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第三部 カツランダルク戦記 『第一章・本当の支配者』
10 オルガスムナ家
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それから半月。国王の愛妾の妹、『おしゃぶり姫』の帰還の知らせは国中に広まっていった。
聖騎士イズヴァルトの侍女であり恋人。そして一部の者には『およめさん』として認知されていたマイヤを待っていたのは非難と悪罵の嵐だった。
「おいコラ『おしゃぶり姫』! イズヴァルトを振ってイーガの王子を手なずけるとはどういう魂胆だ!」
「『おしゃぶり姫』はイズヴァルトを捨ててイーガの未来のお后様になろうとしたのに、しくじってホーデンエーネンに戻って来た!」
「王宮はマイヤをすぐにイーガに送り返せ! あんな毒婦の顔、見たくもない!」
平民や下級貴族や、はたまた王家の端っこにいる者が、弾劾状や直訴文をセイン王の所に送りつけた。困り果てたセインは山と積まれた文をトーリに見せ、「どうしたらいい?」と尋ねた。
「マイヤのことで一揆が起きる勢いだぜ。あいつにお詫び行脚させようか? 俺からもカントニアにいるらしいイズヴァルトに帰ってくるように手紙を書くけど?」
「あらあら、マイヤは悪い意味でも人気者ね?」
手紙を読みながらトーリは気にも留めぬといった調子で答えた。しかしどの手紙も本当にひどいことばかり書いている。マイヤは心まで尻軽の猛毒おんなだ。首をはねても生首がちんぽをしゃぶりに来るほどだぞ、と。
(あらまあ。マイヤはイーガのアドルフにひどい目に遭わされたのに。怒りを向けるならイーガ王家に向けなさいよ。)
もちろん、本当のことを公表すれば、せっかく和平がなったイーガ王国とまたいざこざが起こるだろうし、そもそもこんなひどい手紙をマイヤには読ませられない。偽の情報をつかまされて勝手に憤る連中は放っておく事にした。
トーリにとって問題なのは別のところにあった。まずはマイヤの健康状態。カミラの助言通りに目覚めた日から『授乳係』の男達をマイヤの側に置いた。要するにおしゃぶりと性交の相手だ。サキュバスたちが厳選したいいキンタマの持ち主らである。
良質な精液を摂取し続ければ健康状態は上向くはず、とカミラは言った。しかしマイヤはよく嘔吐をするし寝る時間が多い。まるで赤ちゃんみたいな生活を送っていた。1日に5回精液を膣に納めれば3時間睡眠で事足りるトーリとは真逆だった。
経口や膣内での精液摂取による魔力の吸収、生命力の涵養がいささかうまくいっていないとカミラは語った。特に卵巣が切除されたのが痛かったらしい。サキュバスの血を引くニンゲンの魔力受容装置は、大概は子宮や卵巣となるそうだ。
その上、麻薬を投与されたりひどい暴行を長いこと受け続けた跡が身体に残っている。無理やりに胎児を引きずり出されたり乱暴を繰り返されたり。脳や内臓、血管や神経といった目に見えないところで深いダメージを負っている。
(このままでは長くは生きられない、か。お母さんみたいに。)
しかしトーリが近くにいる場合は、彼女から魔力を供給される形となるので身体の劣化や病気がなくなるという。多分、一生そうなるだろう。でなければマイヤは、10年から20年の間に死ぬ。転生人は不運のせいで短命に終わるという話をトーリは思い出した。
(神から才を与えられた者は波乱の運命も押し付けられる。特に転生人は前世の非凡をそのまま持ち込み神に慮られるから、凡人達の嫉妬を買いやすい。)
だが、転生人ではない自分はそうではない。トーリは自分ならやれる、と確信していた。転生人にツキが無いのは非凡すぎるからである。でも自分は先祖の力を引き継いでいるが、ごく自然な成り行きであり人にそしられるいわれはないと思っていた。それなら、ニンゲンよりも遥かにこの世で生きやすい魔族や亜人はどうなのだ?
