聖騎士イズヴァルトの伝説 外伝 『女王の末裔たち』

CHACOとJAGURA

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第三部 カツランダルク戦記 『プレリュード』

20 ナントブルグ

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 魔竜の力を借りたい。トーリの口からそんな言葉が出たこと自体が驚きだった。イズヴァルトは耳を疑った。もう一度聞く。
 
「驚いたでしょう。でも、私にはそれができる資格があるの」
「大ぼらとしか……う……っ……」
 
 結合が途端に心地よさを増した。締められてぬめりとした中で撫でられ、男根は精を放ちたいと猛り狂った。
 
 余す事無く交わるセックスにイズヴァルトはたじろいでいた。身も心も蕩けてしまっている。これまでの性交ではどうしても不満があった、ペニスの下半分の快楽の不備が今は無かった。だから身体はもっと深く、性交にゆだねることができていた。
 
「イズヴァルトさん、信じて……」
 
 乞うような目つきでトーリがささやいた。またペニスが爆ぜた。精液はトーリの身体に吸収され、彼女をますます妖しく、魅力的にする力の源に変換された。
 
「魔竜の助けを……なにゆえそこまで欲するのでござるか?」
「それはね……」
 
 トーリの腰が大きくグラインドを。緩慢なその動きは直立したままの陰茎全体を舐め施していた。性感がますますひどくなる。その喘ぎの中でイズヴァルトは幻視した。
 
 窪地に造られた街だった。ぐるりを取り囲む城壁は無く、街の区画は階段の様になっていてそこに美しい家屋が並んでいた。
 
 どの家屋もきれいに整えられていた。街の中心地にある市場には色とりどりの果物や野菜、見たことが無い工芸品が並んでいた。人々は皆、幸せそうだ。
 
 北に小高い山があり、そこに一際大きな館と大きな塔があった。貯水塔、と誰かがささやく声がした。その山の真ん中から街の中心部を分かつように、大きな水路が通っていた。水は清らかで常に冷たい。
 
(水道、でござろうか……。)
 
 イズヴァルトの視点は空高く飛ぶ鳥の様になった。その街は円形劇場のようなものかと思っていたが、違っていた。方円ではない。楕円寄り、北側がとがっていて南側がとてもまあるい、卵の様な形に見えた。
 
 いや、その街の周囲を見てみる。お山のさらに北には林。東西は広くなだらかな丘の様になっていた。丘にはいくつも集落や木々がある。
 
 何かに似ている。イズヴァルトは女性器を連想した。この街はどこなのだろう。いや、あの東西のなだらかな起伏地は見覚えがある。
 
 ナントブルグの南側の地形がまさにそれだった。城壁にほど近いところに、王都を守る砦や塁があったはず。ナントブルグの南の防衛線だ。
 
(まさか! これは大昔のナントブルグではござらぬか?)
 
 イズヴァルトが見る映像が切り替わった。小高い山のてっぺんにある館から飛び立つ矢の様に目まぐるしく変わる。林を越えてもっと先、今の時代ではナントブルグの北街区やその先にある砦群や畑地を超えたところにある山へと。
 
 その山は、たまにホーデンエーネン王家の者が遠足に行くことで知られていた。何の変哲もない雑木林に覆われた山だ。イズヴァルトもマイヤと一緒に登ったことがある。石垣が無ければ土塁も見当たらなかった。
 
 けれども今見ているそこには、南側にのぞむ街に向けて階段道があり、その手前には大きな門があった。青銅でできたの扉門だ。
 
 その門の左右に刻まれていたのは、魅惑的な肢体の女神たち。恐ろしく乳房と尻が大きかった。デフォルメではなくリアルに描かれていて、顔つきはトーリやマイヤに似ていた。
 
 またささやきが耳元から。これは私の真祖の妹がたの姿なの。そして扉が開く。そこにはトーリにもマイヤにも似た、白く透けて豊満な乳房と太ももが顕わな、蒼にも見える黒髪の女が立っていた。
 
 美しいことこの上ない。身体からはとても甘い香りが漂っていた。サキュバスなのだろうか。その瞳は紅く、常に微笑みをたたえていた。
 
「ようこそ、我が館へ」
 
 美しさに目がくらんでしまったが、よく見るとその女は数名の幼い娘達と一緒だった。この女と同じく黒髪。どの子も愛らしく、それでいて幼くも妖しく淫らに見えた。
 
 さらにその奥には数百にも及ぶ様々な髪の色をした美女達がいた。この女あるじの家来のサキュバス達だった。
 
 女は名乗った。トーリ=カツランダルクと。真祖の腹から生まれ、500年もの間この土地に君臨して来たという。ナントブルグ王国の祖であると。
 
(トーリ? ナントブルグ王国の初代? どういう事でござる?)
 
