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第三部 カツランダルク戦記 『第二章・浸食し始める闇』
41 マイヤの館
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ジェイムズ=ヒューレット。イーズモー王国の建築家である。北にあるイナーヴァニア出身だ。
『聖騎士イズヴァルトのサーガ』では、イーズモーの川船に乗っていた少年時代のイズヴァルトとマイヤと出会ったと記されている。彼がパラッツォ教団から逃れる為、村の仲間たちと共にイーズモーに向かう河船に乗り込んだ折にだ。
彼は、サーガの『少年編』の物語には寝ているマイヤを犯したと書かれた。しかし真実は違う。これが本当にあったことだ。
□ □ □ □ □
マイヤは川船の中で寝ていた。暖房魔法が効きすぎてとても暑くて寝つきが悪かった。寝たり目覚めたりを繰り返しているといつしか、股間と脚がいささか涼しくなっているのに気が付いた。
(あれ? どうしたんだろう?)
履いていたタイツが無かった。起き上がって薄暗い中で自分が寝ていたあたりを探ったがどこにも無かった。
(あれれれ……)
もしかしたら寝ぼけて投げ捨てて寝ている他の人に投げたのかもしれないと心配すると、「おい」と呼ぶ声がしたのでそちらに目を向けた。
ジェイムズ=ヒューレットだった。彼は丸められたマイヤのタイツを右手に持っていた。
「これ、お嬢さんのだろう?」
「本当だ。ええ。ありがとうございます……」
「なら返すよ。この船の暖房は暑くてかなわんだろう。でもイナーヴァニアやイーズモーのみんなはこいつに慣れていてね」
なるほど、そうなのですね。マイヤはうなずいてタイツを受け取った。ジェイムズがこそりと言った。頼み事だ。
「お嬢ちゃんの恋人、ホーデンエーネンで一番強い少年騎士なんだろ? 出来れば俺達の村を、領主様を救ってくれないか?」
ジェイムズは頭をさげた。ただ下げたのではなく、寝床とは一段下にある床に這いつくばっていた。彼は涙をこぼしていた。頼む。力を貸してくれ!
(どうしよう……)
マイヤは困った。イズヴァルトはジェイムズらを助けたいと望んだが、女騎士ヴィクトリアの故郷に遺品を届ける旅を優先する為に説き伏せたのだ。彼女としても力があれば助けたかったが、パラッツォ教の軍団の強さは未知数だった。
床に這いつくばって頭を下げ続けるジェイムズに、マイヤは仕方なくずるい話を持ち掛けた。スカートを上げて足を開き、身体を赦すから気持ちを収めて欲しい。でもここでは周りの人に気づかれる。ジェイムズはマイヤを抱き上げてトイレに入った。
河と直結している便所穴から冷たい風が吹きつけるその中でだった。ジェイムズがズボンをおろし、高々と勃起しているのをマイヤに知らしめた。
「すごくぬめってる……いつから?」
「すまん。こうなることを期待してたんだ」
「だったら、もう自分を悪く思わなくてもいいんだよ?」
マイヤはスカートを腰までめくりあげた。足と尻がとても冷たかった。マイヤは便所のサンダルを脱ぐとジェイムズに持ち上げられた。中で激しく脈打っているのを感じて甘い刺激を覚えたが、垢臭いジェイムズにしっかりとしがみついて腰を振り始めた。
ジェイムズにとって数カ月ぶりの性交は、感激もひとしお身に染みた。柔らかい尻を撫でさすりながら貫く様な快感に溺れてしまった。2人は秘密を守るべく、声を押し殺しながら交わった。
こらえきれずに最初の射精がすぐにマイヤの中で行われた。それでも硬いままだったからジェイムズはマイヤの匂いで欲情を励ましながら性交を続けた。
その交合では射精は何度も繰り返された。真夜中だったから誰かがトイレに入る事は無かったから、時間をかけられたのだ。
ジェイムズが放心し、絶頂でくたびれたマイヤが耳元でささやいたところでその会合は終わった。
ジェイムズ達はイズヴァルトに助けをもう求めない。その代わりマイヤはイズヴァルトをなだめ続ける。マイヤは便所穴に股を向け、冷たい水で精液が垂れる下腹を洗いながらジェイムズをうなずかせた。
