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第三部 カツランダルク戦記 『第一章・本当の支配者』
18 ケノービ=ソーローの思惑
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いわゆる、カツランダルク御三家のうちソーロー家とスカルファッカー家は、トーリの長子のオルフレッドとは仲が良かった、という事をルッソは海外にいて知っていた。オルフレッドから手紙を良く貰っていたからだ。
スカルファッカー家の当主であり、ソーロー家の今の当主の実の父親であるクワイガジン=スカルファッカーが、オルフレッドに特別目をかけてやっているとも。
王家の血を引いている事もあったが、オルフレッドは基本的に欲が無くて素直な性格である。それから目を引く美少年であること。母親に顔立ちが似て、実の父親であるイズヴァルトの体格を引き継いでいる。まだ9歳なのに13歳ぐらいの少年に見えた。身長は150になろうとしていた。
そのオルフレッドをクワイガジンは助けていた。母と仲が悪くて遠ざかりたい彼の為に、国王の弟であるジューンショーン王子の側人として城に住まわせたり、オルフレッドの妻のハンナ=アーレントの為に都にあるスカルファッカー家の別宅を貸したりなど。
それにオルフレッドはクワイガジンの2人の娘に可愛がられていた。シミとキーラの姉妹だ。クワイガジンの館にいる間、オルフレッドと2人はしょっちゅう身体をくっつきあった。彼女達は2人そろって赤ん坊を産んだ。どちらも女の子だった。
都へと向かう川船に乗って船室のベッドで寝そべりながらその姉妹についてルッソはヤスミンカに聞かされた。彼女のぼてっとした柔らかそうなお腹が、ゆったりと揺れ動くのを間近に見ながらだ。
「ハンナを差し置いてとはねえ。あはは、あいつもとんだ困ったちゃんだ。イズヴァルトさんみたくなっちゃったなあ」
長子であるはずのオルフレッドが、実はイズヴァルトの子であった事をルッソはとっくのとうに知っていた。なによりも体格が良すぎる。しかもとてつもなくちんちんが大きい。ルッソが知る息子のそれは大人サイズだった。最低でも13センチ以上はあった。
「そういやヤスミンカ、こういう話を知っているかい?」
「……んっ!」
「こっちも声が出にくくなるから念話魔法を使おう」
「あうっ。で、ではワタシが……」
「俺が使うよ。君は集中して。君の友達が教えてくれたからね」
そんなはずはない、とヤスミンカは思った。みんな、カミラからは『余計な技術』をルッソに教えるなと厳命されている。サキュバスは性交すると勝手に相手に情報や知識を送り込む余計な特性を持っていたが、防護魔法でさえぎることができる。それなのに。
「……本当に教えてくれたんだってば。俺には念話魔法とちょっとした火をつける魔法ぐらいしか使えないらしいともね。念話魔法を使うよ?」
ヤスミンカの頭の中にルッソの声が入って来る。オルフレッドはシギサンシュタウフェンの村の女の子を何人か孕ませたらしい。嫁入り前の年頃の村娘達がおっきなあかちゃんを産んだと手紙で知らせてくれた。
父無し児ということで領主が援助を施す事にしたが、どの子も顔立ちにイズヴァルトの面影がある。ぼっちゃんに近くに寄っただけで赤ん坊を孕むというでまかせがあったが、本当なのだろうと村の住人達は言い広めているそうだ。
「い、イズヴァルトさまの……」
「ちがうよ。その子たちはみんなオルフレッドと仲良くしてくれた女の子達だ。あいつは6歳だか7歳で子供をつくれちゃう身体になったみたいだ」
やっぱりイズヴァルトさんの息子だね。すげえや。皮肉ではなく感嘆して言ったルッソにヤスミンカはぎょっとなった。何故その事実を知っている?
