聖騎士イズヴァルトの伝説 外伝 『女王の末裔たち』

CHACOとJAGURA

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第三部 カツランダルク戦記 『プレリュード』

24 二人の女王

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 濃厚なセックスで何度も射精し、ぐったりとなったイズヴァルトから身体を離したオーラフは、眠っているイナンナを抱きかかえたヤギウセッシウサイと魔竜に解呪について問われた。
 
「……だめです。すっごい強固な心理魔法がかかってます。ワタシじゃ無理みたい」
「そういうのあんさん、お得意でっしゃろ?」
「難しいんですよ。よく知る術式だけど、ところどころに改良が施されてあって……イズヴァルトさん、このままだとトーリという人に近づくと思いのままにされますよ?」
 
 サキュバスの心理操作魔法だが、相手と性交した回数が多ければ多いほど深く行き渡る。イズヴァルトは術をかけたトーリと数えきれないほどセックスをしたから、手遅れに近い状態だった。
 
「つまり、このボウヤは、トーリという嬢ちゃんの操り人形のまんま、というわけやな?」
「はい。というかあの一家のしわざなら、あきらめた方がいいですよ。一番良いのはホーデンエーネンが落ち着くまでは、イズヴァルトさんをこの大陸から離す事です」
 
 股間の奥に大量の精液を飲み込み、満足げにラヴィアをひくくひと動かしながらオーラフは答えた。ホーデンエーネンが平和になるまで。つまり、イズヴァルトをここに置くと手が血で汚れ続ける意味でになる。
 
「そういうことやで……イナンナのお嬢ちゃん?」
 
 イナンナは目を覚ました。魔竜とヤギウセッシウサイ達の姿を見て足がすくんでいる遠くの兵士達の姿を見ると、貪られてのびてしまったイズヴァルトに呼び掛けた。
 
「……そういう事だったんズラな?」
「あんさんもやで? 南天騎士団とかいうのとはあたしが話をつけておくさかい。あんさんらはすぐに、ホーデンエーネンを出てイーガなりどこなり逃げた方がええ」
 
 すっかりトーリの魔法にかかっている。この国にいる限り、彼女はイズヴァルトを操ろうとするだろう。イナンナはうなずいた。クリスタと折れた覇王の剣とともに、イズヴァルトをこの国から連れ出さなければ。
 
 
□ □ □ □ □
 
 
(私の目論見は魔竜にばれてしまったようね……。)
 
 執務室の中で1人になっていたトーリは、もう一度目をつむり意識を探った。東の空へ。イズヴァルトとイナンナの魔力の気配をたぐる。

 さっきまでは感じられたのだが、今はもう無い。サキュバスの転移魔法により探り当てる事が難しい、遠いところへと飛ばされたのだろう。
 
 しばらくして配下のサキュバスから報告があった。魔竜が無理押しして南天騎士団を退かせたという。イズヴァルトに首をとってもらいたかったのに。
 
 魔竜がこんな動きをするとは。頼ろうとは思っていたが、コンゴウアミダラデンの魔族はニンゲンの政治に不干渉だと聞いていたから予想外だった。
 
(ともかく計画を修正しないと。イズヴァルトさんに敵対勢力を片付けてもらうつもりだったけれど、やっぱり奥の手として置けば良かったわ。マルカスさんも制御しきれなかったし。)
 
 マルカスがあんな行動に出るとは思わなかった。性交と射精が大好きな欲深いだけの男かと思いきや、イナンナをかばうために身代わりになる義侠心があったとは。この件は心苦しかった。
 
(マルカスさんにはもっとずっと、私をかわいがって欲しかった。)
 
 マルカスの精液は質がよく、魔力も多く含まれていた。イズヴァルトと2人で定期的に分け与えてくれたら、先祖返りも早まっただろうに。魔法戦士としても有能と聞いたからなおさら残念だ。
 
 マルカスが死亡。イズヴァルト達は行方不明に。また1から体制づくりをやり直しだ。今度こそは仕損じるつもりはない。
 
 最大の敵になりそうなヨーシハルトスを再起不能にできた。これが一番の収穫だ。探らせたサキュバスからの報告によれば、ゾウズジャヤのエルフの医術で命をつなぎとめている状態らしい。
 
 そのお次は南天騎士団とそれを率いる四大大公である。トーリは策を練り直した。歯向かってきそうな旗印は倒した状態。ならば、南天騎士団は取り込んでやろう。
 
 実は4人とも一度寝たことはあった。寝たと入っても宴会の休憩時に便所をご一緒し、そこで5分ほどのインスタントセックスに興じただけだが。
 
 でもその媾いで彼らが全員、驚くほど魔法抵抗が低いことを知った。
 
(彼らが領地に戻ったら、カミラ達の手を借りてこっそり訪れましょう。4人ともちんちんは並だったけれど、イコーマブルグ公が一番腰使いがうまかった。まずはあの人から絡め取ろう。)
 
