、マイヤのサインがされていた。ご丁寧にも彼女の『マン拓』と『アナル拓』をつけてだ。
本物だとマレーネにはわかった。マイヤの女性器はやりまくっているのに形があまり崩れていない。陰核を覆う包皮が削り取られて、おまめのところがくっきりしていたから判別できた。
アナルは赤ん坊のそれである。油断するとすぐに半開きになる窄まり。マレーネはマイヤの尻穴に指を入れてほじくり、「うひ! うひ! うひ!」と喘がせたた事がけっこうあった。あの柔らかアナルの感触は忘れられなかった。ちなみにマレーネのけつあなは、やや硬めだった。
それらの恥ずかしい『写し』こそがまさに、カツランダルク家のご本家の者だという証拠だった。おまんこは隠すものだと誰が決めたのだ。烙印を消し、歴史を書き直す命ある者こそ自分らだ、とカツランダルク家の女は常に全身で叫ぶのだ。
愛しい義姉の膣口と尻穴の写しを見る都度、マレーネは恋しくなってわんわんと泣いた。マイヤが故国に戻りたい気持ちはわかる。けれども顔を見せないなんてひどいにもほどがある。終わりの見えない防御と忍耐でもいいよと思う性格では無かった。見つめ続けてくれる義姉がいない。それが理由だ。
「許すまじ、トーリ=カツランダルク! どこでも犬みたくうんこをひねる、みっともないけつあなちゃんを独占するなんて許しませんわ!」
「仕方ねえですよ。トーリ様はマイヤ様のお姉ちゃんだべえ。肉親だし、傍においてやりたいだろうしなあ」
「サキュバスの部下がいるじゃない! 転移魔法で日帰りで行ったり来たり、できるくせに!」
マレーネは義姉を愛し、慕っていた。いや、かわいがっていた。姉というより生まれたばかりの妹みたく思っていた。兄さまのお妾でありおっきな赤ちゃん。マイヤにいじわるをしながら介護を尽くす日々に戻りたかった。
その彼女もまた介護が必要だ。生まれつき左脚がなえている。とはいえ美少女ぶりはアドルフ王子の娘達の中で一番だ。金髪ですらりとして、しかも乳房が実っていた。服の上から目立っている。この年で15歳になるし、そろそろ嫁入りも間近と思われた。それでも彼女は婿取りの事よりも、マイヤの事が大事だと思っていた。
(ひめさまはマイヤさまにご執心だべえな。)
マレーネのマイヤに抱く感情は、恋に近いとパルパティアは思った。御父上みたくあのような娘に執心してしまうのだろう。
「ん?」
パルパティアはマレーネに注意を呼び掛けた。周辺の物見魔道士らが張っていた索敵魔法が引っかかり、念話魔法で知らされたからだ。すぐに通信魔道士が馬に乗ってやって来て、持っていた銅の鏡をマレーネに差し出した。魔法による光の文字が映っていた。
「……進行方向に馬に乗った者の集団がいる。注意されたし……パルパティア」
「はい」
「どういう連中かしら。調べさせなさい」
パルパティアは通信魔道士に指示を伝えた。命令を受けた斥候が千里眼の魔法で詳しく確かめる。剣を鞘から抜いたまま担ぎ、騎馬弓を携えていた。しかも珍しいことに鉄砲もあった。馬上筒のピストイアだった。
ホーデンエーネンの軍を示す様なものは掲げていなかった。王軍あるいは領主の騎兵というしるしが無かった。旗を立てていない武装した武者達、特に騎乗の者ばかりである場合は賊とみなされる。疑われても仕方が無い。
「斥候より報告! どうやら賊のようです」
「わかりましたわ。備えを」
イーガの姫は騎手や歩兵らに号令をかけた。行軍が止まり素早く方陣の隊形が整えられた。前段に槍騎兵で後備えは魔法弓の射手達という構成だ。方陣隊形をとったのは側面からの挟撃を考えてである。
パルパティアは斥候魔道士らと連携を始めた。たまたま旗を掲げていないだけかもしれないが、武器を収めぬまま近づいて来るとなれば、こちらを害する目論見だろう。
「パルパティア。敵勢はどれくらいかしら」
「物見魔道士からの知らせによれば、軽騎兵を先鋒にざっと500ってところですね。防具は様々。革鎧と鎖帷子が半々、ということだべえ」
「ホーデンエーネンは盗人たちも、武装が重いらしいですわね」
だからホーデンエーネンは野蛮者ばかりで気に食わない。マレーネは各所に迎撃の許可を与えた。
