聖騎士イズヴァルトの伝説 外伝 『女王の末裔たち』

CHACOとJAGURA

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第三部 カツランダルク戦記 『プレリュード』

19 身代わりの死

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 直訴状とともに王宮に届けられたのは、カントニアのエドニア地域で用いられる水兵の投げ刀子だった。
 
 柄が弦にひっかかかるよう、溝が付いていた。矢の代わりに飛ばす為にも使うものだ。ホーデンエーネンでは珍しい。カントニア人が持ちこんだのだろう。すぐさまイズヴァルトの周りにいるイナンナとクリスタ、マルカスが疑われた。
 
 しかし3人には覚えが無いとトーリに返事した。トーリはセインを操り、カントニアの武器は国内に流れたりもする。考えすぎだと言わせて使者を返した。
 
 しかしイナンナは気が重かった。直訴状と刀子が届いた日の夜、マルカスはイナンナに尋ねた。
 
「向こうさんも姑息な手を思いつくもんだぜ。そりゃあ、暗殺しようとやったのは俺達だってのは確かだけど、カントニア人と見破ることなんかできないだろ。武器は全部ホーデンエーネン産だぜ?」
 
 しかしおったまげたな、とマルカスは言った。あの暗殺の実行者、イナンナがあれほどまで強かったとは。戦士をやめて医者をやっているのは勿体ない。
 
 マルカスはイナンナによる襲撃を間近で見ていた。加わったリリカの転移魔法の為の精液を与える為にだ。リリカと交わりながら戦いを見たのだ。
 
 イナンナがゾウズジャヤのエルフと戦った時はすごかった。一目見た時に相当にやべえ奴らだと思ったが、イナンナは赤子の手をひねるよりも簡単に次々と葬り去った。
 
 イナンナのおかげで、サガミニアのエルフが容赦しない時はどんなのかがわかった。ニンゲンはエルフ様にかないっこない。絶対に超えられない壁というものを改めて認識した。なのに、晴れ晴れとした気持だ。
 
「惚れなおしちまったぜ。イナンナさんはイズヴァルトやクリスタとタメを張れる戦士だよ」
「……見破られちまったズラな」
「何をだよ?」
「ゴブリンどもズラ……」
 
 カイロネイアの毒にも詳しいゴブリン。多分、ムーツのゴブリンたちだろう。彼等との交流は多かった。ツックイーやカイロネイアの鉱石や薬草を求めに来るからだ。
 
「あはは。気にするなよ。黙ってりゃどうにかなるさ」
「そうも言ってられねえズラ。相当に強いゴブリンどもだったズラ。意趣返しされるかもしれねえ。おまん、逃げる準備をしとけよ?」
「はは……何を言ってやがるんだよ?」
「こん中でおまんが一番あぶねえっていう事ズラ。クリスタさんにはそれとなく説得しておまんを守るようにする。あとはオラとイズヴァルトさんに任せるズラよ」
 
 わかったよ。マルカスはイナンナとまさぐった後に自分の部屋に戻った。机の上にはクリスタへのプレゼント、指輪や小さな赤子用の服が入った包みが置かれていた。トーリから貰った初の給金で奮発して買ったものだ。
 
(フィリッパについでクリスタもか……。)
 
 彼はクリスタから妊娠を告げられていた。クリスタの相手はいろいろといるが、多分自分の子だろうと考えた。そうでなくても熱烈に求めあった愛人だ。プレゼントぐらい何が悪い?
 
(と、なりゃあ男としては孕んだ女は、エルフだろうが危険な目に遭わせちゃならねえよ。)
 
 クリスタはもちろん。トーリとイズヴァルトを守らなければならない。
 
 イナンナが川に飛び込んだ後、彼女はリリカによって引き上げられた。必殺の毒が残っているかもしれないからとイナンナが注意したが、マルカスはその場で彼女を抱きしめた。感激したからだ。
 
