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第三部 カツランダルク戦記 『第二章・浸食し始める闇』
39 南の海で起こっていた事
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「今年に入ってからもう5度目です。我が国の貿易船、しかもホーデンエーネンの国船が海賊どもに襲われるなどとは……」
朝議で貿易長官からの発言を聞き、一同はどよめいた。最近は数隻の武装した船を用いていたが、それでも襲撃をかけてくるとは。
船がよく襲われるのはシマナミスタン西部のクルシマーヴァラやウワジラプタ近海。地元の領主が海賊衆を率いている事が多い国々だ。襲われるタイミングは帰り道である。積み荷はほとんどが鉄砲。それをシマナミスタンでよく採れる金銀や香辛料、薬やミスリル銀と交換する。かの大陸では鉄砲が高値で売れた。
海賊らはきっちりと、襲って分捕った。構成メンバーはあの海域にいる海エルフや海ゴブリン。ウワジラプタでも南の海域にはドワーフの海賊が出没する。投石砲を大量に積んだ船でも追い払えなかった。快速船で回り込まれて逃げられなくなる。
あちらの海賊は手投げ機雷をぶん投げて来た。魔法装甲が発達していないホーデンエーネンの軍船はひとたまりも無かった。船員や兵士は捕虜に。彼等の末路はひどかった。あんまりにも悲しい余生が待っていた。
「これまでに150名の海兵と船員が、ウワジラプタ奥地のドワーフ村でいじめられる生活を続けている、と聞き及んでおります……」
「いじめるのか! どんなやり方かね!」
「そのう……畑の小作人兼、ドワーフ女の愛玩用男にされるのです……あんな疫病と酷暑の大陸で……彼等の無念を思うと……ううう……」
貿易長官は同情して泣いた。ちなみにだがウワジラプタの1反あたりの収穫量はホーデンエーネンで一番豊かな土地の2倍ある。それと冬が無いから連作障害などを気を付ければ二毛作がやれるのだ。ドワーフやゴブリンらによる農業魔法も充実していた。
「な、なんとうらやましい……」
「女ドワーフと言えばずんぐりむっくりだけど、情が濃くてとても甘やかしてくれるという話を聞いているが……?」
事実、捕らえられた男達はドワーフらにかわいがられていた。沢山たべなされとご飯を山盛りで食わせてくれる。しかしドワーフの食べる量とおんなじぐらいだからニンゲンの胃袋には酷だ。ある種のハラスメントであり暴行とも呼べた。
それからドワーフ達はもっとひどいことを彼等に致した。男ドワーフたちは親睦を深めようと、己の陰茎で捕虜たちのケツアナをほじくるのだ。ドワーフのそれは御芋の様な立派な代物である。捕虜たちは「うほっ♡」とよがって後戻りできない世界に連れて行かれてしまった。まさに災難。ちなみにドワーフ男のアナルは、名器揃いである。
「これは外交問題になるな。悩ましい……」
「しかしウワジラプタまで攻める戦費は捻出できません。ナーガハーマの増築と北部の各砦の整備、それから、討ち死にした騎士や兵士への弔い金で国庫はかつかつです」
「アスカウ公様……マイア=テクニカに出させるのはどうかね? そもそも鉄砲を製造しているのはあの会社だ。王族衆であるから、それの輸出を王国が手を貸しているというわけである」
廷臣らは耳を傾けていたセイン王に申し出た。捕虜奪還の為の軍を起こしてほしい。マイア=テクニカの資金で。セインの返答はそっけなかった。
「だめだろ。却下」
「何故です、陛下!」
「そうですよ。これでもう5回目の襲撃。そろそろシマナミスタンの腰巻野郎どもをしばき倒さないと、また繰り返してしまいますぞ!」
廷臣らが抗議する。トーリに洗脳されていたから、もっと別のことを考えられたはずだができなかった。例えば、鉄砲の輸送船の警護はやめにしよう、とか。
しかしその様に考えられなかったのはやはり、心の奥底を支配されたからである。それと面子だ。国として何かやらなければならない。だが、セイン王は激高する彼等にイーガとの『えくすぷれす』の延長や、ヨーシデンに行ったマイヤらが早速行っている街づくりについての話をして黙らせた。