この1年ほど、イーガとホーデンエーネンの国境辺りでは、盗賊団がよく出没していた。イズヴァルトが戻って来た頃は大人しくなったが、最近はまた活発になっていた。
被害を受けるのは大きな市や宿場町を持つ周辺の小領主やイーガの街や村だ。特にイーガ側は、初めの頃は悲惨だった。
田舎の街道から離れたところにある村で滅んだのがあった。村の広場に死体が積み重なったり、嬲り殺された子供の骸が吊るされていた。王国が本腰を入れて警備兵団を駐在させてからは被害は軽減したが、襲撃は今も絶えない。
その盗賊団というものは大抵、騎乗して襲ういわば馬賊だった。ヨーシデン地方やナガオカッツェ地方は馬の産地でもある。街道から離れた原っぱに行けば野良馬によく出くわす。ただ、その馬たちの生息地は王国の直轄地にあった。ナガオカッツェ公でさえもつかまえて売る事はならなかった。
「しっかし、ピストイアを持ってるってのも変な話だなあ」
パルパティアがぼやく。鉄砲の様な新兵器を盗賊ごときが持っているのはおかしい。イーガ軍がよく使う魔法弓や連弩だって、庶民への販売を禁止しているから盗賊が持つことなど滅多に無いのに。
(これもお国の違いということでございますわね。おねえちゃま、沢山造り過ぎですわよ。)
鉄砲だが最近は輸出も活発だとマレーネは聞いている。おねえちゃまは夢の為にお金が要るそうだが、それにしても遠慮が無い。
盗賊達が短筒に火薬と弾を込めたという知らせが来た。威力と射程なら、魔道工房で手を加えられた機械弓がはるかに上だ。パルパティアらに距離はどのくらいかと尋ねた。おおよそ600メートル。名乗りもあげずに向かってくる。パルパティアと副将らがマレーネに判断を仰いだ。
「向こうはやる気のようですね。お下知を」
「なら構わないわ。あなたたち、弩弓部隊に連絡しなさい。ホーデンエーネンの無知なイキリキンタマ達に、魔法弓の宣伝をしてあげなさい」
盗賊団が馬の脚を速めた。彼等は斥候を獲物探しにしか使わぬ、隊列を見たらすぐに襲い掛かる猪突猛進な連中だった。相当大きな商人集団だと思っていた。そんなのでも略奪は成功するとにらんでいた。
しかし距離が500メートルを切ったところでようやく気が付いた。ありゃあちょっとした軍隊だぞ。魔法弓の弦が次々と弾かれる。面で圧倒させる矢の斉射だ。魔法によるコーティングがされていない鎖帷子や胸当てに、小さな矢が深々と突き刺さる。瞬く間に半数を失った。
「退け! 退けーッ!」
盗賊団の頭と思わしき者が叫ぶと馬首を返して逃げ去った。矢を喰らった者で生き残ったのは10人もいなかった。ひっ捕らえた生存者を部下が尋問して本当のことを吐かせる。報告を受けたマレーネは、案の定そうだったとつぶやいた。
「盗賊どもは皆、違う領地の騎士さまがた、ということですわね」
報告に来た武者が失笑しながらうなずく。盗賊たちは他領地の騎士階級。ちゃんと封地を得て家来もいる。その盗賊団の構成は騎士と手練れの従士たち、であった。
「どうして他のところで暴れる真似をしているんだべえ?」
「要するに欲張りなのですわ。おまんこじゃ飽き足らず尻穴も楽しみたかったり、他の奥方のまんこにもチンポを突っ込みたがる色ボケばかりがホーデンエーネンの騎士様、ということかしらね?」
もう少し吐かせろとマレーネは指図する。長くなるからと家来に介助されながら馬を降り、陣幕を張って待った。相当痛めつけた捕虜より、どのあたりから来たのか聞きだせた。
「コーノフェルトにイコーマブルグ……ひょっとすると南天騎士団ね」
ヨーシデン地方に隣接するとはいえ、随分と離れたところからだ。100キロ以上の距離である。
「でもどうして、そんな遠くから来たんだべえか?」
「ご近所で盗賊ごっこはお隣との心証が悪くなりますわ。でも遠くの領主の土地を荒らすなら気兼ねなくやれましょう」
「そうかあ。こんなことまでして小遣い稼ぎする気持ち、わかんねえべえな」
だったらイーガで警備兵団に傭兵で雇われたほうがよほど稼げそうだとパルパティアは思った。そのことを口にするとマレーネは違う、と返した。