「わかるよ、そんなことぐらい」
「……」
「トーリには問い詰めたかな。いや、忘れた。でもそんなことは別にいいんだ。だって俺も君達と浮気をして子供を作っちゃったんだから」
ヤスミンカはより一層硬くなるのを感じてますます喘いだ。しばらくのうちに脱力し肩を落とした。ルッソは彼女のぼてっとしたお腹を揉みながら呼びかけた。そろそろだよ。
双方で歓喜が起こった。解放される悦びと受け止めて吸い込む喜び。ルッソにがっしりと抱えられていたヤスミンカは身体を離した。
眺める。それはまだ厳ついままだった。発達した先端と弓なりに反った硬直だ。最初に味わった時よりも伸びて太くなっていると思った。護身用の懐剣と同じぐらいだろう。
残っていたものがあふれているのを見てヤスミンカは意地汚い本性を現した。口に納め、吸い立てて奥に残ったものをすすり込む。食いしん坊の彼女はあさましいほどに喰らいついた。撫でれば撫でるほど硬さが増した。
それにまたまたがった。熱さを感じてため息をついた。トーリ様には申し訳ない。でもこれは淫魔の習性なのだ。我慢ができないのだ。
「ヤスミンカさんは元気だね?」
「……っ!」
「トーリは後々もオルフレッドの事で頭を悩ませるだろうな。俺が彼女のところに戻るのはあと数年……セイン王様がちゃんと子づくりに励んでくれたらだろうけど、それまでは君達が彼女の助けになってあげてくれよ?」
そんなことは百も承知です。ヤスミンカはそう言いたかったがルッソが下から突き上げて来てから何も考えられなくなった。
また疼いてしまう。身体の奥が開いてしまう。受け止め続けてヤスミンカは予感した。また自分はこの人の子を孕んでしまうだろう。
□ □ □ □ □
「オルフレッド様は父上を親族衆としてだいぶ信頼している様子でございます。かくいう私も、オルフレッド様には強い親愛感を抱いておりますよ」
ルッソの目の前であはは、と笑う青年がいる。やせぎすで目つきが鋭い。それほど人を疑わないルッソだが、この人物は油断がならないぞと思っていた。
「うちのオルフレッドに目をかけていただき、大変光栄ですよ。あいつが何かそそうをしないかひやひやしております。いや、妹さまがたに手を付けちゃったのは……」
「あはは。スカルファッカー家には淫魔の血が流れているのですぞ! あのぐらいどうってことは無い!」
そう笑うソーロー家の当主の眼は笑っていなかった。嫁入り前の妹たちを手籠めにしやがって、あのマセガキめ。目の前の男はどういう養育をしていたのだ?
(まあしかし、オルフレッドは父親に全く似ていないな。いつだったか連れて来てくれたコリアンナには面影があるのだが。)
そう思って葡萄酒が入った杯を口につける。ケノービ=ソーローは目を細めながらルッソの顔を確かめていた。阿呆ではなさそうだな。聡くも無さそうだが。
ルッソとソーロー家の当主、ケノービ=ソーローはこれが初めての顔合わせだった。ナントブルグに向かう手前の今夜の一泊をルッソが申し込んだ格好だ。
2人は1歳違いだ。ケノービは24歳、ルッソは23歳。とはいえ貴族と元平民だから見てきたことや考えて来た事は全く違っていた。なのだが、会話を続けてこいつはどういうやつなのだろうか、というのは推測できる。
(オルフレッドが世話になっているけど……あんまりお近づきにはなりたくない雰囲気があるな。頭の良さを鼻にかけているようだ。)
陰謀家っぽいなとルッソは感じた。トーリの近くについているカミラと同じ人種とも。ただカミラはトーリへの忠誠でもって策を立てているのに対し、ケノービは我欲の為に陰謀をくわだてるタイプだろう。
対するケノービはこれまで、ルッソを『平民上がりのなりあがり者』程度にしか見ていなかったが様々な情報を集めて考えを改めていた。出世欲があれば貴族はともかく領地持ちの武者や文官になれそうな胆力の持ち主のようだ。あまりなめてかかるのはまずい。
会話はルッソのナントブルグ入りについてになった。目的を聞いてケノービは目を輝かせた。
「しかし、興味深いことをなされますな。鉄砲の輸出を阻むために宮廷に直訴なされるおつもりだとは」