「鉄砲はそもそも、マイヤのやつがヨーシデンに都をおっ立てる目的で売り飛ばしているんだ。あいつは戦争になんか金を出さんよ」
それから一番の大損をこいているのはマイア=テクニカである。5回も売り上げを海賊達に奪われた。そうなると都市づくりの資金は別のところから余計に引っ張らなくてはならない。
「……というわけで税金の負担分を増やす話し合いに取り掛かりたいんだが」
「確かに、そうなりますな」
セインも廷臣らも損失の分だけ計画を遅らせるという考えに至らなかった。トーリの心理魔法で考えを制限されていたからだ。
□ □ □ □ □
海賊による貿易のあがりの略奪は、王宮にいるトーリの耳にも入っていた。亜人の海賊集団と聞いて面倒くさい奴らね、と嘆いた。強弱はあるが、亜人にはサキュバスの魔法への抗力がある。胸元から片乳を出し、生まれて間もないジョーケインに含ませているシャロンに尋ねた。
「私が直接出てとっちめるのはどうかしら?」
「ニンゲンとは違います。シマナミスタンのドワーフには難儀するでしょうね。精霊人種……まあつまり亜人というのはオーガ族以外、精液に含まれている魔力はニンゲンの比ではありませんし、いくらでも魔力を供給できますが、彼等を屈服させる術式というのは、我々サキュバスには……」
無きに等しい。それからたとえ術にかけられる魔力と才能をもってしても、ニンゲンみたく1度に1000人や2000人というのは無理だ。せいぜいが数人ぐらい。いかにトーリでも辛いだろう。
「お諦めください。また海賊が襲ってくるなら、別の方法を考えましょう」
「交易船には何かの時の為にサキュバス達を乗せたのに、残念ね」
トーリは鉄砲を輸送する船に必ず1人サキュバスを乗せていた。ニンゲンの船娼婦に化けさせて監視をする。ついでに諸外国の調査も。彼女達は治癒魔法も使えたから『おまじない』と称して船員たちに適切な治療を施すことができた。
また、貿易長官に海賊の件を報告したのは彼女達だ。ドワーフのチンポを惜しみながらもホーデンエーネンまで逃げ帰ったからこそ語れたのだ。ドワーフはエルフほど魔法結界が得意で無かったから逃げられたのである。
「経験のあるサキュバスは国内の調査か船娼婦。育児休暇組に召集をかけようかしら?」
「そこは新人たちに任せてあげてください。まずはルッソ様とイーガに向かったスレッタとミオリネの吉報を待ちましょう。きっとメグとノンとマミの3人を連れ戻してくれるはずです」
「そうするわ。あのカミラが意外とふがいないのが笑えてしまうけど……彼女、このままイーガ王様のお妃になるのかしら?」
トーリが笑うとシャロンは眉をしかめた後に口元をほころばせた。カミラについては仕方が無い。昔の恋人の子孫とつきあっているのだから。イーガ王の子を孕んでいるというのも2人は知っていた。
しかし数日後、彼女達はイーガよりとんでもない知らせを受ける事となった。イーガのマイア=テクニカから通達があったからだ。ホーデンエーネンのスパイと疑わしいサキュバス達を保護したから今から連れて来る。しかしその手紙を送った人物はトーリにとってまことに面倒な人物だった。
□ □ □ □ □
イーガを発つ前日、ルッソはもう一度カイル=グリーヴァスと会う事となった。場所はマイア=テクニカのイーガの工房だ。そこでルッソはマイヤがここで作っていた『たぶれっどぱっと』を触って驚いていた。
「これはすごいなあ。へんてこな鏡みたいだけど……」
ガラス部分をさわったり撫でたりして本みたいにめくることができる。ルッソが持つ『たぶれっとぱっど』にはイーガの地理誌の一ページが映っていた。分厚い500ページのものだ。
それだけではない。道具の底部に差し込まれたカードリッジには数十冊分の本の情報が込められていた。こうしたカードリッジが本の系統に分かれて数百種類もある。どれもイーガの国立図書館から転写されたものであった。