□ □ □ □ □
トーリのもう1つの気がかり。長男のオルフレッドがひそかに仇敵と見なしているカツランダルク御三家に近づき過ぎる事だった。特に悩ましいのはスカルファッカー家である。
当主・クワイガジンの年頃の姫、シミとキーラがオルフレッドの子を宿したのだ。こともあろうか正妻であるハンナを差し置いて。この情報はクワイガジン本人から聞きだした。
彼との『ごきげんよう搾精ファック』の最中、ちんぽ汁を名器でぴゅーぴゅーと放たせながらその事実を知らされたのだ。
「これでもし、トーリ様が拙者の子を宿されたら、ご本家とスカルファッカー家との結びつきは鉄よりも固いものとなりますなあ」
トーリの膣の中で盛大に射精しながらクワイガジンは言い放った。冗談じゃない。御三家はいずれ滅ぼすつもりである。しかし我が子に彼等のうち1つだが、生存を保証しうる子供を残す事になるとは。
その上、オルフレッドは御三家のもう1つ、ソーロー家とも親睦を深めている。よりにもよってハン=ソーローを兄みたく慕っているそうだ。行為の最初に黒々としたペニスをしゃぶらに来たクワイガジンによれば。
おっきな腸詰ですわね、とっても硬い。などとお世辞を言ったがやはりカツランダルクの男のナニである。淫魔の血を受け継ぐ男のそれは、淫魔仕様の上物だった。
亀頭がとても大きくて雁首が際立っており、思いのほか極太で勢いの良いもの。とても固かった。一度射精してもカリの周りが「へなっ…」となることは無かった。
「んほおおお♡ んんんほほおおおお♡ んほんほおおおおおっ♡」
貫かれて喘がされてイカされまくったが、行為の最中でトーリは心の底から憤り続けていた。
オルフレッドの育て方を間違えた。これが正直な気持ちだ。しかし実の父親であるイズヴァルトのお人よしさと性善説論者ぶりを遺伝レベルで受け継いでいたオルフレッドに、人を疑う心をそもそも持ち合わせていなかった。ルッソが善良すぎる育ての親だったせいもある。
トーリは自分自身では口酸っぱく小言を言って来たつもりだったが、オルフレッドは受け入れるどころか反発した。かあちゃんはいちいちうるせーんだよ。その言葉は息子と顔を合わせるたびにかけられてしまう。
(ああ、男の子ってめんどうくさい……。)
とは言えだ。何とかしてオルフレッドとスカルファッカー家、ソーロー家の仲を引き裂きたい。刺客を送れば済むことだがそれだと宮廷が真相解明に乗り出すだろう。今の立場で荒っぽいことは出来かねる。
(でも……もう1つの御三家なら、まだオルフレッドは。)
御三家のもう1つ、オルガスムナ家だ。オルフレッドはあそことは仲が深くないらしい。それもそのはず、かの家の当主や跡継ぎは揃いも揃って愚鈍だからだ。裏ではトーリのことを嫌っているのだが、他の2支族と比べればいくらか御しやすいだろう。
□ □ □ □ □
オルガスムナの当主・メイス=オルガスムナは、2人の子息を連れて久しぶりにトーリの元を訪れた。表向きは国王の愛妾へのご挨拶。しかし本当にやりたいと考えていたのは別のことだ。連れの息子達の用事だ。
彼の息子は13歳と11歳。娼婦あがりの妾が母親で家督の継承権は無かった。しかし彼はこの息子達を嫡子よりも可愛がっていた。跡継ぎとなる18歳の長男よりも気にかけていた。