理解に苦しい。鉄砲が量産され国内への輸送や海外への貿易の為にアジールの港に入れば、港の収益があがりルッソは富むはずなのに。
「武器輸出が余計な戦乱を産むとマイヤに聞いたからです」
どこかで聞いた話だな。ケノービは思い出した。確か、何かの会話の折で弟のアナキンが似たようなことを聞いた気がする。
「特に新兵器。あれは余計に戦争を激化すると読んだ本にも書いてありました」
「どこの国の書籍ですか?」
「ホーデンエーネンの本屋にも置いてある歴史書ですよ。マイヤがうちに置いていたものですが。最後まで読んでみましたが、半分の理解もできませんでしたけど、その様に書いておりました」
何の本かと聞けば『兵器史書』という題名の本。ケノービも父の蔵書棚から持ち出してちらと読んだことがある。近衛騎士団で必読を求められる書の1つであった。あんなのをマイヤは幼い頃に読んでいたのか。
他にもルッソは軍記物や兵書を読んだと語った。トーリが大好きな書物でもある。そしてどれも、新兵器は初手ではボロ勝ちを約束するが、相手もそれを用いるとそうもいかなくなると書いてあるという様な事を記している、と私見を述べた。
「特に『クラウゼヴィッツ』や『ターニャ戦記』を読んでそう思いました」
どちらも、前世の記憶を持つ古い時代の転生人が記した兵書と軍記物だった。ちなみにだがどちらも彼等の前世で『原本』というものがあった。パクリである。ただ、この世界で記したものは大きく省略されているか、記憶違いの箇所があった。
ケノービは驚愕していた。ただの平民がなぜそんな兵法家の読むものを? ケノービにはあわなかった。『クラウゼヴィッツ』は冒頭の30ページで挫折した。もう1つのがまだ読み進められた。
「『ターニャ戦記』! ライナー=イナトミッテンフェルト将軍が激賞したあれを読んだというのですか! あなたは!」
「ええ。まあせいぜい、結末は主人公が処刑されるんだろうなと思って読み進めましたけど、なんか他の将軍達と手を組んで反乱を起こして戦争を停戦にさせて終わる、という締め方がしっくり来なかったのですが……」
そんな終わり方だったのか。全部で10巻あるうちの半分で放り投げていたケノービは驚くばかりであった。軍記物とはいえ、あんな長いのを読み続ける根性がすごい。
(平民如きが! やはり『女王』の夫にふさわしい男という事か! 侮りがたし、ルッソ=シュミット!)
ただこれはあくまでケノービ個人の感想である。暇があれば彼だって読めた。魔法で空を飛び『らいふる』なる武器で無双する幼女魔道士の物語は、少年の心を鷲づかみにする魅力に満ちているし読みやすかったから、ケノービも決して読みつくす事はできなくもなかった。
「これは心強い! 王国に何かがあった折には、是非ともアジール公殿には一軍の将として統べていただきたい!」
「……本を読んだだけじゃ軍隊をうまく率いられませんよ。僕はあくまでながら読みして少ししか内容を理解していません。それでも戦争はよくないよなあ、とはどの本を読んでもわかります」
「これまた異なことを?」
男だったらそういう書を読みこなして軍を率い、歴史に名を残す大勝利を収めるのが夢ではないのかとケノービは思った。アジール公なら500や1000の兵士は持てるはずだ。しかしルッソは違った。
「戦争なんて下々を苦しめるだけですよ。やらないように努めるというのが上の人たちの使命というものです。だいたい、この国はイキり散らして海外やアカサカチハヤに攻め込んで負け続けたじゃありませんか? 『ターニャ戦記』の主人公がいる国みたいに」
その物語では主人公がいる国は連勝を重ねて調子に乗り、戦線を拡大してにっちもさっちもいかなくなった、という流れであった。常勝しおごるべからず、と記したのは誰が著した兵書だっただろう。
ホーデンエーネンもまた、侵略戦争では緒戦は勝ち進んでここ一番の決戦で負ける、なぜか戦線が維持できなくなり撤退する、を繰り返した国でもあった。武者は強いが戦略眼に欠けるきらいがあった。個人の戦闘力や精神力ばかりを尊ぶ尚武の国というものにはありがちな事だった。
「鉄砲というのが出回ればきっと、野望を持つ連中が出てくると思います。新しい武器を手に入れたからこれを使って『ていこくしゅぎ』をやろう、海外に植民地をつくろう、とか」