 少し毒が入ったそうだ。これから病気にもなる。エルフの秘術で養生すれば数年で治るらしいが、それまでは性交は控えろというお達しがあった。もしかして程度の話だったが。
 
 しかしマルカスは嫌だった。毎日女を抱きたい。手淫だけでは物足らない。そんなんだったら死んだ方がマシだった。
 
 というわけで、イズヴァルト、イナンナさん。クリスタ。あばよ。クリスタ、腹の子は大事にしな。マルカスは書置きを机の上に置いた後、こっそりとナントブルグを出た。
 
 夜明けに近くの村の馬車駅で馬を借り、1日かけてヨーシハルトスの陣に出頭した。兵士達に問われてマルカスはこう告げた。
 
「俺が首謀者さ。ヨーシハルトスの暗殺をしようとした実行犯だ。疑うなよ?」
 
 
□ □ □ □ □
 
 
「マルカス=サダルファスなる男。処刑の前の供述によると常々カントニアのパラッツォ教徒と親しくし、和平に動こうとしたイズヴァルト殿に取り入って機をうかがっていた。国内の対教団強硬派であるヨーシハルトス様を暗殺し、世論を和平へと傾かせたかったとのことだ」
 
 首桶に入ったマルカスの頭を携えてやって来たヨーシハルトスの代理人は、その場で文を読み上げた。その場にいたクリスタが号泣し、イナンナが強く拳を握りしめてうつむいていた。
 
 イズヴァルトは顔面を蒼白にしていた。暗殺。何が起こっていたのだ。彼はイナンナとマルカスのやった事を知らされていなかった。
 
 不愉快そうに玉座に座る国王。その横に平然と澄ました顔のトーリ。彼等に挑むような目つきを、南天騎士団の四大公が向けている。
 
 ヨーシハルトスだが、体調を崩し始めていた。激しい嘔吐を繰り返し、王都には来られない状態だった。極秘で国王に、息子のヨーシテルシウスに家督を譲るとの文を送っていた。
 
 彼が死ぬのはまだ10年ぐらい先だが、その10年は病魔に苦しみ、急激にやせ衰えて寝たきりの生活を送ることになる。
 
「聞けばこの男、アスカウ=タカイチゲンシュタット公トーリ殿下と親しく、何度も同衾したとも聞き及んでおります。トーリ様が……」
「まさか、トーリ様がパラッツォ教団と裏で手を結び、意見を同じくするイズヴァルトさんと結託して、かような刺客を寄越したのではございませんかな?」
 
 尋ねたのはコーノフェルト公。捕虜にしたパラッツォ教徒を海外に売りさばき、大金を手にしたと皆に言われていた。
 
 彼は奴隷貿易で儲けた金で、純銀の便器を作った。マイヤを招待して、そこでうんちをもりもりひねってもらう。それが彼の夢だった。
 
「確かに。マルカスさんは私の大切なご友人の一人でした。こたびの話にはただただ驚くばかりです。しかし、私が手を貸したという証拠はございますか? コーノフェルト公さま?」
「今のところはございませんが……もしかしたら探せばあるのではないのか、と考えております」
 
 できるのはあくまで予測だけだ。セイン王が鼻で笑った。憶測でものを言っているんじゃねーよ。
 
「語らうつもりもねえや。帰れ! マルカスってのが本当にトーリと手を組んでいたのか、俺の家来が調べてやるからよ!」
「はっ。ご機嫌を損ねてしまい、申し訳ございませんでした、陛下……」
 
 コーノフェルト公は深々と頭を下げた。他の三大公もそれに倣う。しかし彼等は内心では怒っていた。女の尻に敷かれる腑抜け王めが。
 
 
□ □ □ □ □
 
 
 マルカスの死。大切な友人を失ってしまったイズヴァルトは胸にぽっかり穴があいていた。ここ数日は何もする気が起きない。ホーデンエーネンに来た時に燃え上がっていた心の炎は、もう消えて無くなってしまった。
 
(マルカスどの……。)
 
 イズヴァルトは王宮にあてがわれた一室にいた。とてもではないが、イナンナとクリスタと語らうことなど出来ぬ。
 
 マルカスが裏でパラッツォ教団と通じていたなど、もちろん嘘に決まっていた。ヨーシハルトスを討とうとした誰かをかばっているのに違いない。
 
 それが誰かうすうすは勘づいていた。しかし聞く気になれなかった。イナンナには側にいて欲しかったからだ。
 
(そもそも、これは拙者が物騒なことを言ってしまったからでござる。陛下に従わぬ大領主たちの首を残らず斬ってしまえばいい。そんなことを口走ったゆえにイナンナどのは……。)
 
 しなくてよい戦いに手をつけてしまった。ならば。イズヴァルトは自分1人で全てを為すべきかと思いながら、覇王の剣を鞘から引き抜く。青白い刀身の愛剣は静かに、イズヴァルトが戦いに赴く時を待ち望むかのように光っていた。
 
(マルカスどののかたき討ちを……。)
 
「イズヴァルトさん?」
 
 振り向いた。トーリがそこに立っていた。彼女は悲し気な目でイズヴァルトを見つめていた。
 
「そんなに思いつめた顔をして、一体どうしたのです?」
「いや、その……」
 
 トーリが近づいて来た。覇王の剣の刀身が青色から真っ赤に染まった。強大な魔の者が近くにいるという警戒の色だ。
 
(そんなもの王宮のどこに? いや……もしかして?)
 