「単純にお金稼ぎが目的ではないらしいですわ。己の中の獣性を育て、人殺しに戸惑わない心を養う。それがごく一般的なホーデンエーネンの騎士というもの、らしいですわ」
「誰に教わったんで?」
「お父様よ」
父のアドルフが言っていたことだ。ホーデンエーネンはそうして騎士を強くするのだと。パルパティアはそこまで存じていなかった。あくまで地方の、下級の騎士の間での間でだからだ。ナントブルグやその近郊の騎士は、ホーデンエーネン王家が目を光らせていたからその様な蛮行を為せなかった。
捕虜のところにいた副官らが戻って来た。捕虜らが交渉を望んでいるそうだ。末席とはいえ、我々は南天騎士団に所属している正規の騎士なのだから忖度があって当然だろう。今すぐ保釈してくれ。
「虫のいい話だべえな。姫様、どうなさいますか?」
「連中は息まいております。ここでもっとひどいことをしたら国際問題に発展するぞ、と脅してきております」
温情を与えるべきか。副官達に問われてマレーネは考え込んだがすぐに結論を出した。そっけない声で命を下した。
「処分しなさい。一人残らず」
「……よろしいんだべえか?」
「ここで殺せばホーデンエーネンとの仲が冷え込むかもしれませんわ。けれども、利用価値のない捕虜を活かしておく理由もありません」
言い訳なら考えている。あまりにも挑発的な行いをしたのでイーガ王国の誇りにかけて討ち果たしたまでである、と説明すればいい。しかしマレーネは賊をやっつけたと言い張るつもりだ。
「遺体は火にかけてそこらに放っておきなさい。我々はかの者達の様な賊どもに苦しめられているイーガの代表、ですわ。我々がやったのは、あくまで身を守る為。賊に討たれる間抜けはできませんことよ?」
「おねえちゃまはあちらに戻られてから、半年ごとにイーガとホーデンエーネンのそれぞれで暮す、という取り決めをしていたのです! それを身体が優れぬとか道中危険だからとか、街づくりの工事が忙しいからと突っぱねるなんて!」
マイヤが拉致されホーデンエーネンに戻ったという事がイーガに知れ渡ってから、両国の間でそうした取り決めが交わされた。しかし、その実効性は著しく薄かった。マイヤだけでなく、その姉のトーリが嫌だと言えばイーガ行きは取りやめにしますからね。
取り決められたのは2年前だ。これまでマイヤがイーガに戻った事は一度も無かった。返書はどれもトーリの直筆で、マイヤのサインがされていた。ご丁寧にも彼女の『マン拓』と『アナル拓』をつけてだ。
本物だとマレーネにはわかった。マイヤの女性器はやりまくっているのに形があまり崩れていない。陰核を覆う包皮が削り取られて、おまめのところがくっきりしていたから判別できた。
アナルは赤ん坊のそれである。油断するとすぐに半開きになる窄まり。マレーネはマイヤの尻穴に指を入れてほじくり、「うひ! うひ! うひ!」と喘がせたた事がけっこうあった。あの柔らかアナルの感触は忘れられなかった。ちなみにマレーネのけつあなは、やや硬めだった。
それらの恥ずかしい『写し』こそがまさに、カツランダルク家のご本家の者だという証拠だった。おまんこは隠すものだと誰が決めたのだ。烙印を消し、歴史を書き直す命ある者こそ自分らだ、とカツランダルク家の女は常に全身で叫ぶのだ。
愛しい義姉の膣口と尻穴の写しを見る都度、マレーネは恋しくなってわんわんと泣いた。マイヤが故国に戻りたい気持ちはわかる。けれども顔を見せないなんてひどいにもほどがある。終わりの見えない防御と忍耐でもいいよと思う性格では無かった。見つめ続けてくれる義姉がいない。それが理由だ。
「許すまじ、トーリ=カツランダルク! どこでも犬みたくうんこをひねる、みっともないけつあなちゃんを独占するなんて許しませんわ!」
「仕方ねえですよ。トーリ様はマイヤ様のお姉ちゃんだべえ。肉親だし、傍においてやりたいだろうしなあ」
「サキュバスの部下がいるじゃない! 転移魔法で日帰りで行ったり来たり、できるくせに!」
マレーネは義姉を愛し、慕っていた。いや、かわいがっていた。姉というより生まれたばかりの妹みたく思っていた。兄さまのお妾でありおっきな赤ちゃん。マイヤにいじわるをしながら介護を尽くす日々に戻りたかった。