馬車は王宮の北の丸の池に面した庵の前で止まった。トーリがセイン王に頼んで建ててもらったものだ。二部屋ほどの小ぢんまりとした平屋だったが、彼女はここで昼間を過ごす事が多かった。
庵の前でトーリは侍女2人を従えて待っていた。カミラの部下達で、ニンゲンに化けていたのだ。メイスはこの女達とも寝たことがある。衣服の上からもわかる豊かな輪郭そのまんまの、精を絞りだしに来る様な美女たちだった。
「ごきげんうるわしゅう。オルガスムナ公様」
「これはこれは。お出迎えいただき大変恐縮です。ご本家様」
ゆっくりと降りて来た少年達を指さした。この2人が下の息子達です。彼等はトーリを見てたじろいでいた。なんてきれいな人なんだろう。
「初めまして、トーリ様」
「僕がスピキオ、隣が弟のアルトールです」
深々と頭を下げた少年達を見てトーリは微笑んだ。なんて立派な少年達でしょう。しかし将来が楽しみだ、などという世辞は言わなかった。彼等は凡庸な長兄の家来として不遇の人生を送るからだ。
大公は家来に馬車から荷物を持って来させた。ミスリル銀で細工を施した宝物や高価な絨毯。それから可愛らしい絵が施された箱だった。
「この箱は何かしら?」
「ソーロー家のチュバッカ夫人に頼み、選んで頂いた逸品、と言えばわかりますかな?」
大公の家来が差し出すそれをトーリはひったくった。中を開けるとかびた香辛料の様なにおいがぷわんと漂っていた。中に入っていたのは折りたたまれた黄ばんだ布だ。
ぞわぞわぞわ。トーリの直感がこれはまたとない名品だと呼びかけていた。周囲のサキュバス達も何か言いたげにつばを飲み込んでいる。
ホーデンエーネン随一の醜女とも言われるチュバッカ=ソーローは、貴族内で2人といない数寄者だと評されている。トーリも彼女が薦めてくれた名物には何度も唸らされた。その経験でこの汚い布への期待を抱いた。
「この布は……なんでしょうか?」
「シマナミスタンのドワーフの少年が使っていた腰布、だそうです。臭い物好きが集まる競りで出されたものらしいのですが」
チュバッカは悪臭を放つ物の蒐集家であった。彼女の宝物蔵にはホーデンエーネン一の足クサ令嬢の靴下や布靴、風呂にろくに入らない盗賊の親分が身に着けていた腕輪やシャツなど、常人が捨てるような物を集めていた。
チュバッカの見立てなら信頼できる。トーリは箱の中の布に鼻を近づけた。くどいにおいに混じって乾いた精液のにおいもあった。乾いたカルキの様な。
(たっ、たまらないッ……。)
トーリは聞いたことがある。シマナミスタン=ドワーフはサイゴークの『親戚』よりもいいにおいがする、と。サキュバスたちの感覚でだが。
ニンゲンは嗅ぎ取れないらしいがキンタマが異様にクサく、精液はニンゲンの通常の倍以上、何もかもが濃いらしい。特に射精を覚えたての少年の放ったものは、淫魔達の子宮にブローをかますぐらいの激しいものだという。その匂いをかぐと高い確率で排卵を引き起こすそうだ。
ふがふが。ふがふが……。
トーリは恥ずかしげもなく無言でその匂いに浸った。左右の侍女たちはみっともないから自分達にかわれ、と念話魔法で呼びかけた。いいじゃない。これは私のたからものよ!
