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第三部 カツランダルク戦記 『プレリュード』
10 歓迎の式典
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イズヴァルトは先々で『マイア=テクニカ』の評判を聞き続けた。それからコーヅケーニッヒに入った日に、まずはマイヤの工房を訪れたいとイーガの者らにねだった。
「今日はこの後、イズヴァルトさんへの歓迎会が行われるのですよ。国王陛下や大臣の皆さま、それから魔道騎士団の重職の方々がお目見えになられております。明日にしてください」
「いいや。拙者はマイヤの偉業を目にしたい。歓迎会ははっきりいってどうでもいい。好いたおなごの努力の結実、そちらをこの目で見る事のほうが大事でござる」
イズヴァルトは譲らなかった。案内役らはしぶしぶうなずいた。イズヴァルトだけを条件にして、彼を『マイア=テクニカ』の工房に連れて行った。
訪れた工房は、大貴族の館のように立派で広かった。そこに数十名の魔道技師が『たぶれっとぱっど』や他の魔道具を製作している。
銃器については別の場所にある工房で作っているという。量産体制が始まっており、別の街の工房でも部品や組み立てが行われている。
ただしイーガでは狩猟などの趣味目的でしか使われない。輸出先はホーデンエーネンだ。
「『たぶれっとぱっど』よりも『鉄砲』で工房は大儲け……ああいや。口が滑りましたかね?」
「それ、マイヤは存じているのでござろうか?」
本当は聞かないほうがいいかもしれない。もし知らなかったなら自分が彼女の罪をかぶればいい。いや、知らないでほしいとイズヴァルトは思っていた。
しかし工房長はうっかりものだ。ついつい口がすべってしまった。
「あはは。どうもご存じのようですね」
急に胸が締め付けられるような感覚。嘘だと言って欲しいとイズヴァルトは言いたかった。
「マイヤ様はあえてやるのだ、とおっしゃってました」
「……何をでござる?」
「なりふり構わぬお金儲けですよ。理由は故国のホーデンエーネンに大学を建てる資金が欲しいそうです」
宝石やドレスに目もくれず、得た金をすべて投資にまわして殖やしている。できるだけ自力で大学を作りたいのだ。
「大学の夢の為にも儲けたい。拝金主義というものですかな。全く、マイヤ様はほれぼれするほどに一途でございますよ」
なるほど。イズヴァルトは寂しさを感じた。もはや迷いも思慮もかなぐり捨てたのか。側にいたら激しく言い争うだろう。憎みあう事になるのだろうか。
それから彼女は工房長に、『おしゃぶり』を施しながら語ったという。その大学はホーデンエーネン南部にあるヨーシデンに建てたいそうだ。
「ヨーシデンはキンキ大陸南部の丁度中央部に位置するそうです。そこに学問の都を作り、『えくすぷれす』を通して、イーガからも留学者を呼び寄せたいとおっしゃっておりましたよ」
「ほ、ほう。なるほど、ヨーシデンにでござるか!」
ヨーシデン。あそこは温暖かつ肥沃で平野ばかりだ。そこに大学を中心にした大都市を築く。ついでに南には貿易港を設けたい。
イズヴァルトはやっと理解できた。マイヤはただの奥方にはなれぬ御仁でござる。いずれ拙者の手元から飛び立つ女の子だったに違いない。
イーガの皇子の妾となったとはいえ、マイヤはそれに留まらないだろう。領主の妻だの国王の妻だの、そんな立場では満足しないに違いない。
とにかく才能がある。そして資金も手に入れた。彼女はこれからたくさんの歴史書で書かれる大人物となるだろう。彼女の真の物語の始まりだ。
(対して拙者は……いいや、言うまいでござる。けれども。)
工房の見学を終えて外に出ると、敷地の門の近くで1人の若者を目にした。見覚えがある。若者ではなく娘であった。小姓が着ていそうな服をまとい、サーベルを腰に差しているが。
その娘は守衛に書類を渡すと、外に待たせていた馬車に乗り込もうとした。イズヴァルトが大声をあげて振り返させる。
「貴殿、しばし待たれよ!」
振り返った。怜悧な顔立ちの金髪の美少年に見えるが、どうにも甘やかな表情が垣間見えた。イズヴァルトを見るとその色がますます濃くなった。
マルティンの側近でありマイヤの『お世話係』のオットー=オーズローだった。彼女はイズヴァルトを凝視するなり、ごくりとつばを飲み込んだ。
(い、イズヴァルトだ。イーガに来ていたのか……)
つい、頬を赤らめてうつむいてしまう。イズヴァルトは白髪になってしまったが、誰もがほれぼれするような美青年。
顎もちゃんと手入れをして無精ひげが無かった。白面の貴公子である。それを見てオットーは、心臓が壊れそうなぐらいに高鳴った。
(あの男にとっては今しばらくの辛抱だろうが……ううん。なんだかどきどきしてしまう。マイヤのもう1人の夫になった暁には、私も抱いてくれないかしら?)