「またまた、転生人が作ったような言葉を! 学を衒い過ぎておりますぞ!」
「いやいや、学なんかありません。僕は児童の学問所までしか学んでおりませんから」
ルッソは背を縮こませて申し訳なさそうに言った。本当にできる者は、過去の歴史や書籍から学んだことを活かせて先人達を超えるはずである。克服し成し遂げる事が英雄なり賢者がやることだ。ルッソはあくまで普通の人である。
ルッソのこの平和主義であり凡庸さに、ケノービは喜々としていた。
(やはり只者ではないぞ、この男。平民というのは戦争で略奪して儲けたい者ばかりというが……。)
味方につけよう。ケノービはそう考えた。彼の当面の目的はトーリの権力をこれ以上強くさせない事である。マイヤが戻って来た事で彼女はますます力をつけようとするはずだ。その第一歩として新兵器たる鉄砲の工房が出来たのだから。
スカルファッカー家の当主であり、ソーロー家の今の当主の実の父親であるクワイガジン=スカルファッカーが、オルフレッドに特別目をかけてやっているとも。
王家の血を引いている事もあったが、オルフレッドは基本的に欲が無くて素直な性格である。それから目を引く美少年であること。母親に顔立ちが似て、実の父親であるイズヴァルトの体格を引き継いでいる。まだ9歳なのに13歳ぐらいの少年に見えた。身長は150になろうとしていた。
そのオルフレッドをクワイガジンは助けていた。母と仲が悪くて遠ざかりたい彼の為に、国王の弟であるジューンショーン王子の側人として城に住まわせたり、オルフレッドの妻のハンナ=アーレントの為に都にあるスカルファッカー家の別宅を貸したりなど。
それにオルフレッドはクワイガジンの2人の娘に可愛がられていた。シミとキーラの姉妹だ。クワイガジンの館にいる間、オルフレッドと2人はしょっちゅう身体をくっつきあった。彼女達は2人そろって赤ん坊を産んだ。どちらも女の子だった。
都へと向かう川船に乗って船室のベッドで寝そべりながらその姉妹についてルッソはヤスミンカに聞かされた。彼女のぼてっとした柔らかそうなお腹が、ゆったりと揺れ動くのを間近に見ながらだ。
「ハンナを差し置いてとはねえ。あはは、あいつもとんだ困ったちゃんだ。イズヴァルトさんみたくなっちゃったなあ」
長子であるはずのオルフレッドが、実はイズヴァルトの子であった事をルッソはとっくのとうに知っていた。なによりも体格が良すぎる。しかもとてつもなくちんちんが大きい。ルッソが知る息子のそれは大人サイズだった。最低でも13センチ以上はあった。
「そういやヤスミンカ、こういう話を知っているかい?」
「……んっ!」
「こっちも声が出にくくなるから念話魔法を使おう」
「あうっ。で、ではワタシが……」
「俺が使うよ。君は集中して。君の友達が教えてくれたからね」
そんなはずはない、とヤスミンカは思った。みんな、カミラからは『余計な技術』をルッソに教えるなと厳命されている。サキュバスは性交すると勝手に相手に情報や知識を送り込む余計な特性を持っていたが、防護魔法でさえぎることができる。それなのに。
「……本当に教えてくれたんだってば。俺には念話魔法とちょっとした火をつける魔法ぐらいしか使えないらしいともね。念話魔法を使うよ?」
ヤスミンカの頭の中にルッソの声が入って来る。オルフレッドはシギサンシュタウフェンの村の女の子を何人か孕ませたらしい。嫁入り前の年頃の村娘達がおっきなあかちゃんを産んだと手紙で知らせてくれた。
父無し児ということで領主が援助を施す事にしたが、どの子も顔立ちにイズヴァルトの面影がある。ぼっちゃんに近くに寄っただけで赤ん坊を孕むというでまかせがあったが、本当なのだろうと村の住人達は言い広めているそうだ。
「い、イズヴァルトさまの……」
「ちがうよ。その子たちはみんなオルフレッドと仲良くしてくれた女の子達だ。あいつは6歳だか7歳で子供をつくれちゃう身体になったみたいだ」
やっぱりイズヴァルトさんの息子だね。すげえや。皮肉ではなく感嘆して言ったルッソにヤスミンカはぎょっとなった。何故その事実を知っている?