但し、書店に出回っている新しい本は対象にしていないらしい。新しく刷られなくなったそれなりに価値がある書物と、あまりにも下品だったり荒唐無稽で出版社が出したくない物語本が、カードリッジに入れられるそうである。
「カードリッジはマイヤさんの発案だそうです。ですが、その発案の元ネタというのが、『たぶれっとぱっど』について記した人物の別の書物にあったようで」
「マイヤ1人で考えた事じゃないんだね、カイルさん?」
「マレーネ様いわく、『たぶれっとぱっど』と取り付けた記憶媒体はすべて、『違う世界であったもの』らしいです。いにしえの時代の転生人が書いた本にあったそうですよ」
なるほど。ルッソは新しいページをめくってしきりにうなずく。鉄砲よりもずっと未来を感じるものだぞ、これ。とはいえカイルは面白い話をしてくれた。カントニアにある古代ムサシノ帝国も似たようなものを作っていたらしい。
「あちらでは映像水晶と同じぐらいの魔力水晶を薄い鉄板に取り付けて、『たぶれっどぱっと』みたいなことをやっていたそうですよ。その水晶、2冊か3冊程度の情報しか蓄積できなかったそうですが、エルフ達が改良を頼まれて研究していたそうです」
「そうだとしても、どうしてこの大陸には伝わっていないんだい?」
「紙づくりと版刷りの業者からの圧力がかかったそうですね。それと真面目な本を読む人がそんなにいなかったんだとか。古代ムサシノ帝国でも後半ぐらいの頃の話ですから、慢心というのがあったんでしょうね」
帝国が滅んだのは、よく言われる様に女エルフとの快楽に溺れたからではなかった。また、その道具が残らなかったのは、作り方を知っているエルフ達が紙の本のほうを好んだからである。紙のにおいがしないものを読んでもどうにもしっくりいかねえずらよ。
「まあ、ホーデンエーネンじゃこいつは流行らないか。読書人はイズヴァルトさんみたく、ごく一部だしな」
「イズヴァルトさんも読書家なのですね。軍学やすけべな小説とかですか?」
「いやいやいや。本当に良いところの御曹司ですからね、あの人は。軍学書に歴史書、数学やら語学の本を読みこんでましたよ。マイヤにしゃぶられながらね」
おちんちんから精液を放つ代わりに本を読んで脳みそに栄養を与え続けていたとルッソは言う。マイヤの蔵書の2割は読んだそうだ。今日来たのはその読書家についての話だ。
ここを指定したのはカイルだった。会わせたい人がいるということで事務所の休憩室で待っていた。先に来ていた彼等は職人長の案内で工房の中を見学していた。
「それで、今回の『ねずみとり』に協力してくれた人ってのが……」
「僕の幼い頃の家庭教師にあたる人です。パルパティア=シディアスというハーフエルフの魔法戦士です」
もとは魔道騎士団でも精鋭の第三軍団に所属していた、『風斬り姫』という異名を持つ者。今は王立魔道学問所の講師だ。イズヴァルトとマイヤが留学していた頃の担当教員でもある。
「僕が最近知り合った、アナキンさんとピルリアさんの魔法の先生でもあるんですよ」
「アナキン……あの、スカルファッカー家の御曹司の?」
「ええ。彼とピルリアさんは『ねずみとり』に加わってくれたそうです。ピルリアさんはかわいくておっぱいが大きいのに、とても強い拳闘家なんだそうです!」
その2人も来ている。しばらくしてルッソはパルパティア達と顔を合わせる事となった。金髪の女ハーフエルフは疑う事無き美女であったが、格好をどうにかしてほしいと思った。美しいふくらはぎを見せてくれる短めのスカートなのだが、青いスカートの生地は半透明で股の付け根が見えてしまう。これでは魔道士というよりは娼婦だ。
「はじめましてだべえ……おっといけない! またミナッカミニアなまりがでてしまいましね。はははは……」
ルッソは目のやり場に困りながら彼女と握手をするとアナキンにはひざまづいて頭を下げた。地位の高いスカルファッカー家のご嫡男だからである。カイルにも最初の時はこうした。段々とくだけた態度になってしまったが。