股がうるんだ。ペニスみたいな大きさのクリトリスが勃起した。いかん。ここはあくまで冷静にならなくては。オットーは深呼吸して近づいて来るイズヴァルトに罵声を浴びせた。
「ホーデンエーネンのイズヴァルト! マイヤ様を奪い返そうとしても無駄なことだ! 大人しくイーガの貴族として……」
「しばし待たれよ! 貴殿にお願いがあって呼びとめたでござるよ!」
マイヤが毎日どうして過ごしているかのを少しだけのぞきたい。彼女には告げずこっそりとだ。
「……わからんぞ、その理由が!」
「わからなくてよいでござるよ。なにとぞ秘密裡に。よろしくお願いするでござる」
「ふ、ふん。ホーデンエーネンのイズヴァルト。少しだけだ。少しだけだからな」
イーガ王からは厳命されている。マイヤにはイズヴァルトがやって来たことを絶対に知られないように。今晩の宴のサプライズを期待してだった。国王も人を驚かせるのが大好きな性分だ。
ただもし約束を破ったら、オットーはきつい罰を受けなければならない。イーガの魔道士団お抱えのドスケベオーガ貴婦人による、ツノでの責め苦がそれである。
イズヴァルトと付き添いはオットーの馬車に乗り込んだ。最近のマイヤについて聞いてみた。
「頑張っている、とは傍目から見て思う」
オットーが言ったのはそこまでだった。それ以上は教えない。昼寝を2時間ほどするが、夜は3時間程度しか寝ていない。読書や工房の新製品の計画ばかりに費やしている。
医療や周りのバックアップがあるから良いものの、死に急いでいるとしか思えなかった。でもそれをイズヴァルトに言うのはよくない。心配させてしまう。
「マルティン様へのお情けを毎晩所望するし、しょっちゅう他の男と『お楽しみ』をやったりもする。おしゃぶりとやらは中毒らしい。サキュバスの子孫というのは本当のようだな」
「ははは。マイヤらしいでござる」
「ろくでもない女だ。正妻待遇は絶対に無理だろう。あんな淫乱を御するのは相当に精神力がいる。見ているだけで不愉快だ」
イズヴァルトは悲しそうな目でオットーを見つめた。よせ、その目は。イズヴァルトの瞳には人を疑うという者が持つ、くすんだものは伺えなかった。
だからオットーは動揺してしまう。そんな顔をされただけでクリトリスが勃起し、子宮がうずいてしまう。
途方もない精力の持ち主であることを淫魔の血が探っていたから、そんなふうに見られただけで情がわいてしまうのだ。発情とも言うべきか。
「それと、日に4回はうんちをするぞ、あの娘」
「そこがマイヤのかわいいところでござる。あかちゃんみたいでござろう?」
「やめてくれ。きもちわるい。大体、人前でぶりぶりとうんちをたれるのはどうにかならんのか……ま、まあこれは相手に頼まれてのことだが」
「それはどうにもならんでござるよ……」
その世話はオットー本人か、マルティンの妹たちだった。特に、マイヤを姉の様に慕うマレーネがつとめていた。
(そもそもマイヤによれば、ケツ拭きの世話はイズヴァルトがやっていたらしいな。)
おケツ世話係にはさっさとイーガへの移住を決めてもらおう。マイヤの仕事ぶりを見れば世話したいと思うはず。
「それとイズヴァルト。すでにほかの者から聞いているだろうが『マイヤ様』は君とよりを取り戻したい御所存だ。去年のあの場での発言はすべて、一時の気の迷いで為した事……いいや、心を操られて言ったものだ。気にするな」
□ □ □ □ □
その時マイヤがいたのは屋敷ではなく、コーヅケーニッヒにある魔道学問所であった。そこで講師陣から新しい魔道具についての情報を聞きながら、イメージした新製品についての意見を尋ねていた。
「ふむふむ。つらねた木の板をまわす『べるとこんべあー』というものですか」
「そういえばイーガには無かったと思いまして。私の前世の世界ではどこの工場でもあったのですよ」
「ほう。マイヤ様の前世の世界で……フォード、とよた、ほうほうほう。『じどうしゃ』というものを作っている工房でそれらがあったのですな」
講師陣はベルトをまわす機械を、必要最小限のものにしたらどうかと提案した。魔道具の数を減らせば、魔蓄の数も減るからだ。メンテナンスできる魔道士に事欠く国にも輸出できるに違いない。主にホーデンエーネンであるが。
マイヤはうなずいた。そのアイデアがいい。学問所の1階の空き教室で、そのようなやり取りがおこなわれていた。それを木陰からイズヴァルトがそっと見る。
「会わなくていいのか? まあ、歓迎会で顔をあわせる事になるだろうが」
「いいのでござるよ。拙者が入ってしまったら邪魔するだけでござる」
「奥ゆかしいのだな、ホーデンエーネンの青年騎士は」
じっと見ていると教室の中に誰かが入って来た。13歳になるマルティン王子と侍女達。そのうちの1人が男の赤ん坊を抱きかかえていた。