 四大大公を取り込んだ次は、南天騎士団の配下武将たちである。南天騎士団を押さえればあとは勝ちだ。最初からこうすればよかったとトーリは嘆いた。
 
(南天騎士団の後は……。)
 
 いよいよ政権奪取に向けての行動開始だ。セインとの間に子を為して産み、その子を王位に就かせるように画策する。ここでは庶流どもに頑張ってもらおう。
 
 そして全てが成った後は、庶流どもを残らず皆殺しにする。ナントブルグの王国滅亡に手を貸した彼らは絶対に許せない。『御三家』の殲滅こそが、殺された旧臣らの無念を晴らすことにもなるとカミラも言った。
 
(物静かに考えるのは辛いわ。)
 
 頭に血をめぐらせるのには快感が必要だ。散歩と告げてひまを持て余していそうな騎士や兵士とセックスでもしようかとトーリは考えた。
 
 腰を上げたところで立ち止まる。魔力による圧が。いつの間にすぐそばにというやつだ。王都で静かに暮らす魔族のレベルではなかった。
 
「遊びに来たでえ、トーリの嬢ちゃん」
 
 入り口に立っていた。シマーヅ人特有のくどい顔立ちだが美しい中年女。その女は手提げの紙袋を持っていた。それをテーブルの上に置く。
 
「アカサカチハヤ名物の、温泉麦餅まんじゅうやでえ。お子さんと仲良くたべてえなあ」
「ありがとうございます……どちらさまですか?」
 
 正体はわかっている。ものすごい圧をこの女から感じたからだ。でもあえてとぼけた。本人から直接名乗らせたい。
 
「はじめましてえ。嬢ちゃんが思っとるように、あたしこそがアカサカチハヤの魔族のまとめ役の、サイカノマゴイチやでえ。これからはよろしゅうなあ?」
 
 違和感を覚える喋り方だった。おっとりとのほほんとしている様だがどうにも言葉の裏になにかを含んでいそうな。陰険さみたいなものが伺えた。
 
「こちらこそ。トーリ=カツランダルク。アスカウ=タカイチゲンシュタットの領主でホーデンエーネン王家の枝族。今はセイン=ホーデンエーネン国王陛下の妾でもございます」
 
 ではここを訪れた用件を聞こうか。魔竜は微笑んだ。念話魔法でもあんさんの心の内がわかっておりますわ。発する言葉が少なくても会話はできるということだ。
 
「では、魔竜様。ナントブルグの女王の子孫のこのわたくしに、お力添えなされるおつもりで来られたのでしょう?」
「……んなわけあるかいな。あんさん、調子乗りすぎやで? こっちは釘を差しに来たんや」
 
 魔竜から発せられる魔力の気配が急上昇する。微笑みをたたえたままだったが。トーリは息を呑んだ。
 
「あたしを含む、アカサカチハヤのみんなは、あんさんを見守りはするけど手を貸すことはせえへん」
「南天騎士団を追い返したのは?」
「あれは調停やで。南天騎士団のもんにはちょいとビビらせて追い返したわ。いつでも、アカサカチハヤはホーデンエーネンを狙っておるとなあ」
 
 けれども攻め込むことは間違ってもやらない。エチウのパラッツォ教と手を結んで挟み撃ちにしようというのなら別だが。抱いている恐れをサイカノマゴイチは隠さなかった。
 
「あはは……そんな大それた真似をするつもりはございません。だいたい、コーザ=ストーンマウントは恐るべき籠絡者と聞いております。手を結ぶ以前に虜にされて、その男の子供を何人も生むはめになってしまいますよ?」
「せやなあ。あんさんはサキュバスの、しかもあのよう子供を生むあの女の子孫やからなあ。しかもコーザの子とあんさんの子は、考えたくないもんになりそうですわあ。おお、こわ……」
 
 けれども手を組むつもりは今の所は無い、とトーリから聞き出せただけでも十分だ。ホーデンエーネン以外の国に興味も無い。最悪は免れそうだ。
 
「魔竜さまはそこまで私を買っておいでなのですね。だとしたら……」
 
 トーリの身体の周りから、甘くも、妖しげなにおいが立ち始めた。蜜をしたたらせる南洋の果物のようなにおいをだ。サキュバスが強く激しい劣情を覚えた時に発するものと同種の。
 
 これはよくない兆候だ。今は『寡欲』だが、自分の価値と才能を知り尽くした時、大それた野望を抱くかもしれない。

(ここで牙を折ってやらなあきまへんやろか。)
 