「あっ、いえ。ルッソさんもとりあえずアジール公ですから、そんなかしこまったあいさつは……」
アナキンは大仰な礼を好まなかった。それよりもマイヤのことについて話をしましょうとルッソに呼び掛ける。
シマナミスタンのエルフの血をひくピルリアの愛くるしさとおっぱいに引き寄せられそうになりながらも、ルッソは話し合う事にした。マレーネ姫の訪問についてだ。イーガ勢はそのことが気になっていたのだ。
「マレーネ姫様は必ずマイヤと会えるでしょう。トーリもさすがに文句言って妨害できないはずです」
「トーリ様ってそんなにえらくてけちなの? あたし、よくわかんないんだけど」
ピルリアが問う。ルッソは答えた。今のホーデンエーネンの実質的な支配者はトーリだ。セイン王を心理操作の魔法で虜にして自分の意のままに操っている。まあ、変な陰謀家と手を組んでトーリをやっつけないよう、心を操っているだけなのだが。
「王様は軽度だけど他の家臣や武将はそのほとんどがトーリの穴兄弟、つまりはサキュバスの心理掌握術にはまった連中というわけです」
「ルッソさん。寝取られちゃったんだね……辛かったらあたしが相手するよ?」
ルッソはアナキンの目をみた。こういう子なの? アナキンは無言のままうなずいた。ここからは念話魔法をもってアナキンは教えた。
「ピルリアはそういう子なんです。ちいちゃな頃から奥手な兄貴のちんちんのお世話をしてましたし、僕以外の男とやってたりしてますから」
でもそれは気にしない。何せアナキンはピルリアと心でもしっかりと結びついていたからだ。他の男との浮気もちがうちんぽを楽しみたいだけの話である。トーリさんと変わりませんよ、とルッソに一言加えた。それにアナキンも他の女とやっていたりもする。例えば手前にいるパルパティアがそのうちの1人だ。
(なら安心だよ。貞節なんてすけべな女の子には求めちゃいけないからね。寝取られを楽しむのがオツってもんさ。)
しかしピルリアの真心による誘いは断っとこう。彼女は純朴だ。毒っ気の強いカツランダルクの女のまんことけつあなのにおいが染みついた自分が相手をしてはいけないと思い、「お気持ちだけでもありがたい」とピルリアに返した。
「そう? やせ我慢はよくないよ……?」
あはは。ルッソは苦笑いしながらアナキンに目配せした。僕は構いませんからねという返事が。やっぱり気が引ける。ああいかん。ルッソは心配そうに見つめて来るピルリアに引き付けられながらも話を続けた。
「あのサキュバス達の中にいる、ピックプリトポロポロッテンという子はトーリも信頼を置いている、と聞いております。彼女1人だけつかまえても話はなったでしょう」
「スレッタとミオリネっていうのがまとめ役のようですが、そうなのですか?」
パルパティアが尋ねるとルッソは「あれは雑魚」と答えた。あのメンバーで一番優秀なのは、下っ端サキュバスのピックプリトポロポロッテンだ。育児休暇で職場を離れているヤスミンカも、お付きにするなら彼女がいいとルッソに忠告していた。ただ、階級を気にするあまりスレッタ達に強く出られないところはあったが。
「ピックプリト1人の身柄でトーリは掌を返してくるでしょう。王様といちゃいちゃしてばかりのカミラも彼女を買っていた。断言できる」
「でも、トーリ様がシラを切った場合はどうなるんです?」
トーリは権謀家なのだからそうするんじゃないか、とカイルは疑問を口にする。それはまずないとルッソは答えた。
「彼女は甘いんですよ。部下を決して見捨てたりはしない。だから、イーガで消息を絶ったメグとノンとマミの3人を探させたんです……知っていたらでいいんだけど」
本当のところ、彼女達はどうしたんです。どこにかくまわれているのですか。ルッソはパルパティア達に目を向けた。カイルもだ。
パルパティアとピルリアは心配そうにため息をついていた。彼女達はこの3人のサキュバスのことを知らない。しかしこの中で1人だけ、そのうちの1人について心当たりがある者がいた。
(まさか……あのサキュバスのことじゃないだろうな……?)