マイヤは義手でその乳児を愛おしそうに抱いた。仕事は一旦休憩。彼女は義手義足を使い慣れていた。窓側に向かうと大きく胸の空いたドレスから、たっぷりとした右の乳房を出し、赤ん坊に含ませた。
「測ったら94センチあったな。全くもってうらやましい……」
「その情報はいらぬでござるよ、オットーどの。しかし、マイヤもあかちゃんも幸せそうに微笑んでいるでござる」
マイヤの顔のやつれは薄らいでいた。顔立ちは4年前より少し大人びた程度か。去年会った時より明るさを取り戻し、生き生きとしていた。何かに操られているという気配もない。
赤ん坊に乳をやっている間、マルティンが近づいてきた。嫉妬心よりも崇拝したくなってしまう気風が漂う少年だ。マイヤにさぞかしおちんちんをいじめられているのだろう。前よりちょっとやつれていた。
「凛々しくなったござるな、マルティン様は」
「14歳で父親だ。顔も変わるだろうさ」
「近々もう1人、お子ができるでござろうな」
イズヴァルトの問いかけにオットーは気まずくなった。もうマイヤは子供を産めない。卵巣を失ったからだ。
(イズヴァルトは知らないのか? いや、知らないほうがいい。もしかしたら見捨てるかもしれないからな。そのほうがマイヤにとって一番残酷だ。)
これから行われる歓迎会では、イズヴァルトをマイヤのもう一人の夫とするという話があがる。国王からだ。知っているのはマルティンや貴族たちのごく一部。マイヤには知らせていない。びっくりさせたいからだ。
イーガが認めればホーデンエーネンも認めざるを得まい。いや、それこそがホーデンエーネン王家の望みだろう。王国一の武者を姻族に迎えられるのだから。願ったりかなったりだ。
「これでよいでござる」
「いいのか? 彼女に会わなくても」
「今夜また会うでござるよ、きっと」
イズヴァルトは感づいていた。イーガが自分をどのようにしたいのかをだ。マイヤとは歓迎会で会うだろう。その時にどうなるのかも。
□ □ □ □ □
王宮で行われた歓迎会で、エレクトラの姿は見えなかった。国王やイナンナに尋ねても顔を見ていないと返事された。
国王はエレクトラの処遇に関して隠していた。マルティンを動揺させたくないのもあるが、何よりも彼女が廷臣たちを丸め込む心配があったからだ。今頃はトーバコフからカントニアに『護送』されているだろう。
エレクトラのことは別にいい。仲間として頼れる戦闘力の持ち主だが、どうにも毒蛇みたいな危なっかしさもある。だいいち、策を弄する類の人物をイズヴァルトは好きになれなかった。
歓迎会は贅を尽くしたものだった。イーガ流の美々しい正装に着替えた彼は、会に参加した婦人たちから熱狂的な目で見られた。
女達の熱い視線は、マルカスやついて来てくれたカントニアの武者達にも向けられた。イーガの女は大抵、荒武者の様な体格の男に滅法弱い。マッチョが好みなのだ。
ゆえに優男で襟元を崩す伊達男のミツクニュモスは、誰にも見向きされなかった。今宵は貴族の婦人たちから浮気のお誘いは無さそうだ。この宴会ではイーガの国内情勢を勉強しようと廷臣たちと会話することに費やそうと腹をくくっていた。
イズヴァルト達も注目を浴びたが、イナンナら女エルフらはもっと目立っていた。そもそもが端麗なこの種族はニンゲンがまとうドレスを一層美々しく着こなすのだ。
特にイナンナが輝いていた。縁にレースがついた純白の絹のドレスをまとい、この場に君臨していた。男達だけでなく女も目が釘付けになった。
背は高いが二十歳を越えた女にも、うら若き少女に彼女は見えた。年齢不詳な美貌は、妖精そのものであった。
「あれがツックイーの女医者、イナンナさまですか」
宴会に参加していた医療魔道伯・シュタイナーに尋ねたのは、王国の工房省の長官だった。コーヅケーニッヒの工房魔道士の管理を行っている。
「お美しいですなあ……ほかのエルフ達も申し分ない美貌ではあるけれど、イナンナさまはまた格別。イズヴァルト殿はさぞかし、あの女人に骨抜きにされたのでしょうかね?」
「しっ。あまりじろじろ見るものではないよ。イナンナ先生に目をつけられたら君が腎虚にされてしまうよ?」
シュタイナーは若い頃、イナンナのもとで医術と治療魔法を教わったことがあった。師匠のそのまた師匠にあたる。当然の事ながら彼女と毎晩寝た。そのせいで陰茎が4センチも伸びてしまった。
この会場に入る前にイナンナに軽く挨拶をしておいた。今晩久しぶりにと誘われたが断った。つれねえズラと泣かれたが仕方が無い。アドルフがつけた幼い妻2人との子造りが続いて、腰が痛かったからだ。
「へへへへ。エルフはいいもんですな。欲を言えば彼女達が着ているお召ものの露出が欲しい。裾はふとももまで切れ込みがあって、背中が丸見えで前に至ってはへそまで……特にあの小麦肌の美人を見ると、残念でなりませんな」