「あ、あのう……そんなに良いにおいなのですか?」
スピキオがトーリに呼び掛けた。箱から漂ってくる異臭で吐き気を覚え、トーリの行動を信じられないと思っていた。とても美しい人なのに残念だ。弟のアルトールもトーリへの崇拝の念が薄らいでいた。
少年達の心情をトーリは感じ取っていた。彼女は笑ってごまかし、大公とその子息らを庵の一番広い部屋に通した。果物を置いたテーブルと水がめがあるぐらいだ。窓から池を見て茶を飲みながら、考え事をする程度に使っている。
テーブルの椅子に座った大公らを見てトーリは尋ねる。本日わざわざ来られたご用事はいかなるものか。オルガスムナ大公は普段、ナントブルグの別宅ではなく領地の屋敷に住んでいたのだ。
「実はですな。オルガスムナの今後についてお話したいのです」
メイス=オルガスムナは我が子2人の肩を抱き寄せて告げた。この2人が当主となる分家を立てたい。その為に国王陛下に顔が利くご本家様のお力添えが必要だ。
聖騎士イズヴァルトの侍女であり恋人。そして一部の者には『およめさん』として認知されていたマイヤを待っていたのは非難と悪罵の嵐だった。
「おいコラ『おしゃぶり姫』! イズヴァルトを振ってイーガの王子を手なずけるとはどういう魂胆だ!」
「『おしゃぶり姫』はイズヴァルトを捨ててイーガの未来のお后様になろうとしたのに、しくじってホーデンエーネンに戻って来た!」
「王宮はマイヤをすぐにイーガに送り返せ! あんな毒婦の顔、見たくもない!」
平民や下級貴族や、はたまた王家の端っこにいる者が、弾劾状や直訴文をセイン王の所に送りつけた。困り果てたセインは山と積まれた文をトーリに見せ、「どうしたらいい?」と尋ねた。
「マイヤのことで一揆が起きる勢いだぜ。あいつにお詫び行脚させようか? 俺からもカントニアにいるらしいイズヴァルトに帰ってくるように手紙を書くけど?」
「あらあら、マイヤは悪い意味でも人気者ね?」
手紙を読みながらトーリは気にも留めぬといった調子で答えた。しかしどの手紙も本当にひどいことばかり書いている。マイヤは心まで尻軽の猛毒おんなだ。首をはねても生首がちんぽをしゃぶりに来るほどだぞ、と。
(あらまあ。マイヤはイーガのアドルフにひどい目に遭わされたのに。怒りを向けるならイーガ王家に向けなさいよ。)
もちろん、本当のことを公表すれば、せっかく和平がなったイーガ王国とまたいざこざが起こるだろうし、そもそもこんなひどい手紙をマイヤには読ませられない。偽の情報をつかまされて勝手に憤る連中は放っておく事にした。
トーリにとって問題なのは別のところにあった。まずはマイヤの健康状態。カミラの助言通りに目覚めた日から『授乳係』の男達をマイヤの側に置いた。要するにおしゃぶりと性交の相手だ。サキュバスたちが厳選したいいキンタマの持ち主らである。
良質な精液を摂取し続ければ健康状態は上向くはず、とカミラは言った。しかしマイヤはよく嘔吐をするし寝る時間が多い。まるで赤ちゃんみたいな生活を送っていた。1日に5回精液を膣に納めれば3時間睡眠で事足りるトーリとは真逆だった。
経口や膣内での精液摂取による魔力の吸収、生命力の涵養がいささかうまくいっていないとカミラは語った。特に卵巣が切除されたのが痛かったらしい。サキュバスの血を引くニンゲンの魔力受容装置は、大概は子宮や卵巣となるそうだ。
その上、麻薬を投与されたりひどい暴行を長いこと受け続けた跡が身体に残っている。無理やりに胎児を引きずり出されたり乱暴を繰り返されたり。脳や内臓、血管や神経といった目に見えないところで深いダメージを負っている。
(このままでは長くは生きられない、か。お母さんみたいに。)
しかしトーリが近くにいる場合は、彼女から魔力を供給される形となるので身体の劣化や病気がなくなるという。多分、一生そうなるだろう。でなければマイヤは、10年から20年の間に死ぬ。転生人は不運のせいで短命に終わるという話をトーリは思い出した。
(神から才を与えられた者は波乱の運命も押し付けられる。特に転生人は前世の非凡をそのまま持ち込み神に慮られるから、凡人達の嫉妬を買いやすい。)
だが、転生人ではない自分はそうではない。トーリは自分ならやれる、と確信していた。転生人にツキが無いのは非凡すぎるからである。でも自分は先祖の力を引き継いでいるが、ごく自然な成り行きであり人にそしられるいわれはないと思っていた。それなら、ニンゲンよりも遥かにこの世で生きやすい魔族や亜人はどうなのだ?