あの館で1人のサキュバスを葬った、アナキン=スカルファッカーだ。
朝議で貿易長官からの発言を聞き、一同はどよめいた。最近は数隻の武装した船を用いていたが、それでも襲撃をかけてくるとは。
船がよく襲われるのはシマナミスタン西部のクルシマーヴァラやウワジラプタ近海。地元の領主が海賊衆を率いている事が多い国々だ。襲われるタイミングは帰り道である。積み荷はほとんどが鉄砲。それをシマナミスタンでよく採れる金銀や香辛料、薬やミスリル銀と交換する。かの大陸では鉄砲が高値で売れた。
海賊らはきっちりと、襲って分捕った。構成メンバーはあの海域にいる海エルフや海ゴブリン。ウワジラプタでも南の海域にはドワーフの海賊が出没する。投石砲を大量に積んだ船でも追い払えなかった。快速船で回り込まれて逃げられなくなる。
あちらの海賊は手投げ機雷をぶん投げて来た。魔法装甲が発達していないホーデンエーネンの軍船はひとたまりも無かった。船員や兵士は捕虜に。彼等の末路はひどかった。あんまりにも悲しい余生が待っていた。
「これまでに150名の海兵と船員が、ウワジラプタ奥地のドワーフ村でいじめられる生活を続けている、と聞き及んでおります……」
「いじめるのか! どんなやり方かね!」
「そのう……畑の小作人兼、ドワーフ女の愛玩用男にされるのです……あんな疫病と酷暑の大陸で……彼等の無念を思うと……ううう……」
貿易長官は同情して泣いた。ちなみにだがウワジラプタの1反あたりの収穫量はホーデンエーネンで一番豊かな土地の2倍ある。それと冬が無いから連作障害などを気を付ければ二毛作がやれるのだ。ドワーフやゴブリンらによる農業魔法も充実していた。
「な、なんとうらやましい……」
「女ドワーフと言えばずんぐりむっくりだけど、情が濃くてとても甘やかしてくれるという話を聞いているが……?」
事実、捕らえられた男達はドワーフらにかわいがられていた。沢山たべなされとご飯を山盛りで食わせてくれる。しかしドワーフの食べる量とおんなじぐらいだからニンゲンの胃袋には酷だ。ある種のハラスメントであり暴行とも呼べた。
それからドワーフ達はもっとひどいことを彼等に致した。男ドワーフたちは親睦を深めようと、己の陰茎で捕虜たちのケツアナをほじくるのだ。ドワーフのそれは御芋の様な立派な代物である。捕虜たちは「うほっ♡」とよがって後戻りできない世界に連れて行かれてしまった。まさに災難。ちなみにドワーフ男のアナルは、名器揃いである。
「これは外交問題になるな。悩ましい……」
「しかしウワジラプタまで攻める戦費は捻出できません。ナーガハーマの増築と北部の各砦の整備、それから、討ち死にした騎士や兵士への弔い金で国庫はかつかつです」
「アスカウ公様……マイア=テクニカに出させるのはどうかね? そもそも鉄砲を製造しているのはあの会社だ。王族衆であるから、それの輸出を王国が手を貸しているというわけである」
廷臣らは耳を傾けていたセイン王に申し出た。捕虜奪還の為の軍を起こしてほしい。マイア=テクニカの資金で。セインの返答はそっけなかった。
「だめだろ。却下」
「何故です、陛下!」
「そうですよ。これでもう5回目の襲撃。そろそろシマナミスタンの腰巻野郎どもをしばき倒さないと、また繰り返してしまいますぞ!」
廷臣らが抗議する。トーリに洗脳されていたから、もっと別のことを考えられたはずだができなかった。例えば、鉄砲の輸送船の警護はやめにしよう、とか。
しかしその様に考えられなかったのはやはり、心の奥底を支配されたからである。それと面子だ。国として何かやらなければならない。だが、セイン王は激高する彼等にイーガとの『えくすぷれす』の延長や、ヨーシデンに行ったマイヤらが早速行っている街づくりについての話をして黙らせた。
「鉄砲はそもそも、マイヤのやつがヨーシデンに都をおっ立てる目的で売り飛ばしているんだ。あいつは戦争になんか金を出さんよ」
それから一番の大損をこいているのはマイア=テクニカである。5回も売り上げを海賊達に奪われた。そうなると都市づくりの資金は別のところから余計に引っ張らなくてはならない。