ジェイムズとマイヤの交合は、レイプではなくある種の和姦で終わったのだ。これが真実である。ジェイムズが自分の手記に『強姦』と記したのは、故郷を捨てた自分に対する憤懣と悔いがあったからである。
□ □ □ □ □
そのジェイムズはマイヤの招聘を受け、ホーデンエーネンに来ていた。建築家仲間と信頼する大工達と一緒にだった。新しく街を造るヨーシデンの東側、粗末な板ぶきの屋根の建物が並ぶ砦に、家族とともに住まわされていた。
彼等に与えられた仕事は総合大学とヨーシデン公の未来の屋敷の建築だ。ヨーシデン公とはマイヤのことだ。この春彼女は、国王より正式に領地を与えられた。とはいえ未来のヨーシデンの市域のみで、ヨーシデン地方全部というわけではなかった。
その日、マイヤが初めて皆の前に姿を見せた。砦にある食堂でだ。彼女は侍女を数名付き添っていた。ぎこちない歩き方と不自然な色あいの手を見て、義手義足なのだとジェイムズは悟った。皆を集めたマイヤが、侍女に描かせたおおざっぱな図面を広げてみせた。
「まずはお屋敷を建てるということでお願い! 私の館は機能性重視で、下手な装飾や豪勢な庭園とかいらないからね! 書庫がたくさんあるおうちであればなんでもいいの!」
まことにへたくそ極まりない図面であったが、どういう家にしたいかを建築家や大工にはわかった。ヨーシデンのこの辺りは比較的温暖だが湿気もある。書庫となる部屋以外は風通しをよくしたほうが良いだろう。
招聘されてから2週間で、彼等はこの土地の空気を知ることが出来た。マイヤの『夢のマイハウス』をどんな風に建てればいいのか想像ができた。
ヨーシデン公の御屋敷が建てられる場所は、この砦の南にある小さな山のふもとだ。計画されている中心市街地の南東。近くに作物を豊かに実らせる畑ばかりの村があった。
その山は四方八方がなだらかな斜面で、がけ崩れが起こりそうも無かった。普通の領主なら山の上に屋敷を建てるだろうがマイヤはそれを求めなかった。ジェイムズが意見した。彼はこの一団のあるじを任されていたから、最初に提案をするという役目もあった。
「このままだと防備が不十分です。なんなら山の上に建てましょうか?」
「それはいいや。坂道を歩くのに苦労するもん。それに私、義手義足だよ?」
ヨーシデンの市街と公の館は、戦うのを想定して作らないとマイヤは言った。この一帯は平野部だ。ヨーシデン市内の予定地域にはいくつか川が流れているが、できるだけ沢山の橋をかけるつもりである。ヨーシデン市はもともと、防御のことを想定していない。壁すらつくらない。
「そんな街にされるおつもりですか? この地方は落ち着いているとはいえ、盗賊や反乱軍に襲われたらどうなさいます?」
質問したのはジェイムズではない。別の建築家だ。マイヤはこう答えた。南の港湾に海軍を置き、北と西と東はヤマート大河や砦で守ればいい。
「私はこれから造る街を、壁で閉ざされない開かれた街として産み出したいの」
屋敷の建設と並行して町割りを造っていくから、意見があればどんどん言ってね。かくして会合は終わった。皆は現場へと出て行ったが、ジェイムズだけがマイヤに呼ばれて残された。
「お久しぶりですね。ジェイムズ=ヒューレットさん」
「こちらこそ……お呼びいただき光栄です。まさかマイヤさまはこの国のお姫様だったなんて?」
会った時は少年騎士の平民出の侍女だと聞いたが、ホーデンエーネン王家に連なるお姫様だったとは。
「あはは。そんな大それたものじゃないよ。自分がお姫様だとわかったのはホーデンエーネンに戻ってからだよ」
でも、それ以前にイーガのマルティン王子の妃の1人であり、1人の王子の母親でもあるんだよとマイヤは告げた。ジェイムズがますますかしこまるとマイヤは苦笑して頭を上げさせた。
「しかし、その御身体になられたということは、何かひどい事に巻き込まれたようですね?」
「暴走した馬車の下敷きになったんだよ。手足は駄目になっちゃったけど、命が助かっただけマハーヴァラ様に感謝しないとね!」