 イズヴァルトは近づいて来た若い美女を疑った。振り向いてトーリに『ソード=オブ=ブロント』の切っ先を突きつけた。
 
「イズヴァルトさん?」
「1つ、聞きたいことがござるよ。トーリどの、貴殿はどこにサキュバスどのらをこの部屋に潜ませているのでござるか?」
「そんなことはしていませんよ。イズヴァルトさん。危ないからその剣、鞘に納めてくださいませんか?」
 
 トーリが一歩近づく。剣はますます輝きを強くした。
 
(まさか!)

 イズヴァルトはトーリが、サキュバスそのものになっているとは想像していなかった。イナンナの見立てではまだ、先祖返りまでにはいかない状態なのに。
 
「……トーリどの?」
「イズヴァルトさん。私の目を見て?」
 
 呼びかける。いつも見る紫色の瞳ではなく。深紅の瞳だった。その中に三本足の鳥の紋様が、うっすらと浮かんでいた。
 
「お願いがあるの」
 
 その剣をしまって。イズヴァルトは言われた通りにした。自分の意志からではない。何かが命令して身体が動いたように思えた。いや、それすらもわからなかった。
 
 トーリはイズヴァルトに抱き着き、椅子の上に腰かけさせた。それからベルトに手をかけてズボンの前を降ろし、ペニスを握りしめて揉み始めた。
 
 ペニスが屹立する。するとトーリはスカートを腿までたくし上げると、イズヴァルトの上にまたがった。トーリの心地よいラヴィアが亀頭に触れてイズヴァルトは身じろぎする。
 
 それから暖かい膣の感触がペニスを包んだ。しかし違和感があった。なぜかペニス全体を包み込まれている感触が。トーリはスカートをもっと上にあげて見せた。
 
 ペニスの根元とラヴィアがぴったりとくっついていた。幼い頃から巨根だった彼にとって、深くつながり合うのはあまり慣れない感触だった。
 
 ぴったりと下腹を繋げることができたのは、10歳の頃に盗賊にさらわれた村娘達を助けた折、そのうちの1人と交わった時とヴィクトリアと交合をした時だけだった。
 
 余さずペニスを受け入れられる感覚は、イズヴァルトを深く感激させた。でもおかしい。トーリはそれほど膣は深くない。半分程で限界だったのに、なぜ?
 
「イズヴァルトさん、深く考え込まないで……」
 
 トーリは笑う。ゆっくりと腰を動かす。蕩けそうな感触が男根全体を包み、得も言われぬ快感をイズヴァルトは覚えた。彼女が肩に手を置き、胸にしなだれてささやいた。
 
「マルカスさんのことはとても残念に思うわ。でもイズヴァルトさん。その死を無駄にしては駄目」
 
 真心の籠った説得。だが、腰は妖しくくねっていた。膣で陰茎全体を舐めとられる快感を覚えながら、イズヴァルトは荒く呼吸する。
 
「ヨーシハルトスのあんな弾劾なんか、聞き入れるわけにはいかない」
 
 快感に耐えられず、トーリの中で暴発してしまった。けれどもペニスは依然硬いまま。トーリは続けて腰をくねらせる。スカートに尻の輪郭がくっきりと目立ち、淫らに揺れ動いていた。
 
「トーリどの、拙者に、何を為せというのでござる?」
「万全にするためにも、もっと強い力が要る。イズヴァルトさん、頼まれてくれないかしら?」
 
 すっかり飲み込まれている。ペニスも心も。反論も否定も今のイズヴァルトには考えられなかった。
 
「大きな力が。このキンキ大陸にはそれが存在しているのはご存じでしょう?」
 
 イズヴァルトは悶えながらうなずいた。ホーデンエーネンよりも強大な勢力。これの前にはホーデンエーネンもイーガも、子供のお遊びみたいなものにしか見えなかった。
 
「魔竜サイカノマゴイチの力を借りたいの。会って頼んで欲しい」
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