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第三部 カツランダルク戦記 『第一章・本当の支配者』
06 国王の思惑
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トーリはサキュバスのカミラらを介し裏である人物とつながっていた。イーガ国王・ヴィルヘルム=トードヴェル=キョウゴクマイヤーである。
トーリと話をしたその翌日、カミラは王宮の中庭にいた国王と会っていた。可愛がっているミニブタ達が、ヴィルヘルム自らが刻んだりんごを置いた皿に鼻をつけるのを見ながらカミラはトーリからの伝言を告げた。
「トーリ様はマイヤ様のご病状を鑑み、一刻も早くホーデンエーネンに戻したいと仰せでございます」
「そうか。マイヤはそこまでよろしくなかったのか」
医療については手を尽くしているはずなのに。あのような身体になり、かつ、これまでずっと寝たきりだったから焦って働き過ぎたのも良くなかったのかもしれない。
「当方で取り計らってもよろしいでしょうか、陛下」
「儂からも家臣に伝えておこう。貴殿とトーリ殿ならば治せるかもしれん。それに期待したい」
マイヤの身を案じながら国王は思った。そろそろ終わりかもしれん。見切り時を考えていた。いつまでもマイヤをマルティンの側に置くわけにはいかない。いずれ、イズヴァルトが迎えに来る。
それとマルティンの今後も考えなければならなかった。マイヤとは仲睦まじいと聞く。毎朝毎晩、濃厚なセックスを求めあっているそうだ。
しかしそれでは子供が出来なくなる。たくましい事にマルティンは何人かの下女と関係を結んでいた。しかもそのうち1人が孫の子を孕んだと聞いた。
「フェアディナントは跡継ぎとしてしっかりと育ててみせよう。心配するな」
「……マルティン様も、次々とお子を為さねばなりませぬ」
心を読んでカミラが指摘した。もう1人、気になる存在が国王の元にいた。体調が優れず、部屋でずっと床に臥せっているロゼという名のマイヤの長女だ。
「かわいいロゼはどうすればいい?」
「我らの手元に引き取りたいとは思いますが、この5年は、陛下の愛情をかけていただきたいと……」
これから政治闘争が始まるだろう。心理掌握の魔法を駆使するトーリの圧倒的勝利で終わるだろうが、何かが起きる可能性がある。特にカツランダルク御三家が油断できない。
「わかった。ロゼについては引き続き儂の手元に置こう。かわいい義理の孫娘じゃしな」
「サキュバスの子孫であることをお忘れなく」
体調が良くないのはサキュバスの血によるものだから、お口やおまんこやお尻の穴に精液を注ぎ込んでくださいね。カミラがささやくと国王はため息をついた。
まだ4歳にならぬいたいけな童女にそれをやるのは心苦しい。それからとても身持ちが固かった。医師の調べではこれまでに性交をなした事もあり、処女膜も破かれていたというのに。どういう気持ちの変化なのだろうか。
とはいえロゼには精液が必要だった。あまりにもつらそうな時は瓶に入れた精液を薬と称して飲ませていた。カミラの提案だ。近衛の武者から集めた精液を飲むと、ロゼは確かに回復した。
□ □ □ □ □
ここのところ身体がだるい。ベッドのそばに置いた椅子に座って窓の景色を見つめながらロゼは思った。
(おちんちんからでるおいしいのみものをのまなくなったからかな?)