マイヤは元気よく自分を通す。しかし内心はたまったものじゃない。こんな身体にしたアドルフの墓を暴いてその骨に鞭をくれても収まらなかった。それと、向こうに置いて来たフェアディナントと生き別れになった2人の子が気がかりだった。イズヴァルトも恋しくて仕方が無い。でも溢れる感情を押し殺して快活に振舞えた。
話はマイヤのことからジェイムズの身の上の事に。村の仲間とイーズモーに逃げた後、ジェイムズは、自分より6歳年下のマツエスコーの著名な建築家に弟子として取り立てられ、その才を発揮した。
たった3年でイーズモーの気鋭の新人建築家となり、嫁も娶った。師匠の次女で出会った頃から気が合った。妻はちょうど30歳年下で、迎え入れた時はまだ15歳になっていなかった。マイヤには言わなかったが、結婚前に一緒に寝たりしていた。ジェイムズの師匠が彼と娘の婚姻を許したのは、当人が既に彼の子を宿していたからだ。
「私もたかだか4年で3人の子の親になりました。妻が若くて元気だといろいろと大変ですよ」
「いいじゃない。ジェイムズさんはたくましいから、奥さんは若い方が釣り合っているよ」
たくましい身体の持ち主は大概あちらもお盛ん。マイヤはそう思いながらジェイムズにイーズモーはどうだと尋ねた。
「……去年の初めあたりからハリマーヌに移住しました。妻と子供達もそこにいます」
イーズモーは今、危険な状態にあった。かの国ではパラッツォ教団との戦いが激しくなっていた。パラッツォ教軍が優勢だった。今じゃマツエスコーも危うい状態だった。ジェイムズと彼の師は戦争に巻き込まれるのを恐れてハリマーヌに逃げたのだ。
「あっちでも仕事はありましたから、今ではハリマーヌのジェイムズ=ヒューレットと言われている始末ですよ」
「そしたら、ホーデンエーネンで暮らすといいよ。ここなら比較的安全だからね」
「ははは。サイゴークからあまり遠くに行きたくない。サカーイあたりでとどめておきますよ」
とりあえずの身の上話はここでおしまい。マイヤは侍女に目配せする。胸元がマイヤに負けないぐらい魅力的なその女は、ジェイムズに箱を手渡した、それを開けると宝石が散りばめられた指揮棒があった。
「……これは?」
「ホーデンエーネンの普請大将が持つ指揮棒だよ。つまりは私の代理というわけなの」
「なるほど……やる気が湧いてきそうです。マイヤ様、後世に語り継がれる屋敷を建ててご覧に入れましょう!」
ジェイムズ=ヒューレットの監督のもと、ヨーシデン公の館の建設が始まったのである。
『聖騎士イズヴァルトのサーガ』では、イーズモーの川船に乗っていた少年時代のイズヴァルトとマイヤと出会ったと記されている。彼がパラッツォ教団から逃れる為、村の仲間たちと共にイーズモーに向かう河船に乗り込んだ折にだ。
彼は、サーガの『少年編』の物語には寝ているマイヤを犯したと書かれた。しかし真実は違う。これが本当にあったことだ。
□ □ □ □ □
マイヤは川船の中で寝ていた。暖房魔法が効きすぎてとても暑くて寝つきが悪かった。寝たり目覚めたりを繰り返しているといつしか、股間と脚がいささか涼しくなっているのに気が付いた。
(あれ? どうしたんだろう?)
履いていたタイツが無かった。起き上がって薄暗い中で自分が寝ていたあたりを探ったがどこにも無かった。
(あれれれ……)
もしかしたら寝ぼけて投げ捨てて寝ている他の人に投げたのかもしれないと心配すると、「おい」と呼ぶ声がしたのでそちらに目を向けた。
ジェイムズ=ヒューレットだった。彼は丸められたマイヤのタイツを右手に持っていた。
「これ、お嬢さんのだろう?」
「本当だ。ええ。ありがとうございます……」
「なら返すよ。この船の暖房は暑くてかなわんだろう。でもイナーヴァニアやイーズモーのみんなはこいつに慣れていてね」
なるほど、そうなのですね。マイヤはうなずいてタイツを受け取った。ジェイムズがこそりと言った。頼み事だ。
「お嬢ちゃんの恋人、ホーデンエーネンで一番強い少年騎士なんだろ? 出来れば俺達の村を、領主様を救ってくれないか?」
ジェイムズは頭をさげた。ただ下げたのではなく、寝床とは一段下にある床に這いつくばっていた。彼は涙をこぼしていた。頼む。力を貸してくれ!