「わかるよ、そんなことぐらい」
「……」
「トーリには問い詰めたかな。いや、忘れた。でもそんなことは別にいいんだ。だって俺も君達と浮気をして子供を作っちゃったんだから」
ヤスミンカはより一層硬くなるのを感じてますます喘いだ。しばらくのうちに脱力し肩を落とした。ルッソは彼女のぼてっとしたお腹を揉みながら呼びかけた。そろそろだよ。
双方で歓喜が起こった。解放される悦びと受け止めて吸い込む喜び。ルッソにがっしりと抱えられていたヤスミンカは身体を離した。
眺める。それはまだ厳ついままだった。発達した先端と弓なりに反った硬直だ。最初に味わった時よりも伸びて太くなっていると思った。護身用の懐剣と同じぐらいだろう。
残っていたものがあふれているのを見てヤスミンカは意地汚い本性を現した。口に納め、吸い立てて奥に残ったものをすすり込む。食いしん坊の彼女はあさましいほどに喰らいついた。撫でれば撫でるほど硬さが増した。
それにまたまたがった。熱さを感じてため息をついた。トーリ様には申し訳ない。でもこれは淫魔の習性なのだ。我慢ができないのだ。
「ヤスミンカさんは元気だね?」
「……っ!」
「トーリは後々もオルフレッドの事で頭を悩ませるだろうな。俺が彼女のところに戻るのはあと数年……セイン王様がちゃんと子づくりに励んでくれたらだろうけど、それまでは君達が彼女の助けになってあげてくれよ?」
そんなことは百も承知です。ヤスミンカはそう言いたかったがルッソが下から突き上げて来てから何も考えられなくなった。
また疼いてしまう。身体の奥が開いてしまう。受け止め続けてヤスミンカは予感した。また自分はこの人の子を孕んでしまうだろう。
□ □ □ □ □
「オルフレッド様は父上を親族衆としてだいぶ信頼している様子でございます。かくいう私も、オルフレッド様には強い親愛感を抱いておりますよ」
ルッソの目の前であはは、と笑う青年がいる。やせぎすで目つきが鋭い。それほど人を疑わないルッソだが、この人物は油断がならないぞと思っていた。
「うちのオルフレッドに目をかけていただき、大変光栄ですよ。あいつが何かそそうをしないかひやひやしております。いや、妹さまがたに手を付けちゃったのは……」
「あはは。スカルファッカー家には淫魔の血が流れているのですぞ! あのぐらいどうってことは無い!」
そう笑うソーロー家の当主の眼は笑っていなかった。嫁入り前の妹たちを手籠めにしやがって、あのマセガキめ。目の前の男はどういう養育をしていたのだ?
(まあしかし、オルフレッドは父親に全く似ていないな。いつだったか連れて来てくれたコリアンナには面影があるのだが。)
そう思って葡萄酒が入った杯を口につける。ケノービ=ソーローは目を細めながらルッソの顔を確かめていた。阿呆ではなさそうだな。聡くも無さそうだが。
ルッソとソーロー家の当主、ケノービ=ソーローはこれが初めての顔合わせだった。ナントブルグに向かう手前の今夜の一泊をルッソが申し込んだ格好だ。
2人は1歳違いだ。ケノービは24歳、ルッソは23歳。とはいえ貴族と元平民だから見てきたことや考えて来た事は全く違っていた。なのだが、会話を続けてこいつはどういうやつなのだろうか、というのは推測できる。
(オルフレッドが世話になっているけど……あんまりお近づきにはなりたくない雰囲気があるな。頭の良さを鼻にかけているようだ。)
陰謀家っぽいなとルッソは感じた。トーリの近くについているカミラと同じ人種とも。ただカミラはトーリへの忠誠でもって策を立てているのに対し、ケノービは我欲の為に陰謀をくわだてるタイプだろう。
対するケノービはこれまで、ルッソを『平民上がりのなりあがり者』程度にしか見ていなかったが様々な情報を集めて考えを改めていた。出世欲があれば貴族はともかく領地持ちの武者や文官になれそうな胆力の持ち主のようだ。あまりなめてかかるのはまずい。
会話はルッソのナントブルグ入りについてになった。目的を聞いてケノービは目を輝かせた。
「しかし、興味深いことをなされますな。鉄砲の輸出を阻むために宮廷に直訴なされるおつもりだとは」
理解に苦しい。鉄砲が量産され国内への輸送や海外への貿易の為にアジールの港に入れば、港の収益があがりルッソは富むはずなのに。
「武器輸出が余計な戦乱を産むとマイヤに聞いたからです」
どこかで聞いた話だな。ケノービは思い出した。確か、何かの会話の折で弟のアナキンが似たようなことを聞いた気がする。
「特に新兵器。あれは余計に戦争を激化すると読んだ本にも書いてありました」
「どこの国の書籍ですか?」