「……というわけで税金の負担分を増やす話し合いに取り掛かりたいんだが」
「確かに、そうなりますな」
セインも廷臣らも損失の分だけ計画を遅らせるという考えに至らなかった。トーリの心理魔法で考えを制限されていたからだ。
□ □ □ □ □
海賊による貿易のあがりの略奪は、王宮にいるトーリの耳にも入っていた。亜人の海賊集団と聞いて面倒くさい奴らね、と嘆いた。強弱はあるが、亜人にはサキュバスの魔法への抗力がある。胸元から片乳を出し、生まれて間もないジョーケインに含ませているシャロンに尋ねた。
「私が直接出てとっちめるのはどうかしら?」
「ニンゲンとは違います。シマナミスタンのドワーフには難儀するでしょうね。精霊人種……まあつまり亜人というのはオーガ族以外、精液に含まれている魔力はニンゲンの比ではありませんし、いくらでも魔力を供給できますが、彼等を屈服させる術式というのは、我々サキュバスには……」
無きに等しい。それからたとえ術にかけられる魔力と才能をもってしても、ニンゲンみたく1度に1000人や2000人というのは無理だ。せいぜいが数人ぐらい。いかにトーリでも辛いだろう。
「お諦めください。また海賊が襲ってくるなら、別の方法を考えましょう」
「交易船には何かの時の為にサキュバス達を乗せたのに、残念ね」
トーリは鉄砲を輸送する船に必ず1人サキュバスを乗せていた。ニンゲンの船娼婦に化けさせて監視をする。ついでに諸外国の調査も。彼女達は治癒魔法も使えたから『おまじない』と称して船員たちに適切な治療を施すことができた。
また、貿易長官に海賊の件を報告したのは彼女達だ。ドワーフのチンポを惜しみながらもホーデンエーネンまで逃げ帰ったからこそ語れたのだ。ドワーフはエルフほど魔法結界が得意で無かったから逃げられたのである。
「経験のあるサキュバスは国内の調査か船娼婦。育児休暇組に召集をかけようかしら?」
「そこは新人たちに任せてあげてください。まずはルッソ様とイーガに向かったスレッタとミオリネの吉報を待ちましょう。きっとメグとノンとマミの3人を連れ戻してくれるはずです」
「そうするわ。あのカミラが意外とふがいないのが笑えてしまうけど……彼女、このままイーガ王様のお妃になるのかしら?」
トーリが笑うとシャロンは眉をしかめた後に口元をほころばせた。カミラについては仕方が無い。昔の恋人の子孫とつきあっているのだから。イーガ王の子を孕んでいるというのも2人は知っていた。
しかし数日後、彼女達はイーガよりとんでもない知らせを受ける事となった。イーガのマイア=テクニカから通達があったからだ。ホーデンエーネンのスパイと疑わしいサキュバス達を保護したから今から連れて来る。しかしその手紙を送った人物はトーリにとってまことに面倒な人物だった。
□ □ □ □ □
イーガを発つ前日、ルッソはもう一度カイル=グリーヴァスと会う事となった。場所はマイア=テクニカのイーガの工房だ。そこでルッソはマイヤがここで作っていた『たぶれっどぱっと』を触って驚いていた。
「これはすごいなあ。へんてこな鏡みたいだけど……」
ガラス部分をさわったり撫でたりして本みたいにめくることができる。ルッソが持つ『たぶれっとぱっど』にはイーガの地理誌の一ページが映っていた。分厚い500ページのものだ。
それだけではない。道具の底部に差し込まれたカードリッジには数十冊分の本の情報が込められていた。こうしたカードリッジが本の系統に分かれて数百種類もある。どれもイーガの国立図書館から転写されたものであった。
但し、書店に出回っている新しい本は対象にしていないらしい。新しく刷られなくなったそれなりに価値がある書物と、あまりにも下品だったり荒唐無稽で出版社が出したくない物語本が、カードリッジに入れられるそうである。
「カードリッジはマイヤさんの発案だそうです。ですが、その発案の元ネタというのが、『たぶれっとぱっど』について記した人物の別の書物にあったようで」