その彼女もまた介護が必要だ。生まれつき左脚がなえている。とはいえ美少女ぶりはアドルフ王子の娘達の中で一番だ。金髪ですらりとして、しかも乳房が実っていた。服の上から目立っている。この年で15歳になるし、そろそろ嫁入りも間近と思われた。それでも彼女は婿取りの事よりも、マイヤの事が大事だと思っていた。
(ひめさまはマイヤさまにご執心だべえな。)
マレーネのマイヤに抱く感情は、恋に近いとパルパティアは思った。御父上みたくあのような娘に執心してしまうのだろう。
「ん?」
パルパティアはマレーネに注意を呼び掛けた。周辺の物見魔道士らが張っていた索敵魔法が引っかかり、念話魔法で知らされたからだ。すぐに通信魔道士が馬に乗ってやって来て、持っていた銅の鏡をマレーネに差し出した。魔法による光の文字が映っていた。
「……進行方向に馬に乗った者の集団がいる。注意されたし……パルパティア」
「はい」
「どういう連中かしら。調べさせなさい」
パルパティアは通信魔道士に指示を伝えた。命令を受けた斥候が千里眼の魔法で詳しく確かめる。剣を鞘から抜いたまま担ぎ、騎馬弓を携えていた。しかも珍しいことに鉄砲もあった。馬上筒のピストイアだった。
ホーデンエーネンの軍を示す様なものは掲げていなかった。王軍あるいは領主の騎兵というしるしが無かった。旗を立てていない武装した武者達、特に騎乗の者ばかりである場合は賊とみなされる。疑われても仕方が無い。
「斥候より報告! どうやら賊のようです」
「わかりましたわ。備えを」
イーガの姫は騎手や歩兵らに号令をかけた。行軍が止まり素早く方陣の隊形が整えられた。前段に槍騎兵で後備えは魔法弓の射手達という構成だ。方陣隊形をとったのは側面からの挟撃を考えてである。
パルパティアは斥候魔道士らと連携を始めた。たまたま旗を掲げていないだけかもしれないが、武器を収めぬまま近づいて来るとなれば、こちらを害する目論見だろう。
「パルパティア。敵勢はどれくらいかしら」
「物見魔道士からの知らせによれば、軽騎兵を先鋒にざっと500ってところですね。防具は様々。革鎧と鎖帷子が半々、ということだべえ」
「ホーデンエーネンは盗人たちも、武装が重いらしいですわね」
だからホーデンエーネンは野蛮者ばかりで気に食わない。マレーネは各所に迎撃の許可を与えた。
この1年ほど、イーガとホーデンエーネンの国境辺りでは、盗賊団がよく出没していた。イズヴァルトが戻って来た頃は大人しくなったが、最近はまた活発になっていた。
被害を受けるのは大きな市や宿場町を持つ周辺の小領主やイーガの街や村だ。特にイーガ側は、初めの頃は悲惨だった。
田舎の街道から離れたところにある村で滅んだのがあった。村の広場に死体が積み重なったり、嬲り殺された子供の骸が吊るされていた。王国が本腰を入れて警備兵団を駐在させてからは被害は軽減したが、襲撃は今も絶えない。
その盗賊団というものは大抵、騎乗して襲ういわば馬賊だった。ヨーシデン地方やナガオカッツェ地方は馬の産地でもある。街道から離れた原っぱに行けば野良馬によく出くわす。ただ、その馬たちの生息地は王国の直轄地にあった。ナガオカッツェ公でさえもつかまえて売る事はならなかった。
「しっかし、ピストイアを持ってるってのも変な話だなあ」
パルパティアがぼやく。鉄砲の様な新兵器を盗賊ごときが持っているのはおかしい。イーガ軍がよく使う魔法弓や連弩だって、庶民への販売を禁止しているから盗賊が持つことなど滅多に無いのに。
(これもお国の違いということでございますわね。おねえちゃま、沢山造り過ぎですわよ。)
鉄砲だが最近は輸出も活発だとマレーネは聞いている。おねえちゃまは夢の為にお金が要るそうだが、それにしても遠慮が無い。
盗賊達が短筒に火薬と弾を込めたという知らせが来た。威力と射程なら、魔道工房で手を加えられた機械弓がはるかに上だ。パルパティアらに距離はどのくらいかと尋ねた。おおよそ600メートル。名乗りもあげずに向かってくる。パルパティアと副将らがマレーネに判断を仰いだ。
「向こうはやる気のようですね。お下知を」