けれども父親との約束は守らなければならない。あの『お家』では父のお家来さんたちが喜んでおちんちんを差し出してくれた。ちゅぱちゅぱとやって毎日たくさん飲んだ。
それからおちんちんがちっちゃい人が、おまんこで飲む方法も教えてくれた。あれはとても気持ちが良かった。エクスタシーを覚えながら膣内で精液を受け止めたりもした。幼いながら数えきれないほどだった。
(またしたいなあ。おちんちんをしゃぶしゃぶするの……)
ロゼは淫乱。いや、これは自然の欲求によるものだった。これから母親の様に病がちに産まれた身体を整えながら成長する為に、精液と性交は無くてはならなかった。サキュバスの血を濃く継いだ者の宿命だ。
ロゼは窓をずっと眺める。お空は青くてとても澄んでいた。うっすらと自分の姿が映っていた。母親の遺伝が強い顔と髪。蒼にも見える黒い髪とまるっこくて愛らしい輪郭と目鼻立ち。ほっぺたにやや赤みがさしていた。
(おじいちゃま。はやくもどってこないかな。おはなししてほしいよ、おとうさまのこと……)
祖父・ヴィルヘルムはアドルフは遠い国に旅に出ているとロゼに話していた。かれこれ1年だ。そろそろ戻って来て顔を見せて欲しいと幼子は思っていた。
その代わりに祖父に父親の話をねだると、決まって国王は語ってくれた。身体もまだ元気だった、イーガの天才魔道士少年だった頃の。
少年アドルフは魔道学問所で素晴らしい成績を修め、様々な魔法も習得した。治癒魔法に関しては並ぶもの無しの天才児。異母兄・マルティンの聡明さはアドルフから受け継いでいたのだと国王は自慢気に語った。
とはいえ禁書図書館で変てこな書物を読み漁る趣味もあった。特に、転生人が持ち込んだプログラム言語というものに興味を持ち、魔法理論の参考程度にしかならないのに熱心に読み漁っていたという。
その父にはエレクトラという恋人がいたことも教えてくれた。転生人でエレクトラという名前の女の人だ。
前世は美人のスパイで、あれこれと悪だくみに加担して名を遺した、とんでもない悪党だったそうである。その暴れん坊ぶりがロゼにとって痛快だった。
(早く帰ってこないかな、おじいちゃま……)
ロゼは大あくびをした。うっすらと口蓋の中が窓ガラスに映った。口の中は荒れていた。摂取すべき精液の量が足りないのだ。やせっぽちの自分を見て悲しく思う。同じ年頃の子はころころとしているのに。ロゼはいくら食べても太らなかった。
窓から部屋の中に目を向けた。誰もいない。話し相手がいなくてとても寂しい。王女の身分ゆえからか、自分と同じぐらいの年頃の子たちともあまり話せなかった。会ってもちょっとだけ挨拶をされるだけ。
ロゼは大人とは一緒にいたけれど、常に孤独だった。雲一つない空を見て、あれは自分みたいだななどとつぶやいた。何にもない、空っぽなという意味だ。
「失礼します、ロゼさま」
扉から声がした。侍女のリアラだった。25になるかならないかの独身だが福々しい顔立ちと表情をしている。国王の愛人でもある。
娘が2人いるという。国王の隠し子だ。ロゼは寝ている時に祖父とリアラが隣の部屋でおまんこをしている声をよく聞いていた。この時彼女には3人目の子がお腹に宿っていた。
侍女が部屋に入って来ると、ロゼは毛布にくるまって寝ているふりをした。そうしないと口うるさく言われる。この侍女はとにかく口うるさい。いい人ではあるけれど、そこが好かなかった。
「殿下、ちゃんとお休みになられているようですわね?」
寝息を立てるふりをする。リアラとは話してもあまり楽しくない。国王のいないところでは、自分のことをどこか侮った言い方をするからだ。
「今日も大人しいこと。殿下はよくおねんねをして、しっかり育ってくださいね」
何もせずに眠っていればいいのですよ、あなたは。リアラの呼びかけはそういう意味だった。彼女はアドルフが国王によって誅されたのを知っていた。それからこの娘が、マルティン王子の愛妾の隠し子であることも。
国王は事実を隠そうと務めていたのだが、リアラは知ってしまった。親戚の近衛騎士からだ。ロゼ様のお薬には騎士達の精液が含まれているぞ。その事実でリアラは確信していた。
(マイヤとかいうだるま娘の娘。幼い頃から精液を吸って、さぞかし淫らに育つでしょうね。)
気色の悪い小娘だ。侮蔑は聡いロゼに勘づかれてしまっていた。だから優しく声をかけても、大事な主君の孫娘だとしてもどうしても冷え冷えとした気配を漂わせてしまう。
リアラが去るとロゼは毛布の中でため息をついた。敵意を感じて胸が痛む。寂しくなる。彼女はスカートをめくって手を入れ、敏感な部分をいじり始めた。
(……!)
寂しさが募りすぎると自慰をしてしまう。これを覚えたのは祖父に身元を預けられてからだ。背を丸めて喘ぎ、果てる行いを彼女は毎日続けていた。
指先でこね続けてしばらくのうちにため息をつく。汗びっしょりになったロゼの顔は疲れ切っていた。一度果てただけで頭はずきずきと痛み、身体はぐったりだった。
(おとうさまはいつ、こっちに戻って来るんだろう?)