「マイヤ1人で考えた事じゃないんだね、カイルさん?」
「マレーネ様いわく、『たぶれっとぱっど』と取り付けた記憶媒体はすべて、『違う世界であったもの』らしいです。いにしえの時代の転生人が書いた本にあったそうですよ」
なるほど。ルッソは新しいページをめくってしきりにうなずく。鉄砲よりもずっと未来を感じるものだぞ、これ。とはいえカイルは面白い話をしてくれた。カントニアにある古代ムサシノ帝国も似たようなものを作っていたらしい。
「あちらでは映像水晶と同じぐらいの魔力水晶を薄い鉄板に取り付けて、『たぶれっどぱっと』みたいなことをやっていたそうですよ。その水晶、2冊か3冊程度の情報しか蓄積できなかったそうですが、エルフ達が改良を頼まれて研究していたそうです」
「そうだとしても、どうしてこの大陸には伝わっていないんだい?」
「紙づくりと版刷りの業者からの圧力がかかったそうですね。それと真面目な本を読む人がそんなにいなかったんだとか。古代ムサシノ帝国でも後半ぐらいの頃の話ですから、慢心というのがあったんでしょうね」
帝国が滅んだのは、よく言われる様に女エルフとの快楽に溺れたからではなかった。また、その道具が残らなかったのは、作り方を知っているエルフ達が紙の本のほうを好んだからである。紙のにおいがしないものを読んでもどうにもしっくりいかねえずらよ。
「まあ、ホーデンエーネンじゃこいつは流行らないか。読書人はイズヴァルトさんみたく、ごく一部だしな」
「イズヴァルトさんも読書家なのですね。軍学やすけべな小説とかですか?」
「いやいやいや。本当に良いところの御曹司ですからね、あの人は。軍学書に歴史書、数学やら語学の本を読みこんでましたよ。マイヤにしゃぶられながらね」
おちんちんから精液を放つ代わりに本を読んで脳みそに栄養を与え続けていたとルッソは言う。マイヤの蔵書の2割は読んだそうだ。今日来たのはその読書家についての話だ。
ここを指定したのはカイルだった。会わせたい人がいるということで事務所の休憩室で待っていた。先に来ていた彼等は職人長の案内で工房の中を見学していた。
「それで、今回の『ねずみとり』に協力してくれた人ってのが……」
「僕の幼い頃の家庭教師にあたる人です。パルパティア=シディアスというハーフエルフの魔法戦士です」
もとは魔道騎士団でも精鋭の第三軍団に所属していた、『風斬り姫』という異名を持つ者。今は王立魔道学問所の講師だ。イズヴァルトとマイヤが留学していた頃の担当教員でもある。
「僕が最近知り合った、アナキンさんとピルリアさんの魔法の先生でもあるんですよ」
「アナキン……あの、スカルファッカー家の御曹司の?」
「ええ。彼とピルリアさんは『ねずみとり』に加わってくれたそうです。ピルリアさんはかわいくておっぱいが大きいのに、とても強い拳闘家なんだそうです!」
その2人も来ている。しばらくしてルッソはパルパティア達と顔を合わせる事となった。金髪の女ハーフエルフは疑う事無き美女であったが、格好をどうにかしてほしいと思った。美しいふくらはぎを見せてくれる短めのスカートなのだが、青いスカートの生地は半透明で股の付け根が見えてしまう。これでは魔道士というよりは娼婦だ。
「はじめましてだべえ……おっといけない! またミナッカミニアなまりがでてしまいましね。はははは……」
ルッソは目のやり場に困りながら彼女と握手をするとアナキンにはひざまづいて頭を下げた。地位の高いスカルファッカー家のご嫡男だからである。カイルにも最初の時はこうした。段々とくだけた態度になってしまったが。
「あっ、いえ。ルッソさんもとりあえずアジール公ですから、そんなかしこまったあいさつは……」
アナキンは大仰な礼を好まなかった。それよりもマイヤのことについて話をしましょうとルッソに呼び掛ける。
シマナミスタンのエルフの血をひくピルリアの愛くるしさとおっぱいに引き寄せられそうになりながらも、ルッソは話し合う事にした。マレーネ姫の訪問についてだ。イーガ勢はそのことが気になっていたのだ。