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トーリのもう1つの気がかり。長男のオルフレッドがひそかに仇敵と見なしているカツランダルク御三家に近づき過ぎる事だった。特に悩ましいのはスカルファッカー家である。
当主・クワイガジンの年頃の姫、シミとキーラがオルフレッドの子を宿したのだ。こともあろうか正妻であるハンナを差し置いて。この情報はクワイガジン本人から聞きだした。
彼との『ごきげんよう搾精ファック』の最中、ちんぽ汁を名器でぴゅーぴゅーと放たせながらその事実を知らされたのだ。
「これでもし、トーリ様が拙者の子を宿されたら、ご本家とスカルファッカー家との結びつきは鉄よりも固いものとなりますなあ」
トーリの膣の中で盛大に射精しながらクワイガジンは言い放った。冗談じゃない。御三家はいずれ滅ぼすつもりである。しかし我が子に彼等のうち1つだが、生存を保証しうる子供を残す事になるとは。
その上、オルフレッドは御三家のもう1つ、ソーロー家とも親睦を深めている。よりにもよってハン=ソーローを兄みたく慕っているそうだ。行為の最初に黒々としたペニスをしゃぶらに来たクワイガジンによれば。
おっきな腸詰ですわね、とっても硬い。などとお世辞を言ったがやはりカツランダルクの男のナニである。淫魔の血を受け継ぐ男のそれは、淫魔仕様の上物だった。
亀頭がとても大きくて雁首が際立っており、思いのほか極太で勢いの良いもの。とても固かった。一度射精してもカリの周りが「へなっ…」となることは無かった。
「んほおおお♡ んんんほほおおおお♡ んほんほおおおおおっ♡」
貫かれて喘がされてイカされまくったが、行為の最中でトーリは心の底から憤り続けていた。
オルフレッドの育て方を間違えた。これが正直な気持ちだ。しかし実の父親であるイズヴァルトのお人よしさと性善説論者ぶりを遺伝レベルで受け継いでいたオルフレッドに、人を疑う心をそもそも持ち合わせていなかった。ルッソが善良すぎる育ての親だったせいもある。
トーリは自分自身では口酸っぱく小言を言って来たつもりだったが、オルフレッドは受け入れるどころか反発した。かあちゃんはいちいちうるせーんだよ。その言葉は息子と顔を合わせるたびにかけられてしまう。
(ああ、男の子ってめんどうくさい……。)
とは言えだ。何とかしてオルフレッドとスカルファッカー家、ソーロー家の仲を引き裂きたい。刺客を送れば済むことだがそれだと宮廷が真相解明に乗り出すだろう。今の立場で荒っぽいことは出来かねる。
(でも……もう1つの御三家なら、まだオルフレッドは。)
御三家のもう1つ、オルガスムナ家だ。オルフレッドはあそことは仲が深くないらしい。それもそのはず、かの家の当主や跡継ぎは揃いも揃って愚鈍だからだ。裏ではトーリのことを嫌っているのだが、他の2支族と比べればいくらか御しやすいだろう。
□ □ □ □ □
オルガスムナの当主・メイス=オルガスムナは、2人の子息を連れて久しぶりにトーリの元を訪れた。表向きは国王の愛妾へのご挨拶。しかし本当にやりたいと考えていたのは別のことだ。連れの息子達の用事だ。
彼の息子は13歳と11歳。娼婦あがりの妾が母親で家督の継承権は無かった。しかし彼はこの息子達を嫡子よりも可愛がっていた。跡継ぎとなる18歳の長男よりも気にかけていた。
馬車は王宮の北の丸の池に面した庵の前で止まった。トーリがセイン王に頼んで建ててもらったものだ。二部屋ほどの小ぢんまりとした平屋だったが、彼女はここで昼間を過ごす事が多かった。
庵の前でトーリは侍女2人を従えて待っていた。カミラの部下達で、ニンゲンに化けていたのだ。メイスはこの女達とも寝たことがある。衣服の上からもわかる豊かな輪郭そのまんまの、精を絞りだしに来る様な美女たちだった。