「ホーデンエーネンの本屋にも置いてある歴史書ですよ。マイヤがうちに置いていたものですが。最後まで読んでみましたが、半分の理解もできませんでしたけど、その様に書いておりました」
何の本かと聞けば『兵器史書』という題名の本。ケノービも父の蔵書棚から持ち出してちらと読んだことがある。近衛騎士団で必読を求められる書の1つであった。あんなのをマイヤは幼い頃に読んでいたのか。
他にもルッソは軍記物や兵書を読んだと語った。トーリが大好きな書物でもある。そしてどれも、新兵器は初手ではボロ勝ちを約束するが、相手もそれを用いるとそうもいかなくなると書いてあるという様な事を記している、と私見を述べた。
「特に『クラウゼヴィッツ』や『ターニャ戦記』を読んでそう思いました」
どちらも、前世の記憶を持つ古い時代の転生人が記した兵書と軍記物だった。ちなみにだがどちらも彼等の前世で『原本』というものがあった。パクリである。ただ、この世界で記したものは大きく省略されているか、記憶違いの箇所があった。
ケノービは驚愕していた。ただの平民がなぜそんな兵法家の読むものを? ケノービにはあわなかった。『クラウゼヴィッツ』は冒頭の30ページで挫折した。もう1つのがまだ読み進められた。
「『ターニャ戦記』! ライナー=イナトミッテンフェルト将軍が激賞したあれを読んだというのですか! あなたは!」
「ええ。まあせいぜい、結末は主人公が処刑されるんだろうなと思って読み進めましたけど、なんか他の将軍達と手を組んで反乱を起こして戦争を停戦にさせて終わる、という締め方がしっくり来なかったのですが……」
そんな終わり方だったのか。全部で10巻あるうちの半分で放り投げていたケノービは驚くばかりであった。軍記物とはいえ、あんな長いのを読み続ける根性がすごい。
(平民如きが! やはり『女王』の夫にふさわしい男という事か! 侮りがたし、ルッソ=シュミット!)
ただこれはあくまでケノービ個人の感想である。暇があれば彼だって読めた。魔法で空を飛び『らいふる』なる武器で無双する幼女魔道士の物語は、少年の心を鷲づかみにする魅力に満ちているし読みやすかったから、ケノービも決して読みつくす事はできなくもなかった。
「これは心強い! 王国に何かがあった折には、是非ともアジール公殿には一軍の将として統べていただきたい!」
「……本を読んだだけじゃ軍隊をうまく率いられませんよ。僕はあくまでながら読みして少ししか内容を理解していません。それでも戦争はよくないよなあ、とはどの本を読んでもわかります」
「これまた異なことを?」
男だったらそういう書を読みこなして軍を率い、歴史に名を残す大勝利を収めるのが夢ではないのかとケノービは思った。アジール公なら500や1000の兵士は持てるはずだ。しかしルッソは違った。
「戦争なんて下々を苦しめるだけですよ。やらないように努めるというのが上の人たちの使命というものです。だいたい、この国はイキり散らして海外やアカサカチハヤに攻め込んで負け続けたじゃありませんか? 『ターニャ戦記』の主人公がいる国みたいに」
その物語では主人公がいる国は連勝を重ねて調子に乗り、戦線を拡大してにっちもさっちもいかなくなった、という流れであった。常勝しおごるべからず、と記したのは誰が著した兵書だっただろう。
ホーデンエーネンもまた、侵略戦争では緒戦は勝ち進んでここ一番の決戦で負ける、なぜか戦線が維持できなくなり撤退する、を繰り返した国でもあった。武者は強いが戦略眼に欠けるきらいがあった。個人の戦闘力や精神力ばかりを尊ぶ尚武の国というものにはありがちな事だった。
「鉄砲というのが出回ればきっと、野望を持つ連中が出てくると思います。新しい武器を手に入れたからこれを使って『ていこくしゅぎ』をやろう、海外に植民地をつくろう、とか」
「またまた、転生人が作ったような言葉を! 学を衒い過ぎておりますぞ!」
「いやいや、学なんかありません。僕は児童の学問所までしか学んでおりませんから」
ルッソは背を縮こませて申し訳なさそうに言った。本当にできる者は、過去の歴史や書籍から学んだことを活かせて先人達を超えるはずである。克服し成し遂げる事が英雄なり賢者がやることだ。ルッソはあくまで普通の人である。
ルッソのこの平和主義であり凡庸さに、ケノービは喜々としていた。
(やはり只者ではないぞ、この男。平民というのは戦争で略奪して儲けたい者ばかりというが……。)
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