(どうしよう……)
マイヤは困った。イズヴァルトはジェイムズらを助けたいと望んだが、女騎士ヴィクトリアの故郷に遺品を届ける旅を優先する為に説き伏せたのだ。彼女としても力があれば助けたかったが、パラッツォ教の軍団の強さは未知数だった。
床に這いつくばって頭を下げ続けるジェイムズに、マイヤは仕方なくずるい話を持ち掛けた。スカートを上げて足を開き、身体を赦すから気持ちを収めて欲しい。でもここでは周りの人に気づかれる。ジェイムズはマイヤを抱き上げてトイレに入った。
河と直結している便所穴から冷たい風が吹きつけるその中でだった。ジェイムズがズボンをおろし、高々と勃起しているのをマイヤに知らしめた。
「すごくぬめってる……いつから?」
「すまん。こうなることを期待してたんだ」
「だったら、もう自分を悪く思わなくてもいいんだよ?」
マイヤはスカートを腰までめくりあげた。足と尻がとても冷たかった。マイヤは便所のサンダルを脱ぐとジェイムズに持ち上げられた。中で激しく脈打っているのを感じて甘い刺激を覚えたが、垢臭いジェイムズにしっかりとしがみついて腰を振り始めた。
ジェイムズにとって数カ月ぶりの性交は、感激もひとしお身に染みた。柔らかい尻を撫でさすりながら貫く様な快感に溺れてしまった。2人は秘密を守るべく、声を押し殺しながら交わった。
こらえきれずに最初の射精がすぐにマイヤの中で行われた。それでも硬いままだったからジェイムズはマイヤの匂いで欲情を励ましながら性交を続けた。
その交合では射精は何度も繰り返された。真夜中だったから誰かがトイレに入る事は無かったから、時間をかけられたのだ。
ジェイムズが放心し、絶頂でくたびれたマイヤが耳元でささやいたところでその会合は終わった。
ジェイムズ達はイズヴァルトに助けをもう求めない。その代わりマイヤはイズヴァルトをなだめ続ける。マイヤは便所穴に股を向け、冷たい水で精液が垂れる下腹を洗いながらジェイムズをうなずかせた。
ジェイムズとマイヤの交合は、レイプではなくある種の和姦で終わったのだ。これが真実である。ジェイムズが自分の手記に『強姦』と記したのは、故郷を捨てた自分に対する憤懣と悔いがあったからである。
□ □ □ □ □
そのジェイムズはマイヤの招聘を受け、ホーデンエーネンに来ていた。建築家仲間と信頼する大工達と一緒にだった。新しく街を造るヨーシデンの東側、粗末な板ぶきの屋根の建物が並ぶ砦に、家族とともに住まわされていた。
彼等に与えられた仕事は総合大学とヨーシデン公の未来の屋敷の建築だ。ヨーシデン公とはマイヤのことだ。この春彼女は、国王より正式に領地を与えられた。とはいえ未来のヨーシデンの市域のみで、ヨーシデン地方全部というわけではなかった。
その日、マイヤが初めて皆の前に姿を見せた。砦にある食堂でだ。彼女は侍女を数名付き添っていた。ぎこちない歩き方と不自然な色あいの手を見て、義手義足なのだとジェイムズは悟った。皆を集めたマイヤが、侍女に描かせたおおざっぱな図面を広げてみせた。
「まずはお屋敷を建てるということでお願い! 私の館は機能性重視で、下手な装飾や豪勢な庭園とかいらないからね! 書庫がたくさんあるおうちであればなんでもいいの!」
まことにへたくそ極まりない図面であったが、どういう家にしたいかを建築家や大工にはわかった。ヨーシデンのこの辺りは比較的温暖だが湿気もある。書庫となる部屋以外は風通しをよくしたほうが良いだろう。
招聘されてから2週間で、彼等はこの土地の空気を知ることが出来た。マイヤの『夢のマイハウス』をどんな風に建てればいいのか想像ができた。
ヨーシデン公の御屋敷が建てられる場所は、この砦の南にある小さな山のふもとだ。計画されている中心市街地の南東。近くに作物を豊かに実らせる畑ばかりの村があった。
その山は四方八方がなだらかな斜面で、がけ崩れが起こりそうも無かった。普通の領主なら山の上に屋敷を建てるだろうがマイヤはそれを求めなかった。ジェイムズが意見した。彼はこの一団のあるじを任されていたから、最初に提案をするという役目もあった。
「このままだと防備が不十分です。なんなら山の上に建てましょうか?」
「それはいいや。坂道を歩くのに苦労するもん。それに私、義手義足だよ?」