父と一緒に早くアノーヅへ戻りたかった。あちらなら周囲の悪意を感じずに、穏やかに過ごしていられるからだ。
□ □ □ □ □
正直に言って、アナキンは今のマイヤと会いたくなかった。何もかも赤ちゃん言葉で語り、周囲にもそうさせる彼女には不健康なにおいが漂っている様に思えたからだ。
ピルリアとその子たちにはマイヤに会わせなかった。お腹の中の赤ん坊の胎教に良くないだろうし、子供達の教育上よろしくないだろう。
トーバコフへの2泊3日の旅行の待ち合わせ場所で、乳母車に乗せられておしゃぶりを咥え、無邪気に笑うマイヤを見れば明らかだった。
「マイヤさま。おはようございます」
「んー。んー。 (おはよう、アナキンさん!)」
「今日は絶好の旅行日和ですね!」
「んぶー! (そうだね!)」
おしゃぶりを咥えながら乳母車の中のマイヤは笑った。真っ白なふりふりのドレスだ。乳母車に乗る時の彼女は義手義足をつけなかった。
それを押すのがオットーである。彼女は男装の麗人らしく男物の旅行着に身を包んでいた。同行するマレーネは杖を突きながら侍女に日傘を持たせている。他にはアドルフの元妾であり、マルティンの後見役でもあるクララだ。
「ところで、マルティン様はまだ来られないのですか?」
確か、同行するという話だったのに。オットーが答えた。急な仕事が入って来られなくなったのだよ。
「そうだったのですか。このお話は嬉しそうでしたのに……」
「次の代の国王になるお人だ。今は政務の勉強が大切なのだよ」
クララとマレーネが口を合わせて残念だとつぶやいた。しかしオットーは知っていた。マルティン王子は国王の命によりこの旅行をやめさせられたのだ。マルティン王子に新たな妾を引き合わせる為にである。
しかしマルティンは知らないようだ。地方都市の査察だと聞かされているそうだが。
(あからさまになっているな……)
陛下はどうもこうお考えらしい。マルティンからマイヤを引き離したい。無理もないとオットーは思っていた。彼女はもう、キョウゴクマイヤー家の血を継ぐ役目を終えたからだ。
トーリと話をしたその翌日、カミラは王宮の中庭にいた国王と会っていた。可愛がっているミニブタ達が、ヴィルヘルム自らが刻んだりんごを置いた皿に鼻をつけるのを見ながらカミラはトーリからの伝言を告げた。
「トーリ様はマイヤ様のご病状を鑑み、一刻も早くホーデンエーネンに戻したいと仰せでございます」
「そうか。マイヤはそこまでよろしくなかったのか」
医療については手を尽くしているはずなのに。あのような身体になり、かつ、これまでずっと寝たきりだったから焦って働き過ぎたのも良くなかったのかもしれない。
「当方で取り計らってもよろしいでしょうか、陛下」
「儂からも家臣に伝えておこう。貴殿とトーリ殿ならば治せるかもしれん。それに期待したい」
マイヤの身を案じながら国王は思った。そろそろ終わりかもしれん。見切り時を考えていた。いつまでもマイヤをマルティンの側に置くわけにはいかない。いずれ、イズヴァルトが迎えに来る。
それとマルティンの今後も考えなければならなかった。マイヤとは仲睦まじいと聞く。毎朝毎晩、濃厚なセックスを求めあっているそうだ。
しかしそれでは子供が出来なくなる。たくましい事にマルティンは何人かの下女と関係を結んでいた。しかもそのうち1人が孫の子を孕んだと聞いた。
「フェアディナントは跡継ぎとしてしっかりと育ててみせよう。心配するな」
「……マルティン様も、次々とお子を為さねばなりませぬ」
心を読んでカミラが指摘した。もう1人、気になる存在が国王の元にいた。体調が優れず、部屋でずっと床に臥せっているロゼという名のマイヤの長女だ。
「かわいいロゼはどうすればいい?」
「我らの手元に引き取りたいとは思いますが、この5年は、陛下の愛情をかけていただきたいと……」
これから政治闘争が始まるだろう。心理掌握の魔法を駆使するトーリの圧倒的勝利で終わるだろうが、何かが起きる可能性がある。特にカツランダルク御三家が油断できない。
「わかった。ロゼについては引き続き儂の手元に置こう。かわいい義理の孫娘じゃしな」
「サキュバスの子孫であることをお忘れなく」
体調が良くないのはサキュバスの血によるものだから、お口やおまんこやお尻の穴に精液を注ぎ込んでくださいね。カミラがささやくと国王はため息をついた。
まだ4歳にならぬいたいけな童女にそれをやるのは心苦しい。それからとても身持ちが固かった。医師の調べではこれまでに性交をなした事もあり、処女膜も破かれていたというのに。どういう気持ちの変化なのだろうか。
とはいえロゼには精液が必要だった。あまりにもつらそうな時は瓶に入れた精液を薬と称して飲ませていた。カミラの提案だ。近衛の武者から集めた精液を飲むと、ロゼは確かに回復した。
□ □ □ □ □
ここのところ身体がだるい。ベッドのそばに置いた椅子に座って窓の景色を見つめながらロゼは思った。
(おちんちんからでるおいしいのみものをのまなくなったからかな?)