工房省の長官がクリスタを指さした。襟のあるドレスでも爆ぜる程に大きな乳のボリュームがわかってしまう。動くたびにとにかく揺れるのだ。
彼女はテーブルいっぱいに置かれた料理を皿に取っていた。今回の宴は立食方式だ。彼女はもといエルフ達は皆、山盛りに取ってパクパクと食べ、「うめえ!」と喜んでいた。
「クリスタさんについては……私も同感だね。でゅふふ」
シュタイナーが気持ちの悪い笑みをこぼす。クリスタは彼の好みに適っていた。厚めの唇と大きな目。朗らかな表情を絶やさず陽気に笑う。横幅がやや広いがぽっちゃり体型なのがいい。
大きな乳房と見事な尻。よく食べてよく性交をする為の身体つき。とにかくドエロい。ただしそのエロさは生命力溢れるという意味でのエロスだ。
アドルフの娘でもある2人の幼な妻は、生殖こそ盛んであったけれどどこか蒲柳の質があった。それがどうにもいただけなかった。
先の話となるが、シュタイナーの妻のベランナとカリナは、2人とも30を少し過ぎた頃に死ぬ。彼との間にあわせて10人の子を為した後にである。
「あちらがお盛んなのはいいが、どこか病的なのはよろしくないよ。クリスタさんの様なむちむちとして元気なのが私は好きだ。そういう女性が1人、イーガにはいるのだけどね」
「ほう。どなたでございますかな?」
「皇太子殿下の奥様だよ。とてもかわいいし助平だし、なによりおっぱいが大きくて……いっぱいうんちをする。お通じが良いのは元気な証拠さ」
「……マイヤさまのせいで変な趣味を覚えてしまいましたよ。ひねるところまではいかないが、おしっこをするところを良く見せてもらっているのですよ。妻にね」
おまるにまたがせて尻を眺める。もう40を越えて太っているが、その尻がたまらなくいやらしいのだと長官は笑った。
尻はいいものだ。シュタイナーもむっちりとした尻が好きだった。3人の子を出産したマイヤの尻と太ももは、おっぱいに負けず劣らず大きくなっていた。ぷりっぷりの美尻である。
今夜の歓迎会の陰のもう1人の主役となるマイヤは、いまだ顔を見せていなかった。ただのパーティだとしか彼女に伝えていなかったが、国王と側近らは待ちくたびれていた。
開始してからかれこれ1時間経過している。マルティンの姿も見えない。オットーに呼びに行かせたがなかなか来てくれなかった。
何故ならこの時、マイヤはマルティンと熱い交合の真っ最中だったからだ。屋敷の夫婦の寝室で汗だくになって睦みあっていた。
オットーは扉の向こうから聞こえるマイヤの喘ぎ声を聴き、腕を組んで顔をしかめていた。大事な予定を忘れてこうもセックスに夢中になれるとは。イズヴァルトが待っているという事もあってオットーはこめかみに青筋を立てていた。しかし隠せと言われたことを白状できない。
「遅いな、マルティンは」
「しばらくすればやって来るでござるよ。拙者はのんびりと待たせていただくでござる」
「すまぬな、イズヴァルト。一応だがマルティンは貴殿が来ていることを存じておらぬ。失敗したな。マルティンにだけは伝えておけばよかった」
「陛下。拙者は大丈夫でござるよ。気長にお待ちいただきたい」
この歓迎会では何が発表されるのかについては、事前に話を聞いていた。イズヴァルトにイーガ国籍を与える。既に勝手になっているが、イーガの魔道騎士団所属とする。
もう1つが一番重要だ。マルティン王子の妾・マイヤのもう1人の夫となる。イーガの法律では貴族の女は重婚が認められる。特に女当主となった場合にだ。マイヤはすでに領主だ。
ただ、条件があった。イズヴァルトがずっとイーガに定住してくれるのであれば、すぐにでも婚姻式をあげることができる。そうでなければ3年ほど先延ばしになる。イズヴァルトが故国・ホーデンエーネンの戦争に加わる可能性があったからだ。
戦場にはもう、マイヤを連れ回すのは無理だ。しかしマイヤは必ずイズヴァルトにせがむだろう。イーガ王国から出ていくことにもなる。マイア=テクニカは立ち上がってからまだ1年。イーガはまだ、彼女の力が欲しかった。
2時間経った。マイヤはまだ来なかった。この時彼女は、3度も膣内で果てたマルティン王子のペニスに、もっとがんばれのパイズリ応援を為していた。
もう我慢が出来ない。国王はオットー以外にも使いを出せと側近に命じた。あまりせかす必要はないでござるよ、とイズヴァルトは苦笑した。
「しかしだな……」
「拙者のことについては気になさらぬように。待つのは慣れているでござる。先に拙者の処遇について好評いただきたい」
「あいわかった。そう致そう」
会場の者達に、清聴せよとの呼びかけがなされた。かくして国王が皆の前で語った。
「……ただ、これらの処遇についてだが、イズヴァルト=シギサンシュタウフェンが、今すぐこのイーガに長くとどまってくれればという事である。イズヴァルト、いかがするかな?」