ヨーシデンの市街と公の館は、戦うのを想定して作らないとマイヤは言った。この一帯は平野部だ。ヨーシデン市内の予定地域にはいくつか川が流れているが、できるだけ沢山の橋をかけるつもりである。ヨーシデン市はもともと、防御のことを想定していない。壁すらつくらない。
「そんな街にされるおつもりですか? この地方は落ち着いているとはいえ、盗賊や反乱軍に襲われたらどうなさいます?」
質問したのはジェイムズではない。別の建築家だ。マイヤはこう答えた。南の港湾に海軍を置き、北と西と東はヤマート大河や砦で守ればいい。
「私はこれから造る街を、壁で閉ざされない開かれた街として産み出したいの」
屋敷の建設と並行して町割りを造っていくから、意見があればどんどん言ってね。かくして会合は終わった。皆は現場へと出て行ったが、ジェイムズだけがマイヤに呼ばれて残された。
「お久しぶりですね。ジェイムズ=ヒューレットさん」
「こちらこそ……お呼びいただき光栄です。まさかマイヤさまはこの国のお姫様だったなんて?」
会った時は少年騎士の平民出の侍女だと聞いたが、ホーデンエーネン王家に連なるお姫様だったとは。
「あはは。そんな大それたものじゃないよ。自分がお姫様だとわかったのはホーデンエーネンに戻ってからだよ」
でも、それ以前にイーガのマルティン王子の妃の1人であり、1人の王子の母親でもあるんだよとマイヤは告げた。ジェイムズがますますかしこまるとマイヤは苦笑して頭を上げさせた。
「しかし、その御身体になられたということは、何かひどい事に巻き込まれたようですね?」
「暴走した馬車の下敷きになったんだよ。手足は駄目になっちゃったけど、命が助かっただけマハーヴァラ様に感謝しないとね!」
マイヤは元気よく自分を通す。しかし内心はたまったものじゃない。こんな身体にしたアドルフの墓を暴いてその骨に鞭をくれても収まらなかった。それと、向こうに置いて来たフェアディナントと生き別れになった2人の子が気がかりだった。イズヴァルトも恋しくて仕方が無い。でも溢れる感情を押し殺して快活に振舞えた。
話はマイヤのことからジェイムズの身の上の事に。村の仲間とイーズモーに逃げた後、ジェイムズは、自分より6歳年下のマツエスコーの著名な建築家に弟子として取り立てられ、その才を発揮した。
たった3年でイーズモーの気鋭の新人建築家となり、嫁も娶った。師匠の次女で出会った頃から気が合った。妻はちょうど30歳年下で、迎え入れた時はまだ15歳になっていなかった。マイヤには言わなかったが、結婚前に一緒に寝たりしていた。ジェイムズの師匠が彼と娘の婚姻を許したのは、当人が既に彼の子を宿していたからだ。
「私もたかだか4年で3人の子の親になりました。妻が若くて元気だといろいろと大変ですよ」
「いいじゃない。ジェイムズさんはたくましいから、奥さんは若い方が釣り合っているよ」
たくましい身体の持ち主は大概あちらもお盛ん。マイヤはそう思いながらジェイムズにイーズモーはどうだと尋ねた。
「……去年の初めあたりからハリマーヌに移住しました。妻と子供達もそこにいます」
イーズモーは今、危険な状態にあった。かの国ではパラッツォ教団との戦いが激しくなっていた。パラッツォ教軍が優勢だった。今じゃマツエスコーも危うい状態だった。ジェイムズと彼の師は戦争に巻き込まれるのを恐れてハリマーヌに逃げたのだ。
「あっちでも仕事はありましたから、今ではハリマーヌのジェイムズ=ヒューレットと言われている始末ですよ」
「そしたら、ホーデンエーネンで暮らすといいよ。ここなら比較的安全だからね」
「ははは。サイゴークからあまり遠くに行きたくない。サカーイあたりでとどめておきますよ」
とりあえずの身の上話はここでおしまい。マイヤは侍女に目配せする。胸元がマイヤに負けないぐらい魅力的なその女は、ジェイムズに箱を手渡した、それを開けると宝石が散りばめられた指揮棒があった。
「……これは?」
「ホーデンエーネンの普請大将が持つ指揮棒だよ。つまりは私の代理というわけなの」
「なるほど……やる気が湧いてきそうです。マイヤ様、後世に語り継がれる屋敷を建ててご覧に入れましょう!」
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