けれども父親との約束は守らなければならない。あの『お家』では父のお家来さんたちが喜んでおちんちんを差し出してくれた。ちゅぱちゅぱとやって毎日たくさん飲んだ。
それからおちんちんがちっちゃい人が、おまんこで飲む方法も教えてくれた。あれはとても気持ちが良かった。エクスタシーを覚えながら膣内で精液を受け止めたりもした。幼いながら数えきれないほどだった。
(またしたいなあ。おちんちんをしゃぶしゃぶするの……)
ロゼは淫乱。いや、これは自然の欲求によるものだった。これから母親の様に病がちに産まれた身体を整えながら成長する為に、精液と性交は無くてはならなかった。サキュバスの血を濃く継いだ者の宿命だ。
ロゼは窓をずっと眺める。お空は青くてとても澄んでいた。うっすらと自分の姿が映っていた。母親の遺伝が強い顔と髪。蒼にも見える黒い髪とまるっこくて愛らしい輪郭と目鼻立ち。ほっぺたにやや赤みがさしていた。
(おじいちゃま。はやくもどってこないかな。おはなししてほしいよ、おとうさまのこと……)
祖父・ヴィルヘルムはアドルフは遠い国に旅に出ているとロゼに話していた。かれこれ1年だ。そろそろ戻って来て顔を見せて欲しいと幼子は思っていた。
その代わりに祖父に父親の話をねだると、決まって国王は語ってくれた。身体もまだ元気だった、イーガの天才魔道士少年だった頃の。
少年アドルフは魔道学問所で素晴らしい成績を修め、様々な魔法も習得した。治癒魔法に関しては並ぶもの無しの天才児。異母兄・マルティンの聡明さはアドルフから受け継いでいたのだと国王は自慢気に語った。
とはいえ禁書図書館で変てこな書物を読み漁る趣味もあった。特に、転生人が持ち込んだプログラム言語というものに興味を持ち、魔法理論の参考程度にしかならないのに熱心に読み漁っていたという。
その父にはエレクトラという恋人がいたことも教えてくれた。転生人でエレクトラという名前の女の人だ。
前世は美人のスパイで、あれこれと悪だくみに加担して名を遺した、とんでもない悪党だったそうである。その暴れん坊ぶりがロゼにとって痛快だった。
(早く帰ってこないかな、おじいちゃま……)
ロゼは大あくびをした。うっすらと口蓋の中が窓ガラスに映った。口の中は荒れていた。摂取すべき精液の量が足りないのだ。やせっぽちの自分を見て悲しく思う。同じ年頃の子はころころとしているのに。ロゼはいくら食べても太らなかった。
窓から部屋の中に目を向けた。誰もいない。話し相手がいなくてとても寂しい。王女の身分ゆえからか、自分と同じぐらいの年頃の子たちともあまり話せなかった。会ってもちょっとだけ挨拶をされるだけ。
ロゼは大人とは一緒にいたけれど、常に孤独だった。雲一つない空を見て、あれは自分みたいだななどとつぶやいた。何にもない、空っぽなという意味だ。
「失礼します、ロゼさま」
扉から声がした。侍女のリアラだった。25になるかならないかの独身だが福々しい顔立ちと表情をしている。国王の愛人でもある。
娘が2人いるという。国王の隠し子だ。ロゼは寝ている時に祖父とリアラが隣の部屋でおまんこをしている声をよく聞いていた。この時彼女には3人目の子がお腹に宿っていた。
侍女が部屋に入って来ると、ロゼは毛布にくるまって寝ているふりをした。そうしないと口うるさく言われる。この侍女はとにかく口うるさい。いい人ではあるけれど、そこが好かなかった。
「殿下、ちゃんとお休みになられているようですわね?」
寝息を立てるふりをする。リアラとは話してもあまり楽しくない。国王のいないところでは、自分のことをどこか侮った言い方をするからだ。
「今日も大人しいこと。殿下はよくおねんねをして、しっかり育ってくださいね」