「ごきげんうるわしゅう。オルガスムナ公様」
「これはこれは。お出迎えいただき大変恐縮です。ご本家様」
ゆっくりと降りて来た少年達を指さした。この2人が下の息子達です。彼等はトーリを見てたじろいでいた。なんてきれいな人なんだろう。
「初めまして、トーリ様」
「僕がスピキオ、隣が弟のアルトールです」
深々と頭を下げた少年達を見てトーリは微笑んだ。なんて立派な少年達でしょう。しかし将来が楽しみだ、などという世辞は言わなかった。彼等は凡庸な長兄の家来として不遇の人生を送るからだ。
大公は家来に馬車から荷物を持って来させた。ミスリル銀で細工を施した宝物や高価な絨毯。それから可愛らしい絵が施された箱だった。
「この箱は何かしら?」
「ソーロー家のチュバッカ夫人に頼み、選んで頂いた逸品、と言えばわかりますかな?」
大公の家来が差し出すそれをトーリはひったくった。中を開けるとかびた香辛料の様なにおいがぷわんと漂っていた。中に入っていたのは折りたたまれた黄ばんだ布だ。
ぞわぞわぞわ。トーリの直感がこれはまたとない名品だと呼びかけていた。周囲のサキュバス達も何か言いたげにつばを飲み込んでいる。
ホーデンエーネン随一の醜女とも言われるチュバッカ=ソーローは、貴族内で2人といない数寄者だと評されている。トーリも彼女が薦めてくれた名物には何度も唸らされた。その経験でこの汚い布への期待を抱いた。
「この布は……なんでしょうか?」
「シマナミスタンのドワーフの少年が使っていた腰布、だそうです。臭い物好きが集まる競りで出されたものらしいのですが」
チュバッカは悪臭を放つ物の蒐集家であった。彼女の宝物蔵にはホーデンエーネン一の足クサ令嬢の靴下や布靴、風呂にろくに入らない盗賊の親分が身に着けていた腕輪やシャツなど、常人が捨てるような物を集めていた。
チュバッカの見立てなら信頼できる。トーリは箱の中の布に鼻を近づけた。くどいにおいに混じって乾いた精液のにおいもあった。乾いたカルキの様な。
(たっ、たまらないッ……。)
トーリは聞いたことがある。シマナミスタン=ドワーフはサイゴークの『親戚』よりもいいにおいがする、と。サキュバスたちの感覚でだが。
ニンゲンは嗅ぎ取れないらしいがキンタマが異様にクサく、精液はニンゲンの通常の倍以上、何もかもが濃いらしい。特に射精を覚えたての少年の放ったものは、淫魔達の子宮にブローをかますぐらいの激しいものだという。その匂いをかぐと高い確率で排卵を引き起こすそうだ。
ふがふが。ふがふが……。
トーリは恥ずかしげもなく無言でその匂いに浸った。左右の侍女たちはみっともないから自分達にかわれ、と念話魔法で呼びかけた。いいじゃない。これは私のたからものよ!
「あ、あのう……そんなに良いにおいなのですか?」
スピキオがトーリに呼び掛けた。箱から漂ってくる異臭で吐き気を覚え、トーリの行動を信じられないと思っていた。とても美しい人なのに残念だ。弟のアルトールもトーリへの崇拝の念が薄らいでいた。
少年達の心情をトーリは感じ取っていた。彼女は笑ってごまかし、大公とその子息らを庵の一番広い部屋に通した。果物を置いたテーブルと水がめがあるぐらいだ。窓から池を見て茶を飲みながら、考え事をする程度に使っている。
テーブルの椅子に座った大公らを見てトーリは尋ねる。本日わざわざ来られたご用事はいかなるものか。オルガスムナ大公は普段、ナントブルグの別宅ではなく領地の屋敷に住んでいたのだ。
「実はですな。オルガスムナの今後についてお話したいのです」
メイス=オルガスムナは我が子2人の肩を抱き寄せて告げた。この2人が当主となる分家を立てたい。その為に国王陛下に顔が利くご本家様のお力添えが必要だ。
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