「マレーネ姫様は必ずマイヤと会えるでしょう。トーリもさすがに文句言って妨害できないはずです」
「トーリ様ってそんなにえらくてけちなの? あたし、よくわかんないんだけど」
ピルリアが問う。ルッソは答えた。今のホーデンエーネンの実質的な支配者はトーリだ。セイン王を心理操作の魔法で虜にして自分の意のままに操っている。まあ、変な陰謀家と手を組んでトーリをやっつけないよう、心を操っているだけなのだが。
「王様は軽度だけど他の家臣や武将はそのほとんどがトーリの穴兄弟、つまりはサキュバスの心理掌握術にはまった連中というわけです」
「ルッソさん。寝取られちゃったんだね……辛かったらあたしが相手するよ?」
ルッソはアナキンの目をみた。こういう子なの? アナキンは無言のままうなずいた。ここからは念話魔法をもってアナキンは教えた。
「ピルリアはそういう子なんです。ちいちゃな頃から奥手な兄貴のちんちんのお世話をしてましたし、僕以外の男とやってたりしてますから」
でもそれは気にしない。何せアナキンはピルリアと心でもしっかりと結びついていたからだ。他の男との浮気もちがうちんぽを楽しみたいだけの話である。トーリさんと変わりませんよ、とルッソに一言加えた。それにアナキンも他の女とやっていたりもする。例えば手前にいるパルパティアがそのうちの1人だ。
(なら安心だよ。貞節なんてすけべな女の子には求めちゃいけないからね。寝取られを楽しむのがオツってもんさ。)
しかしピルリアの真心による誘いは断っとこう。彼女は純朴だ。毒っ気の強いカツランダルクの女のまんことけつあなのにおいが染みついた自分が相手をしてはいけないと思い、「お気持ちだけでもありがたい」とピルリアに返した。
「そう? やせ我慢はよくないよ……?」
あはは。ルッソは苦笑いしながらアナキンに目配せした。僕は構いませんからねという返事が。やっぱり気が引ける。ああいかん。ルッソは心配そうに見つめて来るピルリアに引き付けられながらも話を続けた。
「あのサキュバス達の中にいる、ピックプリトポロポロッテンという子はトーリも信頼を置いている、と聞いております。彼女1人だけつかまえても話はなったでしょう」
「スレッタとミオリネっていうのがまとめ役のようですが、そうなのですか?」
パルパティアが尋ねるとルッソは「あれは雑魚」と答えた。あのメンバーで一番優秀なのは、下っ端サキュバスのピックプリトポロポロッテンだ。育児休暇で職場を離れているヤスミンカも、お付きにするなら彼女がいいとルッソに忠告していた。ただ、階級を気にするあまりスレッタ達に強く出られないところはあったが。
「ピックプリト1人の身柄でトーリは掌を返してくるでしょう。王様といちゃいちゃしてばかりのカミラも彼女を買っていた。断言できる」
「でも、トーリ様がシラを切った場合はどうなるんです?」
トーリは権謀家なのだからそうするんじゃないか、とカイルは疑問を口にする。それはまずないとルッソは答えた。
「彼女は甘いんですよ。部下を決して見捨てたりはしない。だから、イーガで消息を絶ったメグとノンとマミの3人を探させたんです……知っていたらでいいんだけど」
本当のところ、彼女達はどうしたんです。どこにかくまわれているのですか。ルッソはパルパティア達に目を向けた。カイルもだ。
パルパティアとピルリアは心配そうにため息をついていた。彼女達はこの3人のサキュバスのことを知らない。しかしこの中で1人だけ、そのうちの1人について心当たりがある者がいた。
(まさか……あのサキュバスのことじゃないだろうな……?)
あの館で1人のサキュバスを葬った、アナキン=スカルファッカーだ。
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※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
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