何もせずに眠っていればいいのですよ、あなたは。リアラの呼びかけはそういう意味だった。彼女はアドルフが国王によって誅されたのを知っていた。それからこの娘が、マルティン王子の愛妾の隠し子であることも。
国王は事実を隠そうと務めていたのだが、リアラは知ってしまった。親戚の近衛騎士からだ。ロゼ様のお薬には騎士達の精液が含まれているぞ。その事実でリアラは確信していた。
(マイヤとかいうだるま娘の娘。幼い頃から精液を吸って、さぞかし淫らに育つでしょうね。)
気色の悪い小娘だ。侮蔑は聡いロゼに勘づかれてしまっていた。だから優しく声をかけても、大事な主君の孫娘だとしてもどうしても冷え冷えとした気配を漂わせてしまう。
リアラが去るとロゼは毛布の中でため息をついた。敵意を感じて胸が痛む。寂しくなる。彼女はスカートをめくって手を入れ、敏感な部分をいじり始めた。
(……!)
寂しさが募りすぎると自慰をしてしまう。これを覚えたのは祖父に身元を預けられてからだ。背を丸めて喘ぎ、果てる行いを彼女は毎日続けていた。
指先でこね続けてしばらくのうちにため息をつく。汗びっしょりになったロゼの顔は疲れ切っていた。一度果てただけで頭はずきずきと痛み、身体はぐったりだった。
(おとうさまはいつ、こっちに戻って来るんだろう?)
父と一緒に早くアノーヅへ戻りたかった。あちらなら周囲の悪意を感じずに、穏やかに過ごしていられるからだ。
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正直に言って、アナキンは今のマイヤと会いたくなかった。何もかも赤ちゃん言葉で語り、周囲にもそうさせる彼女には不健康なにおいが漂っている様に思えたからだ。
ピルリアとその子たちにはマイヤに会わせなかった。お腹の中の赤ん坊の胎教に良くないだろうし、子供達の教育上よろしくないだろう。
トーバコフへの2泊3日の旅行の待ち合わせ場所で、乳母車に乗せられておしゃぶりを咥え、無邪気に笑うマイヤを見れば明らかだった。
「マイヤさま。おはようございます」
「んー。んー。 (おはよう、アナキンさん!)」
「今日は絶好の旅行日和ですね!」
「んぶー! (そうだね!)」
おしゃぶりを咥えながら乳母車の中のマイヤは笑った。真っ白なふりふりのドレスだ。乳母車に乗る時の彼女は義手義足をつけなかった。
それを押すのがオットーである。彼女は男装の麗人らしく男物の旅行着に身を包んでいた。同行するマレーネは杖を突きながら侍女に日傘を持たせている。他にはアドルフの元妾であり、マルティンの後見役でもあるクララだ。
「ところで、マルティン様はまだ来られないのですか?」
確か、同行するという話だったのに。オットーが答えた。急な仕事が入って来られなくなったのだよ。
「そうだったのですか。このお話は嬉しそうでしたのに……」
「次の代の国王になるお人だ。今は政務の勉強が大切なのだよ」
クララとマレーネが口を合わせて残念だとつぶやいた。しかしオットーは知っていた。マルティン王子は国王の命によりこの旅行をやめさせられたのだ。マルティン王子に新たな妾を引き合わせる為にである。
しかしマルティンは知らないようだ。地方都市の査察だと聞かされているそうだが。
(あからさまになっているな……)
陛下はどうもこうお考えらしい。マルティンからマイヤを引き離したい。無理もないとオットーは思っていた。彼女はもう、キョウゴクマイヤー家の血を継ぐ役目を終えたからだ。
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