 魔竜が目を見開く。両の瞳に、それまで姿を潜めていた3つ足の鳥の文様が現れると、同時に彼女の全身から紅い光の線が、ハリネズミの棘みたく現れた。
 
 その1本1本が魔界の言語を連ねたものだ。魔法術式の文章である。1ミリほどの幅のが部屋の隅々を駆け巡る。それが何十万本も。
 
 途端にきらきらとしたものが至る所で見え始めた。部屋がこげくさくなっていることにトーリは気がついた。部屋の中を浮遊するほこりが術式に触れ、燃え上がったのだ。ほんの一瞬だけ。
 
 魔竜が仕掛けたこの魔法は壁や皮膚を焼くまでには至らない。紙や油も。ほんの小さな塵のみを発火させる。

 魔竜いわく『お掃除魔法』という術式だ。本来は窓を開けてからホコリを焼き消す。ただ、今回放ったものには数本だけ別の魔法を仕掛けてあった。
 
 強大な魔法を使うと身体が灼けるように熱くなる呪いを施す魔法だ。封印魔法の亜種でもある。戒めのための魔法というか。
 
 同じ色で同じ出方だから目視では区別できない。しかもこの魔法、そこそこの防護術式は効かない。魔族でも魔界の高位の者から見た『そこそこ』だ。
 
(どえらいことをせえへんように、この嬢ちゃんをしつけなあかんわな。)
 
 でも防ぎきれるなら、お手並みを見せてもらおうか。魔竜の呼びかけにトーリはあっさりとこう返した。
 
「いえ、むしろ受けてみたく思いましてよ? 魔竜さまの魔法、どれほどのものか感じてみたいのです」

 魔竜は絶句した。トーリは彼女の背後に襲いかかろうとしていた1本をわざと受けたのだ。途端、他の数本を引っ込める。
 
 トーリは全身が焼けるような苦痛を感じながら、その術式にかかれていることを読み取った。魔界の術式はカミラに教わった通りの構造だ。
 
 いや。トーリの頭の中では、学びもしなかったことが次々と湧き出ていた。彼女の祖先が仕込んだものだった。どこを改変すれば思いのままになるかがわかった。
 
(痛みを快感に。責め苦を与える場所を自分が気持ちいいと感じるところと脳に……。)
 
 解析と改変は完了。試してみたい。魔竜はトーリの目の光を見てまさかと思った。大技をどこに仕掛けるかもう決めていた。
 
(そないなことをするつもりかい、この嬢ちゃんは!)
 
 トーリはゆっくりと恍惚の表情を浮かべてみせた。心理を操る魔法だ。しかも多くの者達の。その相手は遠く離れた南天騎士団の者達に向けてだった。
 
 大掛かり、しかも離れていたところにいる者に仕掛けるには多くの魔力を消耗する。要するに大魔法だ。1万数千がその対象。

(まるごと私のしもべになりなさい。さあ、こっちに来て……。)
 
 トーリの身体がびくん、と揺れた。この時彼女は会陰から子宮の奥、それよりも鋭敏な肛門から直腸までに、これまで得たことが無い快感を受けていた。
 
「ああ……♡」
 
 顔はみっともなくゆがみ、よだれがたれてしまった。でも彼女の理性は飛ばなかったし気を失うことも無かった。言いようのない、いつまでも浸っていたい悦が下半身を襲い続けていた。
 
「はやく、はやくきて……♡」
 
 求めるのは自分への蹂躙だ。城にやってきた使者に連れ出され、24時間眠ることなく、1ヶ月近く1万人の男たちと媾い狂うのだ。
 
 トーリの体から淫らの気が立ち上っていた。あかん。見くびりすぎたと魔竜は嘆いた。本人は気づいていないだろうが、とっくに魔族としての目覚めが起きていたのだと悟った。
 
「うふっ……魔竜さま。私とご一緒いただけませんこと?」
「そないなけったいなお祭り、参加するつもりはあらへん」
 
 この娘は天才。いや、もはやあの『女王』と同格だ。

(あの嬢ちゃんは大人しゅうしてたねんけど、このトーリって子は危険やわ。)

 未知数すぎる。どうする。この場で始末をしようか。魔竜は心の牙を光らせる。けれども手を出しにくかった。この娘に天下を盗らせ、彼女が言い張るようにホーデンエーネンを安寧にしてもらうのもありなのではないのか?

(泥沼の様な安らぎをやで。それと……この嬢ちゃんはとっくに魔族の仲間入りや。)
 
 魔族となれば数万年の命を保証される。ならば、この娘に末永く治めさせるのも良いではないか。
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