イズヴァルトはうなずいた。国王の前にひざまずき、恭しく手を取って口づけした。そして答えた。
「どうやらそれがかなう事はいましばらくはござらぬ。拙者は明日にでも、ホーデンエーネンに向かうつもりでござった」
会場のイーガの貴族たちから、落胆の声があがった。
「今日はこの後、イズヴァルトさんへの歓迎会が行われるのですよ。国王陛下や大臣の皆さま、それから魔道騎士団の重職の方々がお目見えになられております。明日にしてください」
「いいや。拙者はマイヤの偉業を目にしたい。歓迎会ははっきりいってどうでもいい。好いたおなごの努力の結実、そちらをこの目で見る事のほうが大事でござる」
イズヴァルトは譲らなかった。案内役らはしぶしぶうなずいた。イズヴァルトだけを条件にして、彼を『マイア=テクニカ』の工房に連れて行った。
訪れた工房は、大貴族の館のように立派で広かった。そこに数十名の魔道技師が『たぶれっとぱっど』や他の魔道具を製作している。
銃器については別の場所にある工房で作っているという。量産体制が始まっており、別の街の工房でも部品や組み立てが行われている。
ただしイーガでは狩猟などの趣味目的でしか使われない。輸出先はホーデンエーネンだ。
「『たぶれっとぱっど』よりも『鉄砲』で工房は大儲け……ああいや。口が滑りましたかね?」
「それ、マイヤは存じているのでござろうか?」
本当は聞かないほうがいいかもしれない。もし知らなかったなら自分が彼女の罪をかぶればいい。いや、知らないでほしいとイズヴァルトは思っていた。
しかし工房長はうっかりものだ。ついつい口がすべってしまった。
「あはは。どうもご存じのようですね」
急に胸が締め付けられるような感覚。嘘だと言って欲しいとイズヴァルトは言いたかった。
「マイヤ様はあえてやるのだ、とおっしゃってました」
「……何をでござる?」
「なりふり構わぬお金儲けですよ。理由は故国のホーデンエーネンに大学を建てる資金が欲しいそうです」
宝石やドレスに目もくれず、得た金をすべて投資にまわして殖やしている。できるだけ自力で大学を作りたいのだ。
「大学の夢の為にも儲けたい。拝金主義というものですかな。全く、マイヤ様はほれぼれするほどに一途でございますよ」
なるほど。イズヴァルトは寂しさを感じた。もはや迷いも思慮もかなぐり捨てたのか。側にいたら激しく言い争うだろう。憎みあう事になるのだろうか。
それから彼女は工房長に、『おしゃぶり』を施しながら語ったという。その大学はホーデンエーネン南部にあるヨーシデンに建てたいそうだ。
「ヨーシデンはキンキ大陸南部の丁度中央部に位置するそうです。そこに学問の都を作り、『えくすぷれす』を通して、イーガからも留学者を呼び寄せたいとおっしゃっておりましたよ」
「ほ、ほう。なるほど、ヨーシデンにでござるか!」
ヨーシデン。あそこは温暖かつ肥沃で平野ばかりだ。そこに大学を中心にした大都市を築く。ついでに南には貿易港を設けたい。
イズヴァルトはやっと理解できた。マイヤはただの奥方にはなれぬ御仁でござる。いずれ拙者の手元から飛び立つ女の子だったに違いない。
イーガの皇子の妾となったとはいえ、マイヤはそれに留まらないだろう。領主の妻だの国王の妻だの、そんな立場では満足しないに違いない。
とにかく才能がある。そして資金も手に入れた。彼女はこれからたくさんの歴史書で書かれる大人物となるだろう。彼女の真の物語の始まりだ。
(対して拙者は……いいや、言うまいでござる。けれども。)
工房の見学を終えて外に出ると、敷地の門の近くで1人の若者を目にした。見覚えがある。若者ではなく娘であった。小姓が着ていそうな服をまとい、サーベルを腰に差しているが。
その娘は守衛に書類を渡すと、外に待たせていた馬車に乗り込もうとした。イズヴァルトが大声をあげて振り返させる。
「貴殿、しばし待たれよ!」
振り返った。怜悧な顔立ちの金髪の美少年に見えるが、どうにも甘やかな表情が垣間見えた。イズヴァルトを見るとその色がますます濃くなった。
マルティンの側近でありマイヤの『お世話係』のオットー=オーズローだった。彼女はイズヴァルトを凝視するなり、ごくりとつばを飲み込んだ。
(い、イズヴァルトだ。イーガに来ていたのか……)
つい、頬を赤らめてうつむいてしまう。イズヴァルトは白髪になってしまったが、誰もがほれぼれするような美青年。
顎もちゃんと手入れをして無精ひげが無かった。白面の貴公子である。それを見てオットーは、心臓が壊れそうなぐらいに高鳴った。
(あの男にとっては今しばらくの辛抱だろうが……ううん。なんだかどきどきしてしまう。マイヤのもう1人の夫になった暁には、私も抱いてくれないかしら?)