「なら構わないわ。あなたたち、弩弓部隊に連絡しなさい。ホーデンエーネンの無知なイキリキンタマ達に、魔法弓の宣伝をしてあげなさい」
盗賊団が馬の脚を速めた。彼等は斥候を獲物探しにしか使わぬ、隊列を見たらすぐに襲い掛かる猪突猛進な連中だった。相当大きな商人集団だと思っていた。そんなのでも略奪は成功するとにらんでいた。
しかし距離が500メートルを切ったところでようやく気が付いた。ありゃあちょっとした軍隊だぞ。魔法弓の弦が次々と弾かれる。面で圧倒させる矢の斉射だ。魔法によるコーティングがされていない鎖帷子や胸当てに、小さな矢が深々と突き刺さる。瞬く間に半数を失った。
「退け! 退けーッ!」
盗賊団の頭と思わしき者が叫ぶと馬首を返して逃げ去った。矢を喰らった者で生き残ったのは10人もいなかった。ひっ捕らえた生存者を部下が尋問して本当のことを吐かせる。報告を受けたマレーネは、案の定そうだったとつぶやいた。
「盗賊どもは皆、違う領地の騎士さまがた、ということですわね」
報告に来た武者が失笑しながらうなずく。盗賊たちは他領地の騎士階級。ちゃんと封地を得て家来もいる。その盗賊団の構成は騎士と手練れの従士たち、であった。
「どうして他のところで暴れる真似をしているんだべえ?」
「要するに欲張りなのですわ。おまんこじゃ飽き足らず尻穴も楽しみたかったり、他の奥方のまんこにもチンポを突っ込みたがる色ボケばかりがホーデンエーネンの騎士様、ということかしらね?」
もう少し吐かせろとマレーネは指図する。長くなるからと家来に介助されながら馬を降り、陣幕を張って待った。相当痛めつけた捕虜より、どのあたりから来たのか聞きだせた。
「コーノフェルトにイコーマブルグ……ひょっとすると南天騎士団ね」
ヨーシデン地方に隣接するとはいえ、随分と離れたところからだ。100キロ以上の距離である。
「でもどうして、そんな遠くから来たんだべえか?」
「ご近所で盗賊ごっこはお隣との心証が悪くなりますわ。でも遠くの領主の土地を荒らすなら気兼ねなくやれましょう」
「そうかあ。こんなことまでして小遣い稼ぎする気持ち、わかんねえべえな」
だったらイーガで警備兵団に傭兵で雇われたほうがよほど稼げそうだとパルパティアは思った。そのことを口にするとマレーネは違う、と返した。
「単純にお金稼ぎが目的ではないらしいですわ。己の中の獣性を育て、人殺しに戸惑わない心を養う。それがごく一般的なホーデンエーネンの騎士というもの、らしいですわ」
「誰に教わったんで?」
「お父様よ」
父のアドルフが言っていたことだ。ホーデンエーネンはそうして騎士を強くするのだと。パルパティアはそこまで存じていなかった。あくまで地方の、下級の騎士の間での間でだからだ。ナントブルグやその近郊の騎士は、ホーデンエーネン王家が目を光らせていたからその様な蛮行を為せなかった。
捕虜のところにいた副官らが戻って来た。捕虜らが交渉を望んでいるそうだ。末席とはいえ、我々は南天騎士団に所属している正規の騎士なのだから忖度があって当然だろう。今すぐ保釈してくれ。
「虫のいい話だべえな。姫様、どうなさいますか?」
「連中は息まいております。ここでもっとひどいことをしたら国際問題に発展するぞ、と脅してきております」
温情を与えるべきか。副官達に問われてマレーネは考え込んだがすぐに結論を出した。そっけない声で命を下した。
「処分しなさい。一人残らず」
「……よろしいんだべえか?」
「ここで殺せばホーデンエーネンとの仲が冷え込むかもしれませんわ。けれども、利用価値のない捕虜を活かしておく理由もありません」
言い訳なら考えている。あまりにも挑発的な行いをしたのでイーガ王国の誇りにかけて討ち果たしたまでである、と説明すればいい。しかしマレーネは賊をやっつけたと言い張るつもりだ。
「遺体は火にかけてそこらに放っておきなさい。我々はかの者達の様な賊どもに苦しめられているイーガの代表、ですわ。我々がやったのは、あくまで身を守る為。賊に討たれる間抜けはできませんことよ?」
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