 いつの間にかイズヴァルトは、その女ともつれ合い、抱き合っていた。館の屋上に設けられた庭のベッドでだ。
 
 吸いついて来る柔肌。甘い香りがして揺れてたわむ大きな乳房。触れ続けていたくなる尻と腿。それから、尽きる事なく潤い続ける蜜の園。身体が喜んでしまっていた。
 
 繋がりあい、絡み合う。接吻を繰り返して余さず精を中で放つ。身体どころか神経が、心がつながっているような気がする。自分の快楽も、相手の快楽も共有しているような至福の時。
 
 抱き合っての性交は一昼夜、いや、一カ月も一年も続いた。身も心も性交に支配され、空腹感や睡眠欲は全く起きなかった。
 
 それなのにペニスとヴァギナはつながったまま。勃起は硬いまま。イズヴァルトは身がとろけてなくなるまで続けたいと思いながら腰を振り続けた。
 
 しかしその夢の様な時はいきなり終わった。気づけば南の街にいた。建物に色鮮やかな装飾布が施され、人々は晴れ着に身を包んでいた。
 
 結婚式だとささやく声。この街や女王の民の多くが集まるぐらいに盛大な。トーリと名乗った女の子孫、数代目の若き女王と、ある部族の大族長の息子との、祝うべき日であった。
 
 式は街の南にある、ため池のある広場で行われた。当代の女王はマイヤよりも幼かった。12歳か13歳だ。けれども背は高く、歩くたびに揺れ動くのがはっきりと見える乳房と、多産そうな尻を実らせていた。
 
 大部族長の息子は背が低く、150センチほどしか無かった。妻のほうが頭1つぶん高い。けれども顔立ちは美しい。がに股がちに歩いている。ジュンケイン王のことをイズヴァルトは思い出していた。
 
 花婿と花嫁が連れ添って歩く。この日の為にしつらえた祭壇で2人は抱き合い、口づけた。女王の娘達と子孫らや街の者らが祝福をあげた。
 
 集団の真ん中でサキュバスやエルフの騎士を従えていたトーリと名乗った女王は、まだ5歳にも見えぬ末の娘を抱き上げながら、優し気な目で新郎新婦を見守っていた。
 
 この式はいつの頃の結婚式なのだろう。口づけし合う若い夫婦を見てイズヴァルトが思う。ささやきが耳元に。ナントブルグのカツランダルクと、ホーデンエーネンとが結びあうはずの式であったと。
 
(結びあう、はずの?)
 
 突如として街が炎に巻かれた。筋骨隆々とした半裸の騎兵や歩兵らが火矢を放ち、剛剣を振るって女王の都の民を、武者達を襲った。
 
 乱入してきた武者達は皆、ホーデンエーネン部族の戦士達だった。周辺の諸国を切り従え、大陸統一の野望を抱く大部族長に率いられた猛者達であった。
 
 残虐をきわめる戦いがそこにあった。ナントブルグの兵士や戦士らは敢闘したが、ホーデンエーネンの戦士の相手にはならなかった。脆弱なつわものばかりだった。
 
 結婚式が行われていた広場では、若者と花嫁は矢を浴びて息絶えていた。式に参列していた女王の娘や孫娘達は、乱入した武者らにその場で組み敷かれて犯されていた。抵抗した娘は凌辱された後に首を刎ねられた。
 
 またもやささやきが。女王は産んだ娘をサキュバスではなく、ニンゲンになるように施したという。それでも淫魔の血が流れているゆえにニンゲンよりも倍近く生き、若さと美しさは衰える事は無かったが、非力であった。病にも弱く、代償に魔法があまり使えなくなっていた。
 
 悔みの言葉がイズヴァルトの耳に届いた。サキュバスの力があればこの様な事態は招かなかったのに。あまりにも平和を望みすぎた。女王は闘争を好まぬ人であった。
 
 そうして街は業火に包まれた。女王はどうなったのだろうか。数名の部下や一番最後に生まれた末娘とともに街から逃れていた。
 
 彼女が立てこもろうとしていた北の館はすでに包囲され、火をかけられていた。再起と近隣国からの援軍を願っての抗戦は難儀になった。女王と一部の家臣らは南へと逃げた。険しいタンバレーネ山岳へ。
 
 女王はタンバレーネの山の民の助けを受け、末娘とともに数年の間、そこに身を潜めていた。しかしとうとう追手がやって来た。魔族を屠る剣の使い手たち。女王は最期の時を迎えた。
 
 切り刻まれ、身体も思念体も消えつつある女王は、命だけを助けられた末娘にこう告げた。いつの日か、今の私と同じぐらいの力を持つお前の子孫が生まれるだろう。
 
「その時には秘密の家臣とともに宿敵打倒の志を掲げろ。裏切り、手引きをした孫息子達の一族もろとも滅ぼすように言い伝えよ。復讐こそが我の願い。その目的が果たされるのが私の願い……」
 
 そこで幻像はぷっつりと消えた。イズヴァルトは目の前で腰をかけ、揺れ動き陶然とした笑みを浮かべるトーリの美しい顔を見た。
 
(さっきのは……。)
 
 思い出そうにも思い出せなかった。トーリと深くつながり、めくるめく快楽のせいで頭がぼんやりとしていたのだ。
 
 またも股間で爆ぜる様な悦を覚えた。自分の陰茎はトーリの子宮に何度目の精を放ったのだろう。彼女が訪れたのは昼間だったのに、部屋の中は真っ暗だった。
 
「トーリどの……」
 
 イズヴァルトは唇をふさいだ後、問いかける。カツランダルク家の秘密を拙者は見た気がするでござる。こんなことが……いや、思い出せなかった。
 
 見た幻視、聞いたささやきは全て忘却の彼方にあった。トーリは悶えながら目を細め、イズヴァルトにしがみついて耳元でささやいた。
 
「もしイズヴァルトさんが、本当に力を貸すつもりなら……」
 
 その先は聞こえなかった。イズヴァルトは眠りについてしまったからである。
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