股がうるんだ。ペニスみたいな大きさのクリトリスが勃起した。いかん。ここはあくまで冷静にならなくては。オットーは深呼吸して近づいて来るイズヴァルトに罵声を浴びせた。
「ホーデンエーネンのイズヴァルト! マイヤ様を奪い返そうとしても無駄なことだ! 大人しくイーガの貴族として……」
「しばし待たれよ! 貴殿にお願いがあって呼びとめたでござるよ!」
マイヤが毎日どうして過ごしているかのを少しだけのぞきたい。彼女には告げずこっそりとだ。
「……わからんぞ、その理由が!」
「わからなくてよいでござるよ。なにとぞ秘密裡に。よろしくお願いするでござる」
「ふ、ふん。ホーデンエーネンのイズヴァルト。少しだけだ。少しだけだからな」
イーガ王からは厳命されている。マイヤにはイズヴァルトがやって来たことを絶対に知られないように。今晩の宴のサプライズを期待してだった。国王も人を驚かせるのが大好きな性分だ。
ただもし約束を破ったら、オットーはきつい罰を受けなければならない。イーガの魔道士団お抱えのドスケベオーガ貴婦人による、ツノでの責め苦がそれである。
イズヴァルトと付き添いはオットーの馬車に乗り込んだ。最近のマイヤについて聞いてみた。
「頑張っている、とは傍目から見て思う」
オットーが言ったのはそこまでだった。それ以上は教えない。昼寝を2時間ほどするが、夜は3時間程度しか寝ていない。読書や工房の新製品の計画ばかりに費やしている。
医療や周りのバックアップがあるから良いものの、死に急いでいるとしか思えなかった。でもそれをイズヴァルトに言うのはよくない。心配させてしまう。
「マルティン様へのお情けを毎晩所望するし、しょっちゅう他の男と『お楽しみ』をやったりもする。おしゃぶりとやらは中毒らしい。サキュバスの子孫というのは本当のようだな」
「ははは。マイヤらしいでござる」
「ろくでもない女だ。正妻待遇は絶対に無理だろう。あんな淫乱を御するのは相当に精神力がいる。見ているだけで不愉快だ」
イズヴァルトは悲しそうな目でオットーを見つめた。よせ、その目は。イズヴァルトの瞳には人を疑うという者が持つ、くすんだものは伺えなかった。
だからオットーは動揺してしまう。そんな顔をされただけでクリトリスが勃起し、子宮がうずいてしまう。
途方もない精力の持ち主であることを淫魔の血が探っていたから、そんなふうに見られただけで情がわいてしまうのだ。発情とも言うべきか。
「それと、日に4回はうんちをするぞ、あの娘」
「そこがマイヤのかわいいところでござる。あかちゃんみたいでござろう?」
「やめてくれ。きもちわるい。大体、人前でぶりぶりとうんちをたれるのはどうにかならんのか……ま、まあこれは相手に頼まれてのことだが」
「それはどうにもならんでござるよ……」
その世話はオットー本人か、マルティンの妹たちだった。特に、マイヤを姉の様に慕うマレーネがつとめていた。
(そもそもマイヤによれば、ケツ拭きの世話はイズヴァルトがやっていたらしいな。)
おケツ世話係にはさっさとイーガへの移住を決めてもらおう。マイヤの仕事ぶりを見れば世話したいと思うはず。
「それとイズヴァルト。すでにほかの者から聞いているだろうが『マイヤ様』は君とよりを取り戻したい御所存だ。去年のあの場での発言はすべて、一時の気の迷いで為した事……いいや、心を操られて言ったものだ。気にするな」
□ □ □ □ □
その時マイヤがいたのは屋敷ではなく、コーヅケーニッヒにある魔道学問所であった。そこで講師陣から新しい魔道具についての情報を聞きながら、イメージした新製品についての意見を尋ねていた。
「ふむふむ。つらねた木の板をまわす『べるとこんべあー』というものですか」
「そういえばイーガには無かったと思いまして。私の前世の世界ではどこの工場でもあったのですよ」
「ほう。マイヤ様の前世の世界で……フォード、とよた、ほうほうほう。『じどうしゃ』というものを作っている工房でそれらがあったのですな」
講師陣はベルトをまわす機械を、必要最小限のものにしたらどうかと提案した。魔道具の数を減らせば、魔蓄の数も減るからだ。メンテナンスできる魔道士に事欠く国にも輸出できるに違いない。主にホーデンエーネンであるが。
マイヤはうなずいた。そのアイデアがいい。学問所の1階の空き教室で、そのようなやり取りがおこなわれていた。それを木陰からイズヴァルトがそっと見る。
「会わなくていいのか? まあ、歓迎会で顔をあわせる事になるだろうが」
「いいのでござるよ。拙者が入ってしまったら邪魔するだけでござる」
「奥ゆかしいのだな、ホーデンエーネンの青年騎士は」
じっと見ていると教室の中に誰かが入って来た。13歳になるマルティン王子と侍女達。そのうちの1人が男の赤ん坊を抱きかかえていた。
マイヤは義手でその乳児を愛おしそうに抱いた。仕事は一旦休憩。彼女は義手義足を使い慣れていた。窓側に向かうと大きく胸の空いたドレスから、たっぷりとした右の乳房を出し、赤ん坊に含ませた。
「測ったら94センチあったな。全くもってうらやましい……」
「その情報はいらぬでござるよ、オットーどの。しかし、マイヤもあかちゃんも幸せそうに微笑んでいるでござる」
マイヤの顔のやつれは薄らいでいた。顔立ちは4年前より少し大人びた程度か。去年会った時より明るさを取り戻し、生き生きとしていた。何かに操られているという気配もない。
赤ん坊に乳をやっている間、マルティンが近づいてきた。嫉妬心よりも崇拝したくなってしまう気風が漂う少年だ。マイヤにさぞかしおちんちんをいじめられているのだろう。前よりちょっとやつれていた。
「凛々しくなったござるな、マルティン様は」
「14歳で父親だ。顔も変わるだろうさ」
「近々もう1人、お子ができるでござろうな」
イズヴァルトの問いかけにオットーは気まずくなった。もうマイヤは子供を産めない。卵巣を失ったからだ。
(イズヴァルトは知らないのか? いや、知らないほうがいい。もしかしたら見捨てるかもしれないからな。そのほうがマイヤにとって一番残酷だ。)
これから行われる歓迎会では、イズヴァルトをマイヤのもう一人の夫とするという話があがる。国王からだ。知っているのはマルティンや貴族たちのごく一部。マイヤには知らせていない。びっくりさせたいからだ。
イーガが認めればホーデンエーネンも認めざるを得まい。いや、それこそがホーデンエーネン王家の望みだろう。王国一の武者を姻族に迎えられるのだから。願ったりかなったりだ。
「これでよいでござる」
「いいのか? 彼女に会わなくても」
「今夜また会うでござるよ、きっと」
イズヴァルトは感づいていた。イーガが自分をどのようにしたいのかをだ。マイヤとは歓迎会で会うだろう。その時にどうなるのかも。
□ □ □ □ □
王宮で行われた歓迎会で、エレクトラの姿は見えなかった。国王やイナンナに尋ねても顔を見ていないと返事された。
国王はエレクトラの処遇に関して隠していた。マルティンを動揺させたくないのもあるが、何よりも彼女が廷臣たちを丸め込む心配があったからだ。今頃はトーバコフからカントニアに『護送』されているだろう。
エレクトラのことは別にいい。仲間として頼れる戦闘力の持ち主だが、どうにも毒蛇みたいな危なっかしさもある。だいいち、策を弄する類の人物をイズヴァルトは好きになれなかった。
歓迎会は贅を尽くしたものだった。イーガ流の美々しい正装に着替えた彼は、会に参加した婦人たちから熱狂的な目で見られた。
女達の熱い視線は、マルカスやついて来てくれたカントニアの武者達にも向けられた。イーガの女は大抵、荒武者の様な体格の男に滅法弱い。マッチョが好みなのだ。
ゆえに優男で襟元を崩す伊達男のミツクニュモスは、誰にも見向きされなかった。今宵は貴族の婦人たちから浮気のお誘いは無さそうだ。この宴会ではイーガの国内情勢を勉強しようと廷臣たちと会話することに費やそうと腹をくくっていた。
イズヴァルト達も注目を浴びたが、イナンナら女エルフらはもっと目立っていた。そもそもが端麗なこの種族はニンゲンがまとうドレスを一層美々しく着こなすのだ。
特にイナンナが輝いていた。縁にレースがついた純白の絹のドレスをまとい、この場に君臨していた。男達だけでなく女も目が釘付けになった。
背は高いが二十歳を越えた女にも、うら若き少女に彼女は見えた。年齢不詳な美貌は、妖精そのものであった。
「あれがツックイーの女医者、イナンナさまですか」
宴会に参加していた医療魔道伯・シュタイナーに尋ねたのは、王国の工房省の長官だった。コーヅケーニッヒの工房魔道士の管理を行っている。
「お美しいですなあ……ほかのエルフ達も申し分ない美貌ではあるけれど、イナンナさまはまた格別。イズヴァルト殿はさぞかし、あの女人に骨抜きにされたのでしょうかね?」
「しっ。あまりじろじろ見るものではないよ。イナンナ先生に目をつけられたら君が腎虚にされてしまうよ?」
シュタイナーは若い頃、イナンナのもとで医術と治療魔法を教わったことがあった。師匠のそのまた師匠にあたる。当然の事ながら彼女と毎晩寝た。そのせいで陰茎が4センチも伸びてしまった。
この会場に入る前にイナンナに軽く挨拶をしておいた。今晩久しぶりにと誘われたが断った。つれねえズラと泣かれたが仕方が無い。アドルフがつけた幼い妻2人との子造りが続いて、腰が痛かったからだ。
「へへへへ。エルフはいいもんですな。欲を言えば彼女達が着ているお召ものの露出が欲しい。裾はふとももまで切れ込みがあって、背中が丸見えで前に至ってはへそまで……特にあの小麦肌の美人を見ると、残念でなりませんな」
工房省の長官がクリスタを指さした。襟のあるドレスでも爆ぜる程に大きな乳のボリュームがわかってしまう。動くたびにとにかく揺れるのだ。
彼女はテーブルいっぱいに置かれた料理を皿に取っていた。今回の宴は立食方式だ。彼女はもといエルフ達は皆、山盛りに取ってパクパクと食べ、「うめえ!」と喜んでいた。
「クリスタさんについては……私も同感だね。でゅふふ」
シュタイナーが気持ちの悪い笑みをこぼす。クリスタは彼の好みに適っていた。厚めの唇と大きな目。朗らかな表情を絶やさず陽気に笑う。横幅がやや広いがぽっちゃり体型なのがいい。
大きな乳房と見事な尻。よく食べてよく性交をする為の身体つき。とにかくドエロい。ただしそのエロさは生命力溢れるという意味でのエロスだ。
アドルフの娘でもある2人の幼な妻は、生殖こそ盛んであったけれどどこか蒲柳の質があった。それがどうにもいただけなかった。
先の話となるが、シュタイナーの妻のベランナとカリナは、2人とも30を少し過ぎた頃に死ぬ。彼との間にあわせて10人の子を為した後にである。
「あちらがお盛んなのはいいが、どこか病的なのはよろしくないよ。クリスタさんの様なむちむちとして元気なのが私は好きだ。そういう女性が1人、イーガにはいるのだけどね」
「ほう。どなたでございますかな?」
「皇太子殿下の奥様だよ。とてもかわいいし助平だし、なによりおっぱいが大きくて……いっぱいうんちをする。お通じが良いのは元気な証拠さ」
「……マイヤさまのせいで変な趣味を覚えてしまいましたよ。ひねるところまではいかないが、おしっこをするところを良く見せてもらっているのですよ。妻にね」
おまるにまたがせて尻を眺める。もう40を越えて太っているが、その尻がたまらなくいやらしいのだと長官は笑った。
尻はいいものだ。シュタイナーもむっちりとした尻が好きだった。3人の子を出産したマイヤの尻と太ももは、おっぱいに負けず劣らず大きくなっていた。ぷりっぷりの美尻である。
今夜の歓迎会の陰のもう1人の主役となるマイヤは、いまだ顔を見せていなかった。ただのパーティだとしか彼女に伝えていなかったが、国王と側近らは待ちくたびれていた。
開始してからかれこれ1時間経過している。マルティンの姿も見えない。オットーに呼びに行かせたがなかなか来てくれなかった。
何故ならこの時、マイヤはマルティンと熱い交合の真っ最中だったからだ。屋敷の夫婦の寝室で汗だくになって睦みあっていた。
オットーは扉の向こうから聞こえるマイヤの喘ぎ声を聴き、腕を組んで顔をしかめていた。大事な予定を忘れてこうもセックスに夢中になれるとは。イズヴァルトが待っているという事もあってオットーはこめかみに青筋を立てていた。しかし隠せと言われたことを白状できない。
「遅いな、マルティンは」
「しばらくすればやって来るでござるよ。拙者はのんびりと待たせていただくでござる」
「すまぬな、イズヴァルト。一応だがマルティンは貴殿が来ていることを存じておらぬ。失敗したな。マルティンにだけは伝えておけばよかった」
「陛下。拙者は大丈夫でござるよ。気長にお待ちいただきたい」
この歓迎会では何が発表されるのかについては、事前に話を聞いていた。イズヴァルトにイーガ国籍を与える。既に勝手になっているが、イーガの魔道騎士団所属とする。
もう1つが一番重要だ。マルティン王子の妾・マイヤのもう1人の夫となる。イーガの法律では貴族の女は重婚が認められる。特に女当主となった場合にだ。マイヤはすでに領主だ。
ただ、条件があった。イズヴァルトがずっとイーガに定住してくれるのであれば、すぐにでも婚姻式をあげることができる。そうでなければ3年ほど先延ばしになる。イズヴァルトが故国・ホーデンエーネンの戦争に加わる可能性があったからだ。
戦場にはもう、マイヤを連れ回すのは無理だ。しかしマイヤは必ずイズヴァルトにせがむだろう。イーガ王国から出ていくことにもなる。マイア=テクニカは立ち上がってからまだ1年。イーガはまだ、彼女の力が欲しかった。
2時間経った。マイヤはまだ来なかった。この時彼女は、3度も膣内で果てたマルティン王子のペニスに、もっとがんばれのパイズリ応援を為していた。
もう我慢が出来ない。国王はオットー以外にも使いを出せと側近に命じた。あまりせかす必要はないでござるよ、とイズヴァルトは苦笑した。
「しかしだな……」
「拙者のことについては気になさらぬように。待つのは慣れているでござる。先に拙者の処遇について好評いただきたい」
「あいわかった。そう致そう」
会場の者達に、清聴せよとの呼びかけがなされた。かくして国王が皆の前で語った。
「……ただ、これらの処遇についてだが、イズヴァルト=シギサンシュタウフェンが、今すぐこのイーガに長くとどまってくれればという事である。イズヴァルト、いかがするかな?」
イズヴァルトはうなずいた。国王の前にひざまずき、恭しく手を取って口づけした。そして答えた。
「どうやらそれがかなう事はいましばらくはござらぬ。拙者は明日にでも、ホーデンエーネンに向かうつもりでござった」
会場のイーガの貴族たちから、落胆